新キャラ! イーストの策略、ノーズとの賭け。
「聖兎? あれ? 聖兎」
寮の一室。聖兎。セリア。白川の部屋。
(やばい、禁欲がすぎる)
セリアの声は聞こえていたが、ベッドから起き上がらずに枕に顔を埋める。
(大体、寮って暮らしづらくね。いや、飯も掃除も洗濯も学園が委託した人がやってくれるし、Mちゃら……中州先輩はかなり後輩の扱いが上手く、俺含め一年は楽しい寮生活を送れている)
「聖兎? いないの?」
(だけど! オ〇ニーしづらい! 部屋は当然無理。トイレは共有で個室に数十分入ってたらバレるし、普通に心配される。どこでしろって言うんだよ……)
仕切られたベッドルームのカーテンを開け、セリアが顔を出す。
「聖兎、いるじゃない」
(一番の原因はこいつだ。入学してから少し経ったけど、可愛すぎる。思春期が一緒に暮らしていいルックスじゃないだろ。おまけに)
聖兎は数日前の記憶を思い出す。回想。
深夜。聖兎他二人の部屋。
俺は衣擦れの音とベッドの軋み音で目を覚ます。
深夜か、変な時間に起きたなと思っていると、カーテンで仕切られた奥の空間、セリアと白川のベッドが置かれている場所から、音がしたことに気づく。
「白川、先輩、ほらね、寝てますよ」
「はわ、で、でも」
「し、少しだけ声を落として下してください」
「あ、ごめんなさい」
なんだ? セリアがトイレにでも行きたくて白川先輩を起こしたのか? はぁー寝よ。
「大丈夫そうです」
「あ、て、セリア、さん」
「あ、すみません。でも、どうせ触るんですから」
「え、まだ決まってません! だめですよ、校則が」
校則? そのことに気になって暗視ゴーグルを被り、こっそりカーテンを覗いてみる。
なんで暗視ゴーグルを持っているかは、気にしなくていい。
「あ、セリアさん、怒ります、あ、ん」
「怒っていいですよ。ほら、怒ってください」
「ん、あ」
「怒らないんですね。だったら」
「え、あ、そこは、私まだ膜、ん、あ」
暗視ゴーグルの視界だと詳しいことは分からないが、二人の影は一緒のベッドで、しかもかなり近い、暗くて分かりずらい。
暗視ゴーグルを取り、サーモグラフィーで二人を見てみる。
なんでサーモグラフィーを持っているかは気にしなくていい。
サーモグラウィーで見ると、二人の体温はかなり暑い。オレンジ、真っ赤に表示され、しかもかなり大きな一つの塊に見える。
つまり、抱き合っているのか?
「綺麗ですよ。白川先輩って、タ〇ポン派なんですね」
「あ、だめ。校則違反ですよ」
「校則は性交で、入れなければ問題ないんです」
「一年生なのに、なんでそのこと」
「保健室の先生の、海堂先生に聞きました」
「あ、の、先生、ん、ダメ! セリアさん!」
「白川先輩、校則と、初めては取っておきたいので入れるのはダメですけど、それ以外なら性交になりません」
「うふ、白川ちゃん♡」
「………………今回、だけ、ですよ」
回想終わり。
(と言うことがここ一ヶ月に七回ほどあった。もしかして夢だったのか、真相は分からないが、どっちにしろちくしょう! 二人だけ満足しやがって! しかも一番納得がいかないのは、俺がズボンを下ろす音を異常なほど敏感に感じ取って起きることだ)
「聖兎、起きてるなら授業行くわよ」
「今日いい」
(こうなったら休んで一人の部屋を確保するしかない)
「そう、じゃあ見守りカメラ置いておくから」
「何ゆえ!」
「男女一緒の部屋の生徒が授業を休む場合、下着やその他ものに、その、かける事案が多くて、そうなったみたい」
(クソ! 先輩もろくなもんじゃないな。俺は、ああ、もういいや)
「監視されるのは嫌いだ。授業出るよ」
「そう、じゃあ行くわよ」
聖兎とセリアは寮を出て、天頂学編本校舎に足を踏み入れる。
天頂学園の敷地は広大【東〇〇ーム百七十個分】某ネズミの国の十倍近くの大きさがある。
中奥の本校舎から、枝分かれするように道が分かれ、各寮、フィールド、プールや商業施設など、生活に必要なすべてが揃う。
近いイメージはほぼパリ。エッフェル塔が本校舎。それ以外の道に奥に寮や店があり、枝分かれした道の最終地点に広大な試験用フィールドが置かれている。
「あー疲れた。なんで本校舎に着くまで十キロ歩くんだよ」
「十キロも歩いてないでしょ。確かに遠いけど」
「大体! 一番納得がいかないのは、イーストはガソリン系の乗り物、ノースが車以外の電気系の乗り物、サウスがスクーターと電動キックボードが支給されるのに、俺らウエストはなんで自転車! 電気かせめて蒸気は?」
「仕方ないでしょ、私たち一番下なんだもん」
「ロードバイクなだけマシだけど、せめて電車とかないのかよ」
「学校内に電車なんてあるわけないでしょ」
(ネズミの国ですらあるのに)
「ほら、早く授業行くわよ。遅刻したら他のクラスになんて言われるか」
「あーめんど」
天頂学園の大きな特徴として、ハビット専門学校の名門が挙げられるが、専門学校だからと言ってハビットだけを勉強するわけではない。ハビットの授業の他に、国語、数学、社会、理解、保健、言語がある。
この世界の基本科目、言語は、英語、ラテン語、ヒエログリフの三つ。
学園の生徒は学年ごとに授業を受け、勉強の結果もハビットのクラス替えに多少影響を及ぼす。
「あー今日ってなんだっけ?」
「今日は言語のラテン語」
「ラテン語かー重要だな」
「ロマンチックだし、ハビットで使うことも多いからね」
「あー頑張るか。あ、やっとついた」
聖兎が教室のドアを開ける。
教室には三十数人、四列に分けられた座席に、各クラスの制服を着た生徒が座っている。
「おはよう、二人とも遅いよ」
「僕らは他のクラスより前に来ないと」
ウエストの列の後ろから二番目、二人の男女が話しかけてくる。
「ごめん、バイト、遅れた」
「聖兎、毎回遅刻ギリギリはやめてくれ、心臓に悪いよ」
青白く心配そうな表情の男子生徒、名前は、バイト。
黄色い髪の毛に似合わない白い肌、手の指も長く女性ように綺麗な手をしている。
「深夜にピアノ弾いてお化け騒動を起こしたやつに言われたくない」
「あれは申し訳ないと思っているよ」
「本当かよ¬〜」
「本当だよ。それ以降ピアノは昼に弾いているし」
「わたしも怖かったなーねえ、セリアはどうだった」
「ののかの声に驚いただけ」
「ひどい!」
大袈裟だが不快感はない驚きをして、笑顔を向ける女子生徒、名前は、ののか。
腰下まであるピンク髪、自然で血色の良い元気な印象を抱かせる肌色。一番はその大きな胸。セリアも大きな方だが、ののかと比べると貧乳に思えるほどの爆乳、対抗できるのは絶天頂の一人、聖兎の憧れの人、南野静香くらいだともっぱらの噂だ。
(噂だとペド先輩に一目置かれてるとか、理由は『この子の子供! まさか、空想で禁忌、ロリコンの最底辺と揶揄される、伝説のロリ巨乳が拝める可能性があるのか!』という理由らしい)
「ねえ、セリア、今日の帰り寄って行きたいところがあるんだけど」
「どこ?」
「下着店。最近きつくて」
ののか、がわざとらしく胸を揺らすと、他のクラス含め、何人かの男子生徒は前傾姿勢を取る。
(あーやば)
聖兎もその一人。
セリアが前傾の男子にジト目を向ける。
「私、自分を銃火器くらいの威力だと思ってたけど、実は竹槍だったショックでどうにかなりそう」
「槍?」
「ののかは気にしなくていいの。そう、気にしないで……惨めになるから」
セリアは自分のものを見ながら、静かに告げた。
「惨めに……なるから」
周りの女子生徒も同調したように落ち込む。
「おはよーな、なに! なんでこんなお通夜みたいな雰囲気なの! だれかテクノブレイクでもしたの!」
ドアを開けて入ってきた背の低い女性、名前は緑沢由那「みどりさわゆな」一年担任。
身長は百三十センチ、金より暗く、茶色より明るい髪色のゆるふわショートヘアを揺らしながら、小さな体を大きく揺らす。
「おい! 誰か事情を知っているもの! だれかー」
生徒の誰かが「爆乳に自尊心を殺されました」と言う。
「爆乳? ののか! 殺したのかー」
「なんでわたしなんですか!」
「爆乳と言ったらののか」
「ひどいです! 私何もしてません。だた胸が大きだけです」
その発言に、周りの女子はギロリとののかに視線を向ける。
(あーあ、言っちゃった。まあ、授業時間が少なくなるからいいか)
「ふ、先生はそのくらいじゃ怒らない。いいか! 偉い人は言った! 貧乳はステータス! 先生は個人の個性はどれも素晴らしく、貶すものはないと思っている。いいか! 貧乳はステータス! 世界最強の絶天頂を相打ちにまで持ち込んだ、現役最強の生徒も言っていた『胸って、乳首がメインなんだよ。脂肪はおまけ』先生はメイン! 分かったかー生徒諸君」
(それ言ってたの、多分ペド先輩だろ。あの人分かんね〜)
女子生徒、主に胸の脂肪が少ない生徒の拍手により、教室の雰囲気は幾分かマシになる。
「じゃ、授業始めるぞー」
一年生、ラテン語の授業が、今始まる。
「あー疲れた」
授業が終わり食堂で項垂れる生徒に、パンとお茶を渡すバイト。
「お疲れ様だね、聖兎」
「疲れたよ。大体! なんでラテン語が三時間もあるんだよ! おかしいだろ!」
「まあ、仕方ないんじゃないかな。ハビットの授業を充実させようとすれば、他の授業を少なく、もしくは圧縮するしかないからね。先輩に聞いたけど、最初はこんな感じらしいよ」
「はぁー食堂だけが本校舎唯一の心の拠り所だ」
「なーに言ってんの?」
セリアはおぼんに乗ったカレーテーブルに置くと、聖兎の向かいに座る。
「バイトくん、行ってきていいよ」
「じゃ、僕行ってくるよ」
バイトは昼食の購入のため席を立つ。
ハビットはクラスにより食べられるもの、正確には買える場所が変わる。
ウエストはメイン食堂と購買のみ。購買は比較的空いているが、メイン食堂はノーズとサウスの生徒も使うため、混みやすい。
イーストは専用食堂が用意されている。
「セリア、毎回カレー食べるよな」
「ええ、美味しいもの。聖兎もたまには購買以外のもの食べたら?」
「金がないんだよ」
「学園から生活雑費とお小遣いがもらえるでしょ。何に使っているの?」
(色々、セリアに言えるわけねえ)
「まあ、ハビットのパックとか」
「ふーん。聖兎のデッキは特殊だから、カードいっぱい必要そうだし、仕方ないわね」
セリアはカレーが乗ったスプーンを聖兎に差し出す。
「なに? 俺に対して、私カレー食べてるんだけど、笑笑貧乏人? ってこと?」
「違う! その、一口あげる」
「マジで」
(マジか! カレーもそうだが、これって女子から……禁欲のご褒美か)
「ほら、早くあーん」
「あー「邪魔なんだよ!」
食券機の方で怒鳴り声が響き、驚いたセリアはスプーンを落とす。
「「あ」」
カレーは机に落下する。
(あーせっかくのあーんが、これを逃したら一生ないかもしれない女子からのあーんが! いや、セリアのことだ、もう一回くらい)
「セリアあのさ「ウエストが邪魔だって言ってんだろ!」
「あの、セリ「端に行っとけ、底辺が」
「あ「お前らのせいで学園の評判が落ちてんだよ」
(なんだ、なんなんだよ! 一体誰が)
聖兎が怒鳴り声のした方向に視線を向けると、食券機で言い争う二人の姿を見つける。
(バイト何やってんだ?)
二人のうちの一人は、先ほどまで聖兎と一緒にいた黄色い髪のバイト、もう一人はノーズの制服を着ている。
「ねえ、あれバイトくんじゃない?」
セリアも気づいたのか、興味深そうに食券機近くを見回す。
「だろうな。なんか問題、ひとまず行くか」
「そうね。言いがかりつけられているようだし」
野次馬を抜けて二人に近づく。
「バイト、どうした?」
「聖兎! 助けてくれ、ノーズの生徒が」
「ああ、俺がなんだって。こいつか割り込んできたんだ」
「僕は割り込んでないよ。普通に並んでいたらそっちが」
(二人の話が食い違っているが、ひとまず食券に割り込んだことが原因で喧嘩しているんだよな)
「場所取りしてたのに、こいつが割り込んできたんだよ」
「場所取り?」
「割り込んでねえ! 床にスリーブを置いてたんだよ!」
ノーズ生徒の発言に、呆れたセリアが声を出す。
「食券で場所取りなんて聞いたことがないし、人は動くのよ。しかもスリーブで場所取りというのはどうなの?」
「お前らウエストの意見なんて聞いてない。大体、俺はウエストが嫌いなんだよ! 最低辺のくせに天頂学園に寄生しやがって」
ノーズ生徒の「寄生」という言葉に、セリアは怒りを覚える。
「それは言い過ぎでしょ! 大体、ノーズだってイーストに寄生して今の地位を守ってるだけじゃない!」
「ああ、なんて言った!」
「イーストの寄生虫って言ったの。ウエストもサウスも、当然イーストも他のクラスに寄生してないのに、ノーズだけはしているでしょ」
「ああ、おい、ふざけたこと抜かしてんじゃねえぞ、最底辺」
ノーズ生徒とセリアは一触即発、今にもバトルが始めってしまいそうなほど場を、周りの野次馬がさらに盛り上げる。
「いけ! ノーズ! ウエストやっちまえ「ノーズ!「ハビットだハビット! 早く始めろよ」
(周りの奴ら、他人事だと思って好き放題言いやがって)
「セリア、落ち着「なんだこの騒ぎは!」
(なんか、今日の俺の発言権弱くね)
野次馬の奥から現れた一人の女子生徒、青い髪のロングヘア、ノーズの制服に身を包みながら、ニーソックスが遊び心を演出している、胸の小さな女性。
「食堂で騒がしい。何があった」
ノーズ生徒が事情を告げる。
「なるほど、くだらん。佐原、貴様も床で場所取りはできんことくらい分かっているだろ」
「ですが夢野寮長」
(寮長! この人がノーズの寮長、確か、夢野ハイツ)
「黙れ。ノーズたるもの最底辺のウエストにも気を配れ。下にも慈悲と与えるのが上の役割、寮則を忘れたのか」
「い、いえ……分かりました」
(最底辺、下のもの……流石ノーズ、ナチュラルに見下してくるなーまあ、今日の俺は禁欲により穏やかな性格を持っている。さっさと食べて授業だ)
聖兎が戻ろうと踵を返した途端、セリアが声をあげる。
「あの、ちょっといいですか!」
「君は……ウエストの」
「セリアと言います。こっちは聖兎」
(なんで俺まで紹介すんだよ!)
「うす」
「聖兎……確かイースト梨花が、君がそうか」
「え、あ、どうも。じゃ」
聖兎は頭を下げて、その場から離れようとするが、セリアがそれをさせない。
「最底辺という発言、取り消してもらえませんか」
「事実を言ったまでだ」
「寮長は寮の代表ですよね。それが他の寮を差別する発言。問題があるのではないですか」
「代表だからこそ言っている。ウエストの寮長……小さくて、陰気な……白川になったんだっけか。その白川から聞かなかったか」
セリアが「何を」と聞くと、夢野はニヒルな笑みを浮かべながら。
「ウエストのような最底辺の問題児クラスは、存在する価値がないってことをだよ。この学園にはイーストとノーズがあればいい。サウスに関しては特殊すぎで事情を知らんが、ウエストはいらない」
セリアはデッキに手を伸ばす。
「それは、ノーズ寮長の私と戦うということかい」
「そうです」
「本当に、君が私に勝てる確率は……計算するまでもないと思うが」
「そうですね。百パーセント私が勝ちます」
「ふん、いいだろうではこうしよう。一番近いイベントは寮対抗体育祭だ。勝負はそこの合計点数で決める。ノーズが勝ったら……そうだな。公開オ〇ニーでもしてもらうか」
(おいおい、なんか勝手にことが進んでいるだが、急展開すぎるだろ)
「おい、セリア、あのさ「こっちが勝ったら、発言の取り消しと、ノーズの寮特典の一部をウエストに譲る。下の者に慈悲、なんですよね」
(やっぱり、今日の俺の発言は無視される。黙って聞いてよ)
「慈悲か、まあいい。何が欲しい」
「電気自動車」
セリアの発言に、夢野は表情を崩す。
「なぜ、いや、ノーズは車の所有はしていない」
「していますよね。イーストからもらった車を改造して乗っている。イーストからの情報です」
(どこでそんな情報、ん? 確か寝てる時に甘ったるい声が聞こえた気がするが? もしかして黒川……)
夢野はセリアを睨むと、意味深に笑い出す。
「ふふ、いいだろう。ノーズが所有する電気自動車を一台譲ろう。そのかわりこちらも条件追加だ、ウエストが負けたら、役職全員にオ〇ニーしてもらうよ」
「分かりました」
「分かってねえよ!」
(いや、黙って聞いてたけど、役職俺なんだが、セリアはいいとしても、俺と白川先輩も入ってるんだけど)
「いいでしょ。減るもんじゃないし」
「いやだよ! そういうのは隠れてするもんだろ!」
「勝てばいいのよ!」
(負けるギャンブラーの典型だろ)
「いやだから!「そう、勝てばいいんだよ。最悪相打ちでもいいしな」
(またか! 今度は誰?)
聖兎が食堂の入り口に視線を向けると、黒いシャツの男と、エスコートするように曲げた腕に座った少女の二人。
「久しぶり〜お兄さん♡」
「ペド先輩! それに黒川先輩も」
「今日は二人じゃないぞ」
そう言って道を譲るペド、後ろから、身長は百三十センチ弱、金髪のサイドテールを揺らしながら、冷たいツリ目で周りを見回す少女が歩いてゆく。
その少女が一足通るたびに、周りの生徒は道を開け、夢野の前に着くと、夢野は視線を合わせるためか、正座して対応する。
「梨花様、どうしてこちらに」
(梨花って、まさかイーストの寮長か!)
「視察と、黒川さんがこちらのカレーが美味しいと言っておりましたので」
「そ、そうですか」
「それより、夢野さん、これはどういうことでしょうか」
「え、い、いえ、どういうと言いますか」
「事情は先ほどから聞いておりましたが、車を賭けに使うとか」
「え、ああ、あ」
「隠すことでもないのでいいですが、あれはイーストが貸している扱いになっている。つまり負けた場合ウエストはイーストの所有物を奪ったことになります。それを分かった上で賭けの対象に?」
「い、それは」
夢野は勢いで決めたが、それを言えば終わることが分かっている。
「もちろん、ノーズが負けるはずありませんから」
「なるほど。黒川さん、ペドさん、よろしいですか」
梨花はペドと黒川を呼び寄せると、一分ほどの時間を得て夢野に向き直る。
「イーストもその戦いに参戦します」
「「「え!」」」
食堂内が響めき、夢野は汗を流しながら梨花に理由を問う。
「理由はもちろん車の件です。イーストが勝ちましたら、ノーズ、ウエストの賭けは無効にし、イーストの条件を飲むこと」
「じょ、条件、ですか」
「ノーズには貸し出した車の回収。ウエストには聖兎と呼ばれる方の、イースト寮長に対する一年間の戦闘禁止命令です」
名前を呼ばれて前に出る聖兎。
「俺、ですか」
「あなたが聖兎さん。なるほど、ペドが認めただけありますね」
「認めた? まあ、相打ちだったんですけど」
「ええ、そうでしょうね。それでもいいのです。それで、ノーズは条件を飲みますでしょうか?」
梨花は夢野に笑いかける。その笑いは少女のように純粋でとても可愛く、向けられた笑顔には善意しかないが、夢野は恐ろしく、吐き気を催すような感情を覚える。
「それは、あ、はい」
認めるしかない。その感情を込めた「はい」を受けて、梨花は頷く。
「ウエストの代表、白川さんは、いらっしゃいませんね。この事件の中心人物はそちらの方ですね。どうでしょう」
梨花はセリアに笑顔を向けるが、セリアは純粋な笑みを受けて、素直に頷く。
「いいですけど。ねえ、聖兎もいいよね」
「え! 俺の意見聞いてもらえるの?」
「ええ、負けた場合は聖兎がこの人への攻撃禁止だし」
(まあ、別に、俺が寮長と戦うことなんてないだろうし)
「いいよ。その条件を飲む」
聖兎の宣言に、梨花は頷き。
「では、その通りに。寮対抗体育祭、楽しみにしておりますね。行きましょう」
「じゃあ、聖兎」
「じゃあね〜♡」
三人は出口に歩き出すが、梨花は足が足を止め、一言。
「あ、カレーお持ち帰りお願いいたします」
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