第28話 例の計画
驚いたことにボク達のいる会議室に飛び込んで来たのは、蘇芳朱音その人だった。そして、ボク達に目もくれず常磐さんのところへ走り寄る。
「大丈夫か、怪我は? 酷い目に遭わなかったんだな」
常磐さんの肩を掴み、頭をぐらんぐらんさせる勢いで話す蘇芳さんに常磐さんは言葉も出せずに目を白黒させている。
「おい、翠! 何か言ってくれ」
「ストップ! ストップだよ蘇芳さん。翠ちゃんが目を回してるから」
慌てて制止すると蘇芳さんは初めてボクを見る。
「君は……確か、一色
「はい、そうです。覚えていてくれたんですね」
「当たり前だろう。クラスメイトだからな」
びっくりだ。ちょっとだけ話はしたけど、てっきりボクのことなんて眼中に無いと思ってた。
「何で君がここに?」
「え……と」
「朱音さん。つくも様が暴漢から、わたくしを助けてくださったんです」
ボクが止めたおかげで話せるようになった常磐さんが蘇芳さんに告げる。
「君が……翠を?」
半信半疑の目でボクを見る。
そうですよね~。どう見たって、見た目は荒事に向いてるようには見えないもん。
「どうやら、本当みたいよ。私もまだ信じられないけど」
横にいる蒼ちゃんも疑問形ながら肯定してくれる。
「ん、君は紺瑠璃 蒼か?」
「あら、覚えてくれてたんだ」
「もちろんさ。君は有名人だからね」
「あなたに言われてもねぇ」
と苦笑いする蒼ちゃん。
確かに蒼ちゃんは学内では有名だけど、蘇芳さんの場合はそのレベルじゃないから。
「翠、とにかく無事だったんだな?」
常磐さんに視線を戻した蘇芳さんは心配げに彼女を見つめる。
「はい、風前の灯火でしたが……何とか」
「そうか……」
そう呟いた蘇芳さんは、いきなりボクの方に身体を向けると勢いよく頭を下げる。
「ありがとう、翠を助けてくれて。どんなに感謝しても感謝しきれない。今回の件の責任はあたしにある」
深々と頭を下げる蘇芳さんにボクはおろおろする。
「あ、頭を上げてよ、蘇芳さん。たまたま通りがかっただけで、別にたいしたことしてないから」
「いいえ、凄かったんですよ、つくも様。まさにヒーローって感じで悪者たちをばったばったと薙ぎ倒したんです」
興奮気味な常磐さんが古風な表現で語ると、顔を上げた蘇芳さんはますます不思議そうな顔でボクを見る。
「とてもそんな風には見えないな。異界迷宮内ならともかく、現実世界で君のような体型をしている女の子がそれほど強いというのは俄かに信じがたい」
ぎくっ。
当たってます。間違いなく、異界迷宮内の強さです。
「けれど朱音さん。自分の責任だと仰いましたが、あなたが気に病む必要は全くありませんよ。そもそも約束をキャンセルしたのに勝手に来たわたくしが悪いんですから」
「いや、スマホの充電が切れてなければ、こんなことには……」
「それも朱音さんのせいとばかりは言えないでしょう」
「まあまあ二人とも。とにかく無事だったんだから、その話はもういいんじゃないですか?」
不毛な自分責めを止めさせようと二人の会話に割り込むと、常磐さんは「確かにそうですね」と頷いたあと、目を輝かせながら言った。
「それより聞いてください、朱音さん。つくも様と蒼さんも探宮者志望なんだそうですよ!」
「何だと」
あ、不味い。蘇芳さんの目がギラリと光ったような気がした。
◇◆◇
「そうか君達も探宮者志望だったんだな。しかも親父の展示会を見ていたとは……」
見たかったのはボクだけで、蒼ちゃんは興味なさそうだったけど。
ボクと蒼ちゃんが迷宮街にいた経緯を蘇芳さんに説明すると、彼女は納得したように頷いた。
「まあ、今回の展示は『蘇芳秋良展』としてオーソドックスな展示会で、取り立てて目立った展示はなかったかな。初心者探宮者には見るべき点は多いが……」
蘇芳さんは父親の話が出て少し嬉しそうだ。たぶん、父娘の関係が良好なのだろう。
「ちなみに朱音さんは初日から皆勤賞らしいですけどね」
「お、おい、翠……」
父親大好きっ子とバラされて蘇芳さんは少し顔が赤くなる。
「でも、朱音さん。今回の件は運命を感じます。例の計画をお二人にお話なさってはいかがです?」
「例の計画?」
期待に満ちた常磐さんから厨二病的なワードが飛び出し、ボクは鸚鵡返しに尋ねる。
「そうか……それもそうだな」
蘇芳さんは少し思案気になるが直ぐに納得する。
「実はな、一色、紺瑠璃。あたしは学校に『迷宮探宮部』を作ろうと思ってるんだ」
「『迷宮探宮部』?」
「そうだ、学校にも確認したが、まだうちの学校にはないらしい。だから、自分で作ろうと思ってね……どうだろう、君達も入部してはくれないか?」
高校の部活動として『探宮部』のある学校はそれなりに多い。けれど、上位の進学校に少ないことはよく知られている。
理由はいろいろあるが、運動部のカテゴリーとしてはギャンブル性が高いことや前にも話した風評的な負のイメージで避けられているらしい。
それに実績があればプロの道も残されているので、進学校としては進路に影響を及ぼす点もマイナス要素と言えた。
「あおいちゃん……どう思う?」
「う~ん、どうだろう」
ボクが目で問いかけると蒼ちゃんはあまり良い表情をしていない。どちらかと言えば反対なのかもしれない。
どうも、蒼ちゃん蘇芳さんのことを意識しているというか警戒しているように思える。何でだろう?
「もちろん、今すぐに答えなくてもいい。明後日の部活動説明会を聞いてからで構わない」
そういや、明後日には各部長による部活動説明会があったっけ。帰宅部一択のつもりだったから、全く眼中になかった。
「わかりました。それでいいなら考えておきます」
蒼ちゃんは、とりあえずそう答え、結論を先延ばしにする。
「了解だ、ただ一つだけ言っておきたい。『探宮部』をつくることは、あたしたちにとって有益なメリットがあるってことだ」
「有益なメリット?」
蒼ちゃんが訝し気な顔をする。
「そうだ。通常なら16歳の誕生日にならないと異界迷宮に入れないのは知っていると思うが、学校管理下の部活動なら年度当初の4月から入れるんだ……」
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あとがき
第28話をお読みいただきありがとうございます。
すみません。諸事情でリアルが急に忙しくなったので
週一更新もしくは不定期更新になるかもしれません。
第一部完結までは頑張りますので、よろしくお願いいたします。
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