第27話 探宮者を目指す者


 そう言われればそうだ。そもそも常磐さんが迷宮街にいなければ、こんな目に遭うことはなかった筈だ。

 前にも言ったけど、迷宮街ここに来るのは探宮者か探宮者志望に限定される。


 まさか、常磐さんが探宮者志望……いや、無い無い。どう見たって生粋のお嬢様で探宮者って柄じゃない。自己紹介の時に話してた茶道や華道がお似合いで、異界迷宮で闘う常磐さんの姿が想像できない。


「実はわたくし、探宮者を目指していますのよ」


 そのまさかだった……。


「へぇ~意外。全然、そんな風には見えないけど」


 蒼ちゃん、確かにイメージと合わないけど、そんなハッキリ言わなくても。


「いえいえ、わたくしからすれば、お二人がここにいることの方が驚きですわ」


 逆もまた真なり。常磐さんの言い分ももっともだ。ボクも蒼ちゃんも一見すると探宮者を目指すタイプには見えないだろう。


「もしかして、お二人も探宮者志望なのですか?」


「え、と……」


「そうよ」


 ボクがどう誤魔化そうかと口を濁していると、蒼ちゃんがあっさり認める。


「あ、あおいちゃん……」


「別に隠す必要ないんじゃない? ここにいる時点でバレてるようなものだし」


「それはそうだけど……」


 ボクの心配をよそに蒼ちゃんは続ける。


「私たちも探宮者を目指してるの。よろしくね」


「やはり、そうなのですね。こちらこそ、よろしくお願いいたします」


 そう言って蒼ちゃんに笑顔で答えながら、ボクの方を意味ありげに見る。


 何なんだ? 嫌な予感しかしない。


「つくも様、もしものお話しですが、わたくしが探宮者になれたら職業クラス編成的に可能であるなら一緒にパーティーを組んでいただけませんか?」


「え? 一緒のパーティーに?」


「はい、ぜひに」


 確かに、すぐに頭角を現すような有望な探宮者はデビューしたとたん、引く手あまたになる。なので、蒼ちゃんがスカウトされたようにデビュー前の探宮者志望者に唾を付けるパーティーがあるのも事実だ。

 けれど、そういう人材は中学時代に運動競技で名を残した人間や歌手活動や秀でた容姿を持つ人間に限られる話で特別な事例と言えた。まあ、中学時代に友達とパーティを組むことを約束して、高校入学と同時に異界迷宮を目指す少年漫画もあるので、一概には無いとは言えないが……。


 それに異界迷宮に入った時に起こる職業クラスガチャで同じクラスが被ることもあるので、クラス決定してからパーティー加入することが一般的だ。パーティーメンバーの職業バランスによってパーティーの強さが大きく左右することもあり、企業系でなければクラス決定前にパーティーを組むことはリスクが大きい。なので、常磐さんのお誘いが『可能であるなら』との注釈付きになるは当然と言えた。

 もっともボクのクラスは『魔王』なので、どのクラスとも被ることはあり得ないのだけど。


「あのさ。私の前で堂々とつくも君を勧誘するなんて、常磐さんもなかなかだよね」


 あれ? 何だか蒼ちゃん機嫌悪くない? 声が冷たい気がする。


「いやですわ、紺瑠璃さん。わたくし、お二人の間に割り込もうなどと考えてはいませんわ。ただ、つくも様のお力になりたいだけですの」


「本当かな?」


「本当です、信じてください。わたくしは推しを応援したい……いえ、恩人に恩を返したいだけですの」


 何かおかしな台詞が聞こえたような……。


 両者一歩も引かずに見つめ合ったあと、蒼ちゃんはふっと息を吐いて諦めたように言った。


「了解。常磐さんの気持ちは理解した。そもそも、つくも君は私のものじゃないし、パーティー加入の是非を私一人で決められる訳でもないしね。ただ、つくも君を困らせるようなことをしたら、私が許さないから」


「しません、しません。わたくし、『つくあお』の推しカプになりましたから、お傍にいられるだけで大満足です」


「そういうことなら歓迎するわ、常磐さん……いえ、みどりさん」


「はい、よろしくですわ、蒼さん」


「あの~、ボクの意思はどうなるのでしょう……」


「え? つくも様、駄目なのですか?」


「つくも君、何か反論あるの?」


「いえ、ございません」


 二人からじっと睨まれ……もとい、見つめられたら反対など出来るわけもなかった。


 こうしてボクのパーティーメンバー(仮)は3人になった。

 

◇◆◇


「にしても、常磐さん。けっこう度胸があるんだね」


「つくも様、ぜひ『翠』お呼び捨てでお願いします」


「え? 常磐さん、何を言って……」


「み・ど・りです!」


「えと……翠ちゃん」


「はい、翠ちゃんです♪」


「……み、翠ちゃんって思ってたより行動的なんだね」


「と言いますと?」


「いや、いくら探宮者志望でも一人で迷宮街には来ないでしょ? ましてや女の子一人でなんて……」

 

「私たちも女の子二人だけどね」


 横で蒼ちゃんがぼそりと言ったけど、無視して続ける。


「そのぉ……怖くなかったの?」


 ボクは怖かった。だから、蒼ちゃんと一緒だったし、表通りか安全な場所しか行ってない。最後のアレは不可抗力だし。


「ああ、そのことですか。わたくしも怖いし不安でしたよ」


「そうなの?」


「はい、ですので本当は友達と待ち合わせしていたのですが、急用があってわたくしが遅れてしまったのです」


「じゃあ、その友達は?」


「それが、先に入っていたようなのですが連絡が取れなくて……どうやらスマホの電源が切れていたみたいで」


「無責任だな、その人」


「いえ、わたくしが一旦、待ち合わせをキャンセルしたので、彼女は悪くないのです。わたくしの方が安直に中へ入ればすぐに合流できると思っていましたのが原因ですので……で、迷っていた時にさっきの方々が親切にも道案内してくれると言って来まして……」


 思い返したのか、翠ちゃんはまた青い顔になる。


「ごめん、思い出させて」


「だ、大丈夫です」


「それで、その相手は?」


 ボクが不用意な発言を反省していると蒼ちゃんが会話を引き継いで聞いてくれる。


「家についてスマホを充電して、わたくしのメッセージに気付いてくれたようで先ほどつくも様が事情聴取の間に電話をいただきました。凄い勢いで謝られましたけれど」


 まあ、大事には至らなかったけど友達の危機を招いた件に自分も責任の一端があると知ったら、それは平常心ではいられないだろう。


「それで断ったのですが、顔を合わせて謝罪したいとこちらに向かっているようで……」


 そう、翠ちゃんが言った矢先、走ってくる大きな足音がしたかと思ったら、いきなり会議室のドアが開いた。


「ここに常磐翠がいるって聞いたのだが……」


 飛び込んで来たのは……。


「す、蘇芳朱音?」


~~~~~

 あとがき

  最新話までお読みいただきありがとうございます。

  頑張って更新しますので、★評価やコメントをぜひお願いします。

  また、何か所か手直ししたいところもありますので、唐突な変更にもご理解願います。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る