第10話 約束と欺瞞
「だって私、去年大変だったんだからね!負け役の肩を持つなんて、見る目なさすぎって私散々バカにされて。もううんざりよ」
「ってことでもう私に頼らないで」
一番信用していた人に裏切られて、人間不信に陥るなんてのはよくある話。
でも私は諦めなかった。今までに少しでも関わりのあった子たちに頼んでみたりした。でも、誰も首を縦に振ってはくれない。それは私が一度負けたからなのか、それとも受験勉強に忙しいからなのかは定かじゃないが、断った理由など怖くて聞けない。
聞いてしまったら今度こそ折れてしまうかもしれない。
立候補締め切りが前日に迫った日の朝。未だ応援役は見つからず。私は意を決してshrが終わったタイミングで教壇に立ち
「お願いします。私の応援役をやってくれませんか」
深く頭を下げてクラスのみんなにそう懇願した。
1秒が何分にも続いているかの感じる。静まり返ったクラスの雰囲気は心臓の狂った鼓動を嫌でも強調している。
やっぱりダメか。そう見切りをつけて頭を上げようとしたその時
「御堂、お前やってやれよ。暇だろ」
「「え?」」
は、ハモってしまった……
驚いて顔を上げると、武藤くんが軽薄そうな笑みを浮かべて私と御堂くんを見ていた。
「そうだぞ御堂。お前頭いいんだし部活入ってなくて暇だろ。やってやれろ応援役」
御堂くんが何か言う前にクラスのあちこちで御堂くんを推す声が聞こえてきた。それはまるで厄介ごとを押し付けているような雰囲気だった。
「どうかしら御堂くん?」
「……僕で良ければ手伝うけど」
「ほんと!?ありがとう。よろしくね御堂くん」
正直、御堂くんについては学業成績学年1位っていうことぐらいしか知らなかったけれど、まあこれからよね。
それから正式に私の応援役となった御堂くんと私は放課後に毎日集まりを設けた。朝の宣伝や選挙当日の宣説、少ない期間で決めなちゃいけないことが山積みだった。でも、御堂くんは私が思ったよりもずっと積極的で、宣伝に使う用具の準備や場所の確保はほとんど彼がやってくれた。
何より驚いたのは、普段はおとなしめの性格をしているのに、
「桜井佐奈、桜井佐奈に清き一票を、清き一票をよろしくお願いします!」
と朝誰よりも早くきて大声で宣伝をしてくれたことだ。
みんな御堂くんの方を向いてくれて、なんだこいつって感じの人が多いのは確かだったけど、頑張っている彼を見ていると私も勇気が湧いてきた。
「ねえ、どうしてここまでやってくれるの?」
これは選挙本番を前日に控えた最後の朝の宣伝を終えた後のこと、自分の身長よりも高い旗を抱えて校舎に入ろうとしている御堂くんにそう尋ねた。
「桜井さんが頑張っているからね。任されたからにはちゃんとやらないとって思ったからかな」
振り返った御堂くんは最初キョトンとした表情をしてたけれど、ああ、と一呼吸置いて目を細めながらそう言った。
「そ、そう」
普段はあどけなくてどちらかというと可愛らしさが強いけれど、今の彼からは凛々しさも感じられて。私は御堂くんの顔を直視できなかった。
体が熱い。今の私絶対頬真っ赤だ……
「どうしたの?明後日の方なんて向いて」
「な、なんでもないよ。ほら、行こう。授業遅れちゃうよ」
ちょっと手伝ってもらっただけなのに……私は単純な子なんだなって思った。でも、嫌な気持ちは全くなくて。
むしろ、もっと彼のことが知りたい。
選挙が終わった後も御堂くんと関われたらって、そんな願いを心に留めて私は彼の背中を追った。
「いよいよ本番だね」
「そうね」
薄暗いステージ裏で私と御堂くんはパイプ椅子に並んで座っていた。
「体調はどう?気持ち悪いとかない?」
「ええ」
私の緊張をほぐそうとしているのか、隣で彼が穏やかな口調で話しかけてくるけど、全く頭に入ってこなかった。
信任投票。幸いにして対抗馬はおらず、演説をすればほぼ確実に受かる。頭では理解しているけれど、去年の惨敗が、凛ちゃんの言葉が私を支配する。
こわかった。
もし失敗したら?
また、ひどいこと言われたら?
っ!?突然太ももの上で握られていた私の手が暖かな何かに包まれた。
「桜井さんならできるよ。僕も頑張るからさ。ほら、胸を張って」
俯いていた顔を上げるとすぐ近くに優しく微笑む御堂くんの顔があった。
「……不安なの。失敗したらどうしようって。また、ひどいこと言われたらどうしようって」
「ひどいこと?」
「あ、いや、えと……」
御堂くんには凛ちゃんのことを話していない。ついうっかり漏らしてしまった私は言葉に詰まって顔を背けてしまう。
「だいじょうぶ。絶対成功する。それに」
顔を背けてしまったせいで御堂くんの声が耳元から入ってきてしまう。
「桜井さんのことは僕が守るから」
「約束してくれる?」
「ああ、約束するよ」
その返事を聞いた途端、私の周りがぱあっと光るそんな気持ちになった。
彼の笑顔は太陽のようで。薄暗いステージ売りでも燦々と輝いて見えた。
「そっか」
「私、頑張るよ。絶対成功させるよ!」
御堂くんと関わってから何度勇気をもらったか。
「呼ばれたね。さあ、行こう」
「ええ」
相変わらず答えは相槌だけだったけれど、すっかり恐怖の晴れた私の声は今日一番力強いものだと確信できた。
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「うぇ……」
泣き疲れて眠っていたのか、私は気がつくとベットに背中をつけて横になっていた。
「……今何時だろ」
まだ目を開けられずにいる私は手探りでスマホを探し、画面を顔ギリギリに近づけた。
「1時?……1時!?」
どうしよう……しゅうに明日、いや今日か。今日も予定連絡してないよ。
でも、なんて連絡すれば……
とりあえず会話画面を出してみたけど……ああでもない、こうでもないと書いては消してを繰り返した。
「うーんどうしよう……」
プルプルプル……
「もしもし、御堂です」
「……え?」
「佐奈、だよね?」
わ、私いつの間に通話ボタン押してたの!?
あわわ、なんて言えば……
「しゅう、えt「昨日はごめん!!」」
「しゅう?」
私が話を切り出そうとすると、しゅうはいつになく真剣な声で私に謝ってきた。
「約束守れなくて。ほんとにごめん。佐奈、楽しみにしてたのに。水を刺すようなことをしてしまって」
初めて聞くしゅうの悲痛な声。それはいつもの優しくて聞いていて安心する声とは全く違って、とても辛そうで私の胸も張り裂けそうなものだった。
そんなこと言わないで……
そう言いたいのに声が出ない。
「……明日、11時に新宿駅前だって」
これじゃ、ダメなのに。私はもう怒ってないよって伝えたいのに。
しゅうの声が聞けただけで嬉しくなっちゃったって、心から思っているはずなのに。
やっとのことで声に出せたのは、そっけない事務的なことだけだった。
「……そう。ありがとう佐奈」
「明日に響いちゃいけないから、もう切るね。僕のこと許さなくてもいいから、また明日会ってくれたら嬉しいな。ごめんね厚かましかったかな」
「そんなことない!!」
「……こんな……電話……だれ……」
「ね、ねえさ」
ブツっ。
姉さん?
しゅうは一人っ子だったはず。
今の声、だれ?
______________
ここまでお読みいただきありがとうございます。
書いていた自分が気持ちを整理できず、いつもに増して拙い文になってしまったかもしれません。ご了承ください。
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