第27話

 ——綱引きに続き、1〜3年生合同のリレーが行われ、それが今終わった。


 結果は、1位赤ハチマキ、2位白帽子、3位白ハチマキ、4位赤帽子。


 リレーは進行上の理由で、ハチマキと帽子に分けられて行われるが、これに特に深い意味はない。単なる時間短縮だ。


 色が同じで有ればハチマキも帽子も同じチーム。今回であれば、2位と3位の分の得点が白組に加算される。


 ワンツーフィニッシュを決めてくれれば、次に行われる俺達の結果が2位と3位でも赤組に勝利できたのだが、こうなって仕舞えば仕方ない。


 俺達の赤組に対する勝利条件は、ワンツーフィニッシュのみになった。まぁ、元からそのつもりだったし予定に変更はない。ただ、接戦になって盛り上がる要素が増えただけだ。


「じゃあ、リレー頑張ろうね!!」


「う、うん!」


 トラックの内側に入場して間も無く、緊張しているメガネ女児に鶏が励ますように声をかける。


「か、快くんもね」


 鶏に声をかけられ緊張が解けてきたのか、メガネ女児は俺にも声をかけてくる。だが、俺は勝つために必要な策を考えていて、それどころではなかった。


「あぁ」


「どうかしたの?」


「アンカーになろうと思ってな」


「え?アンカーって6年生だよね?私達は5年生だから、4年生から受け取って6年生に繋ぐだけじゃ…」


「そんな事は分かってる」


 皆は気付いていないが、さっきの1〜3年生のリレーで白組が2位と3位に食い込めたのは単にテンマが劣勢になった白組に追い風を吹かせたからだ。それが無かったらワーストワンツーフィニッシュで全てが終わってた。


 今から始まる4〜6年生のリレーもそうだ。総合的な能力では赤組に負けている。いくらアンカーの生徒が速くてもその速さは他のアンカーとどんぐりの背比べだろう。中間で大差が着いてしまったら追いつけない。


 俺が今の順番で異常なスピードで中継ぎをしたとしても、その貯金もアンカーに渡る頃には尽きている可能性がある。


 途中バトンを落とす奴がいるかもしれないし、転ぶ奴もいるかもしれないし、単純にずば抜けて鈍足な奴がいるかもしれない。テンマの追い風もやり過ぎたら逆にバランスを崩すから、決して万能ではない。


 そういう奴らをカバーするにはやはりアンカーが最適だ。大事な所を他人に任せなくて済むし、なにより事実俺がこの中で1番速い。


「か、快くん?どこ行くの??」


 突然列から抜け出す俺に、メガネ女児は慌てたように声を掛けてくる。


 リレーは、奇数と偶数番に分けられ、スタート位置が違う。今俺達がいるのは偶数番、アンカーはトラックを一周するから奇数番だ。つまり並んでいるところが違う。


「俺アンカーになってくるから、ここにその6年生が来たら俺の順番の所にぶち込んでおけ」


「そ、そんな事していいの?」


「知らん。でもやる」


「え、で、でも…」


 ルール違反だと思って、渋るメガネ女児。根本的に悪い事ができない性格なのだろう。


 敵からしたら、アンカーの学年が下がって嬉しい情報だろうに、何をそんなに気にしているんだか。まぁ、いい。


「おい、鶏!!」


 メガネ女児は真面目過ぎるからな。コイツなら問題ないだろ。


「なに!!」


「俺、アンカーになるから俺の代わりに来た6年生がいたら俺の順番だった場所にぶち込んでおけ。理解できたか?」


「うんっ!!快くんの方が速いから交換っこしてくるって事でしょ!!」


「おー、頭良くなったな。頼んだぞ」


「えへへっ!分かった!!任せて!!」


 よし、これであとは交換してくるだけだな。



 ——おい、お前じゃ遅すぎるから俺と代われ


 目当てのアンカーの元へやってくると、早々に俺は本題を切り出した。


「あ…なんだとって、なんだ快じゃねーか」


「なんだ、お前6年だったのか」


 来てみてびっくり。騎馬戦の時の暴れ馬のエセガキ大将ではないか。確かに、騎馬戦は5、6年合同だったけど。えーっと何だっけな。たっちゃんとかって言われてたっけな。


 こいつこの体型で脚まで速いのか?まぁ、いいや。顔見知りならすんなり代わってくれるかもしれん。


「いや、学年も知らなかったのかよ」


「知るわけないだろ。興味もない」


「そうかよ…で、お前と代われだって?やだね!騎馬戦は代わったけど、アンカーだけは渡さない!!」


 この目立ちたがり屋が。


「そうか、俺の順番と交換すればお前は大活躍なんだけどな」


「だ、大活躍だと?」


 こいつはモテたがりの目立ちたがりのようだからな。その辺利用すればいけるだろ。


「あぁ、ほらあそこの馬鹿みたいに手振ってる女見えるか?鶏みたいなやつだよほら」


「あ、あの子は!!」


「お、知り合いか?あいつが俺の順番知ってるから行ってこい。アンカーは俺に任せろ」


「し、仕方ないな…で、でも負けるのは許さんぞ」


「騎馬戦も勝っただろ。さっさと行け」


「あぁ!そうだったな!じゃ、任せた!」


 なんだかんだ言いながら嬉々として、鶏の元へ向かうエセガキ大将。やっぱりフライドチキンの元だから鶏も好きなのか?


 ま、これで準備は整ったな。

 後は、勝つだけだ。


 ——パンッ


 雷管ピストルの音がグラウンドに響き、第一走者が一斉にスタートする。赤と白の色の帽子やハチマキを身につけた4人が場所取りをしながらコーナーを曲がる。


「この辺は別に興味ないな」


 今走っているのは4年生。鶏やメガネ女児、エセガキ大将が居るのは5年生、俺が居るのは6年生、その順番が回ってくるまでにはまだ時間がある。


『あぁ!!!』


 暫し、暇すぎて意識を飛ばして居ると、観客のため息の混じった悲鳴が聞こえきた。


 何事か其方に視線を向けてみると、白はちまきをした女児が転んでいた。


「ん、メガネ女児か」


 目を凝らさずにも強化された視力で難なく顔が確認できた。どうやら、もう4年生から5年生ゾーンまで順番が来てたらしい。暇すぎて遠距離攻撃の可能性について吟味してたらあっという間に時間が経ってたな。


 にしても、派手に転んだな。やはり緊張か?徒競走では2位だったからそこまで脚が遅いわけではないと思うが。


 膝からは血が流れ、アイデンティティのメガネにはヒビが入り、手のひらの皮は少し擦りむいている…怪我の影響か立ち上がるのに時間はかかったが、諦めるつもりはないらしい。


 ゆっくり、辿々しくだがしっかりとバトンを繋げようとしている。


「みぃーーーちゃーーーん!!がんばれーーー!!!」


「がんばれ!!!」


 その姿を見て、鶏とエセガキ大将は大声を出して応援している。


 その声援が聞こえたのかメガネ女児は涙を流しながらスピードを上げる。真面目な性格だ。大方、要らない責任でも感じているのかもしれんな。


 バトンはしっかり次に渡った。


 しかし現在の順位は、1位赤ハチマキ、2位白帽子、3位赤帽子、大差で4位白ハチマキ。


 頑張ってはいたがロスはロス。白ハチマキがバトンを渡す頃には、他の走者はその次の走者へとバトンを渡している。


 距離にしてみれば約トラック半周、100メートル程の差が出来てしまっている。その差は簡単には埋まってくれない。


 このままだとこの要因となった奴は戦犯と呼ばれるだろう。それを痛感しているのか、メガネ女児は顔を皺くちゃにして泣いている。


 周りの生徒が必死に慰めているが、それも殆ど効果を成さない。これは、結果で泣き止ませるしかないだろう。


 そして、5年生の走者も残り僅かとなった頃。それは降臨した。


 般若再臨である。


 親友であるメガネ女児のかつてない大泣きの影響か、遠くからでもそれが確認出来たようで、走る前にも関わらずキマッた顔をしている鶏。


 その鼻からは大きく息を吸い、聴覚を強化していないのに、ふんす!と聞こえてきそうな程だ。これは相当気合いが入っている。


 バトンが鶏に渡る。


 般若爆走である。


 不利な状況下にあるため、多少テンマの追い風は有るのだろうが、それにしても凄い勢いだ。どれくらい凄いかと言うと、周りをどよめかせる程だ。


 顔に驚いているのか、スピードに驚いているのか、その真偽は分からないが、親友の頑張りにメガネ女児は悔しさが嬉しさかどちらともつかない涙を流している。


「あ…あーちゃーーん!!がんばってぇ!!!!」


 涙声になりながら叫ぶメガネ女児の声援に、更に力が入ったようで、鶏はカーブにも構わず加速し、前につんのめりながら殆ど転ぶようにしてバトンを渡す。


 膝からはザーザーに血が溢れているが、それにも構わず、直ぐにメガネ女児の元にやってくる。


「みーちゃん!大丈夫???」


「あ、あーちゃんも、ち、血が」


「あ、ホントだ!!でも、大丈夫痛くない!!あっ、やっぱちょっと痛いかも!」


 思い切りバカ丸出しだが、基本的には友達想いでいい奴なのだろうな。血の量で言えばメガネ女児よりも鶏の方が多い。


「みーちゃん、大丈夫?メガネ割れてるよ?怪我してるよ?」


「う、うん、大丈夫だよ。でも、ごめんね、あーちゃんも頑張ってくれたのに…私のせいで負けちゃうかもしれない…ごめんね。うぅ…緊張しないでいいって快くんも言ってくれたのに…」


 やはり責任を感じていたのか、泣きながら謝罪の言葉を吐き出すメガネ女児。


「大丈夫だよ!みーちゃん!あたしも追い上げたし、今もほら!快くんと交換っこした人も凄い追い上げてる!!」


 鶏は根がクソポジティブだからな。希望を見出すのは得意だろう。


 にしても、エセガキ大将も速いな。良い所を見せたいだけのただの目立ちたがり屋だと思っていたが、しっかり実力もあったとは。


 100メートル程あった差は、鶏とエセガキ大将による猛追で、大分差を縮める事が出来た。距離で言えば、大体70メートルくらいか?


「それにね!!アンカーは快くんだよ!!絶対追い上げてくれるよ!!ね??」


 鶏から発された言葉に、走り終わって何故か俺の元に集合した、メガネ女児とエセガキ大将までもが俺を見る。


 その目は、どこか期待を滲ませているようにすら感じる。


 まぁ、良い。期待に応えるわけじゃないが、本音で答えてやる。


「言われるまでもない。俺は勝つと言ったら勝つ」


「へへっ!!ほらーー!!!快くんは凄いんだから!」


「やめろ、くっつくな」


 自分の事のように威張り散らかす鶏は、俺の言葉に嬉しくなったのか、血だらけで抱きついてこようとするがそれを手で顔面を押し除け制する。


「…か、快くん。頑張って」


 メガネ女児も鶏と俺の態度に希望が持てたのか、溢れる涙を拭いながら声を掛けてくる。


「お前も目障りだからもう泣くな。それに、何回だって転んで良いって言っただろ。お前は一回しか転んでいないし、バトンに関しては落としていない。棄権しなかっただけ上出来だ」


「あ、ありがとう…!!」


「気にするな、足を引っ張られるのには慣れてる」


「あー…うん。そうだね、あはは」


 なんだこいつ。顔色を信号のように変えやがって。せっかく慰めてやったのに無礼な奴だ。


「頑張れよ、快!!」


「頑張らなくても勝てる」


「やっぱり生意気だ!」


 何故か仲良しになった気でいるエセガキ大将が肩を組んでこようとするが、それも顔面を手で押し除けることで制する。


 そんなこんなしているとあっという間に、俺の番の前に控えていた奴が出発した。ということは、残す走者はアンカー含めて2人。


 偶数番の俺にバトンを渡す奴と、アンカーの俺。


「順位は変わらずか」


 現在の順位は、前と変わらず1位赤ハチマキ、2位白帽子、3位赤帽子、大差で4位白ハチマキ。


 上位3つは何度か順位が入れ替わったようだが、最終的にはこの順番に収まっている。どうやら、テンマの追い風によるバフでも覆らない程、赤ハチマキは速いらしい。


「次だ」


 アンカーの前の走者にバトンが渡った。やはり1位は赤ハチマキ。


 最後の走者、アンカーが最初のスタートラインに横一列に並ぶ。内側から順位の高い順。俺はもちろん一番外側だ。


 こうして並んでみると、やはり俺が一番小さい。小学生の1年とは大きいものだな。


「ん」


 何やら、赤組アンカー2人がニヤニヤと俺を見下している。どうやら背丈が低いだけで能力まで劣ると思われたらしい。


 この様子を見る限り、俺が5年生って事にも、エセガキ大将と交換した事で気付かれていたっぽいな。


 ま、気付いていたのに黙っていたなら後から何を言われてもこちらの言い分が通りそうだから今は勘弁してやる。


 負けた後に言い訳は無しだぞ?


「はいッ!!」


「任せろ!!」


 赤ハチマキのアンカーにバトンが渡った。何やら、カッコつけた感じで出発したが、そのカッコつけが最後まで続くといいな。


 その後、赤ハチマキに遅れること2秒程で白帽子に、さらに1秒後に赤帽子にバトンが渡った。


 俺は、アンカーの象徴であるタスキを掛け、一人スタートラインに取り残される。


 バトンが渡るまでにもどんどん離れて行く1位との距離。


 それを見て、再度不安に陥ったような目で見てくるメガネ女児とそれに反して、キラキラとした目で見つめてくる鶏。


 こっち見んな。


「…はぁはぁ、えっ、誰?!」


 息を切らしながら近づいてくる前走者が、バトンを渡すはずの人物と違う俺の姿を捉え戸惑うが、構わず腕を伸ばしバトンを要求する。


「いいから渡せ!!」


「あ、あぁ、頼んだ!!!」


 ——ギュッ


 渡されたバトンを握り締めると同時に、脚に力を込める。そして、大きめの一歩目を踏み出し、ニ歩目が接地する一瞬に状況を把握する。


 1位の赤ハチマキはもう少しで半分というところ。距離で言うと約80メートル。どうやら、鶏とエセガキ大将が苦労して詰めた差も、再度離されたらしい。


 そこに直ぐに追いつくためには人外的なスピードが必要だが、この場面において人外なスピードは必要ない。精々オリンピック選手程のスピードが有ればゴール前には追い抜ける筈だ。


 脚の力加減を明確に定めた俺は、グングンと加速する。


「おぉーー!はっや!!なんだあの子!!」


「1人だけレベル違うんだけど!!」


 抑えたとはいえ、プロの陸上選手のような走りをする子供に周囲は驚きを隠せない様子で騒ぎ立てる。そこに生徒も保護者も関係なかった。


「あれ、俺の息子!!俺の息子!!」


「あれ、僕の親友!!僕の親友!!」


 そして、走りながらでも確かに耳に入ってくる耳を塞ぎたくなる様な身内の恥晒し共の声。父親はまだしも、親友ってなんだ。


「はい、追い付いた」


「なっ!?マジかよ…」


 トラックの半分あたりで、最後尾の赤帽子を捉える。


「年下だからって舐めプしてんのか?あ、ごめんそれで全力か」


「くっそぉお」


『うぉぉおーー!!!』


 しっかりと煽って赤帽子を追い抜かすことでさらに盛り上がる会場。周囲には聞こえていないだろうが、見下された分はきっちりとやり返す。


「快くんいけぇぇ!!!」


「か、快くん!!!」


 鶏同様、メガネ女児も元気を取り戻したようだ。普段出さないような大声まで出している。


 あー、これで鶏みたいにうるさくなったらどうしよう。頼むから変わらないでくれメガネ女児。


 そして、白帽子も続いて追い抜かす。


「じゃ」


「…?!…あぁ」


「いや、ちょっと待てよ」


 普通に追い越してから気付いたが、白組が総合優勝をする為には、このリレーでワンツーフィニッシュをとらなきゃいけないんだったわ。


 どうするか。テンマに追い風を要求するか?いや、それだと赤ハチマキを追い抜く為には転びかねない風が必要だ。それだと意味がない。


 白帽子のアンカーと距離が離れすぎないその刹那に、現状を打破する手段を考える。


 勝利条件は、白ハチマキと白帽子のワンツーフィニッシュのみ。そして、追い風は使えない。ただ、赤ハチマキの背中はもう直ぐそばに捉えている。


 ゴールラインまで残り50メートルって所か?


 幸い、赤ハチマキのペースは既に150メートルの距離を走った事もあり最初に比べ大分落ちている。加速しているとはいえ、俺の今のペースが維持できれば十分逆転できる。


 なら、やる事は決まりだ。


「手を出せ!!」


「え?!」


 追い抜かしたことで直ぐ後ろにいる白帽子に、手を出せと要求するが、意味が分からないとばかりに困惑している様子だ。


「勝ちたいなら手を出せ!!」


「…?!…あぁ!!」


 ——パシッ!!


 バトンを右手に持ち替え、白帽子から差し出された右手の手首を掴む。


「ペースを上げる!転ばないようにだけ気をつけろ!」


「…な!…わ、分かった!!」


 終始、困惑した様子だが、ペースを上げるという言葉が勝つ為に必要な事だと認識したのか、殆ど訳もわからずに返事をする白帽子のアンカー。


「なっ!?」


 白帽子の手首を掴み牽引しても、俺のスピードは落ちない。その速さに、白帽子は驚いたようだが必死に地に足をつけ転ばないようにする。


 恐らくコイツの全力より遥かに速いのだろう。ランニングマシーンで速度調整ミスって転びそうな奴みたいになっている。


 だが、何とか追いついた。


 ゴールは目前。残すは約10メートル。


 赤ハチマキのアンカーは、後ろを確認することもなく、残りわずかの距離で、視界に誰もいないことから勝ちを確信したのか、流して更には両手を挙げゴールテープを切ろうとしている。


 甘い甘い。


「残念。油断をどうもありがとう」


「……は?」


 驚愕の顔に満ちた顔をする赤ハチマキ。


 その横を、しっかりと煽り、通り過ぎて行く白ハチマキとそれに引き摺られるように運ばれる白帽子。


『うぉぉぉおーー!!!!』


 大差を覆し、見事ワンツーフィニッシュを決めた事で今日一番に会場は盛り上がる。


「す、すげぇーー!!」


「1位と2位が白って事は、これ逆転優勝じゃね??」


「えぇー!ほんとじゃん!!!すげぇー!てか、誰だよ白ハチマキのアンカー!チートじゃん!!」


「ははっ!本当な!」


 学年、紅白問わず盛り上がる生徒たち。


 走り終えた俺の元に最初に来たのは、やはりというか何というか、呆然とした表情をした鶏とメガネ女児だった。


「なんだ2人してアホみたいな顔して、遂にイかれたか?」


 普段の様子とだいぶ異なる表情をした2人に、優しく言葉を投げかけると、2人は揃ってボソリと呟いた。


「「すごい」」


「すごい?そりゃそうだろ。俺は生まれてこの方凄くなかった事なんてない。それこそ、昔の偉人なんかにも負けないくらいな」


「「すごぉぉい!!!!」」


 俺の言葉で正気に戻ったのか、更にイかれたのか、興奮したように急に抱きついてくる2人。


 避けるのは簡単だが、それで怪我でもして泣き出されたら面倒くさいと仕方なく受け止めるが、それを直ぐに後悔する。


「血がつく、離れろ」


 ギューギューと抱きしめられ、現在進行形で2人の膝から滴る血がつきそうになる。言っても止める気も無さそうだ。


「ハァ…」


 すっかり慣れた溜め息を吐き、仕方なく2人の体にマナを流し、膝を軽く治癒する。


 これで、血も止まっただろ。後日バイ菌が入ったとかで泣かれるのも面倒くさいしな。


 特別大サービスだ。


 

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