最終話 冒険者に暇なし
ついにアウニーの権力者達を引きずり下ろすことに成功した。
普段、敬老精神がどうとか言ってるくせに、自分達の利益になるとわかった瞬間、あっさりと手のひらを返してくれたよ。計算通りに事が運んだことは嬉しいけど、こういう人間の嫌なところを見ると嫌になってくるな。
勘違いしてほしくないんだけど、別に村長達を殺したわけじゃないからな? 不労所得を約束したら、あっさりと降りてくれたんだよ。以前は、村のために死ぬまで働き続けたいとか聖人じみたことを言ってたくせに。
「農業が盛んだったアウニーはどこに行ったんでしょうね」
以前は見渡す限り畑だったのに、今では工場が並んでいる。農業なんて、一部の人間が趣味でやってるくらいのもんだ。
この村……いや、もはや街なんだけど、ここで手に入らない物ってあるのか? もし仮にあったとしても、すぐに手に入るようになるよ。発展が目まぐるしすぎて、管理が追いつかねぇよ。
「どの口が言ってんのよ、首謀者のくせに」
「ははっ、村長の座を奪うって提案をしたのは貴女じゃないですか」
ちなみに現村長は俺だ。シュリムさんに押し付けたかったけど、『村の人達が納得しない』というド正論で拒否された。
前の村長みたいに何もせずふんぞり返ってるだけでいいなら楽なんだけど、今ってやることが多すぎて過労死不可避だぞ。
「せめてパーティのリーダーは貴女が……」
「却下。アンタだからこそ、皆ついてきてくれんのよ」
別にそんなことないと思うんだけど、絶対に嫌だという鋼の意思を感じたので、もう諦めよう。
いっそのこと初期メンバー以外に種を渡して、冒険者としての仕事を全部押し付けたい。まあ、シュリムさんに却下されたんだけど。
「シャグラン君、シャグラン君」
「あっ、ロトリーさん……」
「生産スピードに対して鉱石の量が少ないって、現場からクレームが入ってるわよ」
「鉱石掘り部隊を増員しときますよ。報告ありがとうございます」
人を使うって本当に最高だなぁ。この楽さを知ってしまった以上、もう自分で鉱石掘れないわ。
それにしても大所帯になったよな、俺のパーティ。まあ、上級のダンジョンに潜るのは初期メンバーだけなんだけど。
「シャグランさん、そろそろ街に戻りませんか? 色々やることあるでしょう?」
「うーん……周りの冒険者の目が嫌なんですよね……」
以前とは違う意味、良い意味で注目を浴びているのだが、むず痒いというかなんというか。今まで俺らのことをゴミ扱いしていた冒険者達が、パーティに入れてくれとせがんでくるのは正直辛い。人によったら快感なのかもしれんけど、俺は気まずさが先に来るタイプなんだよ。
街によらず、村からダンジョンに直行して、ドロップ品は派遣で雇った仲間達に預けて換金してもらってる。俺が最後に街に行ったのはいつだろうな。
「私達宛ての依頼とか結構きてると思うんですけど……」
「ウィークさんが行ってきてくれません? 貴女が指揮を取れば、大体のクエストはこなせるでしょう」
木の棒を振り回してた頃からは想像できないけど、種のおかげで今やこの人が一番強いんだよな。まさかフレネーゾさんより強くなるとは……。
「そんな……一時的にとはいえ、私なんかが……」
「貴女だけが頼りなんです……」
「不肖ウィーク! リーダーを努めさせていただきます!」
ちょろさは相変わらずだけどな。よそのパーティにハメられないといいけど……。念のためリュゼさんもつけるか。
ん? リュゼさんの体調? 薬師さんに研究資金とレア素材を寄付したら、普通に治してくれたよ。国のお抱えになっちゃったから、さすがにスカウトはできなかったけど、事あるごとに色々と便宜を図ってくれるようになったよ。
「もういっそ他の街にいかない? 正直この辺のダンジョンじゃ、力を持て余してるでしょ」
本当に強くなったなぁ、俺ら。この辺の最上級ダンジョンって、例のドSパーティでも踏破できないらしいのに。
今のままでもじゅうぶん良い暮らしができてるし、村長業メインにしたいんだけどなぁ。結局、周りがそうさせてくれないのよな。ギルドの人達からも、さっさと上に行けって急かされてるし。
「産業に関してはコメルスに任せましょうよ。アイツ、冒険よりもビジネスのほうが得意らしいし。さっ、そうと決まれば話をつけにいくわよ!」
「……天才ばっかで嫌になってきますよ、本当に」
名声を手にするたびに虚しくなってくるよ。結局、仲間が凄いだけだもん。
これから街を転々としていくことになると思うけど、行く先々で有名になるんだろうなぁ。人生って失敗しても成功しても、生きづらくなるんだなぁ。普通の冒険者になりたいよ……。
派遣冒険者でパーティを組んだらある意味有名パーティになりました シゲノゴローZZ @no56zz
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