第13話 海で隔てられるってやっぱり強いよね
短い休憩を挟みながら、イリーナとマリーの話し合いは続いていた。
「だからさ、もう全員集めて同じ場所で半径1キロぐらいのドーム作ってさ。その中だけ生態系を完成させるとか、出来ない?」
「しかしそうすると、肉食の危険なモンスターと地球人達が同じ空間に閉じ込められることになりますよ」
「それもそっかあ……」
マリーの言葉に、イリーナは頭を抱えて考え込む。
今現在2人の間で交わされている問題点は、一時的に地球人を放り込んでおくために狭いエリアに生態系を完成させるとして、どのようにすれば地球人にとっていい形になるか、という点であった。
単純な話として、これから数十年、あるいは百年近くの時間をかけても良いのなら、イリーナとマリーは容易く地球上を新しい生態系の溢れる星へと変えるだろう。
これについてはもはや頑張る云々ではなく、そもそも荒廃惑星再生者という職業がそういう事をやる職業なので、出来て当然のことだ。
だが今2人が直面している課題は、今この瞬間地下に籠もっている地球人に、少しでも早く、地上を、生態系というものを見せる事。
そして地下から出して青空の元で、数多の命に囲まれて生きていける場所を提供することだ。
もちろん荒廃惑星再生者としての仕事から考えるなら必要の無い仕事だ。
地球人が地下で孤独に死のうがどうしようが、放っておいて生態系をゆっくりと築いてやれば良い。
それが出来ないのは、単純にイリーナが、彼らの状況が辛い状況だと理解できてしまうからだ。
そして彼らを助けたいと考えてしまうからだ。
「うーん、こういうときは課題を分解して考えよう。まず第一に、モンスターを無視して自然環境だけで出来た場所を地球人に提供することは出来るのか」
「出来ます」
これは可能だ。
単純な話で、成長の早い植物を中心にして種を撒いて、少しばかり栄養剤も撒いて後はナノマシンを加速してしまえば良い。
そうすれば、植物だけの環境を提供することは出来る。
「じゃあそこにモンスターを入れるのは?」
「非常に危険だと思います」
「だよねえ……」
今2人が用意できるのは、ごく限られた空間にしか存在しない植物群による環境ぐらいのもの。
生き物を用意することは出来るが、その狭い自然環境の中に生物を放ってしまえば大変なことになるのは目に見えている。
そこでイリーナはふとしたひらめきをする。
「草食の生物だけ、とかは?」
「植物などに加えて、草食の生物だけ、ですか」
「うん。で、場所は広い大地の上に区切った区画じゃなくて、どこかの島にしたらどうかな」
「……なるほど、自然環境と、草食性で人間に危害を加えない生物だけをどこかの島に隔離する、と」
「うん。で、その間に他の場所は一気にバイオフォーミングを進めちゃう感じで」
マリーの言葉に、イリーナは少しばかり考え込む。
イリーナより遥かに優れた演算能力を持つマリーだが、地球人という人種に対する理解力においてはイリーナより遥かに劣っている。
そのため、正確に演算をすることが出来ないのだ。
だから、多分、なんて曖昧な表現を使うことになってしまう。
「多分大丈夫だとは思いますけど……肉食性のモンスターの脅威を知らせなくて良いんですか?」
「そのことについては、ちゃんと説明しないとね。カカポみたいになっちゃったら困るし。いや別に地球人が全滅しても困りはしないけど」
さらりと薄情な事をいるイリーナの言葉に含まれた知らない単語に、マリーは疑問の声をあげる。
「カカポ、ですか?」
「地球の生物の進化の過程で、肉食の地上生物が出現しなかった島があってね。その島に住んでた鳥は飛べない程に太って、危険に対する危機感も全く持たない生き物になっちゃったの」
「なるほど、天敵のいない環境下で進化した島固有の種ですか。確かにそれを考えれば、人間を島の固有種にしてしまえば、しばらくの間生かすことは出来るかもしれないですね」
「うん。それに多分食料に関しては地球人も地下に籠もってる分貯蓄はあると思うから、最悪大自然の中でそれを食べて貰えば良いからね」
こうして、地球人の住処用の島開発が2人のタスクに加わった。
一度方針が決まればその後は早い。
ナノマシンの拡散によって地球の表面の殆どの場所(標高が高い山の頂上など一部を除く)についての情報をマリーは蓄積している。
その中からマリーは、現在のこの惑星『地球』において、最も目的に叶う島を探し出す。
要素としては、イリーナ達の技術力を駆使しての高速での緑地化が可能な程度に狭く、しかしある程度は地球人や放す予定の草食動物がストレスをためずに活動出来る程度には広さがある島。
他にも周辺の島との距離や気候などを加味して、人間の住みやすさを第一に考える。
他の生物はイリーナ達がいくらでもいじって作れるが、在来種の地球人だけはその限りではないのだ。
そうして、マリーは1つの島を選び出し、イリーナに提案した。
地図上でその島を見たイリーナは、おかしそうに笑いながら言う。
「その結果がこの場所っていうのは、何か運命みたいなものを感じるね」
そこは、今では核戦争の衝撃で地形がボロボロになり海岸線などが書き換わってはいるものの、かつての地球の国名であればニュージーランドがあった場所に存在する島の1つ。
くしくも、先述のカカポが生息していた場所にほど近い島だった。
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