第3話 催眠と追憶

推理研とは名ばかりのからかいに振り回させた部活にうんざりしながら帰路に着く。しかし、今日の佐奈のあの顔が脳裏にこびりついて消えない。


佐奈とは中学生からの交友になるが、彼女のあんな表情を見たのは初めてだった。


頬を赤く染め、嬉しさここに極まれりといった花のような優しい笑み。そこにいたのは普段僕を振り回す活発な少女ではなく、紛れもなく1人の女性だった。


僕だって鈍感じゃない。彼女が僕に好意を寄せていることは何となくわかる。


でも、どうも彼女の気持ちに正面から向き合えない自分がいる。僕にとって彼女とは何なのか。友達なのかそうでないのか……


結局結論は出ることなく、心ここに在らずといった感じで家の前に着いてしまった。ほのかにスパイシーな匂いが鼻をくすぐり、どこかの家でカレーでも作っているのかなと考えながら玄関扉を開けた。はあ、今日の晩ご飯どうしよう……





「……え?


は?え?んと、意味がわからない……僕は1人暮らしのはず。何で水木先輩は僕の家を知っていて、家の中にいるの?おかしい。僕は水木先輩とは中学の頃に数回関わっただけ。それも佐奈に生徒会の手伝いをしてと言われていった時にちょっと顔を合わせただけのはず。


なんで?


「は?しゅーくんダメだよ??ほらこれ見て」


水木先輩が顔を歪ませながら僕の方に近づいてきた。彼女のスマホの画面が目に付く。っ……ねむい。なんで……


______________


「ダメだよしゅーくん。他の女のことを考えちゃ」


私は玄関で膝から崩れて眠ったしゅーくんをお姫様抱っこして彼の部屋に向かった。軽くて暖かいしゅーくんを抱きしめたくなっちゃうけど、まだダメ。


浮気者にはお仕置きが必要だよ。


「なんで他の女のことを考えるのしゅーくん??もしかして、佐奈って子のこと??あの子、中学の頃からしゅーくんと仲良いもんね。1年だけ同じ生徒会だったけど、あの子しゅーくんと仲良いですって雰囲気出してて心底鬱陶しかったのよね」


私はしゅーくんをベットに寝かせて、彼の隣に寝転んだ。


「今日も部活での会話も聞かせてもらったわよ。何が、また明日、よ。毎日会えるのが当然って?あーほんとにうざいわ。それに、しゅーくんもしゅーくんよ。あんな女に絆されて。あなたは私だけを見てなきゃダメなのよ。だって、私たちじゃない」


「日和はしゅーくんのお姉ちゃん日和はしゅーくんのお姉ちゃん日和はしゅーくんのお姉ちゃん日和はしゅーくんのお姉ちゃん日和はしゅーくんのお姉ちゃん日和はしゅーくんのお姉ちゃん日和はしゅーくんのお姉ちゃん日和はしゅーくんのお姉ちゃん日和はしゅーくんのお姉ちゃん日和はしゅーくんのお姉ちゃん日和はしゅーくんのお姉ちゃん日和はしゅーくんのお姉ちゃん日和はしゅーくんのお姉ちゃん日和はしゅーくんのお姉ちゃん日和はしゅーくんのお姉ちゃん日和はしゅーくんのお姉ちゃん日和はしゅーくんのお姉ちゃん日和はしゅーくんのお姉ちゃん日和はしゅーくんのお姉ちゃん日和はしゅーくんのお姉ちゃん日和はしゅーくんのお姉ちゃん日和はしゅーくんのお姉ちゃん日和はしゅーくんのお姉ちゃん日和はしゅーくんのお姉ちゃん日和はしゅーくんのお姉ちゃん日和はしゅーくんのお姉ちゃん日和はしゅーくんのお姉ちゃん日和はしゅーくんのお姉ちゃん日和はしゅーくんのお姉ちゃん日和はしゅーくんのお姉ちゃん日和はしゅーくんのお姉ちゃん日和はしゅーくんのお姉ちゃん」


私は彼の体をぎゅーっと抱きしめながら彼の耳元で日課に念じを唱える。しゅーくんは私のもの私だけのもの。他の誰にも渡さない。


私は彼の寝顔を凝視する。長いまつ毛に女子顔負けの透明なスベスベした肌。そして、ぷっくらとした唇……


私は自分の指を彼の唇に這わせた。


そして……


でも……

 

「はーはー。これ以上はダメよ。無意識下で彼の唇を奪ってもいいことはない。私としゅーくんの初めてはもっと情熱的じゃなきゃ」


最後の理性を働かせ、私はしゅーくんから離れた。


あとどのくらい続ければしゅーくんは私のものになってくれるのだろう。


_____________


私がしゅーくんと初めて出会ったのは中学3年のとき。当時も私は生徒会長をやっていた。


ある日、文化祭の実行委員会の集まりの時、同じ生徒会メンバーだった桜井佐奈さんがしゅーくんを連れてきた。


「水木先輩。人手が足りないようでしたら、しゅうを使ってください!彼部活に入っていないなので年中暇ですよ」


「年中暇とは失礼だな。僕だって色々やってるんだよ」


私が抱いた彼の第一印象は、女の子?だった。今よりも髪がちょっと長くて、相変わらず美しい顔立ちをしていた。


今よりもさらに小柄だったしゅーくんは、そのプリプリと怒った態度と合わさって、彼本当に男の子なの?って感じだった。


「こんにちは。私、水木日和と言います。一応、生徒会長してます」


「ど、どうも。僕は御堂秀です。佐奈に連れられてきましたが、何か僕に手伝えるようなことあるんですか?」


しゅーくんは緊張しているのか、上目遣いでオドオドした感じで返事をしていた。


「えっと、あなたは何ができるのかしら?」


失礼ながら彼のことは何も知らなかったので、時間もないし単刀直入で聞いてみた。


「しゅうはなんでもできるのよ!運動はちょっと苦手だけど、勉強も料理も美術もね」


隣で桜井さんが自慢げに語り出した。なんで彼女が彼のことをそこまで買っているのか当時の私はわからなかった。


「そ、そんな先輩の前でそんなこと言わないでよ佐奈」


謙遜かなんなのか知らないが、しゅーくんは手をワタワタ振って彼女の言葉を否定していた。


「そう。それじゃあ、正門の装飾、頼んじゃおうかな」


なんだか面白なって感じた私は、委員会で決まってなかった門の装飾を彼にお願いすることにした。彼、美術も得意とのことだし。


「ほらしゅう、やりなよ!」


桜井さんがしゅーくんの背中を何度も叩く。


「痛い痛い!わかったよやるよ!」


顔を引き攣らせながらやると承諾した彼を、私は2人とも変な関係だなと思いながら見守るのだった。



_______________


ここまでお読みいただきありがとうございます!


面白いと思った方はぜひぜひ⭐︎、♡よろしくお願いします!


過去回想が思ったより長くなってしまったので次回も続きます。乞うご期待!

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