第12話 希望

「………」

『不思議ですか?何故私があなたに前世の記憶があるのを知っているのか?』

「……ああ。俺はこれまで誰にもそのことを話したことはない」

 そんな馬鹿な話を信じてもらえるはずもないし、ただ頭のおかしな奴だと思われるだけだからな。


『あなたの体を治療する際に、これまでの記憶を調べされていただきました。ですから、あなたが前世も含めてどのような人生を送ってきていたのか、その全てを知っています』

「記憶を……。それに俺の体を治療だと?この腕もお前が治したというのか?欠損部位の再生なんてのは治療の範囲を超えているだろう?」

 欠損した部位が残っていれば何とか繋げる可能性はあるかもしれない。しかし、俺の腕はあの化物の腹の中。なら、今この腕はいったい……。


『あなたの体内に投入したナノマシン細胞が、読み取ったDNAを元に左腕を再構築したのです』

「再構築……。科学の力で作り直した……のか?」

『ざっくりと言えばそういうことになりますね。まあ、単純にそれだけではないのですけど……。それの説明の前に、他の疑問についても説明をしておいた方が良いでしょう。まずあなたが選ばれた理由ですが――』

「そうだ!あの選考とか選抜者というのは何なんだ!?俺たちは何をやらされていた!」

『私たちは長い年月をかけて、天使の力に対抗し得る者を探していました。科学の力が通用しなかった奴らを唯一斃すことの出来る力を持つ者を』

「それが選抜……。いや!それなら何故俺が選ばれる?魔力を使う事すら出来ない欠陥品の俺が!」

『だからこそ――あなたなのです』

「……意味が分からない」

『先ほど私たちは天使に対抗する術を探していたと言いましたね。そして多くの命が失われていく中、ついにその手段を見つけることに成功したのです。奴らを倒すことの出来る力、それは――この世界の人々が使う魔法。それが魔力を素に作られた天使に対抗し得る唯一の手段だったのです』

「魔法……。なら――」

『ならば、何故魔力の扱えないあなたが選ばれたのか?それは、この世界の魔法をもってすらも、完全に天使を斃すことが出来ないという計算結果が出たからなのです。話を少し昔話に戻します。魔法による攻撃、または魔力による攻撃が天使に有効だと分かった人類でしたが、魔法を使える者などあの世界にはいません。そして魔力による兵器の開発を行える程の施設はすでにどこの国にもなく、この世界と繋がっていたのは僅かな魔力を引き込む為の細いパイプラインのみ。とても魔法を使える者に助けを求めることは出来ませんでした。そこで人類が取った手段は、そのパイプラインを通して、この世界にAIを構成するナノマシンを送り込むことでした』

 こちら側に送り込む?何の為に?


『送られたナノマシンは、すぐに予定されていたAIへと構築され、こちらの世界で魔力を流用させることの出来る兵器の開発に取り掛かりました。何度も何度も、気が遠くなるほどの試行錯誤が繰り返され、ようやく魔力を通すことで威力を数倍にも高めることが出来る兵器が完成します。それは剣や弓矢の形をした武器、盾や鎧の形をした防具などです』

「まさか……」

『この世界にあるダンジョンと呼ばれているものは、全てその研究の為に作られた施設であり、そこで見つけられているアイテムはその試作品たちなのです』

 レアアイテムといわれているものが、その天使とやらを斃す為に作られた兵器……。


「じゃあ!何故それをこの世界に人に渡すんだ?元の世界を救う為に作っていたんだろう!!」

 試作品だから必要ないわけじゃないだろう?


「まさか、魔力を持たないあの世界では使えないとでもいうのか?」

 それなら最初から計画自体が破綻していたことになる。


『有限ではありますが、兵器に魔力を充填させることで使用することが出来るようにはなっています。しかし、問題はそこではないのです。


 試作品が完成した頃、



 すでに地球の人類は滅んでいたのです』



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