第37話 特異体質疑惑
今まで気付かなかったというか、気付く由もなかったのだが、ウィークさんって凄い人材なのかもしれない。
例の種で上昇する能力なんて気休め程度で、とてもじゃないがレア度に釣り合った上り幅とは思えない。おそらく、レベルが上がりづらい上級者パーティにこそ必要な代物なのだろう。
だが、ウィークさんは種一つで急激に強くなった。俺らが種を三つ食べるよりも、ウィークさんが一つ食べた方が上昇する。
戦士だから力が上がりやすいってのはわかるのだが、それにしたって異常だ。種と相性がいいのか? 今は力を上昇させる種しかないので検証不可だが、他の種でも異常な上り幅だったらどうなる? 最強の冒険者にならんか?
「三十個ぐらい食べれば、フレネーゾさんと互角になれるかもしれませんね。自分で言うのもなんですが、私凄くないですか?」
いや、それってどっちかと言えばフレネーゾさんのほうが凄くない? バーサーカーモードになったら、また差をつけられるんだろ?
「ゴブリン以外にも種を落とすモンスターいるんですかね?」
「調査中です。スライム、バット、ラマネット辺りはダメっぽいです」
「あんまり強いモンスターだと厳しいですよね? 百体ぐらい狩る必要があるんですから」
それはそう。いくら力上げても防御力とか体力がないと、上級モンスターに挑めないだろうし。
っていうか攻撃魔法がろくに使えない時点で上にいけないんだよ。力だけじゃどうにもならないモンスターとか、いずれ出てくるだろうし。
「とりあえずお金の面は、当分心配いらないってことですか?」
「手に入れた種を全てさばけるわけじゃないので、今すぐ大金持ちになるってのは無理でしょうけど……」
「少なくともお金に困ることはないと?」
……本来であればな。
「困るとしたら、この村が金を要求してきた時です。釘を刺すのも兼ねて、帰省してきたんですよ」
別に金を出すことを渋ってるわけじゃないんだ。貯まるまで待ってほしいだけなんだよ。次から次へと金を要求されたら、常に金欠になっちまうんだよ。
「あー……。多分無理かと……」
ウィークさんが気まずそうに目を逸らす。なんだ? 何を知っていると言うのだ?
「道を全部石畳にするとか、噴水を作るとか、魔石を使った街灯を並べるとか……大規模な計画を立ててらっしゃるようでして……」
「は? こんな辺鄙な廃村を街にしようってんですか?」
「は、廃村は言いすぎかと」
いや、そこはどうでもいいんだよ。廃村でも限界集落でもなんでもいいんだよ。何かぶれてんだよ。アイツら都会に行ったことなんてないくせに、なんで都会かぶれしてんだよ。腹が立ってきたわ。
「寿命が尽きますよ、我々の。種をさばくルートがあれば話は別ですが」
「コメルスさんじゃダメなんですか?」
「短期間で売りすぎたら、チェロットさんのバフの件がバレちゃいますよ。それに相場も下がるでしょうし」
そう、種ってのはあくまでも貴重品でなければならないのだ。大量に流すぐらいならば、自分達で服用したほうがいい。服用って表現が正しいかは知らないけど。
「金持ってくれば持って来るほど、アイツら調子に乗りますって」
「ま、まあ……エスカレートしそうな雰囲気はヒシヒシと」
「貴女を責める気はありませんけど、せっかく居候してるんですから、こう……上手く丸めこむっていうか……」
こんな頼りない少女が命がけで金稼いでんだぜ? 泣き落としの一つでもして、歯止めきかせてくれよ。
「そんなこと言われましても……。美味しいご飯を好きなだけ食べさせてもらってますし、そんなことできませんよ……」
お前が丸め込まれてどうすんだよ!
「美味しいご飯も何も、それは我々が命がけで稼いだ金です」
「それはそうかもしれませんが、新鮮なお野菜とか……」
そりゃ産地直送っていうか、産地だし。地産地消だし。
絶対釣り合ってないって。送ってる金で外食したほうが、いいもの食えるって。
「思ったんですけど、若者が欲しいんですよね? この村」
「まあ、最終目標は若者が溢れる村でしょうし」
アイツら、わかってんのか? 若者の数が多くなったら、アンタらはただの不良債権だぜ? 敬ってもらえるとでも思ってんのか? 姥捨て山に即廃棄だわ。
「戦いについていけなくなったメンバーをここに住ませて、どんどんメンバー増やしていったらどうですか?」
冗談がキツイ。なんのための本契約だよ。それって、金で村人買ってるようなもんだろ。アンタらと違って、普通の冒険者は冒険がしたいんだよ。こんな村に住んでくれとか頼めねぇよ。
「とりあえずロトリーさんを置いていったらどうです? 若者かどうか怪しい気もしますけどね」
いや、若いだろ。俺らが若すぎるだけであって。
でも置いていくってのは賛成かもしれない。現状、役に立たないし。
シュリムさんも一旦置いていったほうがいいかな。魔法の修行ぐらい田舎でもできるだろうし。っていうか、そもそも今は基礎の魔法力上げなきゃいけないから、瞑想メインじゃん?
「なんなら俺も留守番でいいですね。戦力に欠けますし」
「さ、さすがにリーダーが抜けるのは……」
「冗談に決まってるじゃないですか」
久しぶりだってのに、真面目さは変わらないな。会話中に一人でひたすら飯食ってるせいで、真面目に見えないけど。
「冗談ですか……せっかく一緒に住めると思ったのに」
「……っていうか復帰する気ないんですか? 種さえあれば一線級でしょう?」
魔法力を上げる種をあげたら、魔法使えるようになるかな? さすがに才能がないから無理か?
「食料運搬係を雇わなきゃいけないですよ? 正直、治る見込みがないですし」
運用方法がもはや軍事兵器なんだよな。それなら普通の戦士を雇うわ。
「じゃあ仲間に相談しに……」
「しばらく泊まるんじゃなかったんですか? 手紙でも書けばいいじゃないですか」
「いや、こういうのは面と向かって話さないと誤解が……」
「…………」
すんげぇ睨んでくる。こんなの言うこと聞くしかないじゃん。
最初期のウィークさんに会いたいよぉ。純真無垢なウィークさんに会いたいよぉ。
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