第7話

 スキルを獲得して2日目。

 昨日の1日で軽くスキルの検証を行った。その結果、基本的な事でしか無いが少し分かった事がある。


 まずは、マナについてだ。

 この新しい感覚として芽生えた全身に流れるように巡っているマナ。


 初めて山でスキルを使った時を思い返してみても分かるように、これはスキルを使用する度に消費するエネルギー源だ。つまり車で言うところのガソリン。


 スキルを使えばその分だけ、体に巡るマナの総量は減少していく。そして、これは使い方によって減少度合いも変化する事も分かっている。


 大怪我の場合は、その分だけマナの消費は大きいし、擦り傷や軽い骨折くらいなら少量で済む。まだ、試したことはないが病気の場合でも同じことが起きると予想している。治療の難しい大病の場合は消費は大きいし、風邪なんかの軽い病の場合の消費は小さく済む。


 精神の方にも作用してくれるかどうかは、今の所何とも言えないというのが答えだ。近くに丁度良い被験体もいないし、そもそも心が何処に宿ってるか知っている人いる?って話だ。


 傷や病の場合は、患部がはっきりしているが、精神は患部がはっきりしていない。脳にマナを流し込めば効きそうな気もするが、なんの効果も得られなさそうな気もする。要検証だ。


 実際に心にも作用するとわかった場合は、中々楽しそうだ。


 一度完全に精神が壊れた人を癒して、もう一度壊す。そして、癒して壊すを繰り返した最後はどうなるのだろうか?精神は元の正常な状態に戻るだけなのか、それとも最初よりはメンタルが強くなっていたりするのだろうか?楽しみだ。


 そして、肝心のスキルの使用限度。


 一度消費してしまったマナは回復する事は無いのか?という密かにしていた俺の心配は全くの杞憂だった事が分かった。


 あの右腕と助骨を治癒してごっそりと消費してしまったマナは、睡眠を取った数時間でしっかり回復していた。


 あの時は緊急事態で他に選択肢が無かったとは言え、今思い返してみると迂闊だった。もし、このスキルが一生で数回しか使えないような仕様だったら、絶望で今度こそトラックに自ら突っ込んでいた所だ。本当に良かった。


 しかし、問題がない訳でも無かった。それは、スキルの使用制限とも言えるマナの総量が一定であるという事だ。


 確かに時間を置けば回復もするし、時間をかければどんな怪我だろうと病気だろうと治せるだろう。十分破格の能力だ…だが、それは普通に使う人の場合においてのみ言えることだ。


 俺は自分で言うのもアレだが結構無茶をする。直近で言えば、隕石に正面からではないとはいえ体当たりして右腕がダメになった。いや、あれは一歩どころか半歩立ち位置がズレていたら死んでいた。


 さてここで問題です。

 そんな奴が、これから1日数回スキルを使う程度で済むと思いますか?


 答えは、否だ。


 到底足りたない。


 という訳で、俺はマナの総量を増やす方法を考えた。そしてその考察をする中で、俺はある仮定を立てた。


 マナはある一定の量回復すると、それ以上は増えない。という事は、コップに水が溜まる量に限界があるように、もしかしたらマナにもそういった見えない器があるのかもしれないと。


 そう考えた俺は、はじめにマナを全て使い切って見ることにした。これは、リスクの方が大きく紛れもない賭けだった。


 もし、マナが回復する条件に少量のマナが必要だった場合、俺は自ら苦労して掴み取ったスキルを自ら捨てる事になるのだ。


 それに、これはファンタジーの小説の設定上の話だが、魔力を使い切ると魔力量が上がる場合とただただ死の危険が伴うだけの場合の2パターンある。もし後者だった場合俺はただただ自殺しただけだ。


 しかし、俺に迷いは殆ど無かった。既に自分の人生のモットーは面白おかしく生きる事に設定されている。


 スキルの強化はそれを実現する為には確実に必要な事だ。それに、例え今やらなくても俺の性格上、必ずどこかで試す事になる。なら、まだ何も積み上げる前に試してしまった方が失う物は少なく済むというものだ。


 成功すればこれからの日々を無駄なく充実して過ごすことができ、失敗すれば生きる理由を失う。


 前者であれば吉、後者であればもう一度あまり期待のできない隕石観測に乗り出し、それでもダメなら今度こそ異世界への招待券であるトラックへ突っ込む。ただそれだけの話だ。


 何かを得るにはリスクは付きものって事だ。


 そして、マナの器を拡張するに際して、はじめに体に巡るマナを全て使い切らなければならないのだが、そこでも一つ問題があった。


 それが、マナを消費する方法がスキルを使用する以外に見つからなかったのだ。


「マナの消費なんてマナを体外に適当に放出すれば良いじゃん」


 なんて軽く考えていたのだが、どうやら練度の問題なのかマナを上手く外に放出する事が出来なかった。


 厳密に言えば出来たと言えば出来たのだが、少しも少し…本当に少しずつしか消費出来なかった。概算だが続けていたら全消費するのに数時間はかかっていたと思う。


 では、どうしたか?


 自傷した。


 今の俺ではマナの無駄遣いは出来ない!って事で、俺は自傷し治癒スキルを使う事によってマナを消費することにした。


 具体的に言えば、腕の骨を折った。

 方法は至って単純。


 右腕の前腕部分をトンカチでドンッとやって治癒。


 お次は、左腕にチェンジしてドンッとやって治癒。


 骨を折ると頑丈になるなんて迷信があるから、一応交互に折ったが、我ながらなかなか骨の折れる作業だったな……あはは。


 コツとしては思い切りやることだ。ちょっとでも躊躇すると変な所にヒビが入って余計痛い思いをすることになる。


 全てのマナを消費できたのは、片腕4回ずつ、計8回骨を折った時だった。


 マナを消費していく度に、器が空に近付くにつれ、なんとなく嫌な予感はしていた。体の奥底から押し寄せるなんとも言えない不快感と胸の辺りが痛むような感覚。


 歳の割にそれなりに痛い思いをしてきた俺だが、ここは敢えて言おう。


 マナを全消費した時の感覚は…激痛であったと。


 アレは、正直死んでもおかしくなかったと思う。誇張ではなく本気で。100人が経験したら殆どがショック死するレベルだ。


 本当に凄かった。例えるなら、体中の神経を一箇所に集めて、それを力の限り握り締めなれるような感覚だろうか。神経触られた経験ないけど、それほど突き抜けた痛みだったってこと。


 かく言う俺も、失神し体の穴という穴から液体が漏れた。両親が一階の店にいて、俺の絶叫を聞かずにベッドの惨状を目にしなくて済んだのは幸いと言えるだろう。


 そして、肝心なマナの器拡張実験の結果だが。


 成功した。成功してしまった。


 回復したマナの量は、体感で分かるほど増加していた。


 一応記録を取る為、もう一度両腕を犠牲にスキルを試した所、8回から16回という約2倍の成果を打ち出した。


 結果としては上々なのだが、あの痛みを経験してしまうとあまり喜べない。しかし、方法を見つけてしまったからには、俺はやり続けるしかない。


 今後、スキル所持者同士の異能バトル展開になった時、この使用制限であるマナの量は確実に勝敗を分ける鍵になる。


 まして、俺のスキル治癒は直接的な攻撃力はない。他に攻撃スキルが存在した場合、尚更俺はマナ量を増やしておかなければならないだろう。


 2度目のマナの全消費もまったく慣れることは無かった。ベッドをさらに汚したのは言うまでもない。


 何か対策が必要だ。




















  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る