夕闇色の記憶 第十章 『永遠』を信じて…

 同居している大学生の妹さんを監視役として、大学院生にしては、ご両親から過度の干渉をされているゆなさん。

 7つ年下の僕との関係をご両親に知られたくない理由は、7つ年上のゆなさんを両親に紹介できない僕側の理由よりも……遥かに深刻そうだった。


 初めて聞いた『ちょっとしたこと』の詳細。

 元不良娘を大学院へ行かせているというご両親の『保護者的立場』を考慮したとしても……実の妹さんを監視役にまでするのはいかがなものか?

 そう考えているのであれば……ではどうすればよいのかという行動も、今ならできたのだろう。

 しかしその時は、そこまで思慮が及ばず、不安だけが募った。

 そして「両親に、頭ごなしに否定されるだろう」という不安の共有が、二人を一層……燃え上がらせる。


 やはり『ちょっとしたこと』では済まなかったゆなさん側の事情。それを知ってしまったあの日以降、ホテルで過ごす二人きりの『2時間』の内容は……明らかに変化した。

 その日が……もう、最後になるかもしれないような……そんな『2時間』を求め合うようになっていた二人だった。




「今日……いつもより乱暴だったわね」


 反応を確かめるように、じっと覗き込み尋ねるゆなさん。


「あ……ごめんなさい。どっか、痛かった?」

「ううん……良かった……」


 恥じらうような可愛い笑顔……しかし、滲み出る哀しみは隠せない。


「永遠に……気を失ったままでいたかったな……キミに……抱かれたまま」


 眼鏡を外した素顔に、無防備な憂いを湛え、絡み付かせてくる細い腕。


 まだ、今すぐどうなるというわけではないが……そんな彼女の心境は、痛いほどわかっていた。

 どうにも……してあげられない、いたたまれない思い。自分が……18歳でさえなければ、もっと大人ならば……二人の未来に、こんな不安はなかったのか……。


「ゆなさん……ごめん。僕が高校生なばっかりに……もっと大人なら、ゆなさんにこんな思いさせずに済んだ……」

「ばかなこと言わないの……余計な背伸び、しないでって言ったでしょ。私は……今のままのキミを好きになったんだから……」

「僕も……素顔のままのゆなさんが好き……離さないで……いなくなったり……しないで……」

「うん……大丈夫よ……今は繋がって……いようね……」


 本当にそのまま……蕩けて……二人でどこかへ消えてしまいたかった。


「大丈夫」……なんて儚い……この、優しさ溢れる心からの言葉に……幾度、裏切られたことだろう……。

 しかし……「今度こそは」と、毎回微塵も疑わず、また信じた愛に……殉じて……。

 その慣習に違わず、今、目の前のゆなさんを……僕は心から信じ切っていた。


 ゆなさんとの『永遠』を信じて……再び、彼女の中で……ご希望通り、少し『乱暴』に……溢れる18歳の『ときめき』を……眠らせた……。



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