第一話「ここは…」
雨の音がする…
寒い…
(生きてたのか…?俺?)
(ここはどこだ…?)
息苦しい…
俺は力強く呼吸をした。
「うぎゃーーあーーうーー」
何だ?頑張って息を吸おうとすると、
何とも言えないような声が出てきた。
そして、何十分ぐらいだろうか?
雨が止み、呼吸も落ち着いてきた。
俺は雨が目に入らない様に瞑っていた目を開いた
ここは…どこだ?
俺がいたのは森の中だった…
そこで俺は気付いた。
この違和感に。
俺の体はとても小さくて弱々しい赤ん坊の様だった。
(流石に事故でこんな体になった訳じゃ無いよな…)
(もしかして、死後の世界なのか?)
死後の世界はこんなところなのか?
地球のど田舎と変わらないじゃ無いか…
他の生き物も見当たらないし…
(それとも、生まれ変わったのか?)
だとしたらここはどこの国だ?
こんなところにいるって事は母親に捨てられたのか?
日本じゃ…無さそうだな。
考えれば考える程に不安になってくる…
暖かくなってきたが、ここが森の中で劣悪な環境である事に変わりはない。
ん?何だ?何か音が…
!!!!??
何かこっちに来る!!
俺は本能で何かを悟った…
何かヤバいのが来る…
そして巨体を持つオオカミの様な生物が俺の視界に現れた。
俺は青ざめた…
俺はそいつに気付かれない様に祈った。
(バレませんように、バレませんように、バレませんように、)
あんな爪で引き裂かれるのはゴメンだ!
その生き物の爪には「殺す」という根強い意志を感じる。
まるで相手に出来るだけ多くの苦痛を与えて殺す為に作られた様な爪だ。
暫くしてオオカミの様な生き物は自分の視界から離れて行った。
そしてまた何かがこっちに迫ってくる音が聞こえた…
(何だよ!またかよ!勘弁してくれ!)
しかし、その音を聞いた瞬間、自分はとてつもない安心感を感じた。
(人間の足音だ!)
そしてそこには何やら文化的な民族感のあるローブを羽織り、
先端に小さい赤色の宝石が付けてある短い棒を持った、
高校生ぐらいの黒髪の男が現れた…
(日本人なのか?)
そう思った瞬間、去ったと思っていたさっきのオオカミが男に飛び掛かった。
すると男は驚き、体勢を崩した。
(危ない!!)
するとあろう事かどこからともなく放たれた矢がオオカミの頭を貫いた。
「バタンッ!」オオカミは声を上げる事もなく、血を吹き出し、倒れた。
(う、気持ち悪い…)
グロが規制される国で生きてきた俺には刺激が強すぎた。
そして矢が放たれた方向から20代後半と思える金髪の女が出てきた。
「〜〜*〜〜*〜〜*〜〜〜」
「〜*〜〜〜〜〜*〜〜*〜」
何やら外国語で何か話している。
だが、これだけは分かる。
さっきの男が今出てきた金髪の女に激しく怒られているのだ。
(きっと矢を放ったのはこの女だろう)
何だ?親子か?
親子にしては親が若すぎるか。
どっちにしろ、やっと人間に会えたんだ。喜んで良いだろう。
ん?待てよ。
このままじゃ2人が俺の存在に気付かないまま、
ここを去ってしまうかもしれない…
(何かアピールしないと…)
俺は精一杯声を出した。
「ぎゃーーー、うーーあーー」
すると2人が自分の存在に気づいた。
そして2人がしばらく考え込んだ後に自分を憐れむ様な目で見てきた。
何だ?俺は親に捨てられた赤ん坊だと思われ、憐れられんでいるのか?
だが、自分は親の顔なんか見たことがない。
「*〜〜*〜〜〜*〜〜〜**〜〜〜*〜〜」
「〜〜〜*〜*〜*〜〜〜〜*〜〜〜〜〜〜*」
2人が何かを話しあった後に、
女の方が俺を抱き上げてきた。
まさか前世、女性経験0の俺がこんな風に女に抱かれるとは…
(悪くないな)
俺を抱き上げた金髪の女と黒髪の男は歩き出した。
すると、20代後半の金髪の男と白髪の中学生ぐらいの女が前からやってきて、
金髪の女に何かを話し始めた。
黒髪の男は話の輪の外で眠そうに突っ立っていた。
良く分からないが、全員仲間同士なんだろう。
しばらくして、合流してきた奴らも一緒にまた歩き始めた。
森の中を見ていく中で、俺の見た事がないものがたくさんあった。
木に生えた紫色の大きい果実や、
それを食らう鮮やかな色をした鳥。
燃えているような色をした茎が伸びる植物、
それに食われてしまった20㎝程の緑色と茶色のヘビ。
眩しい白い光を放つ花、
その花の近くで密集している黄色のアリ。
(もしかして地球じゃ無いのか?)
俺は様々な仮説を立てた。
1ここが死後の世界である。
2ここが地球とはまた別の星である。
3ここが自分が前にいたのとは違う世界である。
そんな事を考えている間に遂に森を抜ける事ができた。
森を抜けてしばらくして光が見え、集落の様な所が見えた。
4人は集落に着くと、また話し合いを始めた。
(そんな訳の分からない話は良いから、飯を食わせてくれよ…)
そう思っていると、4人は別れ、俺は金髪の女から金髪の男にバトンタッチされた。
(さっきの金髪の女の方が良かったのに…)
ぎこちない抱き方で、俺は金髪の男に連れられ、建物の中に入ると、
そこには美人な20代後半と思われる黒髪の女がいた。
そして、2人は少し話をした後に、俺をベットに横たわらせ、
黒髪の女が自分の母乳を俺に吸わせてくれた…
俺は生まれて初めての栄養に歓喜した。
自分はかなり消耗していた様だ…
俺は生で見る女性の胸に興奮する事は疎か、
大しておいしくない母乳をスポーツドリンクのCMよりも美味しそうに飲んでみせた。
1週間後…
2人は俺を家族の様に優しく接してくれた。
俺の新たな両親と言って良いだろう。
色々あったが、今まで起こった事を推測するに少なくともここは地球ではない。
森の中で見てきたものは勿論、水で出来た窓ガラスや、
手をかざすと火が灯るロウソク(自分がやった場合、何故か火が付かないが)
などの地球では考えられない物があったからだ。
まぁ異世界って事にしよう。そう考えた方がワクワクする。
まさか漫画で起きている様な現象が自分事として降りかかるとは…
神が手を差し伸べてくれたのかもな。
そういえば俺には姉がいる。
俺がこの家に来る2ヶ月前に生まれたらしい。
前世で兄弟が居なかった俺としては
兄弟というのは憧れの存在であり、非常に喜ばしい。
これからの日常が楽しみだ。
ただ、電子機器が無いのは不満だ。
(生まれ変わってもゲームぐらいしたかったなぁ)
4ヶ月後…
最近はここの言葉を少し覚えられてきた。
何だか、自分の体は物覚えが良いみたいだ。
学校に行ったら優等生になれるかもな。。。
学校か……この世界にもあるんだろうか…
あったとして、少し不安だな…
2ヶ月後…
前と比べてもうかなりここの言葉を理解できる様になってきた。
そのおかげで両親の話している内容も殆ど理解できる。
喋るという事に関してはまだ無理だ。
どうやら俺の名前はリアエル・クラエシスというらしい。
あんまり男の子っぽくない名前だ。聞いた限りだと母親がつけたらしい。
たぶん姉に名前をつけてからそう時間が経たないうちに
すぐ俺が家に転がり込んできたから母親が姉に名前をつける時と同じ様に
俺にも名前をつけてこういう名前になったんだろう。
俺は両親から略して「リア」と呼ばれている。
(もう本当に女の子の名前じゃねーか…)
この頃になると、自分の足で移動できる様になってきた。
だから、最近の日課は家を探検する事だ。
探検する度に新たな発見があり、非常に面白い。
今日も相変わらず家を探検していると2階の物置部屋で何かを見つけた。
(これは何だろう?本か?一体何が書いてあるんだろう…)
読めない。
両親の言葉は最近理解できる様になってきたが、
やっぱり文字は誰かに教えてもらわない限り、到底理解できるようなものではない。
(そうだ、この本を読み聞かせてもらえばいいんだ)
俺は本を取り出し、両親のところに持ち出した。
すると母親は
「ん?どうしたの?これは…まさか物置から取ってきたの?」
母親は目で訴えかける俺を見てこう言ってくれた。
「じゃあ、リア、これ読んであげようか。」
よし!伝わった!
そうして俺はここ最近毎日本を読み聞かせてもらっている。
本は実に面白い。この世界の事について詳しく知れるからだ。
2ヶ月後…
今日も母に本を読み聞かせてもらったのだが、
自分の興味を凄くそそられる事を知った。
どうやら、この世界には魔術と精霊術があり、
前者は詠唱を通して自分の体内の魔力を消費してエネルギーや物質に変換する事で成り立ち、
後者は精霊を通して大気中の魔力を利用し、精霊独自のエネルギーや物質に変換する事で成り立つらしい。
メリットとデメリットで分けると、
前者は詠唱と自分自身の魔力を消費する代わりに様々なエネルギーと物質に変換する事が出来る。
後者は自分に力を貸してくれる精霊が必要なうえ、精霊独自の術しか使えないが、詠唱と自分自身の魔力が必要ないという利点がある。
オタク口調で長々と話してしまったが、これには興奮せざるを得ない。
だって魔術だぞ!精霊術だぞ!自分が夢見たものがこの世界にはあるんだ!
あ、そういえば、最近は自分でも文字を少し読める様になってきた。
これには母に感謝しなくてはならないな。
言葉で伝えたいところだが、あいにく自分はまだ言葉が喋れない。
「リアー!ご飯よー!どこにいるのー?」
おっともうそんな時間か、
俺は1階へ向かうために慎重に階段を降りた。
「リア!ここに居たのね。さあご飯よ。」
母親を俺を抱えて椅子に座らせ、
俺の口までスプーンでスープを運んだ。
大体、2ヶ月前から母乳だけではなく、スープを飲む様になった。
この世界の食事は日本の料理とは全く違うが美味しく無さそうという訳でもない。
俺は主食はご飯派だが、
この地方ではパンを主食にしてスープ、ハム、ベーコン、ウインナーと一緒に食べる事が多い。
本で見たところ、この世界にも米のようなものがあるみたいだが、
ここから南の方の地方でしか栽培できないらしい。
俺は離乳の時期だからスープしか飲まないけど家族みんなで食べるご飯はなんでも美味い。温かみがある。
俺は何でこんな美味しさを知らなかったんだろう。
前世の俺は目の前の事から逃げるばかりでこんな事にも気付けなかったのか…
この世界に来てから俺は毎日が楽しい。
この世界なら俺は前世とは違った夢見た人生が送れるかもしれない。
せっかく、こんなに大きなやりなおしの機会を貰ったんだ。
この世界では真面目に生きてみようじゃないか。
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