第10話 転生したことはやっぱり伝わらない

 ドン・ギネスとか呼ばれた筋肉野郎と和解した後、奴らのアジトに訪れることになった。

 俺にも色々と込み入った事情があるし、彼らも詫びたいということなので。


 それでやっと応接間に連れてこられ、椅子に腰を下ろせた訳だが。


「それで、お前は一体何者なのン? その服装、明らかに上流階級の人間よねぇ?」

 

 残念ながらまだ解放とはいかないらしい。

 筋肉野郎は俺の向かいの椅子に座り、両腕を組みながら問い質してくる。

 おまけに二人の部下付きだ。まったく落ち着けやしない。


「あ~服装で判断しちゃいけないな。これでも俺は文無し立場無し、ついでに身分証明物もない赤ん坊みたいな存在なんだ」


「赤ん坊にしてはずいぶんとお強いわねン」


「実際、俺はこの世に生まれてまだ数時間くらいしか経っていない」


 そう語ると左手の人差し指を立て、ニヤリとして見せる。

 そんな俺の様子を見た奴らはわずかに目を見開かせていて。


「……嘘、は言っていないみたいねぇ」


「そりゃな。だけどそんな簡単に信じていいのか?」


「問題無いわ。アタシのスキル【マッスルトーキング】ならその筋肉の動きで真偽さえも確かめられるもの」


 おいおい、冗談かと思ったら本当にボディランゲージで意思を読み取れんのかよ。

 随分と変わった能力があるんだな、この異世界って奴は。


『個人の特性や主義趣向で習得できる能力が違うんですよ~。後はその特殊性に気付いて磨けば誰でもスキルって呼ばれる力を習得できるんでーす!』


 いつの間にか視界からも消えていたへるぱがバッと現れ、しれっと説明を始める。

 やはり布団入りはただの演出だったようだ。

 ヘルプにも営業時間があるのかと思っていたよ。


 しかしなるほど、それがこの筋肉野郎の持ち味って訳か。

 筋肉にまつわることなら他にも色々できそうだな。


「それで生まれたての赤ちゃんはどうちてここに迷い込んだんでちゅのぉ?」


「おいおい、だからって赤ん坊扱いするのはちょっと勘弁な」


「だってぇ、アタシたちはお前の名前を知らないもの」


「ああそうか、忘れてたよ。俺はピクト。ピクト・グラムだ」


 さっそく偽名が役に立つ。

 もっとも、これが偽名だってことは奴にはお見通しだろうが、これ以外に伝えようがないから押し通そう。


「やっぱコイツ何か変じゃないですかい? 二つ名前を持つなんて貴族や上流階級の人間しかおりやせんぜ?」


「……人ってのには誰しも伝えたくないことがあんのよ。ちょっとはデリカシーってもんを理解しなさい。じゃないと、再教育するわよン?」


「し、失礼しましたッ!」


 おっと、どうやらこの名前自体も彼らにとっちゃ違和感だらけだったようだ。

 しかし彼等の言った通りだとすると、門番が妙に優しかったのも頷ける。


「いやまぁ、別に本当のこと話してもいいよ? 受け入れられるかどうかは別として」


「あら、赤ん坊のクセにまるでそれ以前の記憶があるみたいな物言いね?」


「まぁな」


 いいのかへるぱ? 言うぞ?

 俺はコイツラに自分の真実を語るぞ?


 ……無味な笑顔を向けて来るだけで反応がないな。


「えっとな、俺は実はισεκαιτεμσειを経て、νιππονという国からやってきたんだ。一度死んで蘇って、体をρεβυιλδさせられてな」


「え? 今なんて言ったの?」


「だからνιππονって所から来たと」


「??? どういうこと? 聞き取れないのだけど?」


 なんだ? 伝わっていない?

 俺はハッキリと「異世界転生を経て日本という国から来た。体を再構築されて」って発言したつもりなんだが。


 ……もしかして、転生したことを伝えようとしても伝わらない?


 だからへるぱは黙っているのか。

 転生したことがバレることは絶対に無いと知っているから。


 まったく、澄ました顔してやってくれる。


「……すまない、いわゆる母国語が難しいせいで伝えにくいみたいだ」


「そのようね。まぁいいわ、伝わった言葉だけでもなんとなく事情は少し掴めたし」


 いいね筋肉を読む能力、説明が省けて助かる。

 是非とも俺も習得してみたいもんだよ。


『そのためにはせめてシックスパッドくらいは得ないと。そのユルユルの我儘腹筋程度ではまず300%無理ですねぇ』


 うるさい黙れ。

 俺はどちらかというと頭脳派なんだ。


「お詫びとして今日の食事と寝床くらいは工面してあげるわン。ここを使いなさい」


「ありがたぁい!」


「えっ!? ええ、好きに使ってちょうだい」


 成り行きだが念願の寝床を確保できたぞ!

 今日はもうスタートから不安だらけだったからな、本当に助かる。


「それとなのだけど」


「うん?」


「たしかにアンタは強いけど、なんかあまりにも無知過ぎるようだから色々とレクチャーしたげるわ」


「夜のお付き合いのお誘いは間に合ってますッ!」


「馬鹿ねぇ、そんな訳ないじゃないの……」


 ち、違ったか。良かった。

 なんか雰囲気がオネエって感じだから襲われちゃうのかと思った。


「ともかく、その話は明日にしましょ。今日は寝ておきなさい」


「どうも」


「ただし、絶対に騒がないこと。いいわねン?」


 ま、さっき騒いでたのはお前たちだけだけどな。


 ただなんだろう? こいつらも騒ぐのを嫌がっているな。

 じゃあさっきの老人が嫌がっていたのはこのギネス組じゃないってこと?


 ……これは色々と込み入った事情がありそうだ。

 明日はその点も踏まえて色々と質問することにしよう。

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