セリア対ノレム! 疑惑のデッキ?
「だ、第二試合を開始します。一年のセリアさん対、三年のノレム先輩。あ、二つなでデッキがバレるから言うなと、おど、あ、ああ、叱られたので、あの秘密です」
セリアは盤上に上がる。
(ノレム? 変な名前ね。まあ、私のデッキで倒すまで)
セリアが相手の盤上の床に目を落とすと、紫の長い髪、大きな胸を強調するような服装に、左手の薬指以外の全ての手の指の指輪をつけた、エロいとは言葉は彼女のためにあるような、妖艶でセクシーな女性が横になって眠っている。
「ん、ああ、そろそろ時間〜」
「あんた、なんで寝てるのよ! ていうかいつの間に!」
「ふう、寝る子は育つ。ほら」
ノレムは大きな胸を揉んで見せる。
「私だって別にないわけじゃないですけど! ほら、ほら!」
セリアも揉んでみせるが、ノレムの前だと霞んで見える。
二人の様子を見ながら、目を濁らせ胸に手をやっている白川が二人に問う。
「あ、ああ、あの、初めて良いですか」
(ムカつくけど、倒せば良いだけ)
「良いわよ! 早く始めましょう」
「よろしくね〜」
「では、始めましょ、しょう。ハビット!」
男関連のもつれが入っていないだけマシな、女の戦いが、今始まる!
「じゃんけんでいい? セリアちゃんが決めて良いわよ〜」
「セリアちゃん! まあ、いいですけど、できればセリアでお願いします」
「分かった。セリアちゃん!」
「う、ん、そうですね、レノン先輩!」
「ノレムよ〜」
「はいじゃんけん!」
セリアは怒りの感情を込めた渾身の手を出す。
セリア、パー。ノレム、チョキ。
あっけなく負けたが、セリアはクールを装う。あくまで装っただけである。
「く、良いですよ、好きにしても!」
「あら、じゃあ先行を貰うわね〜」
ノレムは手札を確認して、「うふ」と微笑む。
「手札から性癖カード、不感症を発動」
(いきなり性癖カード? 普通、人物カードの使って強化するはず、それをなんで)
「さらに性癖カード、欲求無自覚を発動。ターンエンド」
ノレムの行動は、通常のハビットから逸脱している。通常、人物カードをメインとし、性癖カードで強化、その属性のシュチュエーションでブレイクするものだが、ノレムはそれをしない!
「どうしたの? セリアちゃんのターンよ〜」
「今引くわよ!」
セリアは不安と安心の両方を抱える。それはノレムの逸脱した行為もそうだが、不感症に無自覚。人物に使うのなら、生意気なJKやメスガキが大人を煽り、分からされるシチュエーションで納得がいく。だが! 人物ではなく出しただけ、あまりにも逸脱! セオリーから外れている。
(なんだが分からないけど、こっちだって変則的なデッキなんだから!)
「ドロー! 人物カードJKを召喚。JKに性癖カード、普通。と、違和感。の二つを装備! ターンエンド」
JK、女子高生の略で、同人やアダルトなビデオで多く扱われる基本属性。基本的に制服が価値であり、年齢だけなら正直十九でも二十で変わらない気がする。
今回の場合、違和感を持った普通のJK。普通とは普通、特徴がないがJKという属性を大きく見せ、投影しやすい存在にできる。違和感とは、それは形はないが、気にあるという感情。思春期ならよくあるが、それ即ち可能性が溢れている。
「あら、終わりでいいの?」
「早く引いたらどうですか?」
「もう〜もう少しお話ししたいのに〜仕方ないわね」
(この人と話しているとペースが乱される。だけど大丈夫。たとえ分からせが来てもカバーできるカードはある)
「ドロ〜あら、じゃ〜性癖か〜ど、レム睡眠を発動♡」
(レム睡眠! 不感症で無自覚、それにレム睡眠。普通に考えれば簡単だけど、人物カードではなく場に置いてるのはなぜ?)
ハビットは場に置くだけではカードの発動はできない。たとえシチュエーションカードがあっても、関係性がなければ効果は薄い。
例えるなら、今日のおかずを選ぶためにワードで検索して、その中で気にある女性、シチュエーションを選ぶが、ノレムがやっているのは、そのワードだけで興奮するということ。同じ文字でも官能小説で興奮するとは訳が違う。ワード単体での興奮、人物カードを使わない攻撃とは、豆鉄砲並みの攻撃力。
「セリアちゃんはよく眠れる方かしら〜」
「それなりです。レノン先輩はよく眠れそうですよね」
「あら、夜は捗るから大変よ〜だからお昼に寝るの、お昼なら我慢できるから。あと、ノレムよ〜」
(夜って! 他に人もいるのに、なんなのこの人。ノレム先輩の一人……って何考えているの私!)
「それで! ターンエンドですか?」
「あん、せっかち。じゃあ、あと一枚。性癖カードASMRを発動」
ASMR! 正式には自立感覚絶頂反応。よくあるのは耳かきや吐息だが、スライムや、好みが分かれる咀嚼音などがある。
最近では声が入ったシチュエーションボイスも含めASMRと言われているが、シチュエーションボイスが聞きたいのに耳かきや耳舐めなどが多いと、少しむかつく人も多い。シチュボの吐息は好き。
「セリアちゃんはASMR聴くなら何系? ショタ系? 俺様? それとも犬系が好き?」
「何で言わなきゃいけないんですか!」
「言わなきゃってことは、聞いてはいるのね。うふ、予想だと、セリアちゃんは幼馴染とか同級生とか、普段は陰キャっぽいリードしなきゃいけない子だけど、ベッドだと急に雄を感じるボイスが好きそう。耳舐めより、吐息好き」
(う、あってる。別にドMって訳じゃないけど……たまにはSで基本はM……くらい)
セリアは耳が弱く、特に吐息や囁きなどの空気と一緒に振動がくるものを好んでいる。
ジャンルランキングでは。
三位。年上のお兄さんから命令系。
二位。ずっと文句言ってるけど、実際は感じて堕ちそうになってる思春期ショタ系。
一位、普段は地味で優しいけど、ふと男っぽいところを出してくる逆転系。
「セリアちゃーん、何が好き?」
「知りません」
「聖兎くんってヘタレそうで土下座が似合うけど、やる時やるって感じよね。さっきの戦い良かったもの。あれはチワワ、トイプードル。いや、柴犬かと思ったらドーベルマン系よ〜」
「し、知りません!」
(まだあって一日だし、確かに声はいいし、見た目も地味だけどいい感じでシチュエーションぽいけど、私そんなにちょろくない!)
「あ、忘れてた。ターンエンド。どうぞ、ASMR好きのセリアちゃん♡」
(ASMR……女の子だから、女の子は耳が弱いって言うし、別に囁かれてドキッとするのは人間的に当然で、だから毎晩聞いても別に、って、だからなんで自分本位で考えているの、ノレム先輩と話していると、自分に置き換えちゃう)
「ドロー」
(このターン決めてやる!)
「人物カード、女の幼なじみを召喚。性癖カード、恋愛相談を装備」
「普通だけど違和感を持ったJKに、幼馴染の女の子からの恋愛相談。ふう、セリアちゃんって恥ずかしがりなのね」
「シチュエーションカード、部屋でのイタズラを発動!」
部屋でのイタズラ。
様々なシチュエーションに使われるが、主に純愛ものに多い。久しぶりに会った親戚のお姉さん然り、なぜか一人暮らしの僕の家に来て、漫画を読んでいる陽キャギャル然り、基本は上の立場からイタズラで、筆をおろしてもらうものが多いが、一般誌だと両思いの幼馴染の女の子が、いつもの調子で男子を弄ると、「俺も男なんだからな」と言って、お互いに目が合って、いい感じになる寸前に妹なりが入ってくることが多い。
「あら、困ったわ〜私好きよ、そう言うの」
「なら堕ちてください!」
ノレムの脳に映像が流れる。
雨の日の放課後、普通JKの部屋。
普通のJKはベッドの上で漫画を読んでいる。
『ねえ、最近〇〇くんと仲良いよね』
そのベッドに寄りかかりながら、スマホで連絡をとっている幼馴染『女』
『まあ、んー実はちょっと気になってる』
『へーそうなんだ』
『告白とかは、まだだけど』
『そっか』
JKが肩を落とすと、幼馴染がベッドに上がってからかってくる。
『なに〜私が〇〇くんに取られちゃったら、遊ぶ人がいなくなる不安?』
JKはその言葉に苛立ちを覚える。幼馴染はJKに友達が少ないことをしているのにも関わらず聞いている。そのことにJKは気づいている。
『別に、そんなんじゃ、そんなんじゃない』
『大丈夫だって、たとえ彼氏ができてもちゃんと遊んであげます。友達だもん』
『友達……そう、だよね』
JKは遠くを見つめた後、幼馴染を見る。その視線はいつもと同じような感情を乗せた視線だが、いつもと違う感情を上に載せている。それは怒りと嫉妬、自分でも分かっているが、幼馴染をそんな目で見てしまう自分に嫌悪感をあわらし、不貞腐れてベッドに寝転ぶ。
『もういい』
『急にどうしたの〜暗いよ〜! ほら、こうしてやる!』
幼馴染が脇をくすぐると、JKは笑いながらベッドに柱に手をやり逃げようとするが、幼馴染はその上から覆い被さる。
『おお〜以外と胸ある。私への当てつけか〜生意気な〜』
『あは、ちょ、ん、あ、あああ』
『ちょ、声。なんか、えっちだよ』
幼馴染が手を止めると、今度はJKが幼馴染の脇をくすぐり、幼馴染は体勢を崩してベッドに倒れ込み、JKが上から覆い被さる。
『あ、ちょ、ごめんって、謝るから! あ、は、ああ、ちょ、いひ、あ』
JKの手が段々上の方に向かうにつれて、幼馴染の声に湿度が増す。
『ちょ、胸は、ごめんって! ああ、あ、そこ、ん』
JKは無言で弄り、幼馴染は抵抗するが、同じ女同士力の差はあまりなく、かといってお腹を蹴り上げるわけにもいかず、声を出しながら必死に懇願を続ける。
『ん、ごめんって、そんなに怒るなんて、無言怖い。ん、あ、お願い』
JKは、幼馴染のうるさい口を黙らせる。
糸を引きながらゆっくりと離すと、幼馴染は困惑した様子で口を小さく痙攣させる。
『え、あ』
『私、〇〇「幼馴染」が好き。女の子同士だって分かってるけど、でも、最近ずっと違和感感じてて、〇〇くんのこと好きって聞いて、すごい嫉妬した。だから、ごめん。悪いけど、今日は私の彼女にするから。変なのは分かっているし、女の子が好きって、自分がおかしいのも分かってる。だけど、今日は、ごめん』
静かになった口を必要以上に黙らせるが、今度は二人の口からうるさいほどの吐息が響き、二人は無言でもう一度口を合わせる。
『ごめん』
『今日だけ、だよ』
『うん。今日、だけ』
静かな部屋に吐息と水音が鳴り響き、その音は雨の日にだけ鳴り響き、雨が上がると消えていった。
「ん、あああ、ん。すごいわね。今日の夜はいい気分い慣れそう」
ノレムのシールドが一つ割れる。
「嘘。一枚だけ……」
「年上舐めちゃダメよ。でも〜少し舐めて欲しかも」
ノレムは余裕の表情を見せながら、デッキに上に手を置く。
(早くターンエンドしろってこと! でも、もうやれることがない。なんで一枚しか割れなかったの! 最低二枚。三枚割って勝利の可能性もあったのに)
「セリアちゃん」
言葉一つに、セリアは恐怖を感じる。先ほどまでのノレムと同じ人物、存在のはずだが、先ほどまでとは明らかに違うオーラを放っている。
「ターン、エンド」
「ありがと。ドロー。ん、うふ。手札から、性癖カード、催眠を発動」
(不感症。欲求無自覚。レム睡眠。ASMR。催眠。普通に考えれば一人でする時だったり、分からせが妥当だけど、分からせだとASMRが噛み合わなくて、一人だと不感症と欲求無自覚が合わない。しかも人物カードはなし……意味が分からない)
「ねえ、セリアちゃん、寮長になって何がしたい?」
(いきなり質問? 何がしたいって、別に)
「なんで寮長がになりたいの?」
「え、別に。寮長が一番上だから」
「寮長と副寮長は、自分の寮生が他の寮生と戦う場合、代役として立てる権利があるの。セリアちゃんは、代役になれる?」
「代役? 本人が起こした問題なら本人が解決するべきだと思います。明らかに相手が悪いとか、卑怯な手を使うなら別ですけど」
「ふーん。じゃあ、その卑怯な相手がいた場合、セリアちゃんは戦うの」
「場合によりますけど、一人なら戦いません。卑怯な相手ならこっちも卑怯な手で戦います。聖兎とかに突っ込ませるとか、さっきのチャラい馬鹿な先輩に突撃させます」
「おお、アグレッシブなんだね〜ん〜そっか。うん。まあーいいかな。寮長はほぼ決まってるし、それなら私も安心だからさ」
(突然なんなの? 普通に答えたけど、安心?)
ノレムは白川に視線を向けると。
「白川ちゃん、サレンダーするね」
「ええ、あ、あの」
白川はノレムの手札を見てから、再度ノレムに確認を取る。
「あの、ほ、本当にいいんですか? シチュエーションカード、自己t」
ノレムが白川の口を塞ぎ、サレンダーすると伝える。
「ふは! わ、分かりました。では、ノレムさんのサレンダーにより、セリアさんが勝利と言うことで」
「ちょっと待ちなさい!」
セリアが文句を言うと、白川は目を丸くして手を上げる。
「あひ、あ、あの」
「そっちじゃなくて、あんた。なんでサレンダー! 意味が分からない!」
「んー実はいい手札がなくて、でも、ちょっと限界でさ。すぐに自分のベッドに戻りたいの。ごめんね〜」
「はぁ?」
「じゃあね、セリアちゃん。あ、私のことはノレム先輩って呼んでね。できれば、下に下がる言い方の先輩じゃなくて、先輩! って呼んで。じゃ」
「え、あ、ちょっと」
ノレムはゆっくり起き上がり、あくびをしながら寮の方に戻っていった。
(なんだったの? レノン……ノレム先輩も、デッキの意味も)
「あれ、終わってる」
セリアが振り返ると、ハンカチで手を拭いている聖兎が立っている。
「手、洗った?」
疑いの目を向けるセリアに対し、聖兎は両手の平を大きくセリアに見せる。
「洗ったよ! てか別になんもしてないし、普通にトイレ行っただけだから、マジで、別に、なんもしてないし」
「何も言ってない」
「……とにかく、誰が勝った?」
「私とノレム先輩が戦って、私が勝った」
「おお、すごいやるな。どんなデッキだった?」
セリアが出てきたカードを言うと、聖兎は少し考えたあとに口を開く。
「ダイレクトデッキ」
「ダイレクトデッキって、相手に直接攻撃できるっていうあれ? でも精神負荷が大きいし、そもそもシチュエーションカードの入手が困難で、世界で数枚しかないって言われている、どっちかって言うと都市伝説でしょ」
「そうだよな。もしそうなら一年ですでに絶天頂になってるはずだからな」
「でしょ。まあ、変な人だったし、普通に飽きたとか、一人で、その、戻ったとか」
「ん?」
「なんでもない」
「あ、あの、次の試合を始めますー」
白川が言うと、二人は会話を終わらせる。
「次は俺もセリアも違うから、ゆっくり見学か」
「そうね」
(ノレム先輩がダイレクトデッキ、まさか、本当に?)
「次の試合は、あ、私です。あの、だれか、あの」
「俺、審判やります」
「あ、あともう一人、えっと、信用してないとかじゃなくて」
「分かってます、公平性ですよね。セリア、行こう」
「え、ああ、うん」
「はわ、お願いします」
(後で考えればいいか)
白川の戦いが始まり、二人は審判として見届けながら次の戦いに備える。
「白川先輩って、かなりむっつりなんだな」
「ドスケベでしょ」
「はわ! ち、違いますよ〜」
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