第ニ話「家族」

2ヶ月後…


俺は最近、少しずつ喋れる様になってきた。


「ぁ、ぁ、あ」


よし、良い感じだ。

けどいざ話すってなったらどうしよ…

なんて話せば良いかな…?


流石に成長が早すぎると思われて怪しまれちゃうかもしれないから最初は「パパ」とか「ママ」とが良いよな…



ーーーー



翌日、俺はいつもと同じ様に自分の家を冒険していた。

そして、いつもの様に物置部屋に入った。

この物置部屋は様々なものがあり、

決して俺を飽きさせたりなどはしなかった。


(さーて今日はこれにしよっと)


俺は沢山ある箱の中で端っこに一番近い箱から1つ本を取り出した。


(えーと、なんだ)


魔力による身体強化ー初級編ー


(お!これは当たりだな)


魔力による身体強化は体内で魔力をできるだけ速い速度で常に循環させる事が大切になってくる。

一つのブレで体内の全ての魔力にズレが生じるため、

とても繊細な技術が求められる。

また、魔力による身体強化には魔力の量は多ければ多いという訳では無く、

自分の身体に合う魔力量に調整する必要がある。


(何だか、難しそうだな)


少しやってみるか。


(おりゃーーーーーーーー!)


何とか踏ん張ってみるも、

何も感じない。


(やっぱり、ダメか…)


俺は今までにも本に書いてあった魔術を試そうとし、

魔力を微塵も感じられる事が出来ずに断念した事がある。


やっぱりこんな俺みたいな子供には無理か…

ふと俺は水窓を開けて外を見た。

するとそこには、父が高校生ぐらいの男と話している様子が伺えた。


(アイツは……もしかして俺がこの世界で一番最初に出会ったあの男か?)


何を話してんだろ?

俺は聞き耳を立てた。


「お前、次の作戦で後衛の1番手だって?すげえじゃねぇか!」


「あ、は、はい」


「そうモジモジするなよ」


「俺が前衛の一番手でお前が後衛の一番手、仲良くできそうじゃねぇか」


「け、けど後衛の数自体が少ないだけで、まだまだ自分は…」


「まぁまぁそんな謙遜するなよ!俺の家で昼飯でも食ってかねーか?」


「で、でもご迷惑をお掛けしたくないので……」


「誘っといて迷惑に感じるバカなんているか?」


「俺はお前と仲良くしたいだけだよ」


「じゃ、じゃあ、行きます」


「じゃあ行こうぜ!こっちだ」


そう、俺の父親であるジェイル・クラエシスは正真正銘の「陽キャ」だ。

もし俺が前世であんな奴に出会ったら陽のオーラに当てられて干からびてるね。

「ガチャ」扉の開く音がした。


(来たか…)


この家に客人が招かれるのは俺がこの家に来て初めてだ。

俺はまだあいつにお礼を言えてない。

あいつが来なかったら俺はきっと今頃あの森の中で飢え死んでいた。


よし、挨拶代わりに姿だけでも見せよう。

俺はリビングに向かった。

そういえば、この家は木造の2階建てで結構広い。集落に溶け込む普通の一軒家って感じで全然嫌いでは無いのだが、田舎過ぎるのが少々不満だ。


「ドン!」何か音がした。

俺は急いで階段の方に向かうと階段の上の方でつまずいて怪我をした姉がいた。


「うぎゃあぁぁーーーーー」


最近、エリーシャも俺と同じように家を徘徊するようになった。

エリーシャというのは俺の姉の名前だ。エリーシャ・クラエシス。

エリーシャは俺よりも一歩早く二足歩行に辿り着いたみたいで、最近は頻繁に転んでいる。

俺も出来ないことはないが、疲れるうえに少し怖いので、今は身体の成長を待っている。

急いで母と父、それに続いてあの男が階段にやってきた。


「エリーシャ!大丈夫なの!?頭ぶつけちゃった?」


母はそう言ってエリーシャを抱えた。


「そう焦るなよ、このくらいの年は階段で転ぶぐらい良くある事だよ」


「けどジェイル、この子は最近1歳になったばかりよ」


「あ、あの僕、回復魔法かけられます」


「ジェイル、その人は客人?」


「ああ、そうだ」


「あら、そうだったのね、客人にさせるのは申し訳ないけど回復魔法頼めるかしら?」


「はい、分かりました」


「遥か古代の精霊の純潔なる想いは時間を超越し、倒れ、傷つき、嘆く者をも癒す……」


(1分間に及ぶ詠唱の末…)


「ヒール!」


その瞬間、黒髪の男の持つ棒の先の宝石から緑色の優しい光がエリーシャに放たれた。

するとエリーシャは泣き止んだ。


(これが魔法か?凄いな…)


俺は初めて見る魔法に興奮した。


「アイリスさんですよね?勝手にお邪魔させて頂き、申し訳御座いません」


(結構礼儀正しいな……)


「ジェイルの仲間よね?今から昼ご飯の支度をするから一階のリビングでジェイルとお話でもして待っててね」


「はい、分かりました」


その後、俺はリビングでジェイルの自語りを聞いていた。

俺は自語りを平然と長々とするようなやつにはもはや、敬意を覚える。

長々と自語りをしていて嫌われてしまったらどうしようかとか微塵も思わないんだろうか。

だが、ジェイルの人生は中々に面白いものであった。


ジェイルは元々、この集落から一番近い北にある「都市ムハムート」に家族と共に住んでいて、

そこでジェイルは小さい頃から騎士であった父に剣術を教わっていたそうだ。

ジェイルは剣術は単純なものでは無く、様々な剣技があり、

人によってそれぞれ違う剣捌きを見せると言う。

そして技は代々受け継がれ、ジェイルの剣は王族直下の騎士に伝わる歴史ある西王剣術らしい。


そしてある日、学校の課外授業でまだジェイルと知り合っていないアイリスが迷子になり、

学校中の教師がアイリスの捜索をするという大事件が起きたそうだ。

「残った生徒は皆、家に帰るように」と生徒達は教師に言われていたそうだが、

ジェイルは若気の至りか知らないが、それを無視し、当時好きだったアイリスを探しに行ったらしい。

そして魔物に襲われそうになっているアイリスをジェイルが救ったのが2人の出会いという、

何ともロマンチックで羨ましいものであった。


(まぁ本当かは分からないが)


「ご飯出来たわよー」


アイリスは縦状の大きいテーブルに食事を運んだ。


そして、3人は食事をしながら、色々話をし始めた。


(何だか眠くなってきたな…)


俺はそのまま眠ってしまった。


「リア!リア!」


ん?そこには上から自分を覗き込むアイリスがいた。


「リア、ご飯の時間よ」


あーそんな長く寝てたか…

俺はアイリスに抱えられ、椅子に座らせられた。


(あの男はもう帰ったみたいだな…)


最近はスープだけでは無く、柔らかいパンも食べさせてくれる様になった。

俺は最近1人でスプーンを使ってスープを飲み、アイリスがちぎってくれたパンを手で行儀良く食べている。

そのせいでアイリスとジェイルからは今、こんな風に言われている。


「リアは覚えるのが早いわねー」


「確かにエリーシャの方が2ヶ月年上なのにエリーシャはまだ全然1人で食べられそうにないしな」


「リアは頭が良いのよ」


「頭の良い家庭の子供だったのかもしれねーな…」


「うちに来た時は生まれたばかりって感じで衰弱してたから、助かったのは奇跡ね」


「ああ、確か迷子になったユフィをリーニャが探しに行って戻ってきた時に抱えてたんだよな」


「ユフィ君、今日みたいにまた家にご飯食べに来てくれるといいわね」


「あぁ、そうだな、また機会があったら昼食に誘ってみるよ」


「リーニャの方は今も元気にしてる?」


「1週間前に元気にギルドで討伐依頼受けてるとこを見たよ。お前の親友だもんな」


「にしてもアイツは凄いよなー。ラーナ王国で3位に選ばれた弓使いだろ?」


「リーニャはいつも放課後に弓の練習をしてたわ」


「努力家だもんな、アイツ」


そんな会話を聞きながら、食べ終わった俺はさっきと同じ様な強い睡魔にまた襲われた。


(何か今日は調子狂うな)


そして俺はそのまま寝落ちした。



2ヶ月後…


俺に誕生日がやってきた。

この世界の誕生日は前にいた世界とほぼ一緒のようだ。

ただし、この世界では誕生日は家族と祝うもので、

家族みんなでスイーツを食べて1人の誕生日をお祝いし、プレゼントを渡すという内容。

前のエリーシャの誕生日では家族でフルーツタルトを食べた。

あれは小さかったけど美味しかったなー。

あの時はこの世界に来てから初めてのスイーツに舌鼓を打ったもんだ…

エリーシャはプレゼントによく分からない変なおもちゃを貰っていたが……

俺はどうかな……

頼むから意味の分からない変な物はやめてくれ!


そして…


「お誕生日おめでとう!リア!」

「誕生日おめでとう!リア!」


俺は両親から誕生日を祝われ、小さいケーキを食べた。

相変わらずエリーシャはまだアイリスに食べさせて貰っている。


(このまま行けば俺は兄ポジションを獲得できるな)


そんな事を考えていると、両親が何やらニヤニヤしながら

何かを手に隠し持っている。プレゼントか。


(どうか意味の分からないものじゃありませんように!)


アイリスが俺に隠し持っていたプレゼントを見せてこう言った。


「じゃじゃーん」


「リアはいつも本を見てるでしょ!まだ文字は分からないと思うけど、大切にしてね!」


「ジェイルと相談して決めたのよ」


「気に入ってくれるかしら?」


「まぁ流石にその本はまだリアには難しいと思うけど、きっと喜んでくれるさ!」


お!まさか本だとは!


(ちゃんと両親も俺のこと見てくれてるんだな…)


それで俺は最近練習した言葉を喋ってみた。


「ママ、パパ、ありがとう」


緊張してあまり声が出なかったが、俺のそばにいたアイリスには聞こえてるだろう。

どうだ…?流石に怪しまれるか…?


「聞いた!?ジェイル!今この子、ありがとうって言ったわよ!」


「そうか?聞こえなかったけど」


「絶対に言ったわ!この子は天才よ!」


「どうせ、気のせいだよ」


「いや、言ったわ!」


「まぁ確かにこのぐらいになると言葉が喋れてもおかしくはないが、ありがとうと言ったとは考えられないな…」


「いいや!言ったわ!この本をきっと気に入ってくれたから、ありがとうって言ったんだわ」


「分かった、分かった、信じるよ」


すると、アイリスは少し満足したような顔を見せた。

そして…


「リア、気に入ってくれて良かったわ!」


そう言ってアイリスは俺にハグをしてきた。

どうやら、成功みたいだ…良かった…


(知能が高くて悪魔憑きだと思われでもしたら嫌だからな…)


えーと本の題名は…?

「初心者入門 魔法 初級」


あちゃー今の俺には実践は少し難しいかもな…

まぁ読むだけ読んで原理とか詠唱とかを覚えて、いつか自分に魔力が芽生えたら、実践すればいいだけだ。

明日、読んでみよう。

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