タルトの敬語

 タルトもジルも大人だ。

 そのため仕事中はキチンと業務に集中するが、休憩時間に入った途端、ベタベタと甘い雰囲気になる。

 今日も休憩が始まった瞬間にジルの背中にへばり付いてうなじを嗅いでいた。

 刈り上げられた髪には汗が浮いているため、ジルは何だかソワソワしてしまう。

 しかし、対照的にタルトは深呼吸を繰り返し、何度も幸せそうなため息を吐いている。

「タルト、お昼食べないの?」

 モシャッとサンドイッチを食べるジルが問いかけるが、彼女はうなじに顔を埋めたまま緩く首を振った。

「お昼よりもジルを摂取した方が栄養になりますから。はぁ~、最高です。何で常にイイ匂いがするんですか? ジルは妖精さんなんですか?」

 ジルは男性にしては身長が低めだ。

 女性にしては随分と背が高いタルトに比べれば彼女よりは少し背が低くなってしまうが、だからといって特別に可愛い容姿をしているわけではない。

 むしろ全体的に筋肉のついた身体はゴツく、真っ黒い短髪も可愛いというよりは格好良く仕上げている。

 また、整った容姿をしており柔らかい表情を浮かべるジルは優しげだが、よく見れば鋭い目つきに八重歯が特徴的な凶暴な口元を持っている。

 ジルは生命力に溢れすぎていて、妖精と呼ぶには花のような愛らしさや繊細さが足りない。

 タルト本人は本気なのだが、ミラは「妖精」や「天使」、「小動物」とジルを褒め称えるタルトに笑いをこらえるので必死だ。

 これらに関してはジルですら苦笑いである。

「俺が妖精なら、タルトは女神様だよ」

「何をおっしゃるのですか! 包容力雄っぱいに家庭的な力! むしろ女神はジルです! 私は女神を崇めるただの信徒か従者ですよ! はぁ~! ありがたやー! 雄っぱい女神様ありがたや~!!」

 後ろから抱き着いたまま両手を合わせて、ありがたいと繰り返す。

 ミラはとうとう堪えきれずにバフッと笑いを溢してしまい、大急ぎで飲み込んで咳払いを繰り返した。

 当のタルトはジルに夢中でミラとツイが肩を震わせているのには気がついていないが、ジル本人は異様な空気を察して苦笑いである。

「おバカなこと言ってないで昼食を食べなよ。せっかく俺が作ったんだからさ。ほら、食べさせてあげるからおいで」

「妖精神のお膝元で昼食を食べながら、あ~ん、ちゅっちゅ! ってしてもらえるんですか!? 行きます! 今すぐ行きます!」

 タルトは、こうしちゃいられねぇ! とばかりにジルの前に躍り出ると、バフッと抱き着いて膝に乗っかる。

 そして、妖精神? と首を傾げるジルに横抱きにされ、サンドイッチを口に運んでもらうと幸せそうに咀嚼し始めた。

「本当に幸せです! サンドイッチが美味しくて、ジルも可愛くて。ジル~! どうして、こんなにも貴方は魅力的なんですか? ああ、ムチムチ雄っぱいも堪りませんし。授乳されたいですよ~! ジルー!!」

 サンドイッチを食べ終わったタルトはジルの胸にグリグリと顔面を押し付けながら嗅ぎ、モミモミと胸を揉み回した挙句に服の上から乱雑に胸にキスをしている。

 変態だ。

 紛うこと無き変態だ。

 しかも気持ちが悪い。

「人間って、堕ちようと思えばどこまでも堕ちれるのね。先生、ド変態じゃない。せめて心の中に言葉をしまうことはできないのかしら?」

 それができたらタルトはタルトじゃない。

 心の内にも外にもスケベな心を溢れさせて、隙あらばジルを貪ろうとするからこそ、タルトは変態であり、ケダモノであり、他ならぬ彼女自身になれるのだ。

 まあ、なる必要はないが。

 だがタルトの場合、恋人であるジルが嫌がらないのであれば、それ以外の人間にどう思われようが構わない。

 それ以外のことは基本的に全て些事だ。

 ジルが照れながらも「タルトはスケベだなぁ」と満更でもない風に喜び、寛容な心で受け入れてくれている事だけが重要なのだ。

 弟子にドスケベだ、気持ち悪い! と酷評されようが一ミリも心は動かない。

 そんなわけでミラの言葉はサラリと無視し、ジルにコップに入ったお茶を飲ませてもらいながら甘えている。

「タルト先生って甘えん坊だったんだね。でも、ミラも僕の雄っぱいは好きでしょ。タルト先生みたいにして欲しいとかって思うの?」

 コテンと首を傾げて爽やかに問うツイだが、とんでもないことを聞いてくれる。

 ミラは顔を赤くしてツイの薄めの胸に視線をやったり、やらなかったりを繰り返すとドギマギと心臓を鳴らした。

「え!? いや、あの、私はツイの雄っぱいは好きだけど、そういうのは、えっと、抱き締められるのは、まあ嫌いじゃないけど、タルト先生みたいにして欲しいとかは、ええっと……」

 オープン変質者どもと違ってミラはシャイなのだ。

 何とも答えきれずに顔を赤くしたまま俯くと、

「ミラはあんまり興味がないのか」

 と、ツイが何故か少し残念そうに笑う。

 それから、ツイはグイっとミラの腕を引っ張って自分の懐に押し込むと、驚いて顔を上げた彼女の頬をツッと指でなぞり、

「でもさ、僕はミラが思っているよりも甘えたがりだから、ちょっと興味があるな。ミラの胸」

 と、ニッコリ微笑んだ。

 そのまま視線を申し訳程度に膨らんだ胸に向けるわけなのだが、弧を描く唇に対して瞳が笑っていない。

 奥に潜む狼が少しだけ顔を覗かせてミラの繊細な心を威嚇した。

 それにしても、とんでもないことを言ってくれる。

 シンプルに気色の悪い発言だが、ジル同様、ミラにもガッツリと恋人補正が入るようだ。

 ミラは羊の着ぐるみを脱ぎかけた姿に羞恥と少しの怯え、そして愛情を感じて、燃え広がるように一気に顔面を赤く染め上げるとガチッと固まった。

 触れれば微かに震える頬に手を添え、そっと顔を近づける。

 キスをされれば終わりだ。

 ボーッとして「あとはお好きなように」状態になってしまう。

「だ、駄目だよ! ここがどこか分かってんの!? お家じゃないんだよ!?」

 流石に胸は駄目! と無理矢理に緊張を振りほどいたミラが、ブンブンと首を振って乱暴に彼の顔を両手で押さえ、グッと遠ざけた。

 指がツイの唇をグイっと押し込む。

 歪んで中途半端に開いた口元からは鋭い犬歯が覗いてミラを狙い、瞳を細めたツイの舌が彼女の綺麗な指先を小突いた。

 ミラの背中や二の腕にゾワッと鳥肌が立つ。

「大丈夫だよ、タルト先生とツイはお互いに夢中だから、僕らを見ていないもの。ね、ミラ?」

 ミラは非常に押しに弱い。

 彼女の性格をよく知っているツイは、すっかり力の入らなくなった両腕を片手で押さえて一つずつ胸元のボタンを外していく。

 このままでは、壁に追い詰められた時の二の舞だ。

 しかも狙いが胸である以上、前回よりも大変なことになる。

 脳の中で警鐘が鳴り、早くツイを止めろと警告されるが、露出させられた鎖骨に音を立ててキスをされれば、そこから続々とする甘い熱が全身に広がってミラを犯す。

 彼女では欲情したツイを抑えられない。

 どうしようもなくなったミラは半べそを掻きながら、

「せ、先生! タルト先生!」

 と、大慌てでタルトを呼んだ。

 すると、ジルに甘え倒していたタルトが振り返って、

「何ですか?」

 と、首を傾げる。

 視線が集まれば流石のツイも諦めたようで、チッと舌打ちをする代わりに鎖骨をきつく吸って跡をつけると名残惜しく離れた。

 二人の様子を見て何かを察したらしいタルトが苦笑いを浮かべる。

「ああ、そう言うことですか。まったく、お二人は相変わらずですね」

 じゃれ合うのは構いませんが、あまり私とジルの邪魔をしないでくださいね、とばかりにため息を吐くタルトを見て、ミラはムッと口を尖らせる。

「あ、相変わらずって! ちょっと前まではツイだって、今よりちょっとは大人しかったんですよ! タルト先生とジルに触発されてツイが肉食獣に戻っちゃったんです! せっかく私が抑えてたのに!」

 ポコポコと怒り、どうしてくれるんだ! とタルトにクレームを入れるミラだが、それに対してツイが「違うよ」とアッサリ首を横に振った。

 何が違うの? と首を傾げるミラに彼がクスクスと笑う。

「少し前までは僕とミラとジルの三人で行動してたでしょ? ジルと話をするのは楽しいから好きだけど、なかなか外で二人きりになれなかったからさ。これでも我慢してたんだよ」

 思い返してみれば、ジルが来るまでは診療所で二人きりになる時間というものは少なくなかった。

 休憩になれば二人でデートに行っていたし、その場にタルトがいたとしても研究や読書に熱中していて、話しかけなければ注目を集めるということも無かった。

 つまり、ツイが好きに振舞える環境が整っていたのだ。

 今も再びジルに夢中になって甘い声を出すタルトを確認すると、ジリジリとミラに這い寄って貪ろうと狙い始める。

 締めたはずのボタンに手を伸ばして、甘く鋭い瞳で動かないでね? と威嚇をする。

「タ、タルト先生! タルト先生!」

 必死に助けを呼ぶが、ジルの事しか頭に無いタルトは、もはや振り返ってすらくれなかった。

「なんですか? ツイなら頑張って自分で抑えなさい。ミラはもう、立派な大人でしょうが。私はジルに甘えんぼするので忙しいですよ。ね、ジル~!!」

「こ、コラ、タルト、駄目だよ。服が破けちゃう! 休憩中だって、患者さんが入って来る時あるでしょ! 見えそうなところは駄目だってば!」

「ギリギリを攻めたいんです! 許してください、ジル!!」

 甘すぎる声とチュッチュという、耳を塞ぎたくなるような恥ずかしい音が聞こえてくる。

 襟をガシッと掴まれて伸ばされ、露出させられた鎖骨を襲われているジルの涙目と、彼の対面にいる襲われる寸前なミラの涙目が交差する。

 捕食者を抑えきれない被食者同士、何か通じ合うものがあったのかもしれない。

 瞳で頷き合った。

「えっと、先生、私、先生に質問があるんです」

「何ですか?」

「先生って、いっつも丁寧な敬語を使いますよね。どうしてですか?」

 タルトの視線を自分の方向に集めるために出した適当な話題だ。

 だが、タルトはピタリと止まってジルへの口づけを止めると、なんとも言えない苦笑いを浮かべてミラの方を振り返った。

「おもしろくない話ですよ。ジルの雄っぱいを頂く方がよほど楽しい話です。ね、ジル!」

「捲らないの! でも、俺も気になるな。確かにタルトっていつも敬語だよね。なんで?」

 ススス……と服の裾に這い寄る手をパシッと止めてジルが首を傾げれば、彼には異常に甘いタルトが無視をできなくなって、少し迷った後に昔話を始めた。

 痛々しいタルトの古傷の話だ。


 タルトはいわゆる良い所のお嬢さんだった。

 父親は地元を牛耳る商人だ。

 彼女の自宅でもある大きな庭のついた豪邸では何人もの使用人が働いていて、自分よりもずっと年齢が高い人間に敬語を使われ、ご機嫌伺いをされながら育って来た。

 料理人が作った豪勢な料理を食べ、身支度もすべてメイドに整えてもらい、用意された服を着て、常に清潔に保たれた自宅の中で過ごした。

 そもそも、彼女を育てたのも乳母だ。

 物質的にはかなり豊かで、高慢ちきの愚かな娘になる条件が揃っていた環境だったが、タルトは慎ましやかで大人しい、知的なお嬢さんに育った。

 理由は簡単で、タルトの父親が頭のイカレた愚か者だったからだ。

 貴族に憧れたタルトの父は身の回りを金のかかる高級な「何か」で埋め、金で買った貴族の娘と縁を結んで、なんちゃって貴族に成り上がった。

 娘のタルトも貴族としてふるまうための道具でしかない。

 誰もがうらやむ娘に。

 まるで位の高い貴族であるかのように育てよう。

 そうだ、そんな美しく賢い娘に位の高い貴族の男が引っ掛かれば、タルトの父親であるという事実を利用して、自分は今よりもずっと高尚な存在になれる。

 憧れを実現できる。

 そのように考えたタルトの父親は、芸術家を雇って彼女に音楽や絵画を学ばせ、ダンスを覚えさせ、マナーを磨かせ……と、とにかく様々な高尚っぽい「何か」を詰め込ませた。

 そして、常に敬語を使わせた。

 幼いタルトがうっかり、

「きょうは、ことりさんとあそんだの。でもね、いなくなるときにふんをおとしてったのよ。れいぎしらずだわ」

 と、敬語を抜いてキャッキャと笑えば、飛んでくるのは鋭い手のひらだ。

 敬語を使え。

 大声で笑うな。

 鳥や糞などという汚い話題を出すな。

 使用人にタルトを監視させ、一度でもミスがあれば部屋に呼び出した。

 けれど、実際にタルトが叩かれたのは一回か二回だ。

 流石に子供に手を上げるのは、とタルトの父が躊躇したからではない。

 タルトの母親が彼女をかばって、代わりに自分が殴られたからだ。

 母親をいたぶる時、父親は平手から拳に手の形を変える。

 タルトなら一度だが、母親ならば数えきれないほど殴る。

 それをタルトは脳と瞳に焼き付けられて育った。

 自分がミスをすれば愛しい母親が嬲られる。

 一度か二度、母親が動けなかったためにタルトの頬に痣ができてしまったことがあった。

 そうすると母親はタルトに縋りついて痣のついた頬を撫でながらすすり泣くのだ。

「ごめんね。お母さんが動けなかったから、ごめんね。痛いね。ごめんね。私の愛しい子。ごめんね」

 母親を泣かせたくない。

 苦しめたくない。

 そのため、タルトは大人しく、礼儀正しく、慎ましやかに、まるで美しい貴族の娘であるかのように振舞った。

 家を出る日まで、ずっと。


 シンと凍り付く診療所の一室で、

「ね? あんまり面白い話じゃないでしょう?」

 と、タルトは苦笑いを浮かべた。

「紆余曲折あって、十代の頃に家を出て医者をやっている叔父の所へ逃げました。それからはかなり好きなように過ごさせていただいたのですが、敬語がね、一番、怒られる原因だったからでしょうか? どうしても抜けません。それに、高飛車で高慢な態度もね。常に凛と、高級な華でいるのが貴族なのだそうですよ」

 貴族が何たるかも知らない平民のくせに。

 心に浮かんだ悪口を喉の奥へ押し込んでタルトは苦く笑う。

 元の性格もあるため、その全てをタルトの実家に押し付けるわけにはいかないが、少なくとも表面に浮かんでいるタルトの冷たい態度や彼女の持つ感情の押し込み癖は幼少期が原因だ。

 そして、金で人間を買うという行為を必要以上に蔑視しているのも父親が原因である。

 理由はどうあれ、タルトは自分の恋人を金で買ってしまった。

 不意に物思いにふける度に、タルトの中の小さな女の子が、

「お前は愛しい母親を殴った父と同じだ。汚い屑め」

 と喚くのだ。

 心臓がギシッと悲鳴を上げた。

「その、先生のお母さんは?」

 恐る恐る尋ねる。

 タルトの瞳が追慕で柔らかく輝いた。

「亡くなってしまいました。私が十歳の頃にね。だから家を出たんです。そして、変わり者であるかわりに優しい叔父、父の弟の元へと逃げました。今はね、私の実家では私が死んだことになっているんですよ。叔父が、そう言うことにしてくれました」

 タルトの母親が死んだ原因は不明とされている。

 だが、推測はできる。

 母親がなくなる前、タルトは彼女の部屋に呼び出されたのだから。

 母親に出された温かいココアを飲んで、うつらうつらと眠くなる中、タルトは彼女に優しく話しかけられた。

「お母さんね、タルトが大好きよ。可愛くて、優しい娘。私の大切な宝物。でも、ごめんね。お母さんね、もう疲れちゃった。痛いのも、我慢して大人しくしているタルトを見ているのも、守るのも、嘲られるのも。全部、全部苦しくなっちゃった。そういうのがないところに、いきたいわ」

 ココアに混ぜられた物の影響もあって、何を言っているのか、幼いタルトには理解ができなかった。

 ただ、何かが悲しかったことだけを覚えている。

 意識が途切れる直前、母親が閉じる瞼にキスをした。

「生んでしまって、ごめんね。苦しませて、ごめんね。一番に貴方に見つけてもらいたくて、ごめんね」

 生温かい水がタルトの頬を伝う。

 どちらの涙なのかは分からない。

 翌朝、目が覚めると母親の形をした冷たい人形がテーブルに突っ伏していた。

 母親の望み通り、旅立った彼女を一番に見つけたのはタルトだった。

 家にいる理由がなくなったタルトは汚い屋敷を抜け出した。

『最期のごめんね、だけは訂正させたかったですね。苦しかったあの家でも、お母さんが関わる思い出だけは大切な物ばかりなので。お母さん、私はお母さんがいて、幸せだったんです。生まれたから、今、ジルと一緒に過ごせるんですよ。生んでくれてありがとうって、言いたかったです。お母さんが何処かへいく前に』

 もう会えぬ人間に心の中で語りかける。

 胸中での祈りが天国へ届くというのは事実なのだろうか。

 生きている人間には分からぬことだ。

「丁寧な話し方をするね、と褒められたこともありましたが、私は自分の敬語が好きではありません。ただの名残りなので」

 古傷のようなものです、とわらうタルトの冷たい頬にジルが口づけを落とした。

 いつかタルトがジルの古傷に薬を塗った時のように。

「俺はタルトの敬語好きだよ。聞いてて柔らかい感じがするし、綺麗だから。傷なら俺にもあるから一緒だね。タルトが俺の傷を好きだといったみたいに、俺もタルトの傷、敬語が好きだよ」

 ふんわりとしたジルの笑顔がタルトの瞳の奥に住んでいる少女の頭を撫でた気がした。

 ジワリと溢れる涙を見られるのが恥ずかしくて、ギュッと胸にしがみつく。

「ジル! 優しすぎです、ジル!! 甘くて、嬉しくて堪らないですよ!! もっとヨシヨシしてください! 包容力雄っぱいで甘やかして!! ちゅっちゅっちゅ!!」

 涙声でしょうもない言葉を口走るのは傷を隠す癖が故だろうか。

 それでも頭を撫でてもらえば安心を覚えて溶けた。

 ボロボロと泣いているタルトは誰に呼ばれても今だけは振り返れない。

 ジルはタルトの頭にキスを落として、トン、トンと背中を柔らかく叩いた。

 ところで、残りの休憩時間をタルトは本格的にジルに甘えるのに使ってしまったわけなのだが、そうすると大人しく話を聞いていた獣がタルトの昔話を聞いてしんみりとし、優しく彼女を受け入れるジルを見て感動するミラを狙って動き出す。

 捕食者は油断しても襲われないが、被食者が隙を見せれば可愛いカモになる。

 人知れず、ミラはカプッと襲われた。

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