対抗戦開幕! 白川の勘違い。
授業を終えてウエスト寮に戻る一同。
ドアを開けた途端、真っ青な表情の白川が顔を上げる。
(うわー絶対もう聞いているな)
「あ、あの、聖兎さん、本当ですか」
「えっと、食堂の件なら、本当です」
その言葉を聞いた途端、白川は「あああ」と声を出して頭を抱える。
「男子には本当に困りますね」
セリアが白川の背を摩りながら、やれやれと呟く。
「はあ! え、いや、俺じゃなくて、セリアが」
「……困りますよね。白川先輩」
「誤魔化そうとするな」
「僕のせいなんです!」
二人が危機感なく言い合っている中、手をぎゅっと握り、俯きながら声を上げるバイト。
「僕が、原因で、イースト、すみません」
床に頭をつけるバイト。
ののかと白川が同時に「はわわ」と声を上げる。
(被った)
「被ったわね」
(セリアとも被った。なんか悔しい)
「まあ、聖兎がことを大きくしただけで、バイト君はする必要はないと思うわよ」
「そうそう、俺が……もういいや、俺が悪いですよ」
「そう言われると、少し罪悪感」
「じゃ、俺とセリアが悪い。バイトは何もしてないだろ。気にするなって、白川先輩も怒ってないから。ねえ」
「え、あ、ちょっとは怒ってますけど、でも、バイトさんは悪くないと聞いています」
「でも、僕が、すみません」
「バイトさん、今は謝っても仕方ないと思います。もし、あの、あ、もし、本当に謝罪したいなら、行動で示すべきだと思います」
(白川先輩、意外と言うな。カッコいい)
「あ、でも、行動って言っても、エッチなあれじゃなくて、頑張るって意味で、そのあれです」
(やっぱり白川先輩だ)
バイトは頭を上げながら、白川を見つめる。
「すみません。なんでも言ってください。僕が責任を取れることなら、全部僕が」
(責任の所在がどこであれ、負けたら俺が……やっぱり俺怒って良いよな)
「まあ、バイト——「バイト君は悪くない! ほら、立って。早く対策考えよう」
(今度はののかに! 今日の俺の発言権どうなってるんだ)
バイトが立ち上がり、その場の全員が冷静になれる時間帯が経過した頃、バイトとののかは他の寮生に自体の情報を伝えに出て行った。
残された三人は、丸いテーブルを囲うように座りながら、白川が声を出す。
「た、対抗試験のルールは、各学年同士で戦う学年団体戦と、各寮の代表三人が出場する代表選があります」
セリアが手を挙げて発言する。
「学年戦は、一年生は一年生と戦う。今回の事件で関わった人は私たち以外上級生だったわよね」
「ああ、そうだったと思う」
「問題は、代表戦」
白川が「はい」と同意する。
「だ、団体戦は学年ごとに総当たりのトーナメントで、その順位で、い、一位なら十ポイント、二位なら七ポイントと言ったように、ポイントが加算されます」
(ボロ負けしない限り、そこまで大きな差は出ないか)
「た、対して代表戦は、代表者三人の勝敗で得点が入ります。誰と当たるかは抽選で、四寮三人、どこかの寮とは戦わないことになります」
「確か、最後はポイントが高い二つの寮で戦うんですよね」
「もし、う、ウエストとノーズの得点が、イーストとサウスより多ければ、ウエストとイーストが最後に戦います。裏で、少しだけ操作されているので、ポイントが多かった二つの量だけは、全部の寮と戦うことになります」
(操作されてんのか。いいのか、天頂学園)
「出場する代表者三人は役職関係なく出場できますけど、暗黙の了解として、寮長と副寮長は絶対に出場がルールです」
「となると、白川先輩と、俺か!」
(まあ、戦う気ではいたが、あの怖いイーストの人と戦う可能性があるのか)
「せ、聖兎さんと私、あと一人はセリアさんにお願いしたいんですけど、ど、どうですか」
「私は良いですけど、あの、ノレム先輩は?」
(ノレム先輩って、寮長試験でセリアと戦った、エッチなお姉さんだったよな。確かに、あの勝負もセリアは勝たせてもらった感じだった)
「あ、ノ、ノレムさんは、出ないそうです。去年も出ませんでした。セリアさんが嫌なら、他の方に、中洲さんとか」
「誰ですか中州って、そんな人に任せるくらいなら私が出ます。というか、最初から出る気でしたから」
(中州先輩は俺と戦った、えむちゃら先輩だ。最近会ってないからって……)
「あれ? ってことはさ、俺はペド先輩と戦うことになるかもしれないのか」
「あ、えっと、ペドさんは代表戦に出場できません。イーストは梨花さんと黒川さん、それに誰かが出場すると思います」
(必ずあいこにするペド先輩だからな。出ても意味がない)
「ノーズは夢野……なんとかさんと、あの問題の人で、サウスは全くわからないな」
「負けたら、せ、聖兎さんが大変なことになります。お二人とも、頑張りましょう」
(ん? そういえば、白川先輩『俺が』って、俺の心配ばっかりしているけど、役職全員って条件知らないのか?)
「白川せ——「そうね。負けたら聖兎が大変」
(また! ああ、誰のせいだ。と言いたいが、もうめんどくさい)
「ああ、そうだな」
(まあ、操作されてるなら寮長は寮長と、副寮長は副寮長と戦うって感じだろうから、俺は心配する必要性はない。セリアも並の相手には負けることはないだろう。イーストに負けても、ノーズにさえ勝てば良い。イーストは簡単には負けないだろうから、ノーズに負ける確率は少ないだろう)
「聖兎、どうしたの?」
「いや、まあ、なんとかなるかなって」
(楽観的な考えは素晴らしいが、俺はもう少し白川先輩の言葉を聞くべきだった。『少しだけ操作されているので』少しだけ)
「さあ! 始まりました! 天頂学園対抗戦! 実況解説はわたくし、東西南北です! ちなみに本名です!」
高くテンションの高い女性の声が、会場内を沸かす。
「さあ! さあ! 一年生対決が終わったところで、代表戦第一試合に参りましょう! あ、ちなみに、一年、代表戦、二年、代表戦、三年、と言った感じに行きますので、二年生は見ながら準備もよろしく!」
会場のモニターに抽選箱が表示され、ドラムロールと共に発表されていく。
「出ました。おおっと! これは意外!」
モニターには各寮代表者のトーナメントが表示され、聖兎、セリア、白川の名前も載っている。
左から、ノーズ、サウス、イースト。
セリア《市川》《六内》《黒川》
(マジかよ。市七井って人は知らないけど、俺だけフルコンプじゃん)
白川が聖兎の袖をちょいと掴んで聞いてくる。
「せ、聖兎さん、佐野さんと言う方は、騒ぎを起こした人ですよね」
「そうです」
「ペドさんって、人も、同性同名とか」
「いや、知らないです」
(まずい! ペド先輩は必ず引き分け、勝っても負けても得点にはならないし、俺は絶対負けるし、セリアは黒川先輩と戦うし、俺、終わったか)
解説が声を上げる。
「記念すべき第一回試合は! ばん! 聖兎対夢野! 新進気鋭の一年生、聖兎くんと、カリスマ! 夢野先輩の対決だ!」
(終わった)
涙を流しながら悔しがるバイト。
「僕のせいで、聖兎が、ごめん」
能天気に胸を揺らす、ののか。
「聖兎くん、負けて大丈夫だからね。もしもの時は隠してあげるから」
(どこで! というか、こいつらなんで俺が負けるの全体なんだよ!)
聖兎の肩に、ポンと手を置くセリア。
「聖兎、負けたら殺すからね」
(セリアが決めたくせに〜役職全員……一番の被害者は白川先輩か)
「聖兎さん、慰めてあげますからね」
(やっぱり、白川先輩は知らないのか)
「白川先輩あの——「さあ! 聖兎くん、早くフィールドに!」
(まあ、後でいいか)
聖兎はフィールドに上がる。
夢野が顔を上にあげ、物理的に上から目線で聖兎を見る。
「負けた時は、わかっているな」
「夢野先輩こそ、自動車楽しみにしてます」
「記念すべき第一試合! 二つ名、女子校に一人はいる系女子! 夢野ハイツ! 一年、あれ、あ、資料、あれ? あ、聖兎!」
「俺の適当!」
「さあ! 文句は終わった時に、二人とも準備はいいですね」
二人は無言で頷く。
「それでは行きましょう。ハビット!」
二人の勝負が、今始まる。
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性癖カードバトラーズ 黒世夜人 @kuroseyato
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