第6話 2つのお弁当と2人の気持ち
次の日。相変わらずなぜか怠い体に鞭打ち、なんとか体を起こして出窓のカーテンを開ける。暖かな陽光が身に染みてきて生きる活力をもたらしてくれる。なんかじじくさいな僕……
「おはようしゅーくん。ふふ、寝癖が立っているわよ。可愛い」
「あい……あとで直すよ」
「ふふ。しゅーくん顔洗ってらっしゃい。私そろそろ行くけど、お弁当置いといたから」
「今日はお弁当いらないよ。佐奈に作ってもらうから」
頭がぼーっとしてて気が付かなかったけど、この時の僕はとんでもない過ちを犯してしまった。
「……しゅーくん何それ聞いてないんだけど?昨日言ってくれたよね?お弁当美味しかったってそれとも桜井さんのお弁当の方がいいの?お姉ちゃんのお弁当食べてくれないの?ねえしゅーくん??」
姉さんがすごい形相で詰め寄ってきた。あ、地雷踏んじゃったやつだこれ……
「食べるよ!?姉さんのお弁当世界一美味しいから!だからそんな顔しないで!ね?」
「そうよね。食べてくれるわよね?じゃあ、お姉ちゃん行くから」
「いってらっしゃい」
最後には笑って学校に行ってくれたけど……お弁当どうしよう……でも昨日佐奈に言われちゃったからなー他の人の弁当もらっちゃダメって。
流石にこれ持ってったら怒られちゃうよね。でも、せっかく姉さんが作ってくれたものを無碍にするわけには行かないし。……今食べちゃうか。
僕は心の中で姉さんに謝って、朝ごはんがわりに弁当を食べた。言うまでもなくおいしかったはず。でも、胸に刺さった罪悪感という名の棘が僕の舌をおかしくしてしまったのか、味はよくわからなかった。
「おはようしゅう!今日はなんの日でしょう?」
いつもの校門で、佐奈は僕を待っていたのか僕と目があった途端、色素の薄い茶髪のサイドテールを揺らして駆け寄ってきた。
「……お弁当」
こっ恥ずかしい気持ちが先行して、僕はボソっとそう答えた。
「正解!!ちゃんと持ってきたから楽しみにしててね」
朝一番テンションMAXな佐奈が指で丸を作って微笑みかけてくる。そして自然な感じで僕の隣に並んで歩き始めた。
「あの、昨日はごめんね」
と思っていたら、佐奈は急に立ち止まって、バツの悪そうな顔でそんなことを言って来た。ああ、もしかして、
「……なんのこと?」
おおよそ見当はつくが、僕は質問で返した。
「えっとね、私昨日様子がおかしかったでしょ?しゅうに痛い思いさせちゃったし……ほんとごめんね」
佐奈が顔を俯かせて申し訳そうにしていた。僕はそんな彼女の萎れた態度を初めて見たもので、ひどく動揺してしまった。
「か、顔をあげて!?僕は気にしてないよ。ほら、こんなところで立ち止まってちゃ目立つからさ。行こう?」
「うん。ありがと、そしてごめんね」
佐奈は僕の制服の袖をギュッと握って、僕が歩き出すと同時に彼女もゆっくりと歩き出した。僕は不覚にも、そんな彼女の仕草にドキッとしてしまったり。そんな胸の高鳴りを誤魔化すために僕は声を上擦らせ、世間話を振りながら校舎に入っていくのだった。
「しゅう、今日は部室でお昼食べよう!」
気持ちはすっかり晴れたのか、佐奈は3限の授業が終わった途端、僕の机に来てそう誘って来た。
僕が承諾すると、彼女はそそくさと教室を出ていってしまったので、僕は教材を机に押し込んで彼女の後をついていった。
「さー座って座って!」
僕が部室に着くと、すでに机が2つ向かい合って並べられていた。
「じゃっじゃーん!どう私のお弁当、美味しそうでしょ」
よほど僕に見せたかったのか、佐奈は手早く包みを剥がし、弁当箱の中身を僕に見せてきた。かわいい……
「かわいい」
気が付けば声が漏れていた。
「え?」
「ああと、サンドイッチがだよ!?」
佐奈が顔を赤らめてしまったので、僕は食い気味で補足した。しかし、もはや何が可愛いかったのか、僕にもわからなかった。
「いただきます」
僕はピン刺しされた小さなサンドイッチを1つ掴んで口に運ぶ。
「美味しいよ」
ふわふわなパンにシャキシャキのレタス、しっかり味のついたタマゴのハーモニー。不味いわけがなかった。
「そう。よかったわ」
佐奈がサイドテールをクルクルいじりながらそう言ってきた。
「私もいただくわね」
その後は特に会話もなく黙々と手が進んで、あっという間に食べ終わってしまった。
「ごちそうさま。うん。とってもおいしかったよ!」
「やった」
「なんか言った?」
「な、なんでもないわ。お粗末さまって言ったのよ」
「そう」
僕は彼女が小さくガッツポーズをとったのを見逃さなかった。今日の佐奈はいつにも増して、その、見ていてドキドキしてしまう。
顔が熱くなっていくのを感じるが、僕は水を飲んで「鎮まれ〜」と念じて気づかないふりに徹した。
「そういえば、今週末は確定新刊があるらしいわよ」
少しの間を挟んで、佐奈が話をふってきた。
「そうらしいな。僕も昨日ハジメから聞いたよ。中野ブロード⚪︎ェイに行くんでしょ?」
「そう……」
「えっと、ほら昨日の部活で自由時間があるって言ったじゃない?」
「言ってたね」
「だからさ……わ、私と一緒に回らないかしら?」
「っ……いい、よ」
そんな目をギュッと閉じて誘われてしまっては断れるわけないじゃないか?!
「ふふ、楽しみね」
佐奈が「ぱー」というオノマトペがよく似合う明るい笑みを作った。
「ああ」
僕はそう答えるしかなかった。
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………………………
………………
「あれほど他の女の誘いに乗っちゃダメって言い聞かせたのに……ホント悪い子ねしゅーくん♡」
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………………………
………………
用事があると言われて佐奈と別れた僕は1人教室に向かっていた。階段を登っていると、上から
「こんにちはしゅーくん」
「こんにちは水木先輩。どうかしましたか?」
「ちょっとこれ見て欲しいものがあって」
水木先輩そう言って僕にスマホ画面を見せてきた。
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「だからさーダメじゃない桜井さんにそんな目を向けちゃ。しゅーくんは私だけを見なきゃダメなのわかる?」
私は階段下のデッドスペースにしゅーくんを誘導して、彼に壁ドンをかました。
「あーもどかしい!私も学校でしゅーくんとイチャイチャしたいのに……でも、しゅーくんが望んだことだもんね?日和先輩みたいなお姉ちゃんがいたらなって言葉。私は片時も忘れたことはないわ。私はあなたの理想になっているかな?あなたの理想のお姉ちゃんできてるかな?お姉ちゃんもっと頑張るから、だから私だけを見てお願い」
これ以上ここにいるのもリスキーなので、最後にしゅーくんギューっと抱きしめて催眠を解いた。
「んー?僕は何してたんだ?」
「あら気がついたのね。しゅーくん急にふらついちゃったから、私が下まで運んであげたのよ?」
「そ、そうなの?ごめん姉さん……」
「謝らなくてもいいのよ。しゅーくん疲れてるんじゃない?最近よく寝れてる?」
「確かに寝起きが良くないような……疲れが溜まっているのかな……」
「それは心配だわ。そうだ!今日は一緒に寝てあげるわ!!」
「そ、それは遠慮しとこうかな。は、恥ずかしいし……」
「恥ずかしい?なんで?私たち姉弟じゃない」
「恥ずかしいものは恥ずかしいの!」
顔が真っ赤よしゅーくん。ホント可愛いわ♡
「わかったわ。じゃあしゅーくんが寝るまで、今日は一緒にいましょう?」
「そ、それならまぁ」
「決まりね。じゃあ、私はそろそろ教室に戻るわ」
「うん。じゃあ、また」
「うふふ。早く夜にならないかしら」
____________
ここまでお読みくださりありがとうございます!
【1000PV】感謝!!!
正直こんなにたくさんの方に読まれるとは思ってもいませんでした。自給自足垂れ流しの駄文を少しでも良くしようと、今も修正に追われています。
面白いと思った方はぜひぜひ⭐︎、♡、作品のフォローよろしくお願いします!
長くなりました。次回また会いましょう。
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