第35話 金の卵量産計画

 幸運のバフについて、思いつく限り全パターン試してみた。

 ロトリーさんとチェロットさんはバイトがあるので、試行回数が足りていないが、成果は上々と言えるだろう。

 まず、パーティの誰かにバフがかかっていればドロップ率が上がるという説だが、残念ながら見当違いだ。

 だがありがたいことに、バフがかかっている人間が一発でも攻撃を入れれば、ドロップ率は上がると判明した。ダメージゼロでもいいかどうかまではわからないが、

とりあえず範囲攻撃を覚えたら化けそうだな。

 そして、重ね掛けだが……おそらく有効だ。試行回数が少ないのでなんとも言えないが、三回重ね掛けをしてからは、一度も爪をドロップしていない。そう、売値が高い牙のほうをドロップするようになったのだ。まあ、確率の偏りかもしれんけど。

 で、これもまだまだ検証が必要だが、バフを複数人にかけるというのも有効かもしれない。データ不足なのでなんとも言えないが、是非とも予想通りであってほしい。


「これ中級ダンジョンで稼げるんじゃないの?」

「んー……魔石に関してはせいぜい二十クレ程度の差しかないでしょうし……」

「百体狩れば二千クレでしょ?」


 あの、百体狩るのってフレネーゾさんなんですよ。我々は特に何もしないんですよ。っていうかチェロットさんの魔力絶対に持たんし。


「今まで通り、分担するのが一番稼げるかと」

「えー……せっかく中級ダンジョンで稼げると思ったのに」


 まあ、魔石以外のドロップ品で稼げると思うけど……エテファンとかハードスライムって元々素材のドロップ率低いしなぁ。どれぐらい上がるかによるな。


「チェロットさんの魔力次第じゃ良いスキルになるかもしれないですけど、効率の良い狩場を知らない現状は……あっ!」

「な、何よ……急にデカい声出さないでよ」

「あ、ああ、すみません……」


 待てよ? ちょっと待てよ?

 えっとだな、コメルスさんは執拗にゴブリン狩りしてたよな? で、数千匹ぐらい倒した時に……なんか拾ってたよな。遠くて見えなかったけど、魔石やら爪やらではないはずだ。もっと小さい何か……。

 アレって……超高価なレアドロップアイテムじゃないか? いや、たかがゴブリンごときがそんなもの落とすとは考えにくいけど、そうでもなければコメルスさんがゴブリンを狩る理由ないじゃん。

 だって素材と魔石全部俺らに譲ってくれたんだぜ? 経験値稼ぎ? いや、コメルスさんクラスの人間が、わざわざゴブリンなんかでレベル上げせんだろ。


「俺らに平気で数万分の素材とか渡したってことは、数十万の価値が……?」

「何? 何をブツブツ言ってんの? 明日お休みする? デートしてあげよっか?」

「コメルスさん以外にゴブリン狩りしてる人いなさそうだし、ほとんど誰も知らないのか? だったら穴場か?」

「おーい? ちょっとー?」


 チェロットさんの魔力的に、一日に挑戦できる回数は少ないだろうけど……やってみる価値はあるな。


「シャグラン?」

「確か三日後、チェロットさんバイト休みですよね? また全員でゴブリン狩りに行きましょう」


 俺の読みが正しければ、魔力回復のポーションを買っても元を取れるかもしれん。

 ダンジョン潜るより安全だろうし、試す価値はあるな。例え失敗しても、数日分の稼ぎが減るだけだ。




 俺、もしかしたら天才だったのかもしれない。

 フレネーゾさん以外のメンバーにバフをかけてもらい、その状態でゴブリンを殴ってまわる。で、あらかた殴り終えたら、バフを三段階重ね掛けしたフレネーゾさんに一掃してもらう。

 三百体ぐらい倒したと思うんだけど、謎のアイテムを二つも手に入れたよ。


「……種?」

「そうみたいですね……初めて見ますけど」


 知識が豊富なシュリムさんも、経験豊富なフレネーゾさんでさえも、初めて目にする代物らしい。


「おそらくコメルスさんが血眼で追い求めてたのはこれです。きっと凄い価値があるはずですよ」

「……どこで売るの? 相場知らないアタシ達じゃ、買いたたかれて終わりよ」


 それは確かにそうだ。なんだったら、レアな種を持っているという噂が広まって、他の冒険者に襲われるかもしれん。

 ってことは……。


「コメルスさんに売るのが一番、確実でしょうね」


 あの人なら、買い叩いたりはしないはず。そりゃ勿論、相場よりは安くなるだろうけど、当然のことなので問題ない。


「じゃあ期間を開けて一つずつ売りつけましょうよ。大量に持ってることは勿論、このスキルを知られても厄介だし」


 まだ大量に持ってないけど、まあそうだな。シュリムさんは賢くて助かる。

 え? 恩人であるコメルスさんに隠し事してもいいのかって? あの人だって、この種のことを隠してたからおあいこだろ。


「交渉の時はロトリーさんに頑張ってもらおうと思います」

「私? まあ確かに、あの子スケベだからアリね」


 あの子……。そういえばロトリーさんのほうが年上だったな。




 大量に種を稼ぐため、雇い主には大変申し訳ないがバイトをやめさせてもらった。

 魔法に慣れてきたのか、確率が偏っているのか、どちらかは定かではないが、一日二つぐらいは種が手に入った。

 コメルスさん涙目だろうなぁ……。


「もう三十個ぐらい集まってない? さすがにこれだけ持ち歩くの怖くない?」

「大丈夫ですよ。貸金庫借りましたから」

「シャグラン……アンタ意外とやるわね」


 意外とは余計だ、意外とは。俺結構頭使ってると思うんだけど、シュリムさんのほうが賢いから評価してくれねぇ。


「なんだったら、我々も一つずつくらい食べます?」

「は? なんでよ?」

「いえ、フレネーゾさんと図書館デートした時に見つけたんですけど……」

「デート?」


 いや、そこ引っかかるところかね? ウィークさんじゃないんだから。


「これ、力が上がるらしいんですよ」

「マジで言ってんの?」

「マジです」


 いやぁ、にわかには信じられんけど、こんなチートアイテムが存在するなんてな。

 そりゃコメルスさんも血眼になるわ。財テクなのか、自分用なのか知らんけど、どちらにせよ集めるわな。


「俺が読んだ本では、入手法は不明って書いてました。だから相当貴重なはずです」

「これだけあったらもはや貴重とは思えないけど、他の冒険者がゴブリン狩りをしていない時点でお察しね」


 逆にコメルスさんはどうやって気付いたんだろ。たまたまだとは思うけど。

 それはさておき、いくらで買い取ってくれるかな。まあ、たとえ買い取ってくれなかったとしても、自分らでドカ食いして中級ダンジョンに潜ればいっか。フェーブルさんか俺に集中させれば、ハードスライムぐらいは倒せるようになるだろ。

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