第16話 対話

本日4話目です。

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「『私達が提供するのは、自然と生態系だけで、基本的に技術力や科学力を提供するようなことはありません。つまり、その島に移住した場合、あなた方には今住んでいるシェルター程の文化的な生活は、提供出来ません。極端な表現をするならば、自然の中でサバイバルをするつもりで来てほしい、ということです』」


 そう伝えるとコメント欄は一旦沈黙した後怒号のように流れ始めた。

『は? そんだけの技術力があるならそれも提供してくれよ』『普通にシェルター並の生活しか望んでないんですけど』『それならシェルターの方がマシだ』『何故技術の提供が出来ないんだ?』という意見がある一方で、『それでも、自然の中での生活をしたい』『青空を見てみたが感動した、次は植物が見たい』『どこまで出来るかわからないけどサバイバルで良いから空の下に出たい』といった前向きなコメントもある。


 さて、ここからが本番だぞと、イリーナは自分に気合を入れ直して話を続ける。

 

「『私達は、文明の復興に手を貸しに来たわけではありません。惑星の荒廃した環境の改善に来ただけです。今一時的に、あなたたちに文明レベルの高い住居を提供することは可能です。でもどうやってそれを維持しますか? インフラも移動手段も無いこの荒れ果てた星で、どうやって高度な文明レベルを維持しますか?』」


 もちろんイリーナの『ゲームみたいなファンタジーの惑星を作りたい』という思いもあるけれど。

 それ以上に、文明が消えたこの現状でなおシェルターから出て地上で生きたいと願う人々には、相応の覚悟を持ってもらう必要がある。

 少なくとも、そうせず救いを待つだけの者に与えてやるつもりはイリーナにはない。

 それがイリーナがこうして真面目に話している目的だ。


「『皆さんは、新しく変化する生態系の中で、一からやり直さなければなりません。一から文明を始めなければなりません。それでももう一度天の下を歩みたい、先に人類を繋ぎたいという人だけ、今籠もっている場所から出てきてください。それ以外の人は、きっと、今いる場所に閉じこもっていた方が幸せだと思います』」


 宇宙人として超技術を持って、好きなものを好きなときに食べて、好きなように生きることが出来るイリーナが言うべき言葉ではないかもしれない。

 あるいは、どの口が言っているんだという非難を受ける可能性もある。

 そもそもとして宇宙人なんて信用していない人が大半かもしれない。


 しかしそれでも、イリーナはこれを言うべきだと思った。

 どんな世界ゲームの中でも、先に進もうと挑む者たちにこそ、未来が与えられるのだ。

 イリーナはそれを知っている。


「『サバイバル技術の指南ならば私達も支援します。世界中に生態系が広がるまでは、危険な生物のいない島で安全に過ごして貰うことも出来ます。食料も、シェルターにある分なら運びます。それでも、もう一度自分たちの力で生きていきたい。皆さんがそう思ってくれないと始まらないんです』」


 事実、イリーナ達は、文明を完全に復興させるための支援をすることは出来ない。

 当然、文明の産物を作り出すことは出来る。

 なんなら小惑星を引っ張ってきて資源にしながら、無限にナノマシンを生み出して都市をいくつも作ることだって出来るだろう。

 しかしそれは文明ではなく文明の産物に過ぎない。


 文明とは、人と人の交わりの中に生まれる流れそのもの。

 その構成員が動き続けることで回る生き物のようなものだ。

 いずれ立ち去るイリーナ達がぽんと作ってプレゼントすることは出来ない。

 

 地球の人達が、もう一度ゼロからでもやり直すという覚悟と決意を持っていなければ、たとえイリーナ達が改造していないかつての地球の環境が戻ったとしても、人類がかつての繁栄を取り戻すことはないだろう。


「『私達は、同じ高度知的生命体として皆さんに親近感を抱いています。しかしそれでも、私達と皆さんは違う。皆さんは、皆さんの足で立って歩かなければなりません』」


 今このときだけは、イリーナは自分の目的であるゲームのようなファンタジーの惑星を作る、という目的を忘れる。

 自分の目的は、地球人をもう一度立ち上がらせて、文明を作れるようになるまでサポートすることなのだと自分に言い聞かせて語る。


 実際、これほど深くまで関わってしまうならば、そこまで見守るのが筋だろうとイリーナは既に思い始めている。

 たとえそれが100年かかることだとしても。


 やがて、コメント欄にポツポツと反応が帰ってきた。


 『そうだな。俺達が自分たちでやらないと』『いつまでも宇宙人におんぶにだっこじゃ安心してん眠れないしな』『自分たちで文明を作り直すのも悪くないだろ』『私達が人類の生き残りなんだもの、次に繋いでいかないとね』『しんどそうだけど頑張ってみるか』『シェルターの中で飢え死にするよりはましだ』。


 そんな前向きなコメントの群れに、イリーナは笑みをこぼす。

 やはり知的生命体というのは、否、地球の人類というのはこうでなければ。

 技術力ではイリーナ達シュマーレ人に劣るだろうが、先に進もうという意思においては遥かに凌駕していたと、イリーナの記憶の中にもある。


 だから最後に、つい余計な事を言ってしまった。

 

「『皆さん、ありがとうございます。おそらく皆さんが知っている生態系よりも荒々しい生態系になると思いますが、私は皆さんの先に進む力を信じています』」


 その後、コメント欄は今日一で荒れた。

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