第39話 押し付け

 チェロットさんに種を集めて、中級ダンジョンでレベル上げ。それによって魔力が上がったので、再びゴブリン狩り。

 なんていうか効率が滅茶苦茶上がった。気付いたら全員ムキムキになってたよ。

 俺とロトリーさん、もうナイフなんか使ってないよ? 斧だよ? 蛮族のパーティかよ。ちなみにシュリムさんが使ってるのは、魔力を攻撃力に変換する杖。はい、蛮族です。完全に蛮族です。


「中級ダンジョンで倒せない敵がいなくなったわね」

「あの、シュリムさん。俺ら、攻撃力以外は大したことないんで、あんまり突っ込まないでもらえます?」


 仮にも後衛だろ、アンタ。その杖の効果って、あくまでもオマケだぜ? 非力な魔法使いが、魔法が効かない敵と戦うためのモンだぜ?


「結構レベル上がったのに、そこまで威力上がらないのがシュリムらしいわね」

「やる気なの? フェーブル。言っとくけどアタシらが喧嘩したら、お互いに一撃必殺なのよ?」


 そりゃ攻撃力特化で防御力紙だもの。俺らレベルだけで言えばそれなりに強いはずなんだけど、なんでこうも伸びが悪いのかね。


「こうなったら高めの鎧買わない? 正直、エテファンと戦うの怖いのよ」


 武道家に鎧……まあ、いないことはないのかな? 違和感が凄いけど。

 でも言いたいことはわかる。エテファン妙に素早いから、命がけなんだよ。こっち紙装甲ぞ?


「ただでさえ色んなモンスターに素早さ負けてるのに、これ以上差をつけられるんですか?」

「それはそうだけど、籠手だけじゃ心許ないのよ」


 うーむ……。重装備できるだけの力はあるから、アリと言えばアリなんだけど、もうちょい素早さないとなぁ。


「素早さを上げる種ってないんですか?」


 『私のバフを頼れ』と言わんばかりに、チェロットさんがグイグイくる。そんなに活躍の場を求めなくても、貴女はじゅうぶん頑張ってるよ。本当にありがとう。この人がいなかったら、初心者ダンジョンにこもる日々だったよ。


「存在はするみたいですよ。どのモンスターかまではわかりませんが」

「コメルスに聞いたら? アイツなら知ってんじゃないの?」


 甘いな、フェーブルさんは。シュリムさんを見てみろよ。『やれやれ、これだから素人は』って顔してるぞ。


「教えてくれませんよ。俺ら以上に種の値崩れを気にしてるはずですから」


 確か老後の蓄えって言ってたよな? 他人に種の稼ぎ方なんて教えるわけないさ。

 早い話、ゴブリン狩りの目的をずっと隠してたじゃん。俺がたまたま目撃したってだけの話で。


「まっ、のんびりやりましょうよ。金もレベルも貢献度も順調に上がってるんだし」


 ロトリーさんは楽観的でいいよな。まあ、下手なことをしてピンチになっても嫌だから、その方向で行くんだけどさ。




 しばらく中級ダンジョンに潜る日々が続いたわけだが、基本的に順調だ。

 ポーションの裏ルートも徐々に回復してきていて、月に十本程度なら手に入る。チェロットさんの治癒魔法もそれなりの威力まで成長したし、中級ダンジョン程度なら問題なく戦える。まあ、治癒と幸運以外の魔法は相変わらず役立たずだけど。

 故郷のほうも順調に発展していってるので、後は観光客を集める手段と産業の発展だな。若者が来たところで、さすがに農業だけじゃ食っていけまい。

 無駄に余ってる土地を使って、ビジネスでもできればいいんだけど……。


「シャグランさん、シャグランさん」


 ロビーで今後について悩んでいたら、受付嬢さんが声をかけてきた。高確率で面倒事だと思うが、必死に笑顔を作る。大変不服ではあるが、嫌われても良いことなんて一つもないのだから仕方ない。


「シャグランさんは、派遣冒険者の扱いがお上手ですよね?」

「……皆さん、良い人ですから」


 絶対に押し付けられる……! 変な冒険者を……!


「ちょうどフリーの召喚士さんがいるんですけど……どうですか? ウィークさんとリュゼさんが離脱してるみたいですし、メンバーを補充したいところでしょう?」


 召喚士ねぇ。面白そうな職業ではあるけど、絶対変な人だろ? どうせスライムレベルのモンスターしか出せないみたいな。

 もしくは一匹召喚しただけで力尽きるとか。


「戦力的には別に……」

「まあまあ、女の子ですよ? しかも十五歳の」


 だからなんだというのか。性別なんてどうでもいいし、なんだったらそろそろ男の仲間が欲しい。気軽にしょうもない下ネタを言い合える仲間が欲しい。いや、別に下ネタなんか言うつもりないけど、要するに気を遣わなくていい仲間が欲しいんだよ。


「能力はどうなんですか? 何に特化してるんです?」

「なんと、ほとんど魔力を使わずに召喚できます」


 ……はぁ。


「なぜフリーなんです?」


 『今度は一体何を隠してるんだ?』という思いを込めて聞いてみた。どうせはぐらかされるんだろうけど。


「えっと、彼女を上手く活かせる冒険者さんがいなくてですね」


 ……それって、活かせるような能力じゃないってことだろ? 本当にズルいよな、その人自身に問題がないかのような言い方しやがって。


「直接お話してから決めさせていただきますよ。ええ、前向きに検討させていただきますから、ご安心を」

「ありがとうございます! シャグランさんならそう言っていただけると思っておりました!」


 もうちょっと内心隠したら? 『またコイツに、面倒な物件を押し付けることができてラッキー!』って顔してるぞ。

 まっ、なんでもいいけどな。性格とか人間性に問題が無かったら採用するよ。冒険者として使えなくても若者だし、本契約して村送りにすればいいさ。ギルドからの評価も上がるし、村の若者が増える。金で人を買ってるみたいで複雑な気分だけど、もうどうでもいいや。

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