第18話 地球なら再現する自然ものそのままで良いよね

本日2話目です

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 地球人たちが地上に慣れるための生活を始めた一方で、イリーナ達はそれをサポートしながらも、急ぎで地球全体に形成する予定の生態系についての取り決めを行っていた。


「元が地球だってわかったんなら、各地の特性については元の地球と同じにしちゃおうか」

「つまり、エリアごとの気候や再生させる自然環境はかつての地球に近いものにする、ということですか?」


 マリーの言葉にイリーナが頷く。

 当初の予定では2人は、惑星の元々の地形や環境がわからなかったので、他の生命の存在する惑星での状況を基準に大まかに設定し、後は自然淘汰に任せようと考えていた。

 多少間違えたバランスで生態系を設置したところで、自然というのはそれを勝手に修正してくれるものだ。

 数年も経てば間違えていた部分は次第に正しいものに侵食され、あるべき形、最も適当な形に変化していく。


 まあもっともイリーナ達が生態系を作る場合はナノマシンをエネルギーの代わりとして使うので、自然界の競争の激しさもそれなりに増してしまうのだが。

 自然環境的にそこに生育する可能性の低い植物でも、ナノマシンの力によって成長してしまう、と言えばいいだろうか。


 自然界全体が以前までの地球の自然界と比べて強力なものになるのが、ナノマシンをこの星中に散布した恩恵だ。


「わかってるならある程度それで形作って、モンスターとか生物もそれぞれに合わせて考えたほうがいいかなって。もちろん特に格のあるモンスターとか自然の具現化としての能力を持たせるモンスターのいる場所の環境は特別なものにするつもりだけど」

「確かに、全て推定で組み立てるよりはいいかもしれませんね。まあ、イリーナがかつての地球を少しでも残したい、というのはわからないことでも無いですし」


 マリーの言葉に、イリーナはビクリと肩を揺らす。


「……やっぱり分かる?」

「当たり前です。昨日までは人工知能としての私の演算に任せるって言っていたのに急に変えたら、何かあると思うのが当然でしょう? まあ内容は当てずっぽうでしたけど」


 マリーの言葉に照れくさそうに下を向いたイリーナは、地球に送り出す予定のモンスターのイラストを書きながら、自分の今の考えを説明する。


「この前までは地球なんて未練も無かったし、別に好きなように改造して良いと思ってたんだけどね。地球の人達が頑張って立ち上がるなら、せめてそれぐらいはかつての地球の痕跡を残した方が良いかなー、と思って」

「でも地球の動物の再現じゃなくてモンスターは作るんでしょう?」

「そりゃあね。いくら地球とはいえ私がこの仕事についた目的だし。それに、ナノマシンがある分どっちにしろ自然も人間も昔の地球みたいにならないよ」


 イリーナの中の優先順位としては、やはり自分の夢の達成が第一に入ってくる。

 だがその次、またその次の優先順位には、地球人への配慮とかこれから頑張る地球人への贈り物とか、後はかつての故郷に対する感慨だとかがイリーナの頭の中にはある。


 そして第二、第三の優先度のために、第一を多少妥協しても良いかなとも思うのである。

 もう待ち切れないからこの星、地球にファンタジーを再現したいが、本当はこれから幾度も機会があるので別にここが最後のチャンスというわけでもない。

 

 故にイリーナは、地球人達にせめてかつての地球と同じ環境の分布を残してやろうと思ったのである。

 なおモンスターがはびこる世界で人間が一代でその全てを知るのは基本的に不可能なのだが、イリーナにはその視点はない。

 時々ポンコツをやらかすのがイリーナなのだ。


「まあ、リーナの好きなようにしてもらって良いですけど。あまり時間はかけすぎないで下さいね」

「うん、もう一時間ぐらいで超おおまかにばばっと出しちゃうから」


 そう言ってイラストを一旦脇にどけたイリーナは、衛星写真で撮影した現在の地球をメルカトル図法で平面上に映し出したものに色々と書き込んでいく。


「このあたりとこのあたりには砂漠があって。でこのあたりには確か世界の屋根って言われる高地があったはず。標高4000メートルぐらいだったかな? 自分の国の一番高い山より標高高い高原があるって知って驚いたの覚えてる」

「イリーナが住んでたのはどのあたりなんですか?」

「私はこの辺の、今は海と島がちょっとある当たりかな」


 そう言ってイリーナが示すのは、広大なユーラシア大陸の横、小さな島々がいくつか浮いているだけの場所。


「あれ? でも確か結構広い国じゃありませんでしたっけ」


 イリーナと思考同調したことでイリーナの前世を知っているはずのマリーがこうやって尋ねるのは、一度同調したものでもその当人ではないので、普通に時間が経つにつれて忘れていってしまうからだ。

 一応船の操縦者、メインコンピューターとしてのイリーナには記録されているが、人の姿を取りイリーナと交流するマリーはあえてそのあたりがシュマーレ人と同程度の記憶力に設定されているのである。


「んー、こんな感じでこの辺にあったんだけどね。多分熱核兵器かなんかの影響で沈んじゃったてるんだよね……」


 イリーナはそう言いながら、かつての故郷日本のあった場所をなぞる。

 そこには、島がいくつかポツポツとあるだけの、広大な海が広がっていた。


 

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