第10話
「パパとママとあたしで旅行に行ったんだ!それも1週間も!すっごい楽しかったんだよ!」
「…」
「ねぇ、どこだと思う??沖縄だよ!沖縄!飛行機にも乗ったの!雲の中に入ると真っ白になったんだ!飛行機って最初は怖かったんだけど、慣れたら平気だったよ!」
「…」
「あとね、バーベキューもしたし、花火もしたし、海にも入ったの!!凄い綺麗だったな〜。魚もいっぱい泳いでたよ!」
「…」
俺の無駄のない充実した夏休みは呆気なく終わりを告げた。
そして、始まってしまった学校生活。
通常時でもやかましいのに、夏休み終わりだからか増して騒がしい。教室の所々で思い出話に花を咲かせている。
隣の席の女児…鶏に関しては、さっきから無視をしているのに、勝手に1人で盛り上がっている。こちらは脳内でお花が咲いているらしい。
夏休み前に散々泣かせたというのに、それも忘れて俺に楽しげに構ってくる。相変わらずというか、おめでた過ぎて俺が泣いてしまいそうだ。
「そうそう星の砂ってのがあってね!砂なのにお星様の形してるの!凄いよね、お土産に持ってこようとしたんだけど〜」
「なぁ」
「ん?なになに!何でも聞いて!!」
「黙ってくれないか?」
俺の言葉に、一瞬目を見開く鶏。
流石に迷惑だと伝わっただろうか。
「あ、声大きかったかな。周りがうるさいから聞こえないと思って!」
お手上げだ、バカすぎる。
そして、少し声を抑えてまたも話し始める鶏。
何故よりにもよって俺に話しかけるのだろうか。こいつ、友達居ないのか?だからと言って俺に話すのは違うだろ。
「快くんの分の星の砂もあるから今度持ってくるね!」
「いらん」
「遠慮しなくて良いよ!いっぱい持って帰ってきたから!」
「…」
ダメだこいつ。鈍感過ぎる。
気を遣う神経が備わっていないな。
そして、黙らせる為にまた泣かそうと、俺が口を開こうとした時だった。
鶏が唐突に聞き捨てならない言葉を発した。
「あ、星の砂といえばね、流れ星も見たんだ〜。初めて見たけど、凄くキラキラしててびっくりしたよ!!」
「流れ星だって?」
どんな言葉にも反応せずにいようと思ったのに、思わず聞き返してしまった。
いや、まさかな。
流石に、隕石と流れ星の違いくらい分かるよな?
しかし、キラキラという言葉は見過ごせない。
俺からの質問がよほど嬉しかったのか、鶏は満面の笑みを浮かべて話し始めた。
「そうなの!お願い事しようと思ったんだけど、間に合わなかったの!3回言うのって結構時間かかるんだね!」
「そんなことはどうでも良い。キラキラって具体的にどんなだ」
「んーとね、金ピカだったよ!」
金ピカ…発光してたって事か?
なら、隕石…スキルオーブか?
しかし、俺の時は多色に発光してたはずだ。
「なぁ、それって沖縄で見たんだよな?この辺で見たわけじゃないんだよな?」
「そうだよ!夜に海でバーベキューしてる時に見たの!」
それならやっぱり俺の元に来た隕石とは別物だな。
「それって、もしかして何処かにそのまま落ちたりしたか?」
単に流れ星というならそれで良い。
だが、もし仮に隕石…スキルオーブなら未だにその現象は続いているって事だ。
俺の言葉にまたも鶏は目を見開く。
そして、頬を膨らませて不服そうにこちらを睨む。
「な、なんでわかったの…びっくりさせようと思って最後まで秘密にしてたのに。流れ星が降ってきたからあたしは凄いビックリしたのに!お願い事もどっかいっちゃったよ!」
「…」
「見に行こうとしたんだけど、警察がいっぱいいて入れなかったの!」
「そうか、なら既に回収されてるだろうな」
「回収?何のこと?…ねぇ、それよりなんで分かったの?ニュースでもやってなくてパパがなんでだろうって言ってたよ!」
「…」
「あっ!もしかして快くんも沖縄に来てたの?!」
「…」
「あー、そうなんだ!もし会えたら一緒に遊べたのにね!残念だなぁ!!ね?快くんも遊びたかったよね!」
あぁ、くそ。
色々考えたいのに雑音がデカ過ぎて集中できない。
「一旦黙れ」
「一旦ってどれくらい??」
「そうだな、ざっと2年半くらいだ。卒業するまで黙っていてくれ」
「なんでよ。あたしはもっとお話ししたいよ…」
「俺はしばらく考えたいんだ。だが、そうだな…おまけで半年でいいから黙っててくれ」
「半年ってクラス替えしちゃうよ?」
「それが狙いだ」
「う、うぅ…」
目尻から涙をポロポロとこぼして、泣き出す鶏。夏休み前と比較すると、大分静かに泣くようになった。
これが成長か。
ありがたい限りだ。
これでやっと集中できる。
鶏の話から推測するに、スキルオーブの飛来はまだ続いている。
このお子様が見てるくらいだ。既に、目撃者も多数いて、こいつの父親のように違和感を覚える奴も出てくるだろう。
この現象が今後も続くようなら、政府が隠蔽している事が世にバレるのも時間の問題だな。
そして、警察も介入しはじめたか。事の詳細を把握しているのは上層部だけだろうが、あわよくばと思っていた2個目のオーブを回収するのはこれで大分絶望的になったな。
今後、能力を手にする奴がいるなら、警察よりも先に見つけた第一発見者か、未使用のスキルオーブを奪うかの2択。
まぁ、あんな知的好奇心の唆る物をそのままにしておける変わり者がいるのかは甚だ疑問だが。
「政府ならワンチャンあるか?」
沖縄のように既に俺が認知できていないスキルオーブが多数あるのなら、日本政府は今現在でも多くのオーブを保有しているだろう。
その中には、全てを使用するのではなく研究に回し原理を解明しようと未使用の物のまま保管されているのもあるかもしれない。
「いつか関係者を傀儡にしたいな。情報源にして、あわよくばオーブを頂こう」
あの時の3人組は関係者だろうけど、重要な情報を持っている可能性は低い。
車のナンバーは一応覚えてるけど、多分アレ公用車だし、照会とか調査依頼とか出したら確実に足がつく。
「まぁ、2個目は運がよければって感じだな。そもそも、2つのスキルを手に入れられるかは分からないんだし、今手に入れても器用貧乏になるだけだ」
それに、仮に2個目を俺以外の誰かが手に入れたとしても問題ない。
俺の獲得した治癒スキルが、オーブに元々備わっていた物なのか、俺が無意識に望んだ物なのかは定かじゃないが、俺はこのスキルをとても気に入っている。
相手がどんなに強力でも、死なないってのは無限に楽しめるってことだ。
寧ろそれを考えれば、ぜひ2つ目の能力を手に入れて欲しいものだね。
縛りプレイってのも中々乙じゃないか。
「にしても、思わぬ情報源だったな」
チラリと横でシクシクと泣いている鶏を見る。
何がそんなに悲しいのか、良くそんなに泣き続けていられる。そのエネルギー源はなんだ。マナでも使ってるのか?
まぁ、静かならそれでいい。
「でも、情報…情報か。人手が必要だな」
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