第12話 決心
でも、何だって蒼ちゃんは『探宮者』になろうと思ったんだろ?
ベッドに寝ころんで心が落ち着くと、ふと疑問がもたげる。さっきも言った通り蒼ちゃんの性格的に『探宮者』を目指すのは違和感を覚える。
「……もしかしなくても、ボクのせいなんだろうか?」
目を閉じると幼い頃の一場面が思い出される。
『つくもちゃん、探宮者になるの?』
『うん、大きくなったら絶対なるんだ』
戸惑う幼い蒼ちゃんに、公園で特訓(筋トレもどき)を行う小学校低学年の僕は自信満々に答える。
『でも、迷宮って怖いとこだって聞いたよ』
『そりゃ怖いさ、それが迷宮だもの』
『わたし怖いとこ行きたくない』
蒼ちゃんは、ぶるぶる震えて僕の服の裾を掴む。
『? 何であおいちゃんが行く話になるの?』
『だって、つくもちゃん迷宮に行くんでしょ?』
『そうだけど……』
『なら、あおいも行く。つくもちゃんと一緒にいたい』
蒼ちゃんは震えながらきっぱりと言った。
『あおいちゃん?』
そのころの蒼ちゃんは僕がどこへ行くにも一緒について来たがっていた。お父さんが病気で寂しかったのかもしれない。
『駄目?』
『ううん、駄目じゃないよ。じゃ、一緒に探宮者になろう』
『うん、なる』
『わかった、約束するよ。迷宮で必ずあおいちゃんのこと守ってあげるから…………』
「必ず守ってあげるから…………か」
幼い頃の自分が口にした言葉を
どれだけ、それが大それた宣言だったのか、今のボクならよくわかる。
とてもボクごときでは蒼ちゃんを守ってあげることなんて出来やしないことを……。
「くそっ」
悔しくて僕は枕に八つ当たりをする。
自分の情けなさに涙が出そうになった。
「あれ……?」
ベッドで暴れた時に偶然触れたのか例のステータス画面が目の前に現れている。
「ステータスか……」
ボクは浮かび上がった画面をじっと見つめた。
そこに記されているのは、攻略サイトにも詳しい情報がほとんど載っていないLR《レジェンドレア》の『魔王』という
存在が知られているだけで詳しい情報が無いってことは、この
「……決めた」
子どもの頃にした約束通り、蒼ちゃんを守ろう。怖いけど、それがボクの本心だ。そのためには、少しでも経験値を稼いでレベルアップしなきゃ。
ボクは久しぶりに例のローブを身に纏うと『証の腕輪』を腕に嵌める。
「特訓だ!」
◇
お出かけミッションの翌日、いつものようにボクの家に訪れた蒼ちゃんは、前日のことなど無かったかのように今までと変わらぬ様子で接してくれた。そして、にこやかに『つくも君美少女化計画』第二ステージの開始を宣言したのだ。むろん、ボクに拒否する権限は無い。
昨日の件については後ろめたい気持ちもあったし、何か言われるのではないかと怖かったけれど、蒼ちゃんは何も触れてこなかったので正直ほっとした。
ごめん、蒼ちゃん。特訓の成果が出て探宮者として戦える目途がついたら、すぐにでも蒼ちゃんの申し出を受けるつもりだから、もう少しだけ時間をください、心の中で蒼ちゃんに謝った。
え? 蒼ちゃんに「迷宮復元」しないことを素直に告白すれば彼女も納得するんじゃないかって?
ボクもそれを考えなくもなかった。でもそれだと、きっと蒼ちゃんのことだ。ボクの命の危険があると知ったら、ボクを迷宮に誘うことを絶対に諦めるだろう。けど、ボクとしては自分のいない場所で彼女が危険な目に遭うのを黙って見過ごすことなんて決して出来るわけがなかった。それなら、いっそ迷宮に入って自分が死んだ方がましとさえ思う。
だから、「迷宮復元」しないことを蒼ちゃんに告げるつもりは無かったし、実のところ特訓云々に関係なく蒼ちゃんの申し出を受けるつもりでいたのだ。特訓にかこつけて返答を先伸ばしにしているのは自分の心を納得させるための手段というか言い訳に過ぎなかったように思う。
そして、特訓することを決意したあの日から、はや三日。昼間は蒼ちゃんの『つくも君美少女化計画』を遂行しつつ、春休み中の妹のさくらの面倒も見る毎日であり、特訓する時間など無いに等しかった。なので、母が帰宅し皆で夕食を食べて蒼ちゃんが帰宅した後、自室に籠る時間になってから寸暇を惜しんで迷宮に潜った。母さんやさくらには入学に備えて中学時代の復習をするから邪魔しないでと言ってあるので、そうそうバレることは無い。
さて、特訓の成果は言うと、ボクの感覚としては最初に比べ動き方や戦い方が経験や慣れにより安定してきたような気がしている。それなりに強くなったとは思うが、目に見える形での能力値の変動はステータス画面に現れていない。そもそも、異界迷宮のシステム(?)ではレベルアップによってHPやMP、SP等は上昇するが、基本能力値が上がるのは稀なことなのだ。それこそ何十レベル単位で、ようやく能力値が上がっていくと聞いている。よって、プレイヤーの差はレベルより得ているスキルによるとことろが大きい。なので、
ちなみに
魔王は前にも言った通り『LR』で、存在自体は迷宮内に残された文献や資料などから、わりと知られた存在だったが実際になったと言う探宮者は一度も聞いたことがない。なので、ボクが迷宮デビューしたら、一躍注目の的になるのは間違いなかった。確実に面倒なことになるだろうと予想され、今から戦々恐々としている。
「はぁぁ……今日だけは学校に行きたかったなぁ」
ぼそりとボクは本音を洩らす。
今日の午前中にボクの卒業した中学校の離任式があったのだ。
3年生の一年間一心不乱に勉強していたのと、前に話したボクの性格もあって仲の良かったクラスメートは少な……ほぼいなかったけど、全くのぼっちという訳でもない。少ないなりに交流があった友達もいて、最後ぐらいもう一度会いたい気持ちもあった。
また、受験関係で無理を言って大変お世話になったクラス担任が、この4月に他の中学校に異動するとも聞いていたので、感謝の気持ちも伝えたかったのだけれど、今のこんな姿で学校に行ける筈も無く、貯まった鬱憤を異界迷宮にぶつけているという状況な訳だ。
「それにしてもモンスターの強さを上げても何とか戦えているのは、さすが
どうやら、『魔王の邪眼』レベル1の感覚鋭化のおかげだろうか相手の動きがよく見え、以前より各段に戦闘が楽になっていたのだ。
なので、スライム相手では思うように経験値が得られなかったことから、ボクは防衛モンスターの強さを上げることにした。なので、今戦っている相手はスライムでは無く、同じ1レベルモンスターだが経験値がスライムより高い
「そりゃっ!……よし」
無駄の無い動きでスケルトンに一撃を加えるとガラガラと崩れ落ちる。そして散らばる骨の中に魔結晶があるのを見つける。他のアイテムはドロップしていないようだ。魔結晶を拾い上げているとスケルトンの残骸が光の粒子となって消えていく。基本的に倒されたモンスターは一定期間が立つと、素材以外はこのように消えてしまうため、異界迷宮内は総じて綺麗な状態が保たれている。
「さて、一旦部屋の外に出て、もう一戦するか」
防衛モンスターは、この部屋から出て再度侵入すると
「よし、レベルアップのために頑張るぞ!」
ボクはショートソードを握りしめると、再戦するために部屋を出た。
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