夕闇色の記憶 第十三章 もう二度と戻ることもない…
「我慢するために」との大義名分に拠り、こたつではゆなさんの隣に滑り込んでしまい……
長い……長いキスをし終えて、手は繋いだまま仰向けで放心状態になっていた二人だった。
そこへ……突然帰宅して来た妹さん!
「お姉ちゃん……何してんの⁉」
答えられない二人……。
矢継ぎ早に訊いてくる妹さん。
「誰? この子! キミ、いくつ? 高校生じゃないの⁉」
「は……はい。高校生です……」
取りあえず、訊かれたことには答える僕。
「信じらんない! お姉ちゃんいい年して、なに考えてるのよ!」
ゆなさんと僕は、顔を見合わせ……
「びっくりしたねぇ」……「ねー」
と、小声で囁き合ったが、丸聞こえだったようで……
「びっくりしたのはこっちよ! 心臓が飛び出るかと思ったわよ!」
と……えらい権幕。
ついに……『監視役』と聞いていた妹さんに知られてしまった。しかもこんな状況で……まずいことになってしまったな……。
「とにかく離れて! いつまでくっついてんのよ!」
なんか……ヒステリックな妹さんだなぁと思いつつ立ち上がろうとすると……
「あ、待って! 服……その……ちゃんと、はいてるんでしょうね?」
「はい……ご心配なく」
「もう帰って! キミ、もうウチに来ないでちょうだい! お姉ちゃんも、呼ばないでよ!」
これは、思っていたよりも凄まじい監視役だなぁ。
「いきなりそんなに怒鳴ることないでしょ!」
と、ゆなさんも言ってくれるが……
「とにかく! 帰って! もう来ないで!」
妹さんは、その一点張り。
「帰ります……お邪魔しました」
そう言って、とりあえず外に出ようとする僕に……
「あ……れいくん、待って」
と……バッグやコートを乱暴につかみ、一緒に来てくれたゆなさん。
そして玄関で振り向きざまに……
「私だって、もう戻って来ないから!」
ゆなさんは妹さんにそう叫ぶと……先に外へ出ていた僕の手をとり、足早に歩いた。
彼女に引きずられるように、代々木上原の駅方向へ。勿論、小田急線で何処へ行く……なんて予定など、ない。
駅の手前で立ち止まり、振り返るゆなさん。無言のまま僕を見つめ……唇の辺りを親指で拭ってくれる彼女。
「何をしていたか……見ていたかのようにいきなり怒ったのは……こういうことか……」
唇と同じ色に染まった親指の先から、視線を僕の瞳へと移し……頬に手を当てて見つめるゆなさんの瞳からは……限りない哀しみが伝わって来た。
「ゆなさん……ごめん。僕……」
そういう僕に、ゆなさんは少し鋭い視線になり……
「キミは謝るようなこと、してないよ。簡単にゴメンなんて言わないの」
「でも、妹さん……」
小さくため息をつくと、また笑顔になり……
「これでまた一つ、はっきりしたね! 家出……して来ちゃったし。アハハ!」
この状況で、明るく笑い飛ばす……さすがはゆなさん。
でも、笑顔の陰に隠れた憂いは……僕には隠せませんよ。
「雨、晴れて良かった。さーて……これからどうする?」
なんて明るく言っているようでも……「これからどうなるか不安」が滲み出ているのが、僕には見えてしまうんだ。
いずれにしても僕のせいで、ゆなさんに家出をさせてしまった。
……よし!
「ウチに行こう!」
そう言って、返事も得ないまま、今度は僕が彼女の手を引いていた。
この時の、代々木上原からウチまで移動中の記憶が、一部抜け落ちている。ルートは? どんな話をしたのか?
もしかしたら、終始無言だったのかもしれない。二人が危機的状況を迎えてしまった件を、改めて話したくはなかったのだろう。
これで妹さんからご両親へ報告が……しかも……『高校生と付き合っているらしい』レベルの情報ではなく……。
その結果、どんな『お沙汰』が下されるか? 大体予想はついていたが、気持ちはもう……二人だけの逃避行だった。
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