第20話

 感慨深い。

 スキル保持者との初戦闘に真っ向勝負で完全勝利した。


 我ながらギリギリの戦いだった。初めての自分自身での部位欠損を戦闘中に経験するとは思わなかったが、面白味のある楽しい戦いだった。


 しかし、反省もある。部位欠損した部分の能力が欠損直前のまま保持されなかったら、俺の勝ち目は薄かった。今まで鍛え上げてきた細胞がリスタートにならなかったという発見もあったが、それ以上にリスクも大きかった。危ない危ない。


「ま、正直もっと楽に勝てたんだけどな」


 手段を選ばなければ、俺にはいくらでも勝ちようがあった。斬撃の嵐も、その辺に転がっている輩を盾にすれば無傷で抜けられただろうし、俺が長期戦に持ち込んでいれば自ずと最後に立っていたのは俺だっただろう。


 マナを消費して回復する俺とマナを消費して攻撃する六道。長期戦に強い俺に逃げ回られたらまず勝ち目はない。そんなの面白くないからやらなかったけどな。


 そして恐らく、六道はマナ量がそこまで豊富じゃない。最初から斬撃をずっと放っていれば俺はもっと苦戦していたはずだ。


 そうしなかったのは、俺の攻撃力が乏しいと思い油断したのと、消費が大きく無駄遣い出来なかったからだろう。


 なまじ身体能力に優れている分、そっちに頼りたくなる気持ちも分かるが、体術でいくら俺を追い詰めても、随時回復の出来る俺とはどこまでも相性が悪い。


 まぁ、苦戦したのは事実だが、蓋を開けてみれば簡単に勝てる相手ではあった。


 嫌いな奴や緊迫した状況なら手段も選ばないが、六道にはそれも特に当てはまらない。俺自身、スキル所持者との初戦だし、正々堂々戦ってみたかったというのが本音だ。ようやく叶った夢なのに簡単に勝ってもつまらない。


 結果は、大満足。やはり、俺は異能バトル展開が大好きらしい。


「おっと、死にそうな奴は治さなきゃな」


 異能バトルの余韻も程々に、歩き回って倒れている輩共の様子を確認する。


 俺から喧嘩を売った手前、死人が出るのは都合が悪い。スキル所持者からの恨みなら是非とも歓迎したいが、その他有象無象に絡まれてもなんの足しにもならない。


 仮にこの輩共が死んだとして、六道の恨みが買えれば考えたかもしれないが、生憎その辺は淡白そうだからな。怒るところがあまり想像できないし、実際そう怒らないだろう。弱い奴が悪いとか平気な顔で言いそうな気がする。


 根本的に俺と似ている部分があるからな。


 とはいえ、俺と六道の戦いに巻き込まれて、重傷を負った奴がいたかもしれない。まぁ、巻き込まれたとしてもその原因は六道のスキル技だろうけど。


 この辺で恩を売っておくのも良いだろう。


「あれ、まてよ?俺が喧嘩を売ったからこうなったのか…」


 色々と矛盾している気がするが、まぁバカばっかだろうし、何とかこじ付ければ納得するだろ。バカだろうし。


 それに六道には、聞きたいことも頼みたい事もある。



 ——こんなところか


 ある程度の重症者…と言っても、六道ではなくほとんど俺の被害者だったが、耳が引きちぎられた者や骨が複雑に折れてしまった者は病院に行かなくても良い程度の状態まで治療が完了した。


 完治させることも出来るが、スキルの件が公になっていない以上、まだ知られていない輩には隠せるだけ隠すのが得策だろう。当事者である六道や意識のあったのっぽメガネは今更だからノーカンだ。


 そして、驚くべき事に戦闘直後かつこの人数を治癒しても、俺のマナ量にはまだ余裕がある。マナの全消費までにはまだもう少し使う必要がありそうだ。我ながら成長している。


 日を追うごとに、マナを全消費しての器の拡張が難しくなっていくが、これは嬉しい悩みというやつだろう。幸い、マナの体外放出もゆっくりだが確実に進歩している事だし、問題が解決するのも時間の問題だ。


 その場にいた全員の治療が終わると、次第に目を覚ます者が現れ始めた。目が覚めた途端、負ったはずの傷が回復しているのだから、当然訝しむ者もいたが、ボコボコにやられた事もあり、気の所為という事で事なきを得た。


 ガキにやられたという不名誉極まりない事実もあり、輩達は決まりの悪さを掻き消すように無理矢理納得しているようだった。


 中には、俺にリベンジを!と、意気込む奴もいたが、目を覚ました六道の一声により再戦は無くなった。


「僕が負けたのに君らで勝てると本気で思ってるの?」


『…』


 六道の言葉に輩達はたまらず無言を貫くが、口を開かずとも確かに「ごもっともです」という声が聞こえてきたようだった。


 口調や態度は柔らかいが、六道はしっかり餓鬼道会という組織を束ねているらしい。まぁ、あの実力ならそれも納得だ。恐らく、スキルを獲得する前でも相当の手練れだったのは間違いない。


 スキルが強力でも使いこなせなければ意味がないからな。


「皆も僕もボコボコにされちゃったし、今日は解散。分かってると思うけど、今日の事は他言無用でね…良いね?」


 俺が六道個人に用がある事もすでに察しているのだろう。不必要な人間を帰らせようとまとめにかかっている。


 律儀に俺にまで確認を取る必要はないが、ここは大人しく頷いておこう。餓鬼道会の面子なんて俺にはどうでも良いし、スキルの事もあるし緘口令を敷いた方が俺としても都合がいい。


 盛大に負けた上、六道の指示となれば聞かなければならないと考えたのか、素直に従う餓鬼道会のメンバー。


 強面の輩達がこの場から去ると、残るのはまたしても3人。俺、六道、のっぽメガネのスキルの事を既知している3人だ。


「あ〜〜、負けたぁ〜〜〜」


 3人になった途端に、床に大の字になり露骨に悔しがる六道。口調は悔しそうだが、その顔はとても晴れやかで嬉しそうだった。


「君、小学生だよね??何歳??」


 一頻り悔しがり落ち着いたのか、興味の矛先は俺へと向けられた。


「最近5年生になったな。満10歳だ」


「うわぁ〜、あっははっ!僕10歳に負けたのかぁ〜!!君、本当に10歳?戦い方もそうだけど話し方とかで全然そうは思えないんだけど」


「奇遇だな、俺もお前は年下じゃないかと疑ってたところだ」


「あっはは、そっかそっか!!」


 大の字の状態から起き上がり、後ろに手をつきやや大袈裟に笑う六道。


「礼が遅れたが、俺だけでなくメンバーの怪我まで治してくれてありがとう。嘘のように元通りだ」


 大笑いをかましている六道を他所に、律儀に頭を下げてお礼を言ってくるのっぽメガネ。暴走族らしからぬ丁寧さだ。


「気にするな。元の発端は俺だからな」


「そうか…まぁ、確かに言われてみればその通りだな。それなら、この件はここまでだ。では、改めて自己紹介をしよう」


「自己紹介だと?」


「あぁ、自己紹介だ。君から話したい事があるのは大体予想できる。それなら、話の前に名前くらいはお互いに知っておいて損はないだろう。君は、テンマの名前は知っていても、俺の名前は知らない。それに、俺達も君の名前は知って置きたい」


「うんうん、確かに!僕も君の名前知りたいよ!!」


 どこから見つけてきたのか、六道は俺が持ってきた手土産をパクパクと食べながら、のっぽメガネの言葉に同意を示す。


 まぁ、確かに言われてみれば、いつまでものっぽメガネと呼ぶわけにもいかないか。こいつも餓鬼道会の主要メンバーっぽいからな。


 この話し合いの結果次第では、これからの付き合いもあるだろうし、知っておいて損はない。スキルの件も安易に口外しなそうだし、特にデメリットはないな。


「そうだな、じゃあ先に名乗ってくれ」


 ここで偽名を使うだなんて思っていないが、自分から名乗るのは気に食わない。


「ふむ。その態度、本当に10歳とは思えないな。まぁ、構わない。人に名を尋ねる時は、まず自分が先に名乗るのが礼儀ってものだからな。俺の名前は、右近銀次。秒殺された手前言うのは憚れるが、一応餓鬼道会の副総長の座を担っている。見ての通りテンマはこんな感じだからな。細かい運営等は主に俺が取り仕切っている」


 右近銀次…なんだか二番手を煮詰めたような名前だな。まぁ、言われてみれば見るからに参謀ポジだし、名前の通りと言えば名前の通りか。名前を体現し過ぎて、運命というものを信じそうになるな。覚えやすくて何よりだ。


「右近か、分かった。俺は月下快だ。知っての通りパン屋の息子で10歳だ。こんなところか?付け加えるなら、最近のマイブームは喧嘩だ。以上だ」


「月s…「へーーー、快ちゃんっていうんだ!よろしくね!僕の事は知ってると思うけど六道テンマ!テンマって呼んでね!お家がパン屋さんかーー、いいなぁ!これすごく美味しいよ!また貰える?廃棄なら無料だよね?たまには買いに行くから安心してね!あ、僕も喧嘩好きだからまたやろうよ!快ちゃんより強い人なんて僕会ったことないから嬉しいよ!!ね?ね?やろうね??」


 右近の言葉をぶった切り、怒涛の自己紹介を始める六道…いや、テンマ。


 俺はこのタイプをよく知っている。俺が折れるまでしつこいくらいに催促してくるタイプの人間だ。下の名前で呼ぶまで、何かとしつこく迫ってくるのが予知のスキルが無くてもよく分かる。


「分かったから、一旦黙れ!」


「あっはは!分かったよ!」


 素直に言う事を聞いてくれるのが唯一の救いか。何処かのチキンとは似て非なるものってことか。


「すまんな月下…テンマは子供の頃から夢中になるとその事しか見えなくなるんだ」


 右近は、テンマに代わって俺に頭を下げて謝罪する。


「お前も苗字じゃ長いから快って呼べ。めんどくさいから俺もお前を銀次って呼ぶ。その方がフルネームが出回らないだろうし、何かと都合がいい」


「そうか、そういう事ならそうさせてもらおう」


 そんな事より…


「今子供の頃からって言ったか?」


「あぁ、その事か。俺達は幼馴染なんだ」


 そうか、通りでテンマの扱いに慣れている訳だ。こんな扱いにくそうな奴の幼馴染なんて、本当に二番手の宿命を背負って生まれてきたみたいな奴だな。


「お前も大変だな」


「あぁ、そもそもこの餓鬼道会というチームは、元はと言えば、テンマの尻拭いから出来たものだしな。言ってしまえば成り行きだ」


「ん、どういう事だ?」


 急速に勢力を拡大させていた活動的な暴走族じゃないのか?


 それが成り行きで出来たチームだと?


 経緯がさっぱりだな。

 時間はあるし詳しく聞いてみるか。

















  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る