第2話 惑星20911252121
《side???》
「あーあ、ついに地上の通信設備が壊れたか」
『これでもうオンゲもできんくなるな』
『ケーブル繋がってる近所しかやりとり出来ないんでしょ』
『もう終わりだよこの星』
『実際終わってるんだよなあ』
そこは、かつては青く美しく、今ではもう荒廃してしまった星。
その星の住民たちは、明日への希望を失い、ただ地下に潜って死ぬまで生きようと惰性の生き方をしていた。
「はー。いよいよ終わりかなあ」
そう言って軽く机を叩く少年もまた、そんな生存者達の1人である。
と言っても両親達が守り抜いて残してくれた命、どうにか有意義に使うことは出来ないものかとあがいているあたりは、他の既に無気力になりつつある生存者達とは少し違っている。
少年はつい先程サーバーがダウンしエラーを吐いたウインドウを閉じ、PCのモニターに広がるスクリーンを見る。
そこには、父と母が生前に地上で撮影したという地球の青空の画像が映っていた。
「綺麗だよなー。青空」
ゲームの中などでも青空を見ることは出来るが、やはり本物は違うなあと、技術が進歩して現実と遜色ないVR空間が生成出来るようになった今でも思える。
もっとも地上は両親がこの画像を撮影した後に勃発した戦争によって完全に破壊され、もはや人が住むことが出来る場所ではなく、青空も分厚い粉塵に覆われてしまって久しいのだが。
いつかは地上に再び戻り、昔はあったという人類の文明を立て直す、なんてことを考えていたが、どうやらそれよりも先に終わりがやってきそうだ。
食料などはまだあるものの、通信が切断されていけば孤独から死を選ぶ者も出るだろうし、少年だけの知恵では見たこともない文明なんてとてもではないが立て直すことは出来ない。
その後夕食の時間が来るまで、少年はぼうっとしながら吸い込まれそうになるような青空の画像をずっと見続けていた。
******
《side イリーナ》
ワープ航法も含めて長い時間をかけた移動によって、ついに再生予定の惑星に到着した。
「これが、私達が再生する予定の……」
「はい。惑星番号20911252121ですね」
星の遥か上空、大きくかけているように見える惑星の衛星の影から星を見下ろす。
望遠カメラでは、その星の汚染のされ具合がありありと表示されていた。
その汚染具合に、前世も今世も、人が生きることが出来るぐらいの環境汚染しか知らないイリーナは若干引きぎみである。
「真っ黒だね……でも確か水があるって話だったよね?」
「全て汚染されているのかと。水も汚染されれば汚くなりますから」
当初聞いていた話と違うかもしれない。
そんな懸念を抱えるイリーナを一蹴してマリーは言う。
取り敢えず、この星の汚染が凄い、と。
「取り敢えず詳細な調査をしないことには始まらないよね」
「はい。ナノマシンを放ってもよろしいですか」
「うん、お願い、やっちゃって」
二人は早速、星の状態について調査をするために、多数のナノマシンを放つ。
ナノマシンはその惑星まで飛翔する間は隕石に擬態して挙動し、地表面に落ちたあたりで分裂して動き始める。
その調査結果が出るまで数日。
二人はどんなゲームを再現したエリアを作るか、幾度も話し合いを繰り返していた。
******
そして数日後。
地表面のざっとした調査の終わった二人は、そのあまりの酷さに頭を抱えていた。
「熱核兵器の多重使用に工業排水による汚染でここまでのことになるの……?」
「地表面がボコボコですよ……それにヘドロが地上にまで……荒廃っていうか汚染?」
「都市部とかは全部粉々になっちゃってるのか。それはそれで凄いね」
まず第一に、おそらく熱核兵器を利用した戦争かなにかがあったのだろう、地表全体が重度の放射能汚染にさらされていた。
さらにその影響か、地表面がクレーターのようにえぐれたり隆起したりむちゃくちゃなことになっている。
そして海で発生したヘドロ。
これが多すぎて川を遡上していたり、更に海中を荒らす何か、多分水中でまた熱核兵器でも使ったのだろうが、それらが地上まで侵食して汚染している。
更に都市部というか、人の生活の痕跡といえるものが全くと言っていいほど存在していない。
ちなみに言っておくが、荒廃惑星の再生プログラムというのはすなわち、かつて一度は荒廃してない時期があり、その時期には生命にあふれていたと判断されるからこそ適用されるものだ。
例えば前世で言うところの水星や金星のような、どうあがいても生命体は無理──金属生命体ですら不可能そうな惑星には再生プログラムは適用されないのである。
その点で言えば、この惑星はかつて一度は命の繁栄を謳歌したにも関わらず、今はこうして死の惑星となってしまっている。
一体当時の知的生命体たちは何を考えていたんだろうか、とイリーナは疑問に思った。
「取り敢えず、どうしよっか」
「まずはナノマシンを使って汚染を取り除かないといけません」
何から手をつけようと尋ねたイリーナに、マリーはそう断言する。
なにかを考える前に、まずそれをしなければこの星は始まらない。
いつまでも死の惑星のままになってしまう。
「そっか、そこからだよね」
「はい、色々と考えられるのは、それらが終わった後でしょう」
まずは放射能を持つ物質を出来る限り回収してそれらは宇宙、この星の場合はいいところに恒星があるので恒星に向けて放流、他の汚染も除去できる限りは除去する、のだが。
「これ、普通に除去しようと思ったら星半分になったりしない?」
「流石にそんなことはない、と思いますけど……取り敢えず分解したものは星に蓄積するようにしましょうか」
「うん、それが良いと思う」
ひとまず、放射性物質などどうしようもない物質は全て星の外に追い出してしまうことにして、それ以外の汚染については分解した後もう一度使えるように星に蓄積していく。
出来ることなら、掘り出される前のような状態に戻すのが文明が再び起こるには良いのだが、それはそれでなかなか難しいだろう。
取り敢えず分解したものを星にもう一度蓄積させるのは、そうしないと星の重量が大きく変わってしまい、この星にかつて存在した生物のハビタブルゾーンから外れてしまう可能性が高いからだ。
「後は大気情報だね。だけどこの星の生物って、どういう傾向にあったのかがわかんないよね」
「そうですね。取り敢えず今は窒素が70%、酸素が20%程、後は二酸化炭素やその他いろいろなガスが存在している、っていう状態みたいです。もちろん場所によっては有毒ガスが飛び出している場所もありますけど」
惑星再生プログラムで難しいのが、全ての惑星、生物が、シュマーレ族やその惑星と同じような成り立ちをしていない、ということである。
生物からして、例えばシュマーレ族やかつての地球の人間は酸素を使って呼吸をしているが、金属生命体とかになると硫黄呼吸を始めたりする。
そうなると、その生物が繁栄できる星の大気構成もまた全く違うものになる可能性が高いのである。
そういう根本的な違いが、惑星再生プログラムを難しくしているのだ。
「へー! 酸素20%とかまるで地球じゃん!」
「地球……先日見せていただいた前世の記憶の惑星ですか」
「そうそう! まあ大気の組成が似てるだけだけどね」
この時、私は気づいておくべきだった。
この星が一体どこなのか。
この広大な宇宙とはいえ、かつて文明が発展した痕跡(破壊痕、汚染痕)があり、全く同じような大気構成をしているような星が、複数存在している可能性はそれほど高くないということを。
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