第38話 非効率
俺が田舎で一週間のんびりしている間もゴブリン狩りをしていてくれたらしく、戻るや否や大量の種を差し出された。うわぁ、ここまでくるとレアアイテム感ねえな。
「アタシ達もちょくちょく食べてたけど、それでもこれだけあるのよ」
あっ、つまみ食いしてたんだ。どうせ全部売りさばくのは無理だろうから別にいいんだけど。
「チェロットさんのバフもどんどん効果が上がってる気がします。魔法の熟練度が上がったということでしょう」
「えっへん」
そりゃ頼もしいな。治癒魔法の熟練度は大して上がらないくせに。
……俺、ガチで田舎に帰っていいんじゃない? 俺いなくてもやっていけるだろ。
とりあえず今後について話し合うか。ウィークさん達の様子や、村長との交渉についても報告しなきゃいけないし。
「つまり、これからは直接お金を持っていくってこと?」
「ええ、手数料がもったいないですから」
無論、様子見も兼ねている。村の発展具合やウィークさん達の様子は定期的に確認する必要があるからな。
「金の使い道についても真剣に話し合わないといけないですし、次回の来訪はシュリムさんに任せていいですか?」
俺相手だと遠慮なく無茶苦茶言ってくるし、頭が回る上にガンガン言い返せるシュリムさんが最適のはずだ。村長がもう少し若けりゃ、ロトリーさんの色気でなんとかするのもアリだが。
「ん。馬車代ぐらい出してくれるのよね?」
「物資の輸送馬車に相乗りさせてもらいましょう。比較的安くいけますよ」
俺だったらそんなもんに乗るくらいなら歩くけどな。せまっ苦しいし。
うわ、めっちゃ苦い顔してる。苦虫を嚙み潰しまくった顔してる。気持ちはわかるけど、もうちょっと隠そうよ。そんなんじゃ交渉役任せられないよ?
「……貸し一つよ」
「ワガママねぇ、シュリムは」
「うるっさいわね。アンタに押し付けてもいいのよ?」
「私が行くと、男の人達が手放してくれないわ」
いや、年寄りしかいないんですよ。いくらロトリーさんでも……いや、男はお年寄りになってもスケベだからわからんか。
「あっ! ちょっと閃いたんだけどさ、シュリムに種を集中させない?」
何言ってんだ、この非力な脳筋は。集中させるなら近接職の俺らだろ。
「ほら、力あげまくればシュリムでも中級ダンジョンのモンスター倒せるでしょ?」
「まあ……それは誰でもそうでしょうけど」
「レベル上げれば、魔力も勝手に上がるんじゃないの?」
あー……言われてみればそうだな。今まではモンスターとろくに戦えないから、瞑想したり、魔法の熟練度上げたりするしかないと思ってたけど、モンスターを倒せるならそれが一番手っ取り早いよな。
「フェーブルさん、お手柄ですよ」
「まっ、こう見えて色々考えてますから?」
「……そうですね!」
フェーブルさんの頭脳については深く考えないようにするとして、そこから先の方針はどうする? もしフレネーゾさんとシュリムさんだけで中級ダンジョンにいけるなら、それ以外のメンバーでゴブリン狩りをするべきか?
それとも全員種でムキムキにしてから中級者ダンジョンを踏破するか? いや、ゴブリン狩りに時間をかけすぎると金の問題が出てくるな。
他の雑魚冒険者をゴブリン狩りに誘えたらいいんだけど、バフとか種のことを知られたくないしなぁ。そう考えると新規メンバー増やすのも難しいな。
「今の方法でチェロットを強くするのもありなんじゃないの? 治癒魔法の威力も上がるだろうし、魔力の最大値が増えれば稼ぎの効率も上がるわよ」
「あー、それもありですねぇ」
「なんにせよ、種を集めてから考えませんか? 私も、もっと種を食べたいですし」
これ以上力を求めるのか。さすが戦士というほかないな。
まあ、レベルが上がりにくい人にあげる理論でいけば、フレネーゾさん優先で間違いないのかもしれんけど。
「じゃあフレネーゾさん、フェーブルさん、ロトリーさん、チェロットさんの四人でゴブリン狩り。俺とシュリムさんは、臨時で派遣冒険者を数人雇って鉱石を掘って、ギルドの貢献度を稼ぎます」
「アタシは別に二人っきりでもいいけど……」
「いや、どうやって鉱石持ち帰るんですか……」
なんでこの人らは、すぐ二人っきりになりたがるんだろうな。美少女達が懐いてくれるのは嬉しいけど、俺らは冒険者だぜ? 色恋沙汰より、まずは冒険だろ。恋もある意味冒険かもしれんけど。
「え、またシャグランさんと別行動するんですか? 一週間もウィークさんに独占されてたのに、また別行動なんですか? 今度はシュリムさんに取られるんですか?」
いや、別に独占されてたわけじゃ……。っていうかシュリムさんに取られるつもりなんてないんだけど。俺は誰の物でも……。
「言っておきますけど、一週間離れてたことで限界が近いんですよ? いつ狂暴化してもおかしくない状況です。そんな状態でウィークさんの匂いが染みついたシャグランさんに再会して、更なる限界、限界のその先に……」
待って、色々と待って。匂い? 確かに密着してたけど、匂いついてんの?
「じゃあ俺とフェーブルさんチェンジで……」
戦力的にはどっこいどっこいだし、特に影響はないだろう。
俺としても鉱石掘りより、ゴブリン狩りのほうが気楽だし。
「ちょっと待ちなさいよ。臨時で冒険者雇うのよね?」
「ええ、まあ……。適当に力ありそうな男を何人か……」
「アンタがゴブリン狩りに行ったら、こっちは女だけよ? なんで初対面の男達と鉱石掘りしなきゃいけないのよ」
「派遣だから大丈夫ですよ」
変なことしたらギルドからどんな処分受けるかわからんし、滅多なことはしないだろう。コイツらは派遣の頃から滅多なことしてた気がしなくもないけど。
「派遣だからこそ怖いのよ。派遣上りだからよくわかるわ」
苦い顔をするシュリムさんを見て、それ以上何も言えなくなった。
うーん……。普通に女性の冒険者を雇えば良い話なんだけど、それはそれで難癖つけてくるんだろうなぁ。
なんで俺と行動することにこだわるんだろう。オフの日に一緒に過ごせば良い話だと思うんだけど。
「もう全員で行動しません? ラチが飽きませんよ」
「うーん……効率が……」
「モチベのほうが大事だと思いますよ」
イマイチ納得できないんだけど皆の顔を見るに、チェロットさんに同意しているようだ。マジかぁ……。いつ金欠になるかわからんから、さっさと稼いで貯金を作りたいんだけどなぁ……。
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