第2話 それは学校での一幕

「……つ」


何で僕ベットにいるんだろう?確か昨日は急に眠くなって……そこからの記憶がない。姉さんが運んでくれたのかな?後でお礼を言わなくちゃな。


姉さんの朝は早い。どうも、生徒会の活動があるらしく、僕の分の朝食を残して先に学校に行ってしまう。


今年は例年より開花が遅く、僕たちの入学式を華やかに彩ってくれた桜の木々もすっかり青々しくなってしまった5月。


最初は校門をくぐるのも何だか緊張してしまっていたが、流石に一月も経つと眠気が勝つらしく、今では何とも思わなくなっていた。


僕は校門と昇降口を繋ぐレンガ調の道を1人トボトボ歩いていた。この謎の空間は何のためにあるんだろうなんて不毛なことを考えてると、後ろから不意に肩を叩かれた。


「やっほ。相変わらずちいさいね、しゅうったら」


人物におおかた予想はつきつつも振り返ってみると、やはりと言うべきか、佐奈がにこやかな笑顔を向けて声をかけてきた。朝から眩しすぎるよ……


「おはよう佐奈。小さい男で悪かったね」


僕は男子にしてはかなり小柄の方で、厚底のローファを履かれてしまうと彼女のスタイルの良さも相まって身長を抜かされてしまう。そのことは僕の1番と言っていいほどのコンピレックスなんだが、性格の悪い彼女は中学の頃からそのことをいじり倒してきた。


「そんな顔しなくてもいいじゃないの。あたしはいいと思うけどな可愛くて」


それも決まり文句。


「可愛いと言われて喜ぶ男子がいるとでも?」


ここまででワンセットだ。しかし、彼女は


「あ!澪ちゃんおはよう」


とそれ以上返事をすることなく、横切った他の友達の方に行ってしまった。それにしても今日は、佐奈と話していた時に視線を感じたような。今はそんなことないし気のせいだろうか?


特に面白いこともなく今日の授業が流れ、放課後。僕は掃除をしている週番、もとい佐奈にご苦労様と心の中で労いの言葉をかけてひと足先に部室に向かった。


さて、ここでこの私立翠風すいふうの面白ポイントを1つ紹介しよう。


僕が今向かっているのは部室棟と呼ばれる本舎と渡り廊下でつながった別棟なのだけど、とにかく綺麗なのだ。本舎を漫画に出てくるような一般的に綺麗と称される高校とすると、部室棟は都会にありそうなおしゃれなオフィスビルといった具合だ。典型的な学校といった風貌をかしこから感じる中に、ガラス張りの5階建ての直方体が聳えているのは何ともミスマッチというか、滑稽に思える。


我らが推理研の部室ももれなく部室棟に居を構えているわけで、使いもしないプロジェクターやら音響機器が部員数にしては広すぎる部屋の隅に捨てられている。


推理研といえば、古ぼけた部室棟のさらにその隅の方でひっそりと活動しているイメージだったのだが、見事に僕の想像を壊されてしまった。


そんな誰に向けて話しているかわからない誰得情報を誦じそらんていると、件の部室についてしまったわけで。僕は別に必要のないと言われたノックを通過儀礼的な感じでして中に入った。


「こんにちは御堂くん。今日は桜井さんは一緒じゃないのね」


だたっ広い部室の中央に並べられた机の、そのまた中央に置かれた机に腰掛ける中嶋沙月先輩にお出迎えされた。


円形に置かれた机の中心にわざわざ机を置いて座る彼女は残念?ながら我が部長なわけで、いつも最初にこの部屋に来て本を読んでいる。


ちなみに桜井さんとは佐奈のことだ。


「こんにちは中嶋先輩。僕と佐奈をワンセットみたいなふうに言わないでください。彼女は終盤で掃除をしてるから僕が先に来ただけです」


「別に誰も一緒じゃなきゃおかしいとはいってないぞ。それともなんだ。そう思われるのが恥ずかしいのか?」


中島先輩がジト目で僕を見つめてくる。部長と接してまだ1月も立っていないのに、僕の中の先輩評価は「変人」一択だ。知識があって趣味も合うのにどうして、こうも残念なのだろう……


「どうしてそうこじられて考えるんですか……」


僕はこれ以上取り合う気になれなかったので、適当に荷物を置いて読書を始めた。


途中、昨日友達と紹介した武藤一がやってきたが、本に集中していた僕は適当に挨拶をしてやりすごした。彼は短く返事をして自分の席に落ち着いた。彼は非常に空気の読める男で僕はいつも助かっている。


「こんにちは!遅くなりました!」


しかして、嵐がやってきた。佐奈だ。ドアをガバッと開け手を上げて自分の到着を高らかに宣言した彼女は、色素の薄い茶髪のサイドテールを揺らしながら僕に近づいてきた。


彼女と目が合ってしまったのがいけなかったのか、案の定佐奈は僕の隣に座ってきた。


「しゅう、何読んでるの?」


「シザース男。この前、ドラマになって話題になったやつ」


僕は読書に集中してるからオーラを全開にそう答えた。しかし、彼女に空気を読めるはずもなく


「えーあたしも読みたい!一緒に読も!」


「……途中から読んでも面白くないだろ?そこの本棚に同じのあるから」


「むー。しゅうのけち」


そう捨て台詞を残して彼女は僕が指差した本棚に向かっていった。何がケチなんだと思いつつ彼女の後ろ姿を一瞥して、僕は本の世界に潜り直すのだった。


あらかた部員が集まった頃、中嶋部長は本を閉じて徐に立ち上がった。


「全員注目!今から定例会を始めるわよ」


部長が1人で盛り上がる定例会。だいたい部長が面白いと感じたことをつらつらと語るだけの会なのだが、今日は一味違った。


「今日の議題は……ミステリーに男女の仲はいるか、よ!」


珍しく、というか初めて推理研っぽいまとも議題が出たなと一同(6人)が沸き立つ。


「私、今日の御堂くんとのやりとりで思うところがあったのよ。御堂くん、今日は佐奈ちゃんと一緒じゃなくて寂しいって言いながら部室に入ってきたのよ」


……ん?


「なに事実じゃないことは言ってるんですか!?僕はただ今日は佐奈は週番で遅れると言っただけですよ!!」


「えーしゅう、そんなふうに思ってくれてたんだ。へー」


隣を見ると、佐奈が顔を背けながら僕の頭を優しく撫でていた。


「お前も僕の頭を撫でるのをやめろ!!」


「しゅう。お前大胆なところもあるんだな……」


「ハジメまで茶化すのはよしてくれ……お前は貴重な良心枠なんだから」


僕が肩を落としてげんなりしてるのを見てなお、中嶋部長は悦に浸った笑みを湛えていた。


「いやー推理研も恋愛小説語りやるべきかなぁ。部内恋愛なんて最高のネタだし」


僕は残り2人の先輩の方に顔を向けた。しかし、2人とも我関せずといった感じで。しかも、寧々先輩なんてダンマリしてるけど口元緩んでるし……絶対に面白がってるやつだ。


「僕、もう帰ります!!お疲れ様でした!!」


居た堪れなくなり、味方がいないのを悟った僕は最終手段、敵前逃亡を決行した。


「しゅう、また明日ね」


最後に見た佐奈の満足そうな顔を脳裏に焼き付けながら……


………………

…………

……

「なんて姦しい部活なのかしら。今日も帰ったらお仕置きね……しゅーくん♡」


_____________

ここまでお読みいただきありがとうございます!


面白いと思った方はぜひ⭐︎、♡よろしくお願いします!


P.S.もうちょっといいタイトルないかな、なんて思っていたり。何かいいアイデア思いついた方はコメントいただけると嬉しいです!

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