第五話「才能」
2時間後……
俺はエリーシャに魔力循環の才能があると感じたが、
俺自身の魔力循環の経験が無く、教えられるような知識も持ち合わせていなかった為、
引き続きエリーシャに魔術を教えた。
「まりょくを手にあつめるんです!」
「んーー!やっぱりできない…」
「ほら、ぐーーと、手にちからをこめるんです!」
「やっぱりぐるぐるしちゃう…」
(どうやらエリーシャは魔力量が少ない上に、体内の魔力速度がかなり速いようだ)
魔力は体に適応する。
要するに人に宿る魔力は性質が人それぞれによって変わると言う事だ。
魔力速度と言うのは体内を移動する魔力の速度。
エリーシャは魔力速度が速いせいで、魔力操作の精度が低いのだ。
だが、悪い事だけではない。
魔力循環は魔力速度が速ければ速いほど、身体能力の向上が見込める。(魔力がブレない精密性も一応必要)
(エリーシャの魔力に合う魔法を他に探すか…)
(今のところ試していない基礎魔法は炎、雷、氷、治療…)
「母上!庭でじゅぎょうをしても良いですか?」
「良いけど安全には気をつけてね!」
「もちろんです!」
俺はエリーシャを連れ出し、外に出た。
人には遺伝子によって合う魔法と合わない魔法がある。
片っ端から試していけばどれか1つでもエリーシャに合う魔法が見つかるかもしれない。
魔力操作の精密性は経験によるものが大きい。
今はダメでも自分に合う魔法を見つけてコツコツ使っていけば魔力操作もできるようになってくるはずだ。
「エリーシャ、まずは炎まほうを使ってみてはいかがでしょうか?」
「僕がいまからいうことを手にまりょくをあつめながらまねして言ってみてくださいね」
「紅蓮に燃える紅き炎、その光と熱気は命に生きる意志を与える。炎よ!我に答えよ!」
「ファイアー!」
たえよ!」
「ふぁいあー!」
俺の手の先には激しく燃える赤い炎があったが、
エリーシャの手の先には何も無かった。
「ま、まあ他にもありますから!」
「落ち込むひつようはありません!」
「うん………」
「次は雷いってみましょう!」
(ワクワクする、雷魔法は俺が今まで唯一使ってこなかった基礎魔法だ)
「じゃ、じゃあいきますよ!エリーシャ!」
「天を裂き、大地を揺るがす雷鳴よ、決して届く事のない高みにて敵を裁け!」
「サンダー!」
俺の手の先から白とも青とも言える光が眩しく輝き、「バチバチ」と音を鳴らした。
(か、かっけぇ…)
てきをさばけ!」
「さんだー!」
すると、エリーシャの手の先からも白色の光が「バチ!」と音を鳴らして光った。
その光と音は数秒で消えてしまったが、魔法は確かに発動した。
「エリーシャ…成功ですよ!!」
「数秒で消えてしまいましたが、恐らくただのまりょく切れでしょう」
「良かったですね!エリーシャ!」
「うん!!」
エリーシャは満面の笑みを浮かべた。
「では、これをあしたから毎日けいぞくしてやっていきましょうか!」
「とりあえず、今日のじゅぎょうはおしまいです!」
「家のなかで休みましょう!」
俺とエリーシャは家の中に入り、夕飯の準備をしているアイリスに授業の成果を話した。
「わたしね、まほうつかえたんだよ!」
「凄いわね!エリーシャ!」
「うん!」
「きけんなまほうだから、家のなかでは絶対につかうなよ、エリーシャ」
「うん、分かった!」
(本当に分かってるのか?)
すると、玄関の扉が開く音がした。
(ジェイルか?)
「おかえりな…」
そこに居たのは見知らぬ男だった。
「静かにしろ!金を出せ!」
(強盗!?嘘だろ!)
男は緑色のダサい覆面をし、
片手にガチモンの剣を持って、
玄関に立ち、こちらを睨みつけていた。
そして、アイリスが男に反応した。
「嫌です」
(え?)
「テメェさっさと金を寄越せって言ってんのが聞こえねーのか!!?」
「逆らったらガキを殺すぞ!」
「悪いようにはしないので、早く出ていってください」
(マジかよ、すごくアイリスが頼もしいぞ!!)
「お前…あまり俺を舐めるなよ…」
「出ていかないということはそれ相応の覚悟があるという事ですね」
「お前ッ!」
「人々が恐れ、恐怖する雷霆の神よ、その力でどうか悪人に慈悲なき裁きを!」
「エレキテルバインド!」
強盗が剣を突き出して突進するが、
その剣がアイリスに触れるよりも前に強盗はエレキテルバインドにかかって麻痺し、倒れ込んだ。
(カ、カッケェ)
エリーシャが泣きだし、アイリスに抱き着いた。
「怖かったわね、もう大丈夫よ」
(あれは中級雷魔法か?何も見えなかったのに、一瞬で強盗が倒れ込んだぞ。)
「母上!凄かったです!」
「ありがとう、リア」
アイリスはエリーシャをなだめた後、
強盗を縄で縛った。
そして30分後にジェイルが帰ってきたが……
「な、何だこりゃーーー!」
「あぁ、お帰りなさい、ジェイル」
「ア、アイリス!この縛ってある男は何だ!?」
「家に入り込んできた強盗よ。魔法で麻痺させてから縄で縛ってそこに置いておいたの。」
「ご、強盗?と、とりあえず傭兵に突き出しておくから待ってろ!」
ジェイルは縄で縛られた男を担いで急いだ様子で外に出ていった。
(そりゃ焦るよな…)
その内にアイリスは晩御飯の準備を済まし、机にご飯を並べた。
「傭兵に突き出しておいたからもう安心だぞ!アイリス!」
「ええ、ありがとう」
「熱いうちに食べましょう」
そうして俺たち家族は色々あったが食卓を囲んだ。
ーーーー
「今日はここで昼食食べられなくてごめんな」
「昼にヴァーナの森魔物殲滅作戦の打ち上げがあったのよね?」
「どうして先に言ってくれなかったの?」
「い、いや急に誘われてな…」
「てかどうしてそこまで詳しく知ってるんだ?」
「知り合いから聞いただけよ」
「そ、そうか……。」
(言われてみれば今日の昼食にジェイルがいなかったな…)
「あと、あなたに話したい事があったの…」
「なんだ?」
「うちの子を魔術専門学校に通わせましょ!」
「え?」
「待ってくれ、どういう事だ?まだうちの子は2歳の子供だぞ!?」
「リアはこの歳で初級魔法を使っていたわ!」
「リア、、なら確かにあり得るか…」
「それにエリーシャもよ!」
「エリーシャなんか魔力循環と基礎雷魔法を使っていたわ!」
「エ、エリーシャもか!?」
「そ、それが本当だとしても2人はまだ2歳だ!」
「でもこの子達は才能の原石なのよ!」
「魔術専門学校はこの近くだとムハムートの方まで行かなきゃいけないんだぞ!」
「確かにそれもそうね……」
(何!?このままだと俺が学校で俺tueeeする機会が遠い未来になってしまう!)
ある日学校に入学してきた謎の2歳の少年…
クラスの奴らが「何だアイツ……」「まだ2歳だろ…」とザワザワしている時に、
クラスのカースト1位の奴が「新入生か…お前、生意気そうだな…」と言って殴りかかってくる。
俺はそいつを華麗な魔法で返り討ちにしてみんなに「アイツ!何モンなんだ!?」と言われるんだ。
「母上!なら親元をはなれて向こうでエリーシャとくらしながらがっこうに行きます!」
「リア!?そんなの無理に決まってるわ!」
「リア、お前は確かに年齢にしては天才だ。だが、2歳が学校に行きながら2人で暮らすところを想像できるか?」
(た、確かに)
「少なくとも5歳になってからだ」
(5歳…。あと3年も待たなきゃいけないのか…)
「分かりました。父上」
夕食後…
学校に行くまで3年間待つっていうんならその時までに魔術の腕をめちゃくちゃ磨こう。
そして学校に行ってみんなに驚かれるんだ。「アイツ、5歳なのにすげぇ強いっ!」って。
けど調子には乗らない。この世界では嫌われないように生きるんだ。
「リア!あしたもまほうおしえて」
「ああ、えっと、うん!もちろん!」
エリーシャの授業も続行していこう。
5歳になったらエリーシャと一緒に向こうで暮らしながら、学校に行くんだ。
もう俺には「あの兄弟は2人揃って天才だわ」と言われる未来しか見えない。
ーーーー
1年後……
俺はあの日以来、庭で魔法の練習をするようになり、
家の中では絶対に使えないような危ない魔法を満足するまで使っている。
最近、自分に適した魔法が分かってきた。
氷魔法だ。氷魔法を使っている時だけ体内の魔力の動きがとてもスムーズになるのだ。
詠唱も何故か、他の魔法と比べて言いやすい。
2ヶ月前の誕生日に貰った「中級基礎魔法+便利な中級固有魔法の詠唱辞典」を見て、
最近は中級魔法もよく使っているが、
庭でも普通に危ないような魔法が結構あるのでいつもアイリスに事前許可を頂いてから使っている。
ちなみに俺のお気に入りの魔法は「ブリザード」です。
エリーシャには魔術の授業を1年前からずっとやっている。
エリーシャは最近、初級雷魔法がやっと使えるようになってきたが、雷魔法以外は未だに全く使えていない。
それでもエリーシャはガチの才能の原石だ。
今の俺で勝てるかどうかと言ったところの実力を持っている。
なぜならエリーシャには俺が出来ない事ができるからである。
そう、魔力循環だ。
エリーシャは魔力循環をジェイルに褒められるほど、上達させているのだ。
今の俺がエリーシャにぶん殴られたら、ただでは済まないだろう。
この頃、アイツはバケモンだ。
3歳とは思えないものすごい速さで庭を走ったり、
「ダーラの実」というりんごみたいな硬さをしている果物を片手で潰したりなどとにかくエグい。
今のアイツは人間じゃない。
昔のような弱々しさなどもう微塵もない。
だが、いつも俺を慕ってくれているし、
朝ご飯を食べる時にはいつもとうもろこしのような野菜「グリーンコーン」を自分の皿から俺の皿に移して、分けてくれる。(それはアイツがグリーンコーンが嫌いなだけか)
まぁ要するに今のアイツはバケモンだけど、俺からしたらまだ可愛い妹なのである。
最近はジェイルが暇を見つけて俺達に稽古をつけてくれる事がある。
「そんなんじゃ学校でいじめられるぞ!」「腰が甘い!」
とか言って木刀を持たせた俺とエリーシャを叩きのめしてくるのだ。
3歳相手に何やってんだ、この父親は。
俺に限っては魔術師だから、身体的な強さなどほとんど要らないんだが…。
俺にできる事と言えばジェイルに隙を作って
エリーシャを裏から支援する事だ。
だが、俺とエリーシャはジェイルに一発も当てたことはない。
褒める気は無いが、実際、ジェイルは強いのだ。
この調子だと学校に行く頃にはどうなっていることやら………
俺は学校に通うその時までにイジメっ子を成敗できるぐらいには強くなるつもりだ。
そのためにも今は頑張らなきゃな。
そんな事をベッドの上で考えながら俺は深い眠りに落ちた。
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