第8話 住民が怯える理由とは?
使ってみてなんとなくわかったことがある。
俺の力、〝エフリクス・イマジネーション〟とやらにも制約や限界はあるのだと。
例えば【非常口・放】だが、消耗は感じないが連射ができない。
おそらく
よって、二人同時に襲い掛かられればこの力でも対処しようがない。
――というのは普通の奴の考え方だ。
だが俺はその力を同時に二つ放つ手段を講じた。
もう一つ【非常口・放】を習得し、右腕にも備えるという形で。
腕の模様はいわば俺が今使える力を可視化させたもので、左腕にあれば左腕からしか放つことができない。
だったら右腕にも備えればいいじゃない、って訳だ。
『いやーいい飛びっぷりでしたねぇ~!』
「あんな殺意向けたらやり返されても文句言えないだろうよ。こちとら必死こいて逃げてきた弱者の身だしな」
『力の使い方も意外にお上手なことで。特性にも気付いてくれてなによりですぅ』
「意外に、は余計だっつーの。……感覚的に読み取れるなら理解もしやすいしな」
へるぱがこう言うってことはきっと俺の認識は間違っていないのだろう。
俺の直感もまだまだ捨てたもんじゃない。
それに力の実験を早々に行えたのは結果的に良かった。
実験台になったあいつらには悪いが、ここは自業自得ってことにしてもらおう。
それにしても、だ。
あれだけの騒ぎがあったのに人っ子一人、顔も見せやしない。
見渡せば掘立小屋が幾つも並んではいるが、総じて無反応だ。
……いや、それはちょっと違うか。
ふと振り向けば、ある家の扉の隙間からこちらを伺う視線があることに気付いた。
ただ無関心なだけ?
巻き込まれたくない?
この世界の人間の心理なんてまだわかる訳もないか。
ならばと、その視線に向けてツカツカと歩み寄り、扉を思いっきり開けてやる。
すると現れたのは布一枚の服しか着ていない老人男性と女児。
恐れるあまりか、老人が子どもを抱き隠すようにして震えながら見上げていた。
「あーいや、俺は別に危害を与えるつもりは無くてですねぇ」
ちょっと怯えさせ過ぎたかと反省。
仕方なく彼らの傍で片膝を付いてから頭を下げる。
その気持ちが彼らに伝わったのだろうか。
老人と女児がキョトンとしながら顔を合わせると、再び俺の方に顔を向けた。
「わ、悪いことは言わない。早くこの場所から立ち去った方がいい」
しかし待望の第一声はと言えばこれかよ。
これは警告と捉えていいのだろうか?
老人の言葉は小声で、聞き取るのがやっとという感じだ。
まるでどこぞのチンピラに聞かれたらマズいと言わんばかりに。
「まぁ大丈夫ですよ。俺、たぶん結構強いですから」
「だ、だが……とにかく暴れて騒ぐのはよしてくれんか。ロクな目に遭わん」
「教えてくれてありがとうございます。とはいえ今のは不可抗力で俺の望んだことじゃないですし、大目に見て欲しいかなぁ~なんて?」
これは俺を恐れていたというよりも、騒がれることを恐れていたって感じだな。
ただ、それにしたって怯え方が尋常じゃなかった。
特に俺を見てその様子が顕著になったって感じだったし。
そんなにあのチンピラどもが怖いのだろうか。
「あ、い、いかん! 彼らがお前さんに気付いたようじゃ!」
「えっ?」
そう言われて振り向くと、集落の奥から松明らしい光が幾つもこっちに向かってくるのが見えた。
ああもう、なんかこの光景デジャブなんだが?
『さっき倒したチンピラAのギルドカード効果発動!〝緊急召集〟、この効果が発動した時――』
「まーた緊急召集かよ!? なんでどいつもこいつもそれ持ってんのお!?」
『まぁレア度の低いサポートスキルですし?』
「多勢に無勢って知ってる? レア度に関係無く強力な効果だろぉ……」
案の定、あの光は俺に向かってきているらしい。
そうとなると来るのはさっきのチンピラの仲間か。
さしずめ、この町を仕切るギャング的組織かな?
「ワ、ワシらを巻き込まんでくれ!」
色々と聞く前に、老人の方からも扉をピシャリと閉じられてしまった。
これは事態を収拾しないとどうにもならなさそうだ。
「てめぇかぁ! 俺たちに逆らおうって奴は!」
「よくも仲間をやってくれたなぁ!?」
「このオトシマエは高くつくゼェ!?」
当然ながらチンピラたちは殺意満点だ。
ナイフや棍棒はもちろんのこと、魔法の杖らしい物を持っている奴もいる。
総勢十一人とウサギ軍団よりは少ないが、武器がある分ちと厄介か。
こっちには戦う意思なんて持ち合わせていないんだけどな。
どうにか和解する方法はないものかね。
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