聖兎の才能、セリアの性癖。
「あああああああああああああ」
聖兎の脳にダイレクトアタック。まさに直接! 聖兎は基本的には男女の組み合わせた好きだが、百合もあり! 見た目が可愛ければ男の娘でもいけるオールマイテーな人間! それが仇となった!
「あああ、く、うう」
「どう! 性癖カード四枚に、ダブルシチュエーションカードの威力。一撃必殺の大技よ! 一気に三枚……嘘」
聖兎のシールドは残り一枚。正確には、ヒビが入り、壊れかけの一枚。本来ならこんな状態で残るはずがない。セリアが確信を持って出した必殺技の威力は、二枚は軽く、よほど百合が嫌いでない限り、三枚は当然の威力!
「はぁ、危なかった。途中でこのカードを発動させてなければ、今頃は三枚割れていた」
「そ、そのカードって」
聖兎の手に握られた一枚のカード。
「性癖カード、間男。今回は百合の間に挟まる男。文字通り、間、男だ!」
愚行! なんたる愚行! アニメなどの展開で行えば即批判間違いなしの愚行! だが、そんな愚行! シチュエーションぶっ壊しのカードを使ったからこそ、聖兎の脳に不快感が走り、百合のダメージ! 負荷が減った! 深い不快感が負荷を軽減! 現実なら殺している。
「あ、あんた! なんて事してくれるのよ! 間に挟まるなんて、許されるわけないでしょ! 三角関係からのラブコメじゃないのよ! 百合よ! 真っ白な百合に、イタズラという黒が入ったからこそいいんじゃない! 寒暖色を入れないでくれる!」
「俺も百合は嫌いじゃないが、人間的に間違っている行為にフェチを感じる。酔狂な趣味であり性癖。耐えられないことはない」
「人間的に間違っているですって!」
「本質的には、人間は生存のために存在する。種の繁栄は自分のクローンである子供を作る為だけにある。繁栄もできない同性同士の恋愛は人間的には間違っている」
「え、江戸時代とかもBLが流行ってたでしょ! 受け入れられているのよ!」
「本質的にって言ったろ。江戸どころか昔、四世紀頃からあったと言われてるからな。フェチとしては王道で、百合も少ないが記述がある」
「だったら、あなたも受け入れなさいよ!」
「だが、そういうのに出てくるのは大体美少年。つまり見た目が美しい人。結局近くにいい女がいたらそっち行くし、女だってイケメンがいたらそっちに行くだろ」
フェチとして元も子もない意見だが、間違っているとは言いがたい。セリアも聖兎の意見に賛成派できないが、理解はしてしまった。
「確かに……納得はした。でも、私の百合を汚した罪は重いわよ! 償ってもらうんだから。絶対何ターン後かに後悔させるんだから! ターンエンド」
聖兎は上を向き、セリアの言葉を聞いたとゆっくり顔を元に戻す。
「ドロー」
聖兎はカードを確認すると、口角を少しあげ、確信する。
「償う……悪いな。セリアに次のターンは、回ってこない!」
聖兎は手札三枚をフィールドに出す。
「性癖カード、むっつり。性癖カード、一人エッチ。性癖カード、普通なら絶対バレるけど何故か匂いも粘土も少ない愛液。をお姉さんに装備」
フィールドには、年上お姉さん。性癖カード、Eカップ巨乳。事務的。むっつり。一人エッチ。匂いも何度も少ない愛液。人物カード、顔が描かれていないモブ。
この采配に、セリアは息を呑む。
「女性の人物カードに振りすぎよ。初心者かしら?」
「これでいいんだよ」
(そう、これでいい。普通なら弱いが、セリア相手なら刺せる)
「これで、決める! シチュエーションカード、夜勤深夜徘徊」
「その組み合わせ、ダメ! あ」
セリアの脳に映像が流れ、セリアは左手を下腹部に置く。
『では、検温の時間にまた来ます』
お昼の病院。
ベッドが並ぶ白い部屋で、無表情で作業を進める白衣の天使が一人。
『血圧が下がっていますね。問題ありませんが、念のため薬を入れておきます』
二十四歳、独身。大きな胸に背が高く、美人な顔。男女問わずにモテるが、表情をあまり動かさずに喋るため、長く付き合った友達などはいない。
彼女のお尻に水分が抜けた手が近づくが、素早く避けて睨みつける。
『次、セクハラで訴えた後に追い出します』
彼女のお尻を触ろうとした患者は黙って頭を上げ、睨みつけられた恐怖を刻みながら布団に潜る。
(全く。好きあらば触ろうとしてくる。いつか殺してやる)
その後も無表情ながら完璧な作業を続け、ナースセンターに戻る。
『おかえり、相変わらず早いわね』
婦長が労い、話を続ける。
『今日夜勤よね。実は困ったことがあって』
『なんでしょうか』
『一緒の夜勤の子が一人休みでね。他の子もダメって言うんで、奥の部屋の担当を変わって欲しいのよ。ほら、暗いから、若い子は苦手でしょ』
(奥の暗いところ。確か入院のお見舞いも滅多にこないし、人もこないところ。夜勤ならナースの見回り以外は絶対にこない場所)
『問題ありません。私が担当します』
『本当! 悪いわね〜本当は私が言った方がいいんだけど、ほら、今日は院長先生のアレの日でしょ。私は行かないとなのよ。助かったわ〜』
『問題ありません』
『じゃよろしくね』
婦長が離れ、彼女も夜勤のために体を休めようとしたが、ふと考えが浮かぶ。
(もしかして、できる……かも)
考えに駆られ、彼女は一度自宅に帰り、荷物を持って戻ってくる。
夜勤、夜十一時頃。
夜勤のナース数人がナースセンターに集まり、時間によって各自担当の場所を見回るが、現在は休憩中。ギャルっぽいナースがしきりにスマホを触りながら、他のナースと談笑。
『あー今日は久しぶりに彼とする日だったのに』
『新婚だもんねー本当は毎晩したいんでしょ』
『当然。でも、今日が終われば彼も休み。もー困っちゃう』
『困ってないくせに』
患者が寝ているのを考えていないような大きな笑い声を発しながら、彼女に話しかける。
『そういえばどうなんです、相手とか』
『私でしょうか』
彼女は手を止める。
『そうです。彼いないんですか?』
『はい。不効率ですし、不要かと。では、私は見回りに行ってきます』
バッグを持ってその場を後にするが、ギャルの下品な話が小さな声で聞こえてくる。
『あの人、もしかしてまだ処女なんじゃない』
『一人でしたこともないかも。不要です。とか言って!』
『なにそれやっば!』
二人の笑い声が消える頃、病院の一番奥、薄暗く医者と看護師以外は滅多にこない病室に、軽い水音が流れ出す。
(私が一人でしたことないって、ふざけるな、毎晩してるし、今日だってずっと入れてた)
長く太いものにまたがりながら、病室の使われ得ていないベッドを軋ませる。
(触られそうになった時は危なかった。触られてたら振動が伝わって……流石にまずい。あーキクー)
人が来ないが、人がいないわけではない。病室には患者が三人寝ていて、ベッドは六個。奥の三つを患者が使い、手前を使っているが、起きていれば聞こえているだろう距離。
『う、う、おお、お、うお』
(やっべ! うお! 持ってきてよかった。そろそろ、鈴つけよう)
服を半分脱ぎ、乳首に鈴付きのクリップを取り付け、腰を激しく揺らす。
『おお、うほ』
(あいつら、私が処女だって言ってたけど、そうだよ悪いか。おもちゃの人数なら、もうちょっとで三十超えるんだから、あいつらより、うお、すごいこれ)
ペットボトルを倒したと勘違いするほどの液体がベッドに流れ、痙攣を起こしながら放心する。
(あーこんなんじゃ満足できない)
ベッドから立つと、病室の真ん中に出る。
幸い他の患者のベッドはカーテンで仕切られているので直接見られる心配はないが、カーテンを開けばそこには動物のような女がいる。自分を俯瞰して考え、彼女のスピードはさらに増す。
『お、お、お、おお、お、お、お、お、お、おお、お、お』
再び絶頂を迎えようとした時、病室の外から声がし、咄嗟にベッドの下に隠れる。
『あれ、もういないじゃん』
『せっかくライト持ってきてあげたのにね』
『まあいいんじゃね、どうせライトなくても問題ないって、恐怖とかなさそうだし』
二人が会話している声を聞いて、止めていた手がゆっくりと動き出す。
(ダメ〜絶対にダメ〜バレたら終わり、辞めるどころか人生が、おほ、あー無理―やめるの無理―バレる、あーバレる。出る!)
『いないし、もう行かね』
『ここ怖いもんね』
(お、ほおほ、おお)
ベッドの下から水分が放たれ、ベッドの下を海に変える。
(やっちゃった。どうしよう)
賢者の最中、ゆっくりとベッドから様子を伺えうと、幸い二人はすでに外に出ていて、患者も起きてはいないようだ。
(危なかった。そろそろ………………一度二人が来たってことは、当分は来ない)
カーテンを開け、寝ている患者の上でおもちゃを動かす。患者のパジャマに液体がかかり、ベッドは軋んで音を鳴らす。
『やべ、おほ、ほ』
次の日、顔を濡らした患者は自分の上で怪しい儀式をする幽霊を見たと言っていたが、水分は水をこぼし、幽霊は夢ということで結論付けたが、その幽霊の正体を知り、その正体である女は、今日もデスクの布を濡らしていた。
『作業終わりました確認をお願いします』
「ああああああああああ」
セリアの脳にダイレクト! シールド三枚が砕け散り、セリアは左手を動かすどころか、脳に出てきた彼女と同じようにフィールドを海に変える!
「うわ、マジで」
聖兎はその様子を見ながら、興奮よりやってしまった感情を大きくする。
「お、おい、セリア?」
セリアはゆっくりとその場にへたり込み、涙を流しながら俯いている。
その場の全員がセリアに視線を向ける中、白風が駆け寄り、何度が言葉を交わした後。
「勝者、聖兎さん! 緊急事態のため、次の試合まで少し開きます!」
セリアは白風に連れられ寮に入るのを見届ける。
「なあ、これって俺が悪い……よな」
周りが頷くと。
「だよな……どうしよう」
どうしようもできずにセリアの帰りを待ち続けた。
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