第三話「魔法の世界」
翌日…
俺は誕生日に貰った「初心者入門 魔法 初級」を物置部屋で開いた。
そこにはこんな事が書いてあった。
1 魔術と精霊術のルーツ
魔術は太古の昔、各地で魔族と魔物達の戦争があった時代に魔族が魔物に対抗する為に魔力を炎に変換する魔法「ファイアー」を編み出したのがルーツとされている。
また、精霊術はそれから約300年後の魔物の侵略が落ち着いた時代の魔族の人族の地への侵攻(魔人大戦)で、
人々が湖を守る精霊に加護を求めたのが由来で、
その時に湖を守る精霊「ナーデリアヴィクトリア」が
「この人族の中から1人を選び、絆を結びなさい」と湖に住み着く自分の子供達に言いつけ、
その精霊達が代々、人間と友好関係を結び、力を分け与えたのがルーツとされている。
その為、基本的に精霊術は精霊に選ばれた人族にしか使えない。
そして、魔術と精霊術のような魔力を他のエネルギーや物体に変換する行為を魔法と呼ぶ。
魔法にもかなりの歴史があったんだな。
えーと次のページは…
2 魔術の原理
魔術は詠唱を用いて自分に体に籠った魔力をエネルギーや力に変換する事である。
自身の体に籠る魔力は体に適応しているため、自分の意思で体内の魔力は操る事ができる。
自身の体に宿る魔力を操作する事を「魔力操作」と言い、魔力操作の精密度は経験によるものが大きい。
また、体内の魔力総量は基本的には年齢と共に増えるが、魔力を放出する度にも増えていく。(個人差あり)
魔術に欠かせない詠唱は遺伝子に刻まれた特定の魔法を発動する回路を起動させる為の暗号であるとされている。
だが、詠唱の原理は未知な部分がとても多い。しかし、長年の研究者の多大なる努力によって現在では、
水魔法、炎魔法、雷魔法、氷魔法、土魔法、治療魔法で構成されている基礎魔法の詠唱は
昔と比べ、かなりの効率化がされている。
今のところ、先ほど説明した基礎魔法は治療魔法を除いて大体、約6秒で詠唱出来る。
そして魔術師は基本的に基礎魔法を応用して様々な事を行なっている。
(基礎魔法っていうのはよくゲームにある「属性」ってやつだな。けど風魔法は無いんだな)
次のページにいってみるか…
3 精霊術の原理
精霊術は精霊が大気から抽出した魔力を人に送り、抽出された魔力を人が受け取って、精霊によってあらかじめ回路が刻まれた魔力を人が放出し、魔術では追いつく事が難しい精霊独自の魔法を発動する行為である。
精霊術は精霊を介した魔法であり、精霊術を可能としてくれる精霊が居ない限り、扱う事の出来ない魔法であるため、選ばれし人間にしか使えない「神の魔法」と呼ばれている。
そして精霊術は人間のおよそ1000人に1人が扱えるとされている。
また、精霊術を使える人間は魔術を使用する事が出来ない。
これについては原因が解明されておらず、未知の部分である。
(選ばれし人間にしか使えない神の魔法か……力を貸してくれる精霊がいないと使えないとか結構ハードだな。)
あとは基礎魔法の詠唱一覧と基礎魔法の初級の応用が載ってるのか…
初級だけでこんなにあるのか?結構複雑なんだな。
(まずは一番簡単って言われてる炎魔法の詠唱を覚えてみるか…)
えーと…
俺は手に力を込め、詠唱を開始した。
「紅蓮に燃える紅き炎、その光と熱気は命に生きる意志を与える。炎よ!我に答えよ!」
「ファイアー!」
(何か中学生時代を思い出すようで恥ずか…)
その瞬間手の先に小さく燃える炎ができた。
「え?」
(まさか…成功したのか…?)
よく分からないが、俺に魔力はあったのか。
俺は嬉しさのあまり、飛び跳ねた。
だが、軽率な行動だった。
なんと、炎が飛び散り、物置部屋の1つの木箱に引火したのだ。
「あああぁぁぁ!!」
俺はパニックになり、叫んだ。
すると、アイリスが何事かと、物置部屋に入ってきた。
「な、何よ、これ!!?」
そしてアイリスは俺を見つけると、凄く焦ったような顔でリビングに俺を運び、
家事が起きた2階の物置部屋に戻った。
(何で戻ったんだ?)
俺がそんな疑問を抱えていると、
2階の物置部屋からアイリスの焦って早口になっている声が聞こえてきた。
「万物の生命を産みし純水、その美しさは命の尊さを表す!ああ、水よ!その姿はまるで命の象徴!全てを押し流す水龍のように!水よ!全てを覆い尽くせ!我に答えよ!」
「アクアウォーター!!」
そしてものすごい轟音と共に2階から水が流れてきた。
リビングの開いてある水窓を見ると、
物置部屋の崩れた壁が物凄い水の量と共に上から流れ落ちてくる様がそこにはあった。
(俺の物置部屋がーー!!)
その後は散々だった。
まず、近所の人達が俺の家の周りに集まった。
どうやら、あの轟音を近所の人が聞きつけて、様子を見に来たみたいだ。
アイリスは近所の人達に事の始終を説明し終わった後に
家の中に溜まった水を全て外に追い出して散らかった物を片付け、
物置部屋の空いてしまった壁に魔法で水の膜を貼った。
そして、庭の崩れた壁を掃除し、
帰ってきたジェイルに事の始終をまたもや説明した。
その後は、疲弊したアイリスをジェイルは「子供達の夜ご飯は俺に任せろ」と言って寝かせた。
そして、俺はその後、ジェイルの手作りの焦げたパンと野菜の苦味が残った液体を体の中に無理矢理入れた。
(まさかジェイルがこんなにも料理下手だとは)
エリーシャなんかジェイルの手作り料理を頑固として一口も食べなかった。
数日後…
アイリスの魔法によって壊れた壁は家に来た業者に補修され、何とか物置部屋は復活した。
だが、物置部屋の本は半数以上が使い物にならなくなり、俺は正直めちゃくちゃ凹んでいる。
唯一の救いは「初心者入門 魔法 初級」が無事だった事だ。不幸中の幸いと言うべきだろう。
ーーーー
2ヶ月後…
俺はやっと2足歩行を出来るようになった。
転ぶのが怖く、少しずつ練習してきたが、もう大丈夫だ。
ちなみに俺はあれから本に書いてあった魔力総量を増やす方法を参考にひたすらに土魔法で土を生成し、窓から捨てるというのを繰り返している。
(魔術師になって将来は凄腕の冒険者として稼ぐのも悪くないな…)
基本的には事故が起きにくい土魔法をいつも使っているが、
たまに他の魔法も試してみたいという事から水魔法も使っている。
2ヶ月前には小さい土塊しか出せなかったのに、今では最大、バケツ一杯分の土が出せるようになった。
最近では土魔法で埴輪作りをするぐらいには魔法が上達してきている。
(この世界で死んだ時には墓にこの埴輪でも一緒に入れてもらうか)
………この世界で死んだらどうなるんだろうな?
2回もやり直しのチャンスをくれるほど、世界はきっと甘くない。
(やり直しなんて1回で十分だ)
この世界では後悔なく死んでやる。
俺はそう決意した。
ーーーー
魔法の詠唱してたらうっかり火事起こしちゃいました事件のお陰で
手をかざすと灯るロウソクの仕組みが最近分かってきた。
俺が本で見た内容によると、この世界には魔法陣というものが存在するらしく、
魔法陣は詠唱の役割を果たすもので、魔法陣に一定量の魔力を通すだけで
魔法陣に書き込まれた特定の魔法を発動してくれるらしい。
魔法陣を物に刻んだ物を魔道具と言い、あのロウソクは魔道具だったのだ。
だからロウソクに手をかざし、魔力を通すと、あのロウソクに刻まれた魔法陣が
基礎魔法「ファイアー」を発動し、ロウソクに火が灯るのだ。
水窓も魔道具らしく、魔力を通すと窓の縁に刻まれた魔法陣が発動し、
「アクアフィルム」という初級魔法が発動して縁の中に水が張られるのだ。
最初は何で窓にガラスを使わないんだと思ったが、
この世界のガラスはとても高価らしく、
そのため貴族以外の庶民は水窓が一般的らしい。
ちなみにこの世界の紙はトレンターという魔物から作られるらしく、
その魔物の皮は簡単に紙に加工できるため、この世界の紙は製造コストが低いらしい。
というのが俺がこの前読んだ「魔物から作られる物図鑑」で得た知識だ。
「魔法陣は何度でも使えて更に詠唱を省ける」
本にはそう書いてあった。この時、自分は
(詠唱を覚えるより、魔法陣を刻んだ魔道具を必要な分持ち歩けば良いんじゃないか?)
と思っていたが、どうやら、魔法陣はとても複雑で難しいらしく、
現在の技術では魔法陣に書き込める魔法は基礎魔法、どんなに頑張っても初級魔法が限界らしい。
(ふぁぁ)
今日はもう夜ご飯も食べた事だし、寝るか。
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