第6話 制限空域



 手記「能力と代償の関係について」 著者不明


 代償者は、必ず能力と代償の二つを持っている。

 生まれながらに二つ以上の能力と代償を持つ人間はいないが、何らかの物質にそれらを付与する代償者も確認されている。


 「能力」と「代償」は必ずしも釣り合わない。

 例えば、熱を与える能力と熱を奪う代償があった時、以下のパターンがある。

 ・パターン① 能力が代償を上回り、熱を与える。

 ・パターン② 能力と代償が同値であり、変化がない。

 ・パターン③ 能力が代償を下回り、熱を奪う。

 このように、必ずしも代償と能力の効果量に相関性があるわけではない。


 また、極めて稀(私が書くのも恥ずかしいが)に、代償と能力が同じ代償者が存在する。

 この場合、二重に能力を発揮できるのも同義であるため、能力によっては世界さえ滅ぼせるのかもしれない。







「にしてもルソーさん。外国企業とのパイプを繋いでくれるのはありがたいですが...”あの積荷”はどういった用件なんです?公にバレたらどうなるか...」


 ルソーとディアボロ、そして社長、三津原重樹は会社管理空港の滑走路にいた。

 滑走路には三人以外の姿はなく、飛行機は一機も見当たらない。


「だいじょうぶでス。危ないはなイですヨ。」


 紫髪で青と赤のオッドアイの少女...ディアボロもマネするように話す。


「ナイナイ!」


 アメリカの小さな貿易会社のCEO、ルソーさんはだいぶ怪しい日本語で話している。

 やっぱり、早魔さんが本来の取引相手だろうか。ディアボロという少女も取引するような人間には見えない。

 ”積荷”を一つここに輸送するだけで、世界中の民間企業との取引を取り付けてくれる。これが成功すれば、今より様々な種類の食料品、嗜好品を輸出入できるだろう。

 問題は、積荷が....


 三津原重樹は煙草を吹かしながら考えていると、轟音と共に一機の輸送機が見えてきた。


「到着しましたね。あとはそちらに任せます。」


「ありがとうございましタ。」


 これは俺と三人組しか知らない極秘の輸送。そのためにここら一帯は許可のない飛行が禁止されている。スタッフもはけさせた。


「では私は会社に戻らせていただきます。」


「まあまア。見て行って下さイ。」


「...では、お言葉に甘えて。」


 ちょうど、輸送機が着陸する様だ。

 初めて見る機体だ。民間で扱う輸送機にしては妙な気がする。

 あれは...


「ぶ、武装!?」


 ディアボロが輸送機の方を見て手を振っている。

 今まさに着陸しようとしている灰色の輸送機。

 しかし、「民間の」輸送機には違和感のあるシルエットが見える。


「ははハ。あれはかなり高イものでしタ。」


 あまりの衝撃に、咥えていた煙草を落とす。


 6砲身ガトリング砲...M61 20mmバルカンが二門。ただの貿易にしては異常というレベルではない。

 一体何を警戒して...?そもそもあれを入手するルートが!?


 ...。M61 20mmバルカンはアメリカで配備されているものだ。小さな企業が正規の手段で入手したとは考えられない。横流しされたものだろう。

 それに、例の荷物のこともある。

 となると、彼らの本業は「貿易」ではない。最悪の場合、「死の商人」か...?

 もしそうであった場合、現状戦争とは無縁のこの国にわざわざ来たということは。

 考えられることはただひとつ。


 

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不可視火のディール ねむれす @ghostazalea

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