第13話 ピクトがこの世界でやりたいことは

「それって犯罪者じゃないってことかよ!?」


 あまりに理解し難い現実を前にして思わず叫んでしまった。

 生まれながらにして流民って、そんなの理不尽過ぎるだろう!?


「それがこの世界の掟よ。流民となった者は再び身分を得ない限り、末代まで流民のままだってね。だからこの流民区にはこの場所で生まれたって者も少なくは無いわ」


「じゃあもしかしてあの老人の所にいた女児も……」


「それはエンベルとミーネね。そうよ、あの子もここの生まれ。両親は狩りに出かけてっきりもう帰って来なくなってしまったけれど。ミーネはそれでも待ち続けるとっても良い子よン」


 そうだろうとも。決して悪い子には見えなかった。

 考えてもみれば、あんな小さな子が犯罪を犯せる訳が無い。

 見た目からしてまだ四~五歳くらいだったんだ。


『この世界は犯罪者を流民とする文化がありますが、その流民は身分証がなく、管理も行われていないため、身分が無いまま生まれた者は自動的に流民という立場になるシステムが敷かれているようですね。要は〝管理するのが面倒くせぇーーー!〟ってことなんですねー!』


「へるぱ、楽しそうに言うんじゃねぇよ……!」


「何か言ったかしら?」


「あ、いや、すまない。独り言なんだ」


 ちと胸糞悪い話で気分を害してしまっていたようだ。

 そのせいでへるぱに当たってしまった。これはいけない。


『あー私、ただのサポート機能なんで感情無いですし平気っすよーハナホジ』


 本人はこう言っているからまだ良かったけど、少しは自重しないと。


「けれど気に掛ける必要はないわ。ここの皆はもう受け入れているから。当然アタシもね」


「じゃあもしかしてギネスも……?」


「ええ、アタシも明確な犯罪を犯したことは無いわよン。もっとも、この流民区の住人のために違法な獣狩りをしたことはあったけれど」


 そうか、コイツも苦労してきたんだな。

 見た目も喋り方も変な奴だが、すっごい良い奴だと思う。

 流民なんかにしておくにはもったいないと思うくらいに。


 ……もしかして、俺がこの世界に転生させられた理由ってこんな人たちを救うためだったりするのだろうか?


『それは違いますねー』


 なんだよ、違うのかよぉ……。


『目的なんてありませんよぉ。ただあなた――ピクトの想像性がこの世界へ呼ぶに相応しいから転生することになったに過ぎませぇん』


『……ですので、ピクトが願うことをすれば良いのです。それが叶えられる力と、そう出来る度量があると確信する限り、きっと上手く行くでしょう。だから大丈夫、あなたは強いので平気です』


「へるぱ……」


 正直、俺がこの世界でやりたいことなんてわからない。

 絵を描いて広めるったって、こんな世界でデジタルピクチャーが広まっている訳なんてないからな。


 だったら俺は、この力で何ができるだろうか。


「おや……あれはまさか! いけないお前たち! 早く逃げなさい!」


 そう思い悩んでいた時、突然ギネスが声を張り上げる。

 そんな奴の手を伸ばした先には例の道草を食う若者たちの姿が。


 しかもさらにその先には、凄まじい速さで駆けて来る鶏型の怪物までいる!


 ギネスが駆けだそうとしているが、これは幾ら何でも間に合わない。

 若者たちも怯えるばかりでこっちに来れそうにない。




 故に俺は無我夢中で非常口・放を放っていた。

 ギネスの傍を抜け、若者たちの間を抜け、鶏野郎だけをブッ飛ばすつもりで。




 直後、マークにブチ当たった鶏野郎が地面を削りつつ高速で押し返される。

 さらに俺は突き出していた左腕を咄嗟に、強引に、思いっきり振り上げた。


 すると鶏野郎がマークと共に急上昇、大空の彼方に打ち上げられていく。


 そしてすぐさま鶏野郎らしき物体が「ズドンッ!」と地面に落下。

 傍まで駆け寄って覗いてみると、見事に肉塊と化した物体が埋まっていた。


「おいおい、鳥類なのにまったく飛べないのかよ……」


「まぁブレードチッケンの翼は飛ぶための物じゃないし」


「じゃあ何のための翼だよ?」


「相手の体を真っ二つにするためよ」


「そっちの方がずっとおっかねぇわ」


 そこで俺はギネスに頼んで鶏肉を引き上げてもらうことにした。

 皆に配っていいとも伝えれば、ギネスも大喜びでの了承だ。


 それでもって直後は食堂に戻って焼肉パーティ。

 これで当面の食料には困らないだろう。


 ――だなんて思っていたが、大鶏一匹分があっという間に消え失せた。


 まさか内臓までペロリとは。

 流民たちの食い意地には感服だぜ。


 そんな食いっぷりを目の当たりにして笑いつつ、ふと思っていたことをギネスに打ち明ける。


「俺さ、決めたよギネス」


「何を?」


「俺がこの世界でやりたいこと、その第一歩をさ」


「じゃあそのやりたいことって?」


「……世界平和、かな」


 具体的な言葉が思い付かなかったから今はこうとしか言えない。

 だけど願うことは単純で、今見えるような笑顔を増やしたいってだけだ。


 だからまずはこの流民区に本当の笑顔をもたらしてみよう。

 そう思いつつ俺は踵を返し、食堂を後にした。

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