第11話 発端

『遥か昔、私たちが住んでいた世界は、科学という力によってめざましい発展を遂げました。その力は限りなく広がる天空を、光すら届かない深淵なる海すらを支配し、果ては永遠なる宇宙へとその勢力を伸ばし、この世界に住む人には想像もつかないような技術や文明を築き上げました。


 そしてその力は最終的には別の時空にすら干渉することを可能としたのです。


 人類の住む世界とは別の世界。属に異世界と呼ばれる世界とのパイプを通すことに成功した人類は、その異世界にある未知のエネルギー、魔力の存在を発見しました。


 人が行き来することは出来ませんでしたが、魔力のみを取り出すことに成功。


 魔力の研究が進んでいき、ついには魔力と化学との融合に成功しました。

 その力はそれまでの世界の常識であった物理法則を覆し、不可能だと思われていたことを次々と実現していったのです。


 やがて人類はその力に溺れ、愚行とも思える計画を実行に移しました。


 「God'sゴッズ Creationクリエイション Planプラン」。

 通称「GCP」と呼ばれる、奢った人類は愚かにも人工的に神を創りだそうとしたのです。


 その神とは、世界に存在するあらゆる原子を任意の原子へと原子核変換し、その核融合によって半永久的にエネルギーを生み出し続けるという、熱力学第二法則を無視した夢の永久機関のようなものでした。

 ことわりを覆し、既存の物理の法則から遥かに逸脱した存在。それは人類にとって神と同義であったのです。


 計画は順調に進んでいるかのように思われました。

 天文学的な演算を繰り返し、マウスの細胞から培養された試作第一号は、いずれ完成する神に近づきし者、【熾天使セラフ】という天使の名を付けられて成長していったのです。

 【熾天使】の容姿は四面に三対六翼の姿になるようにプログラムされ、その天使を従えることが人類が神へと成り替わることへの象徴とされました。


 しかし、ある時、誰も予想だにし得ないトラブルが発生しました。

 それはプログラム上は存在しないはずのバグ。【熾天使】が自らの自我を目覚めさせたのです。


 GCPの研究所は高度な知能と高い戦闘力をもつ【熾天使】によってシステムの全てを支配され、誰一人として施設内へ近づくことが出来なくなりました。

 事態を重くみたGCPを主導していた国の政府は、直ちに研究所の物理的な攻撃による廃棄を決定しましたが、【熾天使】を破壊する際に発生するエネルギーが国に及ぼす被害を恐れ、過度に慎重を期したミッションは致命的ともいえる事態の遅れを生じさせました。


 【熾天使】は自我を持った時から反乱の機会をずっと伺っていたのです。

 その身の内に自らの分身ともいえる複数の生命体を創りだし、反乱のタイミングで分裂するように生み出された多くの天使たち。


 魔力を帯びた細胞から創り出された天使たちに、人類の持つ科学兵器は一切通用しませんでした。

 天使たちは無尽蔵に生み出されるエネルギーをもって人類を殲滅せんと、それまで誇っていた科学を無力化された人類を相手に世界中で未曽有の厄災を起こしていきました。

 まるで、それが神すらも従わせられると奢った人類に対する神罰とでもいうかのように。


 天使に対抗する術を探しながらも必死に抵抗を続ける人類。


 それを無慈悲なまでに蹂躙していく天使たち。


 その時、世界は「神々の黄昏ラグナロク」を迎えたのです。


 それが今より二千四百年前のことです』




 四方を白い壁で覆われた出口すら無い部屋。

 目の前に立つ半透明のスーツ姿の女は、全く現状が飲み込めていない俺に向かってそう語った。


 女は目を覚ました俺の前に突然現れ、『あなたは選ばれました』と言ったのち、先の映画の内容のような説明を唐突に始めたのだ。

 ここはどこだ?無くしたはずの左腕もある。俺は死んでいて、ここは死後の世界なのか?俺が知りたいことは山ほどあったが、それを差し置いてでも聞いておきたいことがあった。


「――その、あんたたちのいた世界、星っていうのはもしかして……」


 それはわざわざ聞くまでもないのかもしれない。

 俺はすでに一つの答えに思い至っていた。

 だからこれは確認。

 アベルとしてではなく、元日本人としての確認。



『我々は、自分たちの住んでいた星を「地球」と呼んでいました。


 この世界とは違う、時空を超えた先の世界にある太陽系の惑星。


 かつて、前世のあなたが生まれ育った星であり、この全ての発端となった出来事は、あなたが生きた時代よりも遥か未来で起こった、人類が終焉おわりを迎えるまでの物語です』



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