第1話 「妹」という名の天使
「――以上の理由から、私たちの班は『神様はいない』という結論に至りました。ご清聴ありがとうございます。」
クラスメイトの女子の軽い会釈とともに、生暖かい拍手が教室に響いた。
現代文の先生が企画した一種のお遊びのような討論会。開始五分で生徒の半数が眠りに落ちる退屈な授業よりはマシだが、討論結果の発表を押し付けられる者にとっては少々面倒な代物である。
「次は五班ね。発表者は前に出てきて~」
仏様の愛称で親しまれる現文の先生の声に呼ばれ、俺はゆっくりと席を立つ。気乗りのしない足取りで教壇に向かう俺の背中に、やかましい声が飛んできた。
「ぶちかませ、
俺に面倒な作業を全て押し付けた同じ班の友人たちが、清々しい笑顔で親指を立てていた。
「……何をぶちかますんだよ」
発表とは言えど、たかが授業。注目を得ようなどと考えれば、から回って恥をかくオチが目に見えている。こういうのは当たり前のことをそれっぽく話せばいい。
「五班の
一礼してから顔を上げると、前に発表していたクラスメイトに向けられたものよりも、激しい拍手に迎えられた。その上、あちらこちらから好奇の視線を向けられているように感じる。
まあ、そんなことを気にしていてもしょうがない。さっさと終わらせてしまおう。
「えー、俺たちの班は『神様はいる』と考えています」
平坦な声で言い放つと、ひそひそと話すような声が波紋のように広まっていく。圧倒的に『神様はいない』と結論付ける班が多い中、俺の班、もとい俺の意見は異なっていた。
「俺は神がどんなものか分かりません。ですが、存在しなければ説明がつかないことが一つだけあります」
教卓の上にあるパソコンを操作して、スライドを一枚進める。
すると、画面ギリギリまで表示された一枚の写真が黒板に映った。それを見たクラスメイトたちは様々な反応を見せる。
恐らく、ほとんどの生徒が衝撃で声も出せないのだろう。
写真には、六歳の少女が写っている。写真慣れしていないせいか、唇の端を固くしながら顔の横で控えめなピースを作る姿に、誰もが魅了される。
非常に名残惜しいが、スライドから目を離し、クラスメイト達の方に向き直った。
「皆さんにお見せしているのは、この世界に現れた天使様です」
そう、この世界には天使が存在する。
神に作られたとしか考えられない容姿端麗、才色兼備の完璧な美少女が現世に生きているのだ。
「神様の奇跡でもなければ、うちの妹が産まれた理由が説明できません」
シーン……
しばらくの間、教室には静寂が訪れる。
我ながら当然過ぎることを言い過ぎたかと反省していた時だった。
「……ぶっ」
張りつめた風船の口が切れたように、俺の班のやつらが盛大に吹き出した。
それを皮切りに、教室中に大爆笑が巻き起こる。
「ぶははははは、やっぱ、神崎サイコーだわ!」
「神崎くんキモイ~」
男女問わず、目に涙を浮かべながらクラスメイト達が野次をとばしてくる。特に女性陣は、笑いながら罵倒に近しい言葉が並べている気がする。
しかし俺は、その侮辱に対する怒りを全くと言っていいほど感じなかった。むしろ、哀れなクラスメイト達に一種の慈悲すら覚えたほどである。
「これだけ言っても、
後で聞いた話だが、俺はこの独り言でクラスメイト数人を笑い殺しかけたらしい。
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