第14話 手始めは猛獣狩りから

「ねぇピクト、本当にやるつもりなのかしらン?」


「ああもちろん。やらないと現状は変わらないだろ?」


 朝一番に出発して、もうずいぶんと草原を歩いただろうか。

 流民区からだいぶ離れてしまったし、連れてきたギネス組の連中がどうにも不安そうだ。


 まぁ不安に思うのも仕方がない。

 俺たちがやろうとしているのは普通じゃ考えられないようなことらしいし。


「でもわざわざチャージングラビット狩りなんてしなくても……」


「町からも好きにしていいと許されるくらいの超危険生物なんだろ? だったらやって見せりゃ箔が付くじゃないか」


 そう、それはチャージングラビット狩り。

 この辺りで最も恐ろしいと言われるアイツを俺たちでやってやろうって寸法だ。


 なにせ俺も煮え湯を飲まされた相手だからな。

 あの恨み、晴らさでおくべきか。


 ――当然だ! 全力でやり返す!

 見た目がちょっと可愛いからって情け容赦するもんかよおッ!

 マぁジで怖かったんだからなあああ!


「も、もうダメだ、俺はここで死ぬんだ……」

「お、おい、悲観的なこと言うんじゃねぇ!」

「もし死んだらこの形見を隣の家の子に……」


 ただ俺のやる気を他所に、背後ではお通夜状態の泣き言が聞こえてくる。

 隣を歩いているギネスももう溜息が止まらないし。

 それくらいに強いんだな、あのウサギちゃん。


「だから言ったろ、俺はあいつを一匹仕留めてるって」


「それはわかったけどォ。でもピクトが立てた作戦、どうにも要領を得ないのよ」


「そんなに俺の援護役がイヤか?」


「もうこの際アンタの力は評価してるからいいとしても、一匹相手するだけでもドギツい相手を全部やるとか正気の沙汰じゃないわよ」


 一応、現実的な作戦計画として仕様書も出したし、それについて同意も得られたはずなんだけどなぁ。札束大活躍で。

 奴らの縄張りに近づくにつれて士気がどんどん下がっていってる気がする。


 ああもう仕方ない。

 こうなったらとっておきのスーパーカンフル剤を投入してやろう。


「……お前たち、本当にそれでいいのか?」


「「「えっ……?」」」


「お前たちは昨日食べたブレードチッケンの味をもう忘れたのか?」


「「「ッ!!?」」」


「美味かったろぉう? ジューシーだったろう……?」


「「「ゴクリ……!」」」


「それなら、もっと美味しいとされるチャージングラビット、食したいとは思わんか?」


 食っていうのはな、人間の心の栄養でもあるんだよ。

 食べなきゃ生きていけないっていうのはさ、魂を保つためでもあるのさ。


 故に食す!

 それこそが人間の性質SAGA


 抗うことはできない!

 本能に従え、味わい尽くせ!


 そのためになら人は、幾らでも強くなれるのだッ!!!!!


「お前たちッ!」


「「「ッ!?」」」


「チャージングラビットを食べたいかあっ!!!??」


「た、食べたい」

「お、おいお前」

「じゅるり……!」


「山ほどのチャージングラビットを食べてみたいかあっ!!!??」


「「「お、おおっ!」」」


「あのブレードチッケンを越えるほどにジューシーで濃厚な味わいのチャージングラビット! 絶対に食べたいだろおおおおおお!!!??」


「「「うおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!」」」

『うーおーーー! にーーくーー!』


 よし、完璧だ。

 これでギネス組の士気は一気に限界突破間違い無し。

 あのドン・ギネスさえ今やヨダレをダラダラと垂れ流す食の獣と化したァ!


 ならば後はウサちゃんズを仕留めきるだけだ……!

 それだけで町の住人の流民に対する印象もかなり好転するはず。


 それというのも、だ。


 どうやらチャージングラビットという魔物はこの辺りでかなりの厄介者扱いらしい。

 縄張りが広がり過ぎたせいで旅人や商人が襲われ、開拓計画もとん挫している。 

 おまけに繁殖力が凄まじく、広がる縄張りを押し返すことも叶わない。


 だから町としても奴らの討伐は急務なのだそう。

 しかし冒険者とやらもチャージングラビットには敵わず敗退し続けているとか。

 かといって地方の悩みに国がわざわざ出兵してくれる訳もなく、現状は対策のしようがないという。

 

 そこで俺たちが立ち上がったのだ!

 食の安定のため――いや町の発展のために!!!!!


「隊長! 肉を一体発見! 進路からちょい右!」


「お、さっそくいたな」


「どうしやしょう!?」


「ならば奴を釣り餌とする! ウサギ軍団を呼び込むためのな!」


 相手もやっと気付いたようで、こっちへ振り向くと四つん這いで走ってくる。

 猪突猛進な所はあいかわらずなようだ。


「よぉし、みんな打ち合わせ通りにやってくれよな!」


「「「おおおっ!」」」


『ウサギ漁じゃーーーっ! イェーーーッ!』


 チャージングラビットの接近に合わせて仲間たちに作戦開始を通達。

 俺もまた迎え撃つ為にと拳を身構えた。

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