第42話 底なしの欲望
不調だと不安で夜も眠れないが、順調すぎるとそれはそれで怖いものがある。
種と装備品のゴリ押しで、近辺のダンジョンを全て踏破することができた。鉱石掘りも極めたし鍛冶屋の仲間も加入したので、新たなビジネスを開拓することにも成功した。底辺パーティだった頃が懐かしいよ。
ちなみにウィークさんもパーティに戻ってくることができた。相変わらず暴食気味だが、携帯食料なんて今の俺らにとっては安いものだ。
「なんか、いわゆるヌルゲーになってきたわね」
シュリムさんが退屈そうに嘆く。言いたいことはわかるけど、アンタ相変わらずまともな魔法使えないよな。種のおかげで普通に戦えてるけど、アンタそれは、もはや戦士だよ。
「あとはアウニーまでの道のりですねぇ。交通の便さえ良くなれば、限界集落を卒業できるんですけど」
金で買った若者が増えたものの、外部から人が来ることはない。美少女いっぱいいるんだから、黙って金を落としに来いよ。
なんで美少女だらけかって? 非常に言いづらいんだが、最近は顔で採用しまくってんだよね。どうせ冒険に連れて行く気ないし。
「やっぱり瞬間移動の魔法を使える人を探すしか」
「ウィークはお子ちゃまねぇ……。あんなおとぎ話なんか真に受けちゃって」
「実在すると思うんですけどねぇ……」
俺も実在すると思うっていうか、してほしいけど……仮にそれを使える人がいたとして、交通サービスなんかしてくれるかな? 言ってしまえば大魔導士だろ?
「本で読んだのか、誰かから聞いたのか、詳細は忘れたけど……特定の場所を一瞬で移動できる装置があるとかなんとか」
ロトリーさんが本を読むことにも驚きだが、そんな夢のような装置が存在することには、もっと驚いた。どっちかといえば、ワープする魔法よりそっちのほうがおとぎ話っぽい気がするんだけど。
「鉱石だかなんだかを組み合わせたゲートでしょ? あんなもん作り話に決まってるじゃないの」
シュリムさんは本当に夢がないよな。現実主義というか、捻くれているというか。
今度故郷に帰ったら年寄りどもに聞いてみるかな。あの年代の人らなら、その辺の噂ぐらい知ってるだろうし。
「いっそ馬車を所有しますか?」
絶対に採算が取れない提案をするウィークさん。ストレスを与えると暴食が酷くなるかもしれないけど、一応突っ込んでおくか。
「元が取れないかと」
馬って異常に高いんだよな。購入するだけでも相当な額だが、維持費も馬鹿にならない。重量税とかいう意味不明な税金も取られるし。
馬を操れる人も限られてるから、雇うにも大金が必要なんだよな。
「そうですか……」
目に見えて落ち込んでいるが、まあ仕方ない。そろそろ俺とシュリムさん以外も、建設的な意見を出さなきゃいけない段階だし。
「魔力で動く乗り物とか作れたらいいんですけどね」
「ギルドで発明家でも探してもらう? それぐらいの功績と金はあると思うけど」
「いや、シュリムさん……探してもらう金はあっても、開発してもらうための金がないでしょう」
相場がわからんからなんとも言えんけど、そんな大がかりな機械を作るとなれば、高くつくに決まってる。
「馬車の車輪を魔力で動かせばいいだけでしょ? そんなに難しい発明でもないと思うんだけど」
そう言われてみれば簡単そうだな。すげぇ発想だな、俺が想定していた乗り物は、上級魔法使いみたいな要領で、空を飛ぶ箱みたいなものなんだけど。
「でも、簡単な機械ならとっくの昔に発明されてるんじゃ……」
珍しくウィークさんが正論を放った。
そうだよな、シュリムさんが思いつくレベルの発明なら、本職の発明家がとっくに作ってるよな。
「一般的な発明家は魔力を使うっていう発想がないのよ。国が研究費を出してくれるわけじゃないし、魔石を使った発明なんてとてもじゃないけど無理よ」
「あー……魔石を使った発明品って大半が、国のお抱え発明家が考案したものですもんね」
というか、魔石を扱える時点で引き抜かれるんだろうな。だからこそ魔石の買い取りに力を入れてるんだろうし。
そうなると、魔石の取り扱いに長けた一般発明家なんて、俺らが接触できないか。
「シュリムさんの言うこともごもっともなんですけど、乗り物が発明されてない理由にはなりませんよね? 国としても作らない理由がないかと」
「ウィークのくせにうるさいわね。募集依頼かけるぐらいなら大した金がかからないんだし、とりあえずやるだけやってみりゃいいのよ」
「……私の案はすぐ『金の無駄』とかいうくせに」
「なんか言った?」
「別に?」
前から薄々思ってたんだけど、この人らって強くなるたびに喧嘩の頻度が上がってないか? 自信がついて我が強くなったのだろうか。チェロットさんでさえ、キツい言葉を使うことが増えた気がするし。
……冒険者としてやっていくの、そろそろ限界かもな。俺のカリスマ性じゃ、まとめきれなくなってきたよ。
思いのほか簡単に話が進んだ。しばらくは定期便として運用するが、もし量産できるなら……。
「これもうアタシらお役御免じゃない? 生産ラインさえ整えば、一生食っていけるわよ」
「……まあ、大きな一歩に違いはないでしょうけど……」
「けど? 何よ?」
「人の力で富を手にしたヤツらはエスカレートしていきますよ」
まだまだ金を無心されるんだろうなぁ。いっそ年寄り全員、街に移住させるか? いや、アイツらそういう自分が苦しむ環境の変化を嫌うからなぁ。受け身というかなんというか。
「これ以上何を作るってのよ? 装飾品やら、自動荷車やら、財源は整ってるじゃない。いえ、ぶっちゃけ錬金術だけで一生食っていけるわよ」
「……酒場を建てる予定らしいですよ」
「わざわざ人が来るかしら?」
「……村に美少女が増えたから、その子達を利用するとかなんとか……」
俺らが提案するならいいけど、年寄り達にこれを提案されるの嫌だなぁ。女の子をなんだと思ってるんだよ。
「なんか無性に腹が立ってきたわね」
「はは、今更ですよ」
だって初めから利用されてたもん、俺ら。
はぁ、村のことさえなければもっと上にいけるのになぁ。
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