闇の児童相談所 〜影の章〜

@kkk-777

第1話

何の変哲もない、どこにでもあるアパートの一室。

そこから聞こえるテレビからの音……。


「現在、我が国の幼児虐待件数は年々右肩上がりに増え続けています。しかもこの件数ですら氷山の一角であり、実際にはその倍いや三倍はあると思われます」

「そしてある調査によれば、日常的な虐待は全て夜に行われており、その夜の対応として虐待緊急対応ダイヤルを全国に設けておりましたが、その電話は様々な問題を抱えた母親達の窓口としては余りに小さく、また対応に関しても充分なものとは言えないものでした」

「そして多くの母親がここに電話をする事を諦めるのが現状でした」

「この為、都として全国に先駆けてこの問題の解決をする事を目的とする施設を新たに設ける事にしました」

「そしてそこでは夜間専用の虐待緊急対応窓口として、育児に問題を抱えている母親や、虐待をしていると思われる家庭への通報等を専門に取り扱おうと思っています」

「こちらの施設に関する詳細につきましては、後日都のホームページに記載したいと考えております」

「そして更に……」


最近就任した新しい女性の都知事が、ニュースでそう語っている。


『いよいよ始まるのか……この時をずっと待っていたよ……』


 そのアパートの住人は不気味に微笑んでいた……。



 そしてその住人は幼い頃の友との会話を思い出していた。


「……誠、俺達で先生の事を助けよう」


「助けるってどうやって?」


「それをこれから考えるんだよ!」

「長い長い時間掛けて!」

「とりあえず誠は頭いいんだから勉強頑張れよ」

「そして二十歳の歳になったらまた再会しよう」

「それまでに俺が何かいい案考えとくから……」


(でも……僕は知っていた……)

(先生の罪の事……そして先生が僕に託した事を……)

(でも僕は友にその事を言わなかった……)



 それから数日後……

 ここは都内にあるとある虐待対応相談窓口。

 今日もいつもの様にひっきり無しに電話が掛かって来ている。

 そこの休憩所で職員達が会話をしていた。


「しかし毎日毎日電話多いよね」


「本当そう!」

「しかもほとんどが愚痴ばっかり」

「そんなに愚痴ばっかり言うんなら産まなきゃ良かったじゃんね」


「そうそう」

「特にここなんて人口も多いし、子供預かる場所だって殆ど無いじゃん」

「おまけに核社会で助けてくれる人も殆どいないし、身内だって最近は助けないところが増えてるって話じゃんか」


「そうだよ!」

「子供育てるのにこんなに大変な環境なんだからさ、もう少し都も考えてさ、託児所とか保育園とか増やせばいいのにそれすらしないじゃん」


「そういえば都って言えば、この間ニュースでやってたけど、あれ本当かな?」


「あれって?」


「夜間専用の虐待対応ダイヤルの事よ」

「都のホームページ見たんだけど、それらしい情報が無いのよ」


「情報が無いってどういうこと?」


「うーん、内容とかは書いてるんだけど、最後のその対応ダイヤルの記載が無くてさ」


「ダイヤルの記載が無い⁉︎」


「そうなのよ!」

「でもその代わりにそこの対応者のダイヤルが書いていて……それが何とあの影山コールセンタ―長の名前なのよ」


「どういうこと?」

「何であのほとんどいないコールセンター長の名前がそこに記載されているの?」


「そうなのよそこが謎なのよ……」

 

 影山は、都内の児童相談所緊急対応ダイヤルのコールセンター長として働いていた。

 だが、日中は殆ど姿を現さずに殆どの業務指示は副コールセンター長である野々山真二が行っていた。

 そんな影山の事は職員達の間で噂となっていた。

 殆ど仕事をしていないのにコールセンター長という立場にいるということ。

 そんな影山の事を都知事のお気に入りだからだと言う人もいた。

 都知事の弱みを握っているのでは?と勘繰る人もいた。

 それだけ影山という男はそこのコールセンターにおいて異質な存在であった。

 そして更に言えば、副コールセンタ―長の野々山がその事に疑問を抱かず、むしろ影山に従っているその姿に、周りの職員は疑問しか抱けなかった。


 だが、野々山だけは真実を知っていたのだった……。

 そして野々山は人知れず影山に連絡をする。


『誠さん、そちらの案件発生しましたのでダイヤルを送っておきました……』



 影山は実は同じコールセンター内にいた。

 誰も知らないそのコールセンタ―に秘密裏に作られた地下の施設に。

 そしてその施設は主に夜に開けられるのだった。



「もしもし、緊急対応ダイヤルに掛けたらこちらのダイヤルを案内されまして」


「はい、こちらで大丈夫です」

「こちらは夜間専用緊急ダイヤル兼、真の虐待専用ダイヤルとなっております」

「まずはあなたが見たまんま感じたまんまの事を話して下さい」

「その真偽はこちらで確認致しますので」


「はい」

「実は私は都内にあるとある古いアパートに住んでいる者なのですが、自分の隣の部屋からたまに男の人の怒鳴り声と子供の悲鳴を聞く事があります」

「それで一度児相に通報したのですが、児相が言うにはその部屋には子供はいなかったと言うんです」

「でも私は確かに聞いたんです」

「子供の悲鳴を」

「ただここ最近はその声が聞こえなくなりました……」

「でもその代わりに不気味な物音を夜に聞く様になりました」

「何て言うか鎖?が何かに擦れるような不気味な音……」

「でもこんな事話しても相手にもされなくて……」


「……わかりました」

「後はこちらで確認します」

「あなたはもうこの一件には関わらないで下さい」

「これ以上首を突っ込むとあなたに危害が及ばないとも限りませんので」

「それでは……」


 それだけ言うと電話の相手は電話を切られたのだった。


 その後影山は数人の様々な年齢の男女と共に話し合いを始めた。


「さて皆さん、今回の一件どう思いますか?」


「……間違いなくクロだな」

「おそらく子供は監禁されていると見て間違いないだろう」


「やはりそうですか……」

「そうなるとまずは状況証拠と聞き込みですね」

「そうなると……コウさん、まずはいつもの様に情報収集と人物調査の方をお願いします」


「わかりました」


「それとジンさん、キョウヤさんに盗聴器を渡して下さい」

「キョウヤさんはそれをターゲットの部屋の中にセットして下さい」


「わかりました」


「とりあえずまず最初の手としてはこんなところでしょう」

「それでは皆さん宜しくお願いします」



 翌日、刑事がターゲットの部屋を訪れた。

 刑事はその部屋の呼び鈴を鳴らすと、部屋の中から妻らしき人物が出て来た。

 刑事は、持っていた警察手帳を見せながら話し掛けた。

「すみません、この近くで強盗事件があったもので、少し話を伺えませんか?」


「はぁ……」


 その妻らしき人物は刑事に言われるがまま、ドアを開けて玄関で刑事の聞き込みに協力したのだった。


 

その日の夜、影山はまた全員を集めた。


「それでどうでしたか?」


「この部屋の住人は一言で言えばクズ夫婦ですね」

「今までも何度か児相が尋ねて来てますが、上手に逃れてます」

「まずはこちらの写真をご覧下さい」


 コウはそう言いながら写真をそこにいた全員に見せた。

 そこには身体中に痣のある子供が写っていた。

 そしてその中にはタバコを押し付けられた痕があるものもあった。


「こちらはとあるところより入手した写真です」

「この写真からもこの部屋には酷い虐待をされている子供がいるのは間違いないです」

「にも関わらず児相に今まで連れて行かれていないのは、間違いなく子供を監禁しているからだと思われます」

「どうやら児相には子供は病気がちで長い間入院していると嘘をついていた様です」

「そして同じ理由により学校には通わせていないと」

「児相もこれ以上の詮索は出来ずに諦めた様ですが……逆を言えば助けの声も出せないぐらいの状況にあるのは間違いありません」


「……成程……一刻の猶予も無いって事ですね……」

「ただまだ証拠が弱いです」

「せめてどこにいるかわかればまだ何とかなりそうですが……」


「誠さん、それに関しては大丈夫です」

「昨日キョウヤさんに仕掛けてもらった盗聴器からいい会話が拾えました」


 ジンはそう言いながら、盗聴した音声を全員に聞かせた。


「アンタおかえり」

「ああ、何か変わりはないか?」

「まだ死んではないか?」


「まだ大丈夫」

「ちゃんとご飯も与えてるし、ギリギリ生きてるよ」


「ふん!」

「そもそも子供手当の為にガキ一人生かさなきゃいけない何て面倒な世の中だ」


「でもこの子がいるから国からも金貰えてんじゃないか」

「だから死なせちゃダメなんだよ」


「それはわかってるけどよ……」


「とにかくこの生活守る為にももう少し協力してよ」

「だから絶対殺しちゃダメだからね」

「アンタはすぐ酔うと子供に暴力振るうところあるから」


「わかってるよ……」


 その盗聴器からの音を聞くと、影山は拳を握りしめながら鬼の様な形相となっていた。


「コイツら……本当に親なのか!」

「子供を……子供の事を何だと思ってる!」


 その静かに怒る影山を見ても周りは、黙って何も言えずにいた。

 それから少しして影山は冷静さを取り戻した。


「とりあえず間違いなく子供はこの家にいる」

「だとすると一番怪しいのはどこだ?」


「……その件に関しては私の方で既に確認済です……」


 ユキは子供の居場所を影山に話した。


「そんなところにか……」

「大胆というか何と言うか……」

「でもありがとう……さすがは元一流スパイです」


「……ありがとうございます……」


「皆さん、これで全ての準備が整いました」

「後はナイトフォレストにこの情報を渡して明日決行してもらう事にします」


 そして影山は全ての調査結果をまとめて、いつもの場所に置いた。

 それから数分後の事だった。

 影山の携帯電話が鳴った。

 影山は電話に出た。


「久しぶり誠」


「涼子姉ちゃん、急にどうしたの?」


「実はさ、健人の監視役にいい子見つけちゃってさ、でスカウトしたのよ」

「だからおそらく明日辺りナイトフォレストに下見に行くと思うのよ」

「それでさ……」


「そのタイミングで俺達の仕事を見せて適性を見るって事ね」


「やっぱり誠は話早くて助かるわ〜」


「……あのさ姉ちゃん……こんな事あんま言いたくは無いけど……俺達の仕事ってそんなみんな受け入れられるもんじゃ無いからね」

「健人もそれわかってるからスカウトには慎重だし……」


「わかってるわよそんな事」

「でもさその子実は……」


「その話本当⁉︎」

「先生の最後の教え子だって⁉︎」


「私もびっくりしたけど、ちゃんとしたところからの情報だから間違いないわよ」


「それが本当なら……確かに健人の力になるかも……」

「姉ちゃん……この件俺に預からせて」

「健人には俺から話するから」


「わかったわ……」



 翌日、影山の施設に健人は来ていた。

 影山は昨日の涼子から聞いた話は言わずに、ただ涼子が推薦した人物が明日訪れるという事と、今回の虐待の一件に関する自分の提案を健人に話した。

 健人はとても困惑していたが、そんな健人に対して影山は強くお願いした。

 

「その子の適性を見極めたいから一芝居打ってくれないか?」

「もしそれで怯んだり、この仕事を理解出来なかったり、あるいは軽蔑したりしてたら俺から涼子姉ちゃんに対して進言することを約束するからさ」



 そして翌日、その女性はナイトフォレストを訪れていた。

 健人はナイトフォレストの全職員に前日から指示をあらかじめ出していた。


『明日は昼の会議はしない』

『今回の案件は打ち合わせする程の内容でも無いから、情報だけ回しておくから各自読んでおいてくれ』

『そして今日おそらく新しく人が来るけど、俺はちょっと事情あっていつものところで寝てるから、後は各自朽木の指示に従ってくれ』

『そして同じくちょっと事情ありで緊急アラームを今日は鳴らすからみんなそれに合わせて動く様に』

『詳しくは次に送る指示書を見てくれ』


 そしてナイトフォレストの全職員は健人の指示に従って各自芝居を打つことを決めたのだった。



 その女性はその芝居の中に気付かずに入れられていた。

 そして全てが影山の予定通りに運んでいた。

 影山はターゲットのアパートから離れた車の中で、あらかじめ職員に持たせていた小型の監視カメラで中の様子を見ていたが、ここで思わぬ事が起こった。

 その女性と健人が急にターゲットの部屋の中で揉め出したのだ。

 その光景は今まで影山が見たことが無い光景だった。


(何だこの女性は……)

(健人に対してあそこまで詰め寄るとは……)

(これは本当に健人の暴走を止める存在になるかも……)


 だがその女性はすぐに拘束された。

 そしてまたいつも通り健人は仕事に取り掛かった。

 だが、健人もまたその女性に何かを感じた様で、急に拘束を外すとその子供が監禁されてた場所に連れて行った。

 その女性はその子供の余りにも凄惨な姿に驚いていた。

 そしてしどろもどろになっていて同じ職員から行動を止められていた。


(……やはりか……)

(中々理解はされないよな……)


 影山は車の中で深い溜息を吐いた。


(最初に見せる現場にしてはここは少しハード過ぎたのかもな……)


 影山はこの現場を見せた事を少し後悔していた。

 だが直後、影山は自らの目を疑った。

 その女性が外に出た瞬間、また健人に突っかかっていたからだ。


(驚いた……)

(あの現場を見てもこの女性の目は死んでいない)

(普通の女性ならあんな現場を見た後であんなに怒りの感情をぶつける事なんか出来ない)

(この女性ならもしかしたら……)

 

 影山は一縷の希望を抱き、車から降りてその女性の元に歩いて行った。

 その女性の元には既に冴島都知事が来ていた。

 そして冴島知事はその女性と健人と話をしていた。

 影山はその場所にゆっくり歩いて行った。


「そうだぞ健人」

「俺達はあくまで仕事で来てるんだからな」

「別にお前のお守りで来てる訳ではないんだからな」


 影山は健人を見るなり諭す様にそう言った。

 この仕事という言葉には本来の闇の児童相談所という言葉と共に、今回の見極めという言葉の意味もあったのだ。

 そして影山は、初めて見たかの様に振る舞いながらその女性に声を掛けた。


「あっ、申し遅れました」

「私は影山誠と申します」

「健人とは仕事仲間の様な腐れ縁の様なそんな感じです」


 その女性は影山を見て明らかに硬直している様に見えた。

 影山はその様子を見て、意味ありげに更に微笑んだ。

 そしてその後、影山は女性と健人と冴島知事の話しているのをただ黙って見ていた。

 それは、影山にとって自分が描いた通りの言葉の応酬が目の前で繰り広げられてる様子をただ見ている時間でもあった。

 そしてそのやりとりを見ながら影山は確信しつつあった。


(この女性なら大丈夫だ)


 そしてその女性は自分の過去を語り出した。

 だが実はその事も既に影山は知っていたのだった。

 涼子から聞いた直後にその女性の事をコウに調べさせていたからだ。

 そしてその女性が過去を語り終わった後で、健人は泣き出した。

 

(そっかー……健人は知らなかったんだな……)


 影山は、実はこの時まで健人も先生の罪の事を知っているもんだと思っていた。

 そしてそんな健人が意気揚々と仕事へのモチベーションを揚げた直後にその女性は健人に尋ねた。


「だから〜ちょっと待ってよ!」

「何でこんなことしてるのかまだ私何も聞いてないから」


 その言葉を聞いて影山は重大な事に気付いた。


(そっかー……この女性は本当に知らないんだ……)

(今のこの国でどれだけの子供が犠牲になっているか……)

(この女性に真実を教えるのは……俺の役目か……)


 そして意を決した影山は、静かに内にある怒りを抑える様に話し始めた。


「八割、これが何の数字かわかりますか?」

「児相が今まで保護して戻した児童の割合です」

「児相は保護までしか出来ない」

「もちろん無能過ぎる親であればその状況で戻すことが出来ない状態だと判断し、そのまま親権放棄も可能です」

「だが実際は、親権放棄までになるケースは一割あるかないか」

「でも保護出来ずそのまま児童虐待で死ぬケースは三割以上だ」

「それでもこの国は何もしようとはしない!」

「なぜならこの国では親が絶対的正義であり、子供はその正義にただ守られる存在でしかないという考えの人間がほとんどだからだ」

「だが現実には必ず親の責務を果たしている親ばかりではない」

「むしろ中にはその絶対的正義の地位を利用して、子供を不幸にしている親も実際にいる」

「ならばそんな境遇にいる子供達を真に守るにはどうすればいい?」

「そう、そんな親からは子供を奪って、親権を放棄させてしまえばいいんだ!」

「そして完全に安全な施設を親代わりとして子供を育てる」

「これこそが本来児童相談所が行うべきことなんだ!」


 言い切った後で影山は気付いた。


(……ちょっとキツく言い過ぎたかな……)

(こういう話になると自分でも信じれないくらい感情が抑えれない……)

(どうしよう……これでやっぱりこんな仕事は嫌だとか言い出したら……)


 影山は自分が話した内容について後悔していた。

 そんな影山の思いを知ってか知らずか、冴島知事が話し始めた。


「そう……国は何もしない……」

「何か新しいことをすると、必ずその反発を喰らうから」

「だから何もしない。でもそれは自治体であればどこも同じ……」

「だから私達は作ったの」

「国も自治体も関係ない民間の機関を」

「健人が率いるナイトフォレスト、そして誠が率いるナイトケージ、そしてそこに都の力を持った私の三つの機関で構成された全く新しい機関」

「それが闇の児童相談所なの」


 その冴島知事の強い意志を聞いて、その女性は何かを感じ取った様に影山には見えた。

 その様子を見た影山は、後は冴島知事に任せる事にしてその女性に軽く挨拶をして自らの車の置いてあるところに戻って行った。


(涼子姉なら上手くあの女性を説得してくれるはず……)

(あの女性が健人の抑止になるならこれ程助かる事はない……)

(だって俺は健人には逆らえないから……)


 そして影山は車を走らせながら、自分の過去を思い出していた。



 影山は元々裕福な家に生まれた子供だった。

 だがその暮らしは影山が六歳の時に崩壊した。

 きっかけは父親の不倫だった。

 そして母親は幼い誠を連れてその家を出たのだった。

 最初は母親は誠に愛情を注いでいた。

 だが、元の父親から莫大な慰謝料を手にした後、徐々に母親は女としての輝きを取り戻そうとし始めた。

 そして次第に誠に対してネグレクトをし始めるのだった。

 何日も遊びに行って帰って来ない日もザラにあった。

 誠はそんな中で母親が置いて行った食費で自ら生活を始めた。

 そんなある日小学生ぐらいの子供が、毎日買い物をしている事が近所で噂される様になり、その噂が児相の耳に入ったのだった。

 そして児相の調査が入った。

 その結果、ネグレクトとの判断が降り、誠は児相の職員に連れられるままとある施設に預けられる事となった。

 そこは都会より遠く離れた山の上にあり、そして学校の様に授業も行っているところだった。

 その施設の名前は【希望の郷】。

 そしてそこで影山は運命的な出会いを果たすのだった。

 その施設にはそこで幼い頃から育った健人と言う名の少年がいた。

 そしてその健人は、大人でも手を焼く程のいわゆる悪ガキと呼ばれる存在だった。

 影山は最初に健人と最初に会った時に思った。


(何だコイツ……見るからに頭の悪そうな奴だな……)

(ここで育つとこうなるのか……嫌だな……早くお家に帰りたい……)


そして影山は数日の間、誰とも遊ばずにただ一人で毎日読書する日々を送っていた。

いつか母親が迎えに来てくれると信じて。

そんなある日、一人で本を読んでいる誠に対して健人が話し掛けて来た。


「おいお前!」

「ママがもうすぐここに来るとか思ってんじゃないぞ!」

「親なんて存在なんかはな、子供の事なんか何も考えちゃいない存在なんだ!」


 急にそう言って来た健人に対して、影山は怒りを露わにして答えた。


「うるさい!」

「お前なんかと一緒にするな!」


 そして二人はその場で取っ組み合いの喧嘩をし始めたのだった。

 その騒ぎを聞きつけて、施設長が喧嘩の仲裁に入った。


「やめんか!」


 そして二人は共に施設長からゲンコツと説教を喰らったのだった。


(クソッ!)

(こんな奴のせいで僕までとばっちり喰らったじゃないか……)

(でも……何かこうやって喧嘩したの始めてかも……)


 そして影山は改めて色々思い出していた。

 それまでの影山の人生において、誰かに怒られたりこうやって感情を剥き出しにして向かって来たり、ましてや喧嘩をするなんて事は無かったのだった。

 影山はそれまで親に甘やかされ、幼稚園では保育士達や友達に恵まれていた事を始めて知った。

 そして、両親の離婚後の新しい学校では、実は誰からも相手にされてもいなかった事にこの時始めて気付いたのだった。


(何でコイツは僕に突っ掛かって来たんだろう……)


 そして影山は仲直りを強制的にさせられた後で、健人に話し掛けた。


「ねぇ……何で僕なんかに話し掛けて来たの?」


 すると健人はこう答えた。


「……何か寂しそうだったからかな……」

「なんて言うか……本当は仲良くしたいのにわざと孤立しよう孤立しようとしてる感じがちょっと鼻に吐いた」

「それだけだよ!」


 健人は少し恥ずかしそうに影山に答えた。

 その時影山は改めて気付いたのだった。

 両親の離婚後、色んなものを遠ざけ始めたのは自分だった事に。

 そして、明らかに母親に対して冷たい態度を自分が取っていた事にも気付いたのだった。

 そして影山は気付いてしまった。

 自分が母親を孤独にさせてしまっていた事。

そして母親はその罪の重さからネグレクトを開始し始めた事に。

 そして影山は自分自身が今まで気付かなかった事を感覚で感じ取った同い年の少年の事を素直に尊敬したのだった。


「君……名前は?」


「俺? 俺は蔵馬健人だ。健人って呼べ」


「僕は影山誠。改めてよろしくね」


「お……おう」


 そして二人は固く握手をしたのだった。

 それから二人は一緒になって悪さをする様になった。

 悪さをしている時だけ、影山は嫌な事を全て忘れることが出来た。

 それからしばらくして、お目付け役として一人の年上の少女が二人を見張る様になった。

 その少女は時には二人の悪さを止めたり、時には一緒に加担したり、時には一緒に怒られたりする様になった。

 そしていつしか三人はその施設でもとても仲のいい悪ガキとして、大人達から注目を集める存在となって行ったのだった……。



 その翌日、野々山からの予想通りの連絡を影山は受け取っていた。


『予想通り電話掛かって来ました』


 そして影山はその電話に出た。


「もしもし、昨夜訳のわからない連中に子供を奪われました」

「こんな事許される事ではありません!」

「おそらくどこかの児童相談所にいると思う私の子供を探して下さい!」


 その電話の主に影山はとある音声を聞かせた。

 それはその電話の主が子供を虐待している時の音声だった。

 電話の主はその音声を聞きながら電話越しでも絶句しているのが手に取る様にわかった。

 そしてその様子を電話口で感じ取った影山は、微笑みながらその電話の主に伝えた。


「貴方方がした事は全て記録されています」

「これを警察に渡したらどうなるかはわかっていますよね?」

「でも我々は別に貴方達に恨みがあるわけではありません」

「貴方方は今まで通り普通に生活して下さい」

「ただこれだけは言わせて下さい」


 そこまで言った後で、影山は急に怒りの形相となって電話の主に伝えた。


「貴方方には子育てをする資格はありません」

「いやそもそも子供を持つ資格すらありません」

「それだけの事を貴方方は子供にしていました」

「その事だけは死んでも忘れるんじゃねえぞ!」


  そしてその後、再び微笑みながら電話の主に伝えた。


「子供の事は何も心配しなくて大丈夫です」

「貴方方の子供は子育てのプロのいる施設にて我々が責任を持って保護しています」

「もし大人になって……いやあり得ないか……」

「だからもう貴方方の元には子供は帰らないと思っていて下さい」

「それじゃー……」


 そして影山が電話を切ろうとした瞬間、その電話の主は震える様な声を振り絞って影山に尋ねた。


「アンタ達は一体何者なの……?」


 その問い掛けに影山は不気味な笑みを浮かべて答えた。


「我々はナイトケージ」

「全ての子供を虐待から救う為に闇の児童相談所に汲みする存在」

「そして……ナイトフォレストの活動を支援する影の存在です……」

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