いつの間にか姉ができていた!?
まるメガネ
第1話 お姉ちゃんのいる日常
「おかえりしゅーくん!今日は遅かったわね」
玄関扉を開けると、両手を腰に当てた日和姉さんが怖いくらいの満面の笑みを湛えて、僕を出迎えてくれた。表情と仕草があってないよ姉さん……
「ただいま姉さん。佐奈にハンバーガーつきあってって言われちゃって。ごめんなさい、連絡しとくべきだったかな」
僕がバチが悪そうにそう返すと、当の姉さんは
「気にしなくていいのよ。でも、外で食べてくる時は連絡はして欲しいわね」
と言って、僕の肩をガシッと強く掴んできた。これ、気にしなきゃダメなやつだ。
「ええと、夜ご飯は用意してくれたんだよね?僕、姉さんの作ったご飯、毎日楽しみにしてるんだよ。今日も食べたいんだけど、ダメかな?」
こういう時は下手に……どうやら効果覿面だったようで、姉さんから幸せオーラが漂ってきた。
「そ、そう!もちろん今日も腕によりをかけて作ったわよ!しゅーくんの好きなカルボナーラをね」
「それは楽しみだよ。それはそうと、そろそろ中に入っていいかな?」
「あっと、ごめんなさいね。ささ、身支度済ませたらリビングに来てちょうだい。準備して待ってるからね」
姉さんがやっと肩を離してくれて、晴れて僕は自室に入ることができた。
今日の日和姉さんはいつにも増して束縛癖が強かったな。
僕――御堂秀――たちの両親は外資系企業に勤めていて、姉さんが高校生になる年に二人揃って海外に出張に行ってしまった。
最初は僕たちも一緒に行くつもりだったんだけど、姉さんが日本に残りたいと強く懇願したせい?おかげで現在僕たちは2人同じ屋根の下で暮らしている。
今日も佐奈の名前を出した時の姉さんの様子は正直ちょっと怖かったし……とりあえず今は、腹6部くらいの胃袋に大量に作っていると思しきカルボを詰め込む覚悟を決めなくては。
リビングに着くとテーブルの上には案の定、大蛇のようにうず高く積まれたカルボが僕を出迎えてくれた。
僕が手を合わせて「いただきます」というと、向かいに座った姉さんが「たくさん作ったから遠慮しないで食べてね」とある種の死刑宣告をしてきた。
姉さん、残すと「美味しくなかった?姉さんの料理食べたくないの??ごめんなさいこんな不甲斐ないお姉ちゃんで」って泣き喚くからね……僕は少し遠い目をしながら、フォークとスプーンを手に取り黄色の山を切り崩しにかかった。
「推理研の方はどうなのかしら?楽しい?」
5合目に差し合ったあたりで、姉さんが唐突に話を振ってきた。というより、今日も料理に手をつけずにずっと僕のことを見てくるんだけど……正直食べづらいよ。僕は口にあるパスタの残骸を急いで飲み込み水を一杯含んで、
「えっと、楽しいよ。同じ趣味を持つ友達もできたし」
と答えた。
「その友達というのは男子かしら?」
「男子と女子1人ずつだよ。2人とも優しくてとてもいい人だよ」
どうしてそんなこと聞くんだろうと言いつつ、友達の顔を思い浮かべながら素直に答えた。
「そうなのね。女子が1人と……」
すると、姉さんは片眉を少し下げて口元を押さえながらモゴモゴし始めた。
「なんて言ってるの?」
「何でもないわ。こっちの話よ」
「姉さんも生徒会の方はどうなの?毎日夜ご飯作って待っててくれるけど大変じゃない?」
何だか危険な予感がしたので、僕は話を切り替えることにした。
「大丈夫よ。しゅーくんのためだもの。どんなに大変な仕事を持ちかけられてもしゅーくんのためを思えば、とっとと片付けることくらい造作もないことだわ」
「でも、しゅーくん私のこと心配してくれるのね。姉さんとっても嬉しいわ!しゅーくん今すぐ抱きしめちゃいたいわそしてドロドロに甘やかしてあげるの」
姉さんが身を乗り出して、語り始めた。目の光がないよ姉さん!?もしかして違う地雷を踏んでしまったかもしれない。
僕は姉さんのことを無視してカルボを食べ始めることにした。早く食べないと冷めちゃうし……
「ごちそうさまでした」
も、もう食べられないよ……結局姉さんの1人語りが止むことなく、ほとんど1人で山盛りカルボを食べ切ることになってしまった。しばらくパスタ見なくないかも。
「お粗末さまでした。相変わらずいい食べっぷりねしゅーくん!これからもしゅーくんのために料理頑張っちゃうわ」
そんな嬉しいような嬉しくなような反応に困ることを言われ、「ん」と曖昧な返事を残して僕は食器を片付け始めた。
2人暮らしを始めた当初は「洗い物は私がやるからいいわ」といって聞かなかった姉さんも、僕が「それじゃ申し訳ないよ。僕も姉さんのために何かしたいな」と言うと「そ、そう……」と顔をほんのり赤ながら僕の手伝いを許可してくれたのだ。
そのときの姉さんの顔は今も忘れることができない。
キッチンからソファに座っている姉さんを脇目で見てくると、またも何やらぶつぶつ呟いていた。ほんと最近どうしちゃったんだろう……
「しゅーくん。入ってもいいかしら?」
風呂を済まして、部屋で課題など片付けていると、コンコンとドアを叩く音がした。姉さんだ。何かあったんだろうか?最近の姐さんの調子を鑑みて何か悩み事でもあるのかな、と思いドアを開けると、ネグリジェ姿の姉さんがスマホを僕に向けて立っていた。
「しゅーくん。お仕置きの時間よ♡」
なんだか急に眠くなって僕はその場にへたり込んでしまった。
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