第9話 チンピラの親玉、ドン・ギネス

 チンピラたちが距離を取りつつ囲んでくる。

 しかし不用意に突っ込んでくる奴はいない。

 仲間がやられたから警戒しているんだろうな。


 なるほど、ウサギちゃんみたいな化け物がいる世界なだけに、戦い慣れてるって感じがする。

 こりゃアニメの能無しモブキャラみたいにはいかねーか。


「あ~その、穏便に話し合いで済ませる、みたいなことは出来ませんかねぇ?」


「「「あァ!?」」」


「先に手を出したのはそっち側の人ですし……」


「「「あァん!!?」」」


 やはり説得もダメそうだ。

 全員、戦闘能力に極振りで代わりにオツムを削ってる感あるわ。

 そもそもお前たちの仲間が先に手を出したんだぞ? わかってんのか!?


 仕方ない、こうなったら全員順番に場外退場させて――


「お待ちなさぁい!」

「「「――!?」」」


 途端、場にチンピラのものとは思えない声が響いた。

 ほんの少し甲高い、だが野太さも感じさせる声が。


 するとチンピラどもが動きを止め、一歩二歩と下がっていく。


「なるほど、お前がウチのモンをやった奴ね。よそ者かしらン?」


 そんな中、暗い景色の向こうから一人の大きな人影がやってきた。

 デ、デケェ……! 特に上半身がヤベぇ!


 言うなれば筋肉の塊だ。

 丸太かと思えるほどに太い腕や脚。

 膨らんで張った大胸筋。

 そして男の憧れシックスパッド。


 そんな筋肉野郎がピンクのロングモヒカンを靡かせてやってきやがった!


「も、もう何度も言ったことなんスけどね、俺、ここに来たばかりで襲われる謂れはないんですけど」


「あらン、その割にはウチの部下を二人やってくれたらしいじゃない?」


「だからそれはそっちが一方的に追い剥ぎ紛いなことしてきた訳で!」


「問答無用ッッッ!!!!!」


「いいっ!?」


 しかもやっぱりリーダー的存在のクセにやっぱり人の話を聞かねぇ!

 あと聞いてきたのもお前からなのに問答無用ってなんだよォォォ!!!


 奴ももう臨戦態勢だ。

 巨大な両腕を構え上げて俺を威嚇してきた。

 あんなのに掴まれたら俺でも多分死ぬな、うん。


「お前みたいな迷惑な奴を野放しにするのはこの流民区を支配する『ギネス組』が許さないわ! その代表たるアタシ、ギネス様が直々に相手をしてやりましょうっ!」


「馬鹿な野郎だ、首領ドン・ギネス様を怒らせちまった」

「あーアイツ死んだわ」


 チンピラどもももう好き勝手言い放題だ。

 こっちはもう呆れて物も言えないってのに。


「さぁ覚悟しなさい無法者! この筋肉の錆にしてやるわン!」


 そしてその直後、ギネスとかいう筋肉野郎がツッコミ所の多い台詞を吐きつつ、腕を組みながらに走り込んでくる。

 大胸筋を左右に振り回すその走り方はもはや圧巻だ。つかキモいぞ!


 あんなのに突撃されればいくらケブラー素材の服を着ていてもひとたまりもない!




 それなのでサクッと奴を彼方にブッ飛ばしてやった。

 問答無用らしいのでこっちも容赦無しだ。




「アッ―――!!!!!……」


「「「ド、ドンが!?」」」

「「「負けた、だと!?」」」

「「「しかも瞬殺!?」」」


 結果的に一対一に持ち込めたのは助かった。

 相手が一人なら非常口・放の力で強引に戦闘終了させられるしな。


「さぁて、次はどいつが夜空の星になりたい!?」


「「「ヒッ!?」」」


 これみよがしに残されたチンピラどもを睨んで威嚇してみる。

 拳を「ゴキキッ」と鳴らして(ただし音は声で代用)迫力マシマシだ。


 するとチンピラどもはこぞって怯み、動揺を露わにし始めた。

 筋肉野郎をブッ飛ばして箔が付いたおかげだな。


「クッ! こうなったらドンの仇だ!」

「せめて俺もあの人の下へ!」

「やってやる、やってやるぞっ!」


 だけど奴らのオツムは前向きだったようです。

 どいつもこいつもまた一歩前に出てやる気を見せ始めている。

 一向に諦めようとしない奴らを前に、堪らず瞼をピクピクと震わせてしまった。


 これ、もう全員ブッ飛ばすしかないの?


「――ぉおー待ーちーなーさぁーーーいっ!!!!!」

「「「!!?」」」


 だがその時、聞いたことのある声が遠くから聞こえ始める。


 あ、あれは! さっきの筋肉野郎だッ!

 両手を高速で振って凄まじい速さで走ってきやがるぅ!!!


 嘘だろ!?

 俺の非常口・放を食らったのにもう自力で戻ってきやがったのかあ!?


 規格外過ぎるだろその筋肉ゥ!!!!!

 つかなんで見えるの!? 体が光っているように見えるけど!?


「お前たち待ちなさい! その男に手を出すのはアタシが許さないわ!」


「「「えっ……?」」」


 でも様子が変だ。

 筋肉野郎はズサーッと戻って来るや否やチンピラどもを制し、下がらせていて。

 

「悪かったわね、どうやらアタシの勘違いだったようだわ。許して頂戴」


 そんな奴自身も体を緩めたままに俺の下へ歩いてくる。

 近くに立つとなかなかの迫力だが、一転その表情から敵意とかは感じない。


「お前はさっきの力でアタシだけでなく部下もブッ飛ばしたのね。倒すのではなく強制で距離を離すことによって」


「お、おう……」


「実はここに戻る途中で、同じく走り戻ろうとしているアイツラに遭遇したの。殺された訳じゃなくてホッとしたわ」


 その通り、この筋肉野郎の言う通りだ。

 技に有効射程距離があることを理解した上で、集落のずっと先に落とすように放っていたのだ。

 そりゃ出来得る限り人殺しはしたくないからな。


 ただそれでも認識通りなら大体1キロメートルくらいと相当遠い筈なんだが。

 それをこの一瞬で戻ってきた筋肉野郎のなんと無茶苦茶なことか。


「そんなアイツラの筋肉でなんとなく状況も掴めたし、あなたの主張も嘘ではないってわかったワケ」


「筋肉で状況を掴むってどういう理屈?」


 なるほど、どうりで話が通じない訳だ。

 こいつら言葉じゃなくてボディランゲージで会話していたんだな。


 ……いや、まったく意味が分からん。


「部下に失礼があったことは詫びるわ。すまなかったわね」


「ま、まぁわかってくれればそれで構わないさ」


 なんにせよ、これで争う必要がなくなったってことか。

 筋肉野郎が少しは話のわかる人物で助かった。


 おかげで今夜はなんとかゆっくりすることができそうだ。

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