聖兎対セリア! 白き百合の天使。

 白川の戦いが終わり、トーナメントの最終段階。


 勝ち残った四人は、聖兎、セリア、白川、黒川の四人。


「黒川って誰だったけ」


 聖兎が聞くと、セリアが寮案内のパンフレット見せながら答える。


「前副寮長で、今は三年って書いてある」


「俺もらってないんだが」


「入学式の後でもらったけど……ああ、倒れてたから」


「誰のせいだ」


「自分のせいでしょ。というか、ほら」


 白川が盤上の真ん中に立ち、次の案内を始める。


「つ、次は聖兎さん対セリアさんです。盤上にお願いします」


(準決勝でセリアと対戦か、できれば決勝で戦いたかったが、そう上手くはいかないのもハビット。買っても負けても役職にはつけるし、副寮長もあり得る)


「ほら、何してるのよ、早く上がって」


「はいはい。分かったって」


 二人が盤上に上がり、準々決勝が始まる。


「一年のセリアさん対、一年の聖兎さんです。ど、どちらが勝っても七年ぶりの一年生の寮の役職です。頑張ってください」


「セリア、税抜きにしてやる」


「意味わからないし! 百均じゃないから! 私そんな安くない」


 最近の百均はイヤホンやヘッドホンなど二千円、三千円の物も売っている。


「いくらで買えるんだ」


「百億…………って! 売らないから! 値段じゃないから!」


(セリアは確かに可愛いけど、百億って、意外と自己評価高いな)


「あ、あの、始めていいでしょうか」


 白川の問いに二人は頷き、白川は手を挙げる。


「あ、では、役職を決める重要な試合を始めます。ハビット!」


 会って数時間の二人の戦いが、今始まる! 


「じゃんけん」


 セリアがグー、聖兎がパーを出し、聖兎が勝利する。


「じゃ、先行はもらった」


「早い男は嫌われるわよ」


「嫌わ〇〇勇気って本がベストセラーだ。俺は勇気をもって選択した!」


(と、強気で言ったが、正直俺はそれなりに早い自覚はあるが、回数をこなせる。つまりテクニック派の人間!)


「俺のターン! 人物カード、顔が描かれていないキャラ。を召喚」


 顔が描かれていない男性キャラ! 一般漫画ならモブということで片付けられる特徴だが、モブではない。顔が描かれていないのだ。つまり、相手の属性に関係なく、不愉快加減を軽減して相手のエロさを前に出せる。


「さらに、性癖カード、検査を装備。ターンエンド」


 検査! 病院、お姉さん、学校、さまざまなシチュエーションで使えるオールマイティーカードだが、それ単体では威力がゼロ!


「ターンエンド? 確定キル宣言、六ターン以内に倒してあげる!」


「確定キル宣言は三ターン以内の時しかできんぞ」


「え、嘘、え、じゃあ、えっと」


「嘘だぞ」


「殺すわよ! 馬鹿!」


 ハビットに確定キル宣言というルールはない。


「ほら、セリアのターンだぞ。あんまり長いとダ○ソーに負けるぞ」


「だから百均じゃない!」


 セリアはツンツンと起こりながら、カードに手を置く。


「ドロー、思い知らせてあげる。人物カード、清楚お嬢様を召喚。さらに性癖カード、大学入学を装備」


 清楚お嬢様に大学入学。解説を入れなくてもわかるだろう、穢れていない純潔の象徴。清楚系か清楚、系という一点が大きく変わってくる。


(セリアのデッキは分からないが、むっつりツンデレのセリアのことだ、甘いカップリングで攻めてくるはず)


「さらに人物カード、クールな大学生を召喚。性癖カード、背中にギター耳にピアス。を装備。ターンエンド」


 クール系大学生、あくまで大学生であり、性別は決められていない。


 ジャンルで言うとクール系とお嬢様。その関係なら執事とお嬢様でも通じるが、今回はギターとピアスが付くことによって、少しだけアングラな雰囲気を持ち、綺麗すぎない関係が見せれると言うこと。


「そっちも早いターンエンドだな」


「言ったでしょ六ターンって。あと五ターンであなたを倒す」


「気長に待ってるよ。先にセリアが負けなければだけどな」


「六ターンは余裕を持たせて六ターン。後二ターン後にはあなたを倒すかもしれないわね」


(確定宣言で余裕を持たせるなよ)


「なら、楽しみにしてるよ」


(啖呵切ったけど、正直手札が良くない。現状考えている案は何個かあるが、どれも弱い。一応盤面に汎用性が高いカードがいるが、厳しいか)


「ドロー!」


(テカテカの肉体。メンズエステ……ダメだ、セリアには刺さらない可能性が高い。女性に刺さるシチュエーションで、俺の手札。クソ!)


 ハビットはあくまで相手の好みのフェチをぶつけることでシールドを破壊するが、本質は布教、好みか分からないギリギリのラインで攻めることで大きなダメージを与えることができる。


 聖兎は攻めることができず、不服ながらに諦める。


「ターンエンド」


「さっきの啖呵はどこに行ったの? 大したことないわね! ドロー」


 セリアは手札を見た後、確信した表情を浮かべる。


「ターンエンド」


 セリアは余裕の表情でターンエンド、その表情は聖兎を揺らす。


「どうした、弱気だな。ドロー」


(どう言うことだ。即ターンエンドの表情じゃない。男女の戦いは一撃必殺級の攻撃で決めることが多い。そのための布石なら納得できるが……一応このカードは取っておくか)


「俺は人物カード、年上のお姉さんを召喚。さらに性癖カード、Eカップ巨乳を装備。さらに性癖カード、事務的を装備」


「事務的? 愛のない行為にフェチはない。中学で習う範囲よ! 中学生からやり直したら?」


「悪いが中学に戻る気はない。そもそもその教えはあまりに非人間的な性癖をカバーする教えだから、覚える意味ないぞ」


「ふん! また嘘でしょ。先生に毎朝言われたもの!」


「本当。大体よくそんなん覚えてんな、大体話半分で聞き流すだろ」


 この世界の中学では歪すぎる性癖を制限するため、スマホの検索にもフィルタリング制限が搭載されているが、大体の生徒はグレーなサイトで見ているのであまり意味はない。


「………………わざとよ! あなたを油断させるためのもので! いいから早くターンエンドしなさいよ!」


 セリアは顔を赤らめて言った後、催促するようにデッキに手を置く。


「はいはい、ターンエンド」


(チョロツンデレ。警戒していたが、意外とゆるいフェチの可能性が高いな)


 聖兎は余裕の表情を浮かべるが、基礎が肝心。土台がしっかりしていない建物が壊れるように、土台の重要性は全ての要! 


「私のターン! ドロー!」


 場には、バンドをやっているクールな大学生と、清楚お嬢様。これだけでもシチュエーションによってはかなりの打撃を与えられるが、セリアはさらにカードを手に取る。


「聖兎、謝るなら許してあげなくもないけど、どうする」


「誰が誰に謝るって?」


「そう。なら後悔することね! クールな大学生に、性癖カード、口説き文句。性癖カード、イケメン女子を装備!」


(口説き文句。イケメン女子! 女の子同士、セリアのデッキは百合デッキか! まずい、俺は結構き○らとか読む人間だ! まずい!)


「シチュエーションカード、時間経過の逆転反応を発動!」


「ダブル効果カード! そんなレアカード」


 ダブル効果カード。一枚に二つ文章が描かれているカード。年上お姉さん、大学の後輩、女の幼馴染など、人物カードに多い。


「私の切り札よ! 一撃KOしてあげる! くらいなさい!」


「あああああ」


 聖兎の脳に映像が流れる。






『入学式……少し怖いけど、頑張ろう』


 清楚なお嬢様は幼稚園から大学の一貫校を辞め、外部で女子校を受験し見事合格。新たな青春を開いたが、お嬢様という肩書きが友達作りの枷となり、一人でお昼を食べる日々。


(ダメだ〜友達できない。はぁー大学で唯一の楽しみは、この木のベンチに座りながら、どこかから聞こえてくるバンドの演奏を聴くことだけ。大学、間違えちゃったかな)


 クラッシックしか聞くことが許されなかった彼女にとって、バンドが引き鳴らす音楽は自由の象徴。大学という憧れの自由、キャンパスライフの夢。


『ねえあんた、ずっと一人でいるけど、何してんの?』


 彼女の後ろから声をかけた、耳にはピアス、背中にギターを背負ったバンド系の黒髪ロングなクールな女性。


『ねえ、聞いてんの』


『え、あ、はい。えっと、一人でいるのは……友達がいないから、です』


『ふーん。前もここにいたけど、なんで?』


『ここにいると聞こえてくるんです。バンドの演奏が聞こえてきて、すごい良くて。特にギター? の最後のぎゅわーんってやつがすごく良くて』


 クールな女性は確信した表情を浮かべながら、さりげなくお嬢様の隣に座り、ゆっくりと距離を詰めていく。


『それ私』


『え! そうなんですか! あの、いつも聞いていて、その、なんて言うか、私にはすごく自由っていうか、凄く広い感じがして好きです!』


『へぇーそうなんだ。(可愛い女の子。あたしこういう真っ白い子を自分色に染めるの好きなんだよね。ごめんね、あたしのこと好きって言ったあんたが悪いんだよ)そんあに好き?』


『はい! 好きです』


『じゃーこれから打ち上げあるんだけど、よかったら来ない? 実は最近バンドの人気があれで、みんな落ち込んでるんだよね。今の言葉、みんなに教えてあげたい』


 お嬢様は耳元近くで囁かれ、思わず頷いてしまう。


『よかった。じゃあ、行こうか』


 その後二人は飲み会に向かい、お嬢様は人生で初めてのお酒を飲んだ。カシスオレンジ、ロングアイランドアイスティー、スクリュードライバー、アレキサンダー、いわゆるレディキラーカクテルをハイペースで飲み干し。


『あれ? ここって』


 お嬢様は目を覚ます。周りを見ると、ホテルのような内装の部屋のベッドにいることが分かり、記憶から昨日の出来事を思い出しながら下に視線を向ける。


『あ、なんで私』


 女性らしさを表すラインにうっすらとした脂肪が乗り、締まっているどこか柔らかさを感じるお嬢様の体。胸はほのかに膨らみ、その先はピンクに色付いている。下に視線を向けたが、感触から分かっていたが下着の存在はなく、恥ずかしくて顔を横向け視線を逸らしてしまう。


『あれ? 起きた。おはよう』


 横に視線を向けた瞬間に目が合い、優しく声をかけてきた。その声の主は昨日お嬢様を飲み会に誘ったクールな女性。お嬢様は驚きながらも考えるが。


(う、嘘。これって、この状況って、やっぱり、そういうことだよね。女の子と! どうしよう、初めては結婚する人にしないといけないし、そもそも入学してこんなに早くなんて。どうしよう)


『あの、この状況って』


『え、覚えてないの? 酔い潰れてあたしがここまで連れてきたの。それで、あとは覚えてるでしょ』


(………………思い出しちゃった)


『あとこれ。昨日の映像、他の人に見せていい?』


 スマホに映るのは昨日のお嬢様の姿。とてもお嬢様とは思えないほど乱れ、粘土様々な液体がベッドに染みている。


『だ、ダメです! いいわけありません』

 

『じゃあ、私のものになってくれるよね』


 私のもの。お嬢様はその意味を考えるまでもなく、昨日の快楽を思い出し、ゆっくりと雫を垂らす。


『そ、その映像が出たら困るので、あなたのものになってあげます。だけど、体はあなたものでも、心は絶対に譲れません』


『そう。じゃ、これからよろしくね』


 それから数ヶ月が経った。

 二人は最初こそ体だけの関係だったが、次第に惹かれ合い、いつしか恋人のような関係になっていった。クールな女性も他のものと縁を切り、お嬢様も動画のことなど忘れ、ただクールな女性を愛してた。だが、ふとお嬢様は思い出す。


(そういえば、もうすぐ出会って一年記念日だけど、最初の出会いって……あ、あの動画)


 思い出し終わる頃には、お嬢様の心に少しの怒りと、愛情と、いたずら心が芽生え始めた。


 その日の夜、ベッドの上。二人は向かい合って幾度か唇を合わせたのち、いつものようにクールな女性がお嬢様を可愛がろうとした時、首元に衝撃が走る。風景が揺れ、薄れゆく記憶の中で見たものは、スタンガンを持ったお嬢様。


『なんで、う』


 目を覚まし起き上がろうとしたが体はベッドに縛られ、縛られた腕にはリモコンが握られている。


 なんだと思いスイッチを押すと、下腹部と太ももに甘い刺激が走り出し、驚いてリモコンを話してしまう。


『あ、起きたんですね。よかった。ずいぶん寝てたから心配しましたよ』


『心配って、そっちが、ん、とかくこれ止めて、あ、ん』


 いつもより敏感な自分の体に驚きを感じつつも、状況に対する疑問が先行し、脳が快楽を抑制している。


『こんなに垂らして、媚薬ってすごいですね』


『媚薬なんで、ん、早くこれ止めて。じゃないと後で許さないよ』


 普段はクールでイケメンな彼女が、甘い声を出しながら自分を脅している。その状況にお嬢様は思わず笑みが溢れ、甘い嗜虐的な感情が湧き上がる。


『後で怖い? じゃ、逃げないとですね』


『ふえ』


 あっけに取られた声を出すと、お嬢様は部屋から出ていってしまう。一人取り残された彼女は、ようやく自分の状況を理解したのか、脳が快楽の抑制をやめ、甘美で濃厚すぎる快楽が溢れて止まらない。


 一時間後。お嬢様が戻ってくる頃には、シーツの下側は濡れていない場所を探す方が難しく、クールという言葉を使うのは、他のクールな人に失礼に当たるほどの蕩けた表情をしている。


『これとこれ、どっちがいいですか? え、どっちもがいいんですか?』


『何も言ってにゃ、んい』


 お嬢様は手に持った二本のおもちゃを見せびらかす。


『ダメ、なんで、ごめんなさい、私が悪いことしたなら謝るから、これ、止めて。〇〇はもっと清楚で優しい真っ白な子だよ。ほら、こりぇ、止めて』


 最大限虚勢を張りながらいつも通りの口説き文句を使ったが、お嬢様の表情を見て、すぐに無駄だと理解した。


 お嬢様は耳元に顔を近づける。


『真っ白ですか、昔はそうだったのかもしれません。でも、私を真っ黒に染めたのは、あなたですからね』


 必死の懇願も虚しく、止まらない快楽を感じながら耳元に囁いてくる声に脳を蕩けさせ、気絶する最中に見たものは、悪魔のように真っ黒な表情をした、愛する真っ白な天使だった。

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