第5話 ヤンデレとお弁当

最近急に眠気に襲われる謎の現象が度々起こる。それに目覚めがとても悪い。頭に締め付けられるような痛みが走ることがある。


「おはようしゅーくん!今日からしゅーくんのためにお弁当を作ることにしたわ」


「おはよう姉さん……僕の部屋に勝手に入ってこないでって何度も言ってるじゃん」


そして、こうして寝起きが悪い日は決まって姉さんが僕の部屋で寝顔を見ている。それにしても急に弁当を作り出すなんて。


「作ってくれるのはありがたいけど、別に僕は学食でもいいよ。これ以上姉さんの負担にはなりたくないな」


「いいのよ。私がやりたくてやってるだけだから。それとも、私の作った弁当より学食の方がいいのかしら?」


朝から束縛アクセル全開だな。


「そ、その恥ずかしいし」


こう言う時は自分の率直な感想を言うのが1番手っ取り早い解決法だったりする。僕は嘘をつくのが苦手なのか、姉さんにも佐奈にもすぐにバレてしまう。


「今、別の女子のこと考えてたでしょ?」


い、いつにも増して鋭いというかめんどくさいというか……


「ね、姉さんの弁当、とっても嬉しいよ!?だから、僕のベットに入ってくるのはよしてね?」


感情が消えた顔の姉さんが片足をベットに入れてきた。それ以上体を密着されてはたまらないので、大声で侵入を防いだ。は、恥ずかしいよ……


「そう!そう言ってくれて姉さん嬉しいわ。じゃあ、私先に行くわね。戸締りよろしくね」


「あ。あと学校ではお姉ちゃんのこと、いつも通り水木先輩って呼んでね?いい??」


「わかってるよ」


「じゃあね。しゅーくんも学校遅れないようにね。あと怪しい女子に絆されたダメよまっすぐ学校に行くのよいいわね??」


僕は手を振って、アルカイックスマイルを湛えながら姉さんの出発を見送った。はぁ疲れた。いつもちょっとおかしい姉さんだけど、今日はさらに上をいく奇行っぷりだ。


そんなこんなで昼休み。いつもは学食で済ますところなんだけど、どうしたものかな……


わざわざ中庭に行って食べる気分にもならなかったので、僕はピンクの花柄の包みを鞄から取り出して、机の上で丁寧に広げた。


わお。ベールを剥がすと高級そうな漆塗りの2段弁当が顔を見せた。しかし、パカッと蓋を開けると……


桜でんぶかな?ご飯の上にピンクのハートがデカデカと存在感を放っていた。


僕は一度蓋をそっと閉めて、もう一方の弁当箱を開ける。こっちは美味しそうだ!煮物に唐揚げ、ポテトサラダ。他にもいったい何時に起きて作ってくれたんだろうってくらい気合の入ったおかずたちが、僕の食欲をくすぐる。


僕はハート入りご飯の入った弁当をもう一度開けて、食欲の赴くままに箸を進めた。


美味しい。冷めても肉汁溢れる唐揚げに舌鼓を打っていると


「やあ、しゅう。今日は学食じゃないのか?」


隣のクラスのハジメ声をかけてきた。


「うん。今日は水木先輩がお弁当を作ってくれたんだ」


「はー羨ましい限りだよ。君たちは相変わらずお熱いようで。ところで桜井さんがこのお弁当見たら、どんな顔するだろうな?」


ハジメが額に手を当てながらオーバー気味にリアクション取ると、代わってからかいの目を僕に向けてきた。


「揶揄うなよな。僕だって水木先輩になんてお礼言ったらいいか困ってるのに。それに……なんで佐奈の名前が出てくるんだよ」


佐奈を引き合いに出した意図がわからないわけじゃないが、これ以上話を広げられてるのも避けたいが故、気付かないふりに徹した。


「ま、いいけどね。俺は今日も菓子パンですよっと」


ハジメはそう言って俺の隣に座って、手に持っていたメロンパンの袋を開けた。ハジメのスルースキルの高さ、僕は好きだよ。


「ああ、あと言い忘れてたけど、今週末に俺たちの確定新歓やるらしいよ」


「んな、いつのまにか……」


何気ないように言うが、そんなこと聞いた覚えはないぞ!?


「昨日しゅうさき帰っちゃったでしょ?その後に部長が言い出したんだよ。内容は確か……中野区古本巡りだったかな?」


エスパーハジメは僕の心を読み取ったのか、欲しかった情報をつらつらと開示してくれた。


「へー楽しそうじゃん!」


中野区かー。中野ブロ⚪︎ドウェイ1度行ってみたかったんだよね。


「今日の部活で詳細話すって言ってたから、しゅうも不貞腐れてないでちゃんと来いよ」


また、部長にからかわれるのかな……めんどいかも。


「不貞腐れてなんてないよ。昨日はただ……四面楚歌だったと言いますか、孤立無縁だったと言いますか……」


「それ同じ意味じゃん!わかったよ。今日は俺が助け舟出してやるからさ」


おお!流石ハジメ!やっぱりできる男は違うね。


「やっほーしゅう!それにハジメ君。桜井佐奈、現着!」


ハリケーン佐奈が教室に入ってきた途端、真っ先に僕の肩に腕を回してきた。


「ん?しゅう、何食べてるのかな?」


佐奈がちょっと強張った声でそう聞いてきた。「ところで桜井さんがこのお弁当見たら、どんな顔するだろうな?」というさっきのハジメの問いがフラッシュバックする。


「と、友達にもらったんだよ。美味しそうでしょ」


「へーそうなんだ。じゃあ、その崩れかけのハートは何?誰にもらったのかな?」


肩に回された腕に力が入り、僕の首を締め付ける。く、苦しい……


「誰だっていいだろ?今日はたまたま作りすぎただけって言われたし。むしろそう!僕はフードロス削減に取り組むオトナな高校生なんだよ!?だから佐奈さん首はやめて!?息がデキナ……イ」


「何ワケのわからないこと言ってるのよ!誰だか教えてくれないとこうだから」


追求をやめようとしない佐奈さんは、更に左手を追加して僕の息の根を止めようとしてくる。


「じゃあ、俺はこの辺で。2人ともごゆっくりー」


自らを空気と化したハジメが手を振りながら教室を出ていってしまう。僕は初めて彼のスルースキルを恨んだ。


「は、薄情者!ダメ行かないでくださいハジメsムゴっ!?」


「こっちを見なさいしゅうくん?だ・れ・にもらったのかなぁ?」


「水木先輩です!!ほら言ったから離して!?」


「へー水木先輩ね……そうなんだ。それでどう、美味しい?」



白状したのに一向に拘束を解こうとしない佐奈は、暗い笑顔を近づけて聞いてきた。


「ハイオイシイデス」


まずいとはとても言えないので、か細い声でそう答えた。


「ふーん。しゅうくん、明日は私が弁当を作ってくるから。他の誰の弁当も受け取っちゃダメなんだからね?」


「イェス、ユアハイネス」


「とびっきり美味しいお弁当作ってくるから楽しみにしててね!!」


さっきまでの暗い顔が嘘だったかのように、澄んだ笑顔でそう言いはってやっと拘束を解いてくれた。ハー空気が美味しい。


「じゃあ、また部活でねー」


嵐が教室から去った。台風一過。


僕は残りの弁当をぺろっと平らげ、机に伏して疲労の回復に努めるのだった。


_________


ここまでお読みくださりありがとうございます!


面白いと思った方はぜひ⭐︎、♡よろしくお願いします!

執筆活動の励みになります。


自給自足で考えた作品を多くの方が読んでくださり恐悦至極です。今後も欲全開で頑張ります!!

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