第6話 変態見参!

「はぁ、ダメか……」


 セルアをおんぶして通りを歩く途中、オレは重たく溜息をついて落ち込んだ。


 セルアを救出した直後、オレは王都中を【アイギス】で駆け回って、他の病院に向かった。


 しかし―――


『すまないが、私たちじゃ手の施しようがない』


『魔力循環装置? そんな設備あんの、メフィスト病院ぐらいだろ』


 行く先々で病名を伝えた瞬間、そんな風に断られた。


「まさか、『魔力循環装置』あんの……あのクソメガネの病院だけとは思わなかったぜ……」


 これは完全に予想外。


 だが、よくよく考えれば、この装置は昨年、完成されたばかりの物だ。


 そんな最新設備を導入できるのは、必然的に王都で一番デカいメフィスト病院に絞られる。


 すっかり、頭からすっぽ抜けていた。


 その代わりからか、ある一つの考えがオレの空っぽな頭の中に入り込んでくる。


「い、いや、まさかな……」


 思わずそれに、引きつった笑みを浮かべちまう。


 なにせオレは、


「―――お、オレが『魔力循環装置』壊しちまったかもしんねぇから、その腹いせで他の病院に根回ししってる、っつーことか……?」


 クソメガネに忠告した後。


 オレは魔力感知でメフィスト病院の四階の突き当たりに、セルアがいるのが分かった。


 だが、その時には他にも魔力の気配がありやがった。


 だから、それがセルアだけになった瞬間を狙って潜入した。


 そんでもって、セルアのいる『魔力循環装置』の前までに辿り着くまでは順調だったが……。


 今までこんな大掛かりな魔導具を使ったことがないオレは……当然パニくった。


 ―――その時だ。


 ヤベェ、ヤベェ……、って焦ってるオレに、最悪のタイミングがやってきたのは……。


『魔力循環装置』を管理している看護師たちが、なぜかこんな時に戻ってきやがった。


 まぁ、パニくり過ぎて魔力感知を怠った、自業自得なんだが……。


 見られたらマズイ! って思ったオレは、大急ぎで訳のわからんボタンやら何やらを適当に操作した。


 キュイーン! キュイーン!


 ボフッ! ボフンッ!


 人の心を更に焦燥感に陥れるような人工音。


 何も考えられねぇくらいに頭を真っ白にさせるような爆発音。


 その音どもが、オレを破滅に導こうとしてにきやがった……!


 しかし、なぜか分からねぇが、バカンって突然、『魔力循環装置』が開いた。


 オレはすぐさまセルアを抱き抱えて、逃げようとする。


 当然のことだが、この明らかな異常事態を知らせる音を聞きつけて、ソイツらの声と足音が聞こえたからだ。


 逃げなきゃならねぇ。


 だと言うのに、オレはまだ逃げていなかった……。


 なぜなら、



 あれ? これ証拠まる残しじゃね? 証拠隠滅しなきゃダメじゃね?



 ―――ヤッベェえええええ!!



 刹那、【アイギス】を発動し、その状態で時間魔法と幻覚魔法を展開した。


 普通の状態だと、高速で魔法を発動することができねぇからだ。


 特に練習中の時間魔法は時間がかかる……。


 だからオレは、【アイギス】の特性を利用したわけだ。


 結果、時間魔法で『魔力循環装置』を直すこともできたし、幻覚魔法で幻のセルアを作り出せた。


 何とか看護師たちが来る前に、この窮地を乗り越えられたってことだ。


 ……そう思ったはずだった。


 さっきも言ったが、時間魔法は練習中。


 つまり、不完全、ってわけ。


 もしかしたら、なにか術式ミスって壊れたままかもしんない。


 けど―――


「……いや、だけどそれだったら、なんで王都はいつも通りだし、誰も破壊したヤツを探したりしないんだ?」


 そんな疑問が浮かび上がった。


 それに言葉にすると、さらにその疑問は深まる。


 ―――謎だ。


 クソメガネがオレにビビったからか?


 単なる誤作動ってことで済まされたのか?


 まぁ、どちらにせよ―――


「考えてもわかんねぇな。取り敢えず、大事にはなっていねぇみたいだし、大丈夫だ。多分、きっと、そうに違いない」


 うんうん、とオレは頷いた。


 人間力が高く、学力がバカなオレが辿り着いた答えは―――『よーわからん』だった。


 バカなことが唯一の欠点だが、こう言う時は便利だ。イチイチよけぇーな事でくよくよ悩まなく済む。


 うん。おバカ。マジ最高。


「……あと、王都に残る病院は一つか。でもなぁ……」


 王都にある四つの病院。


 その内の最後の一つの病院に行くのに、こんな緊急事態なのにも関わらず躊躇っていた。


 曰く、その病院の名前はイカれている。


 曰く、その病院の医者はヤバい二人組で不老不死。


 そんな噂が立っていた。


 前者の方は知ってるが、後者の方は知らねーってか、不老不死はデマ。胡散臭すぎる。


 しかもよく、あんな名前で診察に来ると思ってんな。特にセルアだけは、ぜってぇー行かせたくねぇ。


 それでも……。



「残る希望はそこしかねぇ。なら、行くしか――――――あれ?」



 腹を括って一歩、踏み締めたその瞬間。


 急に体が巨大な鉄球に括られたみてぇーに重くなって、目がぐるぐる回って世界が歪んだ。


 オレはこの感覚に心当たりがあった。


 魔力が限界以上に行使し、空っぽになった状態。


 ―――魔力切れだ。


 けど、今まで経験したどの魔力切れよりも、今の方が倦怠感も、血の気が引くのも、平衡感覚が失う感覚も、遥かに酷ぇ……。


 やっぱ、あれだけ【アイギス】を発動したり、バカ消費する時間魔法使ったんだから、こーなるのも当たりめぇか……。


 原因を突き止めると、感覚だけを頼りに立っていたオレは、ついにセルアと一緒に地面に倒れる。


 ―――かに思われた、その瞬間。



 プニュッ、と顔面が柔らかい何かに包まれた。



 あったけぇ……なんだこれ、おちつく……。


 不覚にもセルアがケガしてないっていう安心感よりも、心と体に降り注ぐ『癒し』を感じ取った。


 オレは『癒し』の正体を見破るために、朦朧とした意識の中、最後の気力を持って顔を上げる。


「―――大丈夫かい?」


 風を縫うような涼しい声。


 優しさも、慈しみさも……愛情も、その声には宿っていた。


 ぼやけた視界には、シルエットだけ。


 そのシルエットには、水色と黒い二つの丸が特徴的だった。


 おそらく、水色は髪の毛で、黒い丸はメガネだろう。


『人』、そして忌々しい『メガネ』。


 正体を掴んだ途端、オレの中の警戒心と敵意が呼び起こされそうなる。


 しかし、それは静まった。


 また別の正体を掴んだからだ。


 絶対的な『癒し』を与える、この感触の正体を。





 あぁ……おっぱいか、これ。




 だけど、何かこのおっぱい変だな……。




 ―――妙に柔らかすぎる……。




 そうしてゆっくりと瞼を閉じ、おっぱいに違和感を抱いたまま、意識を手放した。





「―――――――――」


「―――――――――」


 誰かの話している声が、遠い意識の中から聞こえてきた。


 ハッキリとじゃない。途切れ途切れに、そしてバラバラの単語が聞こえた。


 誰だ……? 夢、なのか……? 


 いや、さっきの話声の中に、最後に聞いた声と同じ声があったような気がする……。


 つまりオレは、魔力切れで気絶した後、その女に助けられたってことか……?


 でも、聞いた感じ……声が二つある……。


 いったい、誰だ……。


 そう思って重たい瞼を開けると、光に目に差し込んで来た。


 突然の光に、ウッと顔をしかめる。見える景色もハッキリとしない。


 しかし、それも段々と慣れてくる。


 やがて鮮明になったオレの瞳に映ったのは真っ白な天井――――じゃなく。


「私が最初に見つけたんだから、最初は私のものだよ」


「いいえ、ボクが最初です。それにリズベット様はこの少年のこと、抱きしめてたじゃないですか。不平等です」


 ―――メガネをかけた水色髪の女と、ピンク色の髪をツインテールにしたガキだった。


 しかもその女どもは……ベッドで寝ているオレを上からまたがって床ドンし、互いに睨み合っていた。


 当然、目覚めたばかりで、まだ意識が覚醒していないオレでも、目をパチパチとさせて困惑した。


 な、何だこの状況……。何でオレが寝てるのに、ベッドいやがんだ……?


 何がしたいんだ……? コイツら。


 かと言って、それを問いただせるほどの気力は取り戻せず、とりあえず様子を見ることにした。


 ―――絶対零度のような冷めた目で。


「だって、急に目の前で倒れてたんだもん。しょうがないじゃん」


「……ウソつき。少年が魔力切れ起こすまでストーカーしていたじゃないですか」


 ストーカー……? どういうこった……? 


「ウソをついているのは君もだろう? あの時、私と一緒に行動していたじゃないか」


 ピンク髪のガキに目を向けると、バツの悪そうな顔を浮かべた。


 つまり、女だけじゃなくガキもストーカーをしていたことは、事実っていうことだ。


 おめぇーもかよ。年上の女に好かれる覚えはあるが、ガキにはねぇーぞ。


 ……いや、ガキらしくねぇところが一つだけあるな。


 視線をガキのおっぱいに移す。


 そこには—――デケェ―お山が二つあった。年にも体にも相応じゃない、デケェ―おっぱいが……。


 隣にいる女と同等? いや、それ以上のデカさだ……。


 えっ? もしかして、ガキじゃなくてただのチビな大人? いや、ただおっぱいの発育の早いガキ?


 ―――訳がわかんねぇええええええ!!!


 生きた年数が短くても、女がガキの頃の胸はまっ平らで、大人へと成長していく中でデカくなるっつー常識はあった。


 けど、その常識が崩れ去る感覚に―――オレは、ゲシュタルト崩壊を引き起こした。


 あぁ、もうガキってことでいいや。めんどくさい。


 しかし、得意の思考放棄で、ゲシュタルト崩壊から自力で脱した。


「じゃ、じゃあ、一緒にいただく、というのはどうでしょうか……?」


 いただくって何を?


「……不服だけど、まぁそれでいっか」


 だから何を?


「それじゃあ―――」




「「うぅ~~~~♪」」




 女とガキが口を思いっきり尖がらせて—――オレの唇を食い尽くさんとばかりに顔を近づけてくる。


 その瞬間、オレは理解した。コイツらがオレから“何を”をいただこうとしているのか。


「―――おい」


 絶対零度よりも凍てついた声を発すると、オレの顔面目前まで迫っていた二人が目をバチッと開ける。


 すると、喜びで頬を赤く染めてた顔が一変。


 血の気が聞いたように真っ青にさせた。


 引きつった笑みを浮かべて、二人は唇を震わせて言う。


「め、目が覚めたんですね~……」


「よ、よかったです~……」


「「あは、あははは……」」


「テメェら」


 そう言い放った瞬間、二人は苦笑いのまま硬直する。


 まるで時が止まったかのように、一寸たりとも微動だにしなかった。


 それからオレは告げる。


「さっきオレに―――何しようとした?」







「「す、すみませんでした!!」」


 綺麗な姿勢でおでこを床に擦りつける女が二人。


 それをベッドの上からあぐらを組んで、オレは見下ろしていた。


「別にオレは『謝れ』って言ってねぇーだろ。オレは『何をしようとした?』って優しく聞いてんだ。ちゃんと質問に答えろよ。そんなこともできねぇーのか?」


 小首を傾げて、さらに威圧感を放つオレに、二人は凄まじい勢いで顔を上げた。


 その表情には恐怖などなかった。


 ―――美しいものに心奪われるような顔があった。


「り、リズベット様……!」


「う、うん……この少年はただの美少年じゃない……! 私たち『淑女』が思い描く理想そのもの……!」


「アヴァロンはここにあったのですね……!」


「ショタでドSとか最強かよ……」


 マジかよ、コイツら。頭沸いてんのか?


 神に心酔しているような、はたまたヨダレ垂らしてナニカをキメてる二人を見て、オレは心底ドン引きしていた。


 そして深く溜息を吐く。


「だ・か・ら、お前らはオレに何をしようとしたって聞いてんだよ」


 そう言うと、二人は顔をハッとさせた。夢の世界から現実に、こんにちは、でもしたのだろう。


「えっ、と……それはその……」


 ガキの方が額から冷や汗を大量に流して、目ん玉を縦横無尽に動かした。


 一方、女の方は、天を衝くように真っ直ぐ腕を上げて言う。


「はいはーい! 君の唇にチューしようとしました!」


「しね」


「美少年ショタから『死ね』いただきました―――!! くぅ~~~! たまら―――ん!!」


 反射的にオレが吐き捨てるように言うと、女は身悶えしていた。


 いや、歓喜に震えてるってのは適切か。顔をとろけさせて、自分を抱きしめてクネクネとよじらせていた。


「あぁーリズベット様だけズルいですー!」


 ガキが女の肩を揺らして、頬を膨らませて不満を露わにしていた。

 

 女もそうだけど、このガキも相当イカれてんな。


「キショいわ、クソガキ」


「はい! 私も『キショい』いただきましたぁあ!! ごちそうさまです! でへへへっ! ショタの罵倒サイッコーです!!」


 ヤベッ、口が滑った。なにご褒美あたえてんだよ、オレ……。


 さっきのやり取りで、終わってるヤツらだって分かんだろ……。


 女と同じようにガキも—――言いたくないわ。


 とりあえず、同じような感じになってんのを見て、オレは頭を抱えた。


 ってか、マジでコイツら何なんだ……? 


 オレが『しね』とか『キショい』って言っても、全く傷ついてねぇーし、むしろ喜んでやがる……。


 ……ん? そう言えば、さっきからオレのこと―――『ショタ』とか言ってるよな?


 何かどこか聞いたことあるよな気が……。




「―――あぁああああああ!! 思い出した!!」




「うわあぁああ! ビックリした!」


「きゅ、急にどうしたんですか!? 心臓が止まるかと思いましたよ!」


 そうだそうだ! だから、さっきからコイツらはイカれた行動してんだ!


 オレにキスしようとしたのも!


 オレが酷ぇーこと言って喜んでるのも!



「テメェ―ら! 『小児科オンリー♥ロリショタ愛でさせて病院』の院長とその助手だろ!!」



 オレは二人を指差せて、そう言い放った。


 すると二人は、「ふっふっふっ……」と意味深な笑みを浮かべながら、正座からのろりと立ち上がる。



「そう! 如何にも私は『小児科オンリー♥ロリショタ愛でさせて病院』、院長リズベット!」



「そして、助手のモモです!」



「穢れを知らない全ての年端のいかない男児、女児をこよなく愛し!」



「全ての少年少女を純粋無垢なまま、大人の階段を上らせないよう私たちは日々、研究を積み重ねているのです!」



「「私たちこそ究極の!」」



「ロリー!」



「ショター!」



「「コーン(なのです)!」」



「…………」


 なに決めポーズ決めてんだよ。言ってること、ただの犯罪者だろ。とっとと捕まれ。


『小児科オンリー♥ロリショタ愛でさせて病院』。


 その名の通り、オレのようなショタとロリを対象とした小さな戸建ての病院だ。


 院長リズベット。


 腰まで届く長い水色の髪に黒縁メガネをかけて、白衣を身に纏った見た目だけクール系美女。


 しかし、その実態は—――ショタとロリの両刀持ち。


 つまり、小さなガキであれば誰でもウェルカムな犯罪者予備軍筆頭の女。しね。


 次に助手のモモ。


 ピンクの髪をツインテールにして、メイド服を着たあざとさ限界突破のロリ巨乳女。


 しかし、その実態は—――ショタにのみ愛情を降り注ぐ、ショタコン特化。


 リズベットと同じく、犯罪者予備軍筆頭だ。


 何で看護師服じゃねぇーんだよ。病院とメイドってどんな組み合わせしてんだよ。キショいわ。


 まさか、例の噂のヤツらが今、目の前にいるコイツらのことだったとは……。


「あぁ……私たちの祈りが神に届いたのですね……。ただのショタではない、ツンデレで口が悪くて美少年ショタを召喚してくれるとは……感謝を」


「やっとショタを育てることができるのですね。やっとショタをお世話し、自分の手で導くことができるのですね。……やっと、この無限に溢れ続ける母性を解き放つことができるのですね……やはり神は、私を見捨ててなどいなかった……」


 目を向けると、二人は神に祈るように立膝をついて、両手を胸の前で組んで呪いを呟いていた。


 呆れを通り越して、何の感情もない『無』にオレは至った。


 うん。噂通り……いや、噂以上かもしんない。ヤバいし、イカれてる。


 終わってるわ、何もかも。


 もう、それしか浮かばねぇー。


 ……でも、ここしかないんだよな。セルアを助けられる唯一の可能性……。


 ぜってぇー診せたくねぇ。セルアは兄貴であることを差し引いても、明らかにそんじょそこらの女よりかわいい。


 ―――だからこそ危険だ。


 モモの方は対象がショタ、つまり男だからまだ安全。セルアは対象外だから。


 けど、リズベットの方は違う……。


 ありゃ、女も対象内……。


 セルアは美少女、ストライクゾーンを射抜いちまってる可能性が高ぇ……。


 だから、診察と評してセルアを……って。


 回りを見渡してみると、横にあるベッドから……セルアの姿はなかった。



「セルアは!! オレともう一人いた妹はどこにいる!!」



 そう訊ねると、モモが「ひえっ!」とビックリして、リズベットは近づいてそっと頭に手を乗せた。


「大丈夫、落ち着いて。君の妹も保護してるよ」


 そう言って、髪をすくように撫でる。


 心の荒波が静かな波へと変わり、冷静さを取り戻す。


 何か不思議だ……。コイツの顔とか声とか見たり聞いてると……安心する。


 ホント、不思議だ……。まぁ、変態ってのは確かだけどな。


 オレはリズベットの顔を見上げて言う。


「案内してくれ」


「うん、もちろん。その前に―――」


 リズベットが手を差した意図が分からず、オレは小首を傾げた。


「? なんだ?」


「君の名前だよ。教えてくれないかい?」


 そういうことか……。


「アルセ。アルセ・ニューミリオンだ」


 それだけ言って、リズベットの手を掴まずにベッドから降りる。


「いいのかい? まだ本調子じゃないはずだろう?」


「いや、少しだけの睡眠でもそこそこ魔力回復するからへーきだ」


「……恐ろしい才能だね」


「あ、あの、万が一がありますので……」


 モモが顔を赤らめて、オレに手を差し出す。それをスルーして、部屋を後にしようと歩く。


「イヤだ。テメェ―の場合、厚意じゃねぇーだろ。この変態」


「こ、好意ですってばー! むぅ~!」


「言葉のニュアンスが違うと思うよ? ……くんくん」


 なに嗅いでんだ? と振り返ると、リズベットが鼻に手を当てて深呼吸していた。


 そして、真剣な顔を浮かべる。


「リズベット様? どうかされたのですか?」


 深刻だと思ったのか、心配そうにモモが尋ねた。


「いや、何か手からスッゴイ良い匂いするからさ。これって―――アルセ君の髪の毛の匂いだよね?」


 そう言って、もう一度、手を鼻に当てて匂いを嗅ぐ。深く、味わうように。


「うん! お腹にキュンキュンきて最高だよ~♪」


「本当ですか!? ぜひ、私にも嗅がせてくださーい!」


 リズベットがオレの髪の毛の感想を言うと、それに惹かれてモモが駆け寄り、その手を掴んで一心不乱に嗅ぐ。


 そして手を離して感想を一言。


「うわぁ……! ホントにお腹の奥がキュンキュンします~♪」


「でしょでしょ!」


 共感して笑い合う二人を見て……オレはしゃがみこんだ。




 ……もう、この人たちと一緒、イヤだ―――。





~あとがき~


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