第8話 ピュアボーイ

「ホントに、≪月の雫≫を持ってる、のか……?」


 オレの過去を打ち明けて、その話を知った上で嘘を吐くなんて考えらんねぇし、嘘だとしたら悪趣味すぎる。


 そんなことするわけねぇから、本当に≪月の雫≫を持っている。


 分かっている、返ってくる言葉なんて分かりきってるはずなのに……訊ねずにはいられなかった。


 確証が欲しかった、マリアの口から。


「えぇ、本当よ。お母さんとお父さんから代々受け継いで来た、最後の一つを私が持っているわ」


「マジで……?」


「マジよ」


「よっしゃー! これでやっと、セルアを救うことができる!」


 身体が氷漬けにされてるからガッツポーズはしてねぇが、心ではガッツポーズを決めるオレ。


 そして笑顔になって、マリアとの話を続ける。


「ってか、持ってんなら早くそう言ってくれよ! 必死こいて探してたのがバカみてぇーじゃねぇーか! 目が覚めたセルアと何しようかな? どっかで魔法の修行とかしてぇーな! あっ、でも病み上がりにそれはダメか! なら、一緒に本でも読もう―と! やりたいこと、いっぱいあるな!」


 えへへっ! とオレが笑うと、マリアは優しくオレを見ながら話を聞いていた。


 ……とても温かく、見守られているようだ。


「喜んでいるところ悪いのだけれど、≪月の雫≫を持ってくるのに準備が欲しいの。一週間くらい」


 その瞬間、セルアと何しようかと楽しく考えたオレの思考が、一気に現実へと舞い戻る。


「えっ? ≪月の雫≫用意すんの、そんなかかるの? すぐには持って来れねぇーのか?」


「色々とすることがあるから……だから、それまで待っててくれるかしら?」


 そうか……コイツの親父とお袋から受け継いできたもんだから、簡単に他人に譲り渡すのは説得するのに時間がかかるってことか。


「わかった。待つよ、オレ」


「ありがとう、さて―――」


 そう言って指を弾くと、パリンとオレの自由を奪っていた氷が割れて弾けた。


 霧散していく氷を見ていると、足が地面に着く。どうやら、魔法の解除をしたらしい。


「これで……あなたが貴族狩りをする理由は無くなったわね」


「そうだな。≪月の雫≫は手に入ってセルアは助けられるし、これ以上、貴族狩っても意味は—――えっ?」


 顔を正面に向けると、マリアの顔がなくて、代わりに制服越しから大きくも小さくもねぇ、形の良いおっぱいが目に入った。


 ふと、おっぱいから目を離して顔を上げると……マリアの顔が見えた。


 あれ? コイツ……背デカくね? けど、さっきまでオレと目線一緒だったよな……。


 すると脳裏に、あることが思い浮かんだ。


 ……そうか、さっきは氷漬けにされてたから、氷の厚さ分だけ身長が高くなったと錯覚してたんだ、オレは……。


 つまりオレは、タイマンでも身長も負けたのか……?


 そ、そんなの……そんなのゼッテェーに―――




「認めてたまるかぁああああああ!!」




 秘技・つま先立ち!


「……何をしているのかしら?」


「ふっふっふ……今のオレの身長は175cm! パッと見、172、3cmのオマエに勝ってる! どうだ! 見下ろされる気分は!」


 腰に手を当ててフハハするオレに……マリアがジト目で呆れたように溜息を吐いた。


「見下ろす何も、ほとんど変わらないじゃない。言ってて虚しくならないかしら?」


「うっ……!」


「それにあなたズルしてるし……元の身長に戻りなさい」


 オレの肩に手を置いて、かかとを地面に着かせた。何とも言えない屈辱感に、オレはプルプルと体を震わせた。


「はい、これで元通り。……165cmくらい? 10cmも減ったわね。まぁでも男の子なら、すぐに私を追い越せるくらい大きく―――」


「ゼッテェーにオマエよりもデッカくなるから……」


「今、なんて……」


 オレは指差して宣言する。


「ゼッテェーにオマエよりもデッカくなるから! 覚えとけっつんだよ! わぁったか!」


「えぇ、わかった。それより、あなたが強奪してきた物を出してくれないかしら? 回収したいの」


 テキトーにあしらってんじゃねぇーよ! と、ポケットを探り始める女に注意した。


 それから暫くすると、マリアはポケットを探るのを止めて、急にオレの目を一点に見てきた。


「……んだよ」


「無いわ」


「何がねぇーんだよ」


 次の瞬間、マリアはとんでもねぇ―ことを言った。





「回収する用のマジックポーチが無いわ。お家に忘れてきたかも」





「ズコー!」


 余りにもポンコツ過ぎて、思わず天地がひっくり返ったように、後頭部を地面にぶつける勢いで盛大にこけた。


 はたから見れば、何かの寸劇みてぇーにワザとじゃないとできねぇーように見えるが……マジだ。


 それくらい、インパクトの強ぇーポンコツっぷりだ。


「どうしようかしら……」


「ったく、しょうがねぇーな……」


 頭の痛みを擦ってやわらげながら、オレは立ち上がって手を前に出した。


 空間魔法を発動すると、オレたちの間に先の見えないほど真っ暗な正円が現れる。


 空間魔法を見るのは初めてなのか、マリアは目を丸くさせて心躍っているようだ。顔は無表情だけど。


「準備は完了。後は、この空間魔法の中で生成魔法で、マジックポーチを作って、そん中に貴族共から狩ったもんぶち込めば―――」


 真夜中に似つかわしくない光が、真っ黒い正円の中に誕生した。完成の合図だ。


 その光の強さに、マリアは目を閉じて腕で光を遮った。


 一方、オレは慣れてるから、そのまま正円の中に重力魔法を発動する。


 そこから現れたのは、複数のマジックポーチ。ちゃんと貴族ごとに小分けされていることを確認して、空間魔法を閉じる。


 光が消えたことを察知したマリアは、おそるおそる目を開ける。


「ほら、ご所望の強奪金品入りマジックポーチ」


 宙に浮いてる袋たちを不思議そうに見つめる女の胸の前まで重力魔法で運ぶと、マリアはご丁寧に両手で大切そうに抱えて受け取った。


「ありがとう……本当に助かったわ」


 オレは踵を返して歩き出す。


「んじゃ、一週間後、王都の噴水広場集合な」


「―――ちょっと待って」


 マリアがオレを呼び止め、反射的に振り返る。


「最後にあなたに言っておきたいことがあるの」


「? 何だ? 言っておきたいことって」


「――――――」





 一週間が経ち、昼を過ぎた頃。


 オレは王都の中心にある、噴水広場にてマリアを待っていた。無論、【不殺の金月】としてのヤベェ―怪しい恰好じゃない。


 普通に平民学校中等部の制服に身を包んでる。


 だと言うのに、


「ねねっ、あの子めっちゃ美形じゃない……!?」


「わかるー! スッゴくカワイイ……! それに―――」


「「絶対お姉ちゃん好き好きツンデレ弟っ子だよ~!」」


 オレは道行く女どものキャッキャした視線と会話に……苛立っていた。


 誰がカワイイだって……ふざけんじゃねぇーぞ!! というか、兄貴です~おにぃちゃんなんです~!


 オマエらなんか比較にならないほど、天使でカワイイたった一人の妹のな!!


 そしてオレがデレるのはセルアだけだ! ツンデレじゃねぇーわ、ボケ!! 一生オレは、ツンツンだっちゅーの!

 

 でも、口にしなかったオレ、めちゃくちゃ偉い。



「―――ごめんなさい、待たせたわね」



 そんな声と共に足音が聞こえ、オレは振り返る。


 そこには、あの時と同じように制服に身を包んだ、オレの待ち合わせ相手であるマリアがいた。


 すると今度は、男を引き寄せちまった。美人だもんな、顔だけは。手荷物は持っていないみたい。


 ポケットに≪月の雫≫を入れてあるのか?


 そんな疑問を抱いて、男と女に注目されるウザイ状況で遅れた理由を訊いてみる。


「いや、別に少ししか待ってねぇーから大丈夫だけど……なんでだ? 今日は人混みとかねぇーから普通に辿り着けんだろ? 何か、厄介ごとに巻き込まれていたのか?」


 顔だけは美人だからな。マジで顔面だけな。……中身はクソポンコツだけど。


 それでも、この顔面に引き寄せられたキモイ男に絡まれている可能性は、十分考えられる。



「いえ、普通に道に迷っただけよ」



 平然と、淡々と、まるで悪気がないかのようにマリアは言った。いや、悪気がねぇーのは分かってる。


 とはいえ―――


「何でだよ!? 王都の中央で目立つ有名観光名所なんだから迷うわけねぇーだろ!!」


 ツッコミざるを得ない。


「それでも迷うのが、私―――ってことよ」


「いや、カッコよくねぇーから。言ってることヤベェ―から。キリじゃねぇーよ、キリ。 オマエ、無表情だから見抜けんのオレだけだぞ?」


「えっ?」


「いいから、行くぞ」


 そう言ってオレが歩き出すと、その隣をマリアが付いてくる。するとマリアが、こんなことを言ってきた。



「魔法騎士団が【不殺の金月】の指名手配をやめたそうよ」



「……それ本当か? あの魔法騎士団様どもが?」


 オレはこの国の魔法騎士団から指名手配されるほど、手あたり次第、多くの貴族を狩ってきた。


 中には貴族どもの雇った傭兵団だけじゃなくて、魔法騎士が派遣されてヤツらとも戦ってボコしてきた。


 貴族の存在は国営に大きくかかわるからな。その損害を無くすための派遣だろう。


 要するに因縁を買ってんのは貴族だけじゃなくて、魔法騎士団もなんだ。


 そのせいで確か、指名手配度レベルはマックス? だったはずだ。一番危険で早くとっ捕まえろって言う、あれ。


 だから、そんな簡単に解除されるもんなのか?


 オレぐらいのレベルだと、身柄を確保とかしねぇーと解除されねぇんじゃねーのかな?


 そう思っての疑問だ。その疑問をマリアが頷いてから答える。


「あなたから作ってもらったマジックポーチを魔法騎士団に渡したのだけれど……その中身を確認して、【不殺の金月】は貴族狩りはしないだろうと判断したみたいよ」


「そーゆうことか。いつまで経っても捕まえらんねーから、さっさと魔法騎士団としての威厳を取り戻すために解除したのか」


「これで、あなたにも、ご家族にも被害が及ばなくなったわ。よかったわね」


「まぁな。それより—――」


 魔法騎士団が指名手配を解除する理由は分かった。


 だけど、もう一つ聞いておかなきゃならねーことがある。


「メタボンのヤツ、それで納得してんのか? アイツ結構、執念深いから、オレに奪われたもん返されただけじゃ認めねー。というか、絶対に意地でも何でもオレを捕らえて懲らしめたいと思ってるはずなんだけど……」


 そう言うと、マリアが難しそうに顔をしかめた。


 珍しい。今のマリアの顔は、オレじゃなくても、他の誰でも悩ましいと読み取れる。


 ここまで露骨に表情に出るとは、タダ事じゃないとオレは察した。


「……それについてなのだけれど、あなたの想像通り、メタボンさんは再度、指名手配をするよう魔法騎士団に直談判したわ」


「だろうな。あのブタ野郎がやりそうなことだ」


「でも、魔法騎士団としても一度解除したものを再び指名手配することは、信用問題になるから断ったの。そして、そのことをメタボンさんは、苦渋の末に受け入れたらしいの」


「そうだよな。アイツのことだから、金で圧力かけて無理やりにでも―――えっ? あのブタ、受け入れたの?」


 難しい顔のまま、マリアが頷いた。どうやら、本当に魔法騎士団側の意見に同意したらしい。


 だが―――


「なら、どうしてオマエが難しい顔してんだよ? 何も問題はねーじゃん」


「それがあるのよ、私には……」


「……? どういうこった」


「実は……メタボンさんから直々に依頼されたのよ―――【不殺の金月】を自分の元にまで届けろって」


 その瞬間、オレは後方にジャンプして、マリアから距離をとった。


「やるってなら! 上等だぜ!」


「しないわよ、そんなこと。……それよりあなた、戦う気がないどころか、逃げる気しかしないのだけれど」


「だって、しょうがないじゃん! オレの魔法、一切通用しねーんだもん! 逃げるしか手がねーじゃん! ……悔しいが、今のオレじゃオマエに勝つ手段がない。そう! これは戦略的撤退!」


「情けないけど、その割り切り方は見事だわ」


 褒めてんのか貶されてるのは分からないが、呆れられていることは確か。そのジト―ッと目が何よりの証拠。


 それからマリアは、悩まし気に溜息を吐いた。


「はぁ、どうしようかしら……。指名手配の解除に気を取られたおかけで、私がアルバイトに遅刻したお咎めはなかったけど……」


「無かったのかよ!」


「今回のアルバイトの報酬に加えて、依頼の分の報酬を事前に渡されてしまったから……こう言うのって、念のため報酬を使わずに保管した方がよさそうよね。うん、そうしましょ。いざとなったら、そのお金を渡せばいいことだけだし、大丈夫よね」


 なーに一人で勝手に自己完結してんだよ。対処としては妥当だけど。


「そう言えば……」


 ふと思い出したかのように、マリアが言う。


「あなた、この一週間の内に私の言ったこと済ませたわよね」


「あぁ……」


 一週間前の別れ際、マリアにこんなことを言われた。


『最後にあなたに言っておきたいことがあるの』


『? 何だ? 言っておきたいことって』


『次に私と会うまでに、ちゃんとご家族と仲直り、済ませておきなさい』


『へいへい、わぁったよ。じゃあな』


 ということだ。


 オレは今日までに、親父とお袋と仲直りをしなきゃならなかった。


 だけど……。


「いや……まだ仲直りどころか、話すらしてねぇ……」


「会話も? ……なるほど、チキッたのね」


「チキッてねぇーから!! ただ親父とお袋との仲直りはセルアを元気にした後の方がいいって思っただけし、今日の夜、話があるからって約束取り付けてんから」


「そう言う事だったのね」


「納得してくれたようで何より―――」


「つまり、チキッったのね」


「だから、チキッてねぇーから!! 人の話聞けよ!!」


 それから、オレが『チキッてるチキッてない論争』が勃発した。



 論争に夢中になっていると、いつの間に目的に辿り着いた。


 白を基調とした綺麗な外観の戸建て。


 建国当初からあるとされているが、それを感じさせない小規模病院にも関わらず、そこには誰一人、寄り付かない。


 噂のせいもあるだろうが、原因は間違いなく、デカデカと飾られた看板に刻まれた文字。



『小児科オンリー♥ロリショタ愛でさせて病院』。



 オレだけじゃなくマリアまでも、イカれた看板を虚ろな瞳で見つめていた。


「と、とりあえず中に入りましょうか……」


「そ、そうだな……」




 意を決してオレたちが、悪魔の巣窟へ足を踏み入れると—――



「「いらっしゃ~い(です)!」」



 獲物を待ちわびていたかのように、変態二人がオレに飛びかかってきた。


 それをオレは受け入れることはなく、かと言って受け流すわけでもなく……。


「うふ~ん♪」


 左手でリズベットと恋人繋ぎをして、


「あは~ん♪」


 右手でモモと恋人繋ぎをした。


 二人はとろけた顔で、繋がれた手と手に身を悶えさせて、頬を擦りつける。


「……あなた達、いったい、何してるの? それにあなた、どうして?」


 女が引いた目でオレたちを見ながら、疑問を投げつけた。


 うん、わかってる。女が引くのも、なぜこの変態どもと手を繋いでんのか……分からないよな?


 ……でもな、これにはちゃんとして理由があんだよ。


 マ・ジ・で!!


「……セルアを入院させる代わりに、要求されたんだよ……キス、しろって」


「悪魔みたいな要求ね」


「だからオレ、断ったんだ。だって……キスしちまうと、リズベットとモモとの間に……オレたちの赤ちゃんができちまうから」


「断るのは当然よね。いくら何でもキスしたら赤ちゃんができて―――えっ?」


「その代替案で手を繋ぐってことになって、何とか入院してもらえるように―――」


「ちょっと待ってくれるかしら? あなた今、二人とキスしたらどうなるって言ったかしら?」


 突然、女がオレの話を遮ってきた。


 何だよ、自分から手を繋ぐ理由、聞いて来てんのに。


 すると、リズベットとモモが女の前に移動して……異様に目をギラギラさせてオレの前に立つ。


「アル君、アル君? 私たち聞き逃しちゃったから教えてくれる?」


「そうです、そうです! 私たちにも、どうしてキスしたらイケないのか教えてくれませんか?」


 ロリのモモなら、ぶりっ子をかましても耐えられるが……リズベット、さすがにオマエはイタイぞ?。


 ってか、アイツが聞くのは分かるけど、オマエらは知ってんだろ。


 しかし、言わないとキリがないと思ったオレは、溜息を吐いてから大切なことを話す。



「だ・か・ら! キスしちまうと赤ちゃんができちまうの! 無責任な子作りはダメ! ゼッタイ!」



「「ありがとうございま~す!!」」



 謎の感謝を告げて変態二人は、鼻血を噴き出しながら、目をハートマークにさせて突然、病院内に飛び回る。


 グルグルと鼻血でアーチを描きながら旋回している姿を、心底冷めた目でマリアと見ていると……頭から突っ込む形で床に穴を開けてぶっ刺さった。



 それによって、パラリと物理法則が働いた。リズベットとモモのパンツがおっぴろげになったんだ。


 瞬間、オレの目は点となる。


 なぜなら、リズベットがクマのマークがついた、モコっとしたガキっぽいパンツを履いてて。


 モモがスンゲェー際どい大人っぽい黒パンツを履いていやがった。


 いや、逆だろ。今日だけ交換してんのかよ、コイツら。


「人の下着をそんなジロジロと見るのはよくないわよ」


 そうオレに注意しながら、女は野菜でも収穫するようにスポッと、リズベットとモモの足を掴んで抜いた。


「いや~。助かったよ、マリア」


「ありがとうございます、マリアさん」


「相変わらずね、二人とも……」


 苦笑いする二人に、マリアが呆れたように見る。


「何だが親しげだけど……オマエたち、知り合いなのか?」


「うん、そうだよ」


「はい!」


「……一応、そう言うことになるわね」


「ふ~ん、意外だな」


 やっぱコイツもオレにみたいに、どっかで倒れていたところを助けてもらった感じか?


 すると、心配そうにマリアがオレを見つめていた。


「? どーした?」


「いえ、何でも無いわ。ただあなたの将来を心配していたの……」


「何でもなくねーだろ。なんで、将来の心配されたんの? オレ」


「アル君、今日も勿論、セルアちゃんのお見舞いだよね?」


「あぁ! 今日はリズベットとモモ、スンゲェ―驚く日になるぜ!」


 ヒヒッ、とオレはリズベットに満面の笑みを見せた。


 だって今日は、セルアが元気になる日だから。二人には内緒だけど。


 だと言うのに、二人は寂しそうに笑っていた。


その表情を見て、今日はあの日か、とオレは察した。


「もしかして今日……用事の日か?」


「うん……そうなんだ。今日は私とモモとで用事がある日なんだ……ごめんね?」


「すみません……アルセ君」


「チェー、せっかく良いもん見せてやろうと思ってたのに……」


 セルアが元気になるところ、見て欲しかったんだけどな。


 二人ともセルアが元気になるよう祈ってくれたし、会いたがっていた。


 何より、恩返しがしたかった。


 間違いなくリズベットとモモがいなければ、セルアは……ここにいなかった。


 だから今……スゲェー残念な気持ち。


 それができなくて不貞腐れるオレに、二人は申し訳なさそうに笑った。


「それじゃあ、いつも通り。夕方までお留守番、お願いしていいかな?」


「……わかったよ」


 ありがとう、と告げてからリズベットとモモが歩き出すが、リズベットはマリアの横で立ち止まった。



「……それが君の選択なら、私は尊重するよ」



「……ありがとう、リズベット」



 二人はいったい、何の話をしてんだ……?


 病院を後にする二人を見届けるマリアの背中をボーッと見ていると、マリアが振り返って言う。


「あなたの妹さんがいる部屋へ、案内してくれるかしら?」


「おう! こっちだこっち!」


 早く≪月の雫≫が見たくて、元気を取り戻したセルアが見たくて、オレはマリアの手を掴んでセルアのいる病室へと走った。






~あとがき~


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