第31話 原因不明
「過食症ですね」
「え……?」
「過食症です」
カショクショウ……? 聞いたことないな。
ウィークさんの異常な食欲を危ぶんでお医者様に診てもらったのだが、謎の病名が飛び出してきた。まさかとは思うが、入院か? リュゼさんに続いて、ウィークさんまで離脱するのか?
「精神に異常をきたして、食欲がコントロールできなくなる症状ですね」
え、精神に異常きたしてんの? フレネーゾさんならまだしも、ウィークさんが?
モンスターに何かされたのか? しかし、あのダンジョンは無能力モンスターしか出ないはずだ。噂じゃラマネットが魔力を奪ってくるらしいけど、一度たりとも使われたことはない。なんにせよ、元々魔力がないウィークさんには関係ないだろう。
「下痢や嘔吐に苦しんでいるでしょう?」
下痢はともかく、嘔吐は見てないな。むしろハツラツとしてるような。いや、まあ俺の前では我慢するだろうけど。
「え? 別にそういうのは……」
「そんなはずはないでしょう。話を聞く限り、吐きながらじゃないと短期間でそれだけの量を摂取するのは不可能です」
「えっと……普通に食べられましたけど……」
なんか医者とウィークさんが噛み合ってないな? カショクショウとやらじゃないのか? カショクショウとやらについては良く知らないが、喜んでいいのか?
「お腹はとくに出てないようですが、本当に吐いてないのですか?」
「だから吐いてませんって。大事な食べ物を吐くなんてありえません」
大事な食べ物を一人で食いつくすのも大概ありえないけど、吐いてないなら一安心なのかな? 医者の反応を見るに、カショクショウよりヤバそうな雰囲気なんだが。
ん? あれ? そういえば、そうだ。スルーしそうになったけど、ウィークさん痩せてね? いや、プニプニしてるっちゃしてるんだけど、それはデフォルトだ。
ダンジョンに居た時は間違いなく太っていたはずなんだが、知らん間にいつもの体型に戻ってるじゃねえか。いや、戻るにこしたことはないはずなんだけどさ。
「んー……じゃあわかりません」
おい、匙を投げるな。適当な診断をされるよりは遥かにマシなんだけど、俺達はどうすればいいんだよ。原因不明の症状を背負ったまま冒険続けにゃならんのか?
「また何か症状に変化があったら来てください」
「……薬とかは貰えないのですか?」
「症状が特定できないのに渡せるわけないでしょう」
正論かもしれんけど、なんかないの? 気休め程度でいいからさ。
これじゃ診察料取られ損じゃねえかよ。
ギルドのロビーで今後について話し合っているのだが、全員お通夜状態だ。明るさだけが取り柄のウィークさんでさえ、暗い顔をしている。
これからどうしたものか。まさかリュゼさんに続き、ウィークさんまで離脱するなんてな。
え? 離脱する必要あるのかって? 携帯食料ってコスパが悪いのよ。冒険に連れて行ったら、食費だけで赤字だよ。
「どーすんのよ? ウィークがいなくなったら、鉱石掘りの効率落ちるわよ」
「すみませぇん」
シュリムさんとしては別に非難するつもりはないと思うのだが、目に見えて落ち込むウィークさん。
「どうせしばらくは掘る予定ありませんけど、確かに困りましたね」
二人も抜けたもんだから、狩りの効率もだいぶ下がるだろうな。持ち帰れる魔石の量も減るだろうし、キャンプするにしても見張りのローテーションが厳しくなる。
この状況で村の借金とリュゼさんの入院費、ウィークさんの食費を稼げって? 無理言うなよ、いい加減にしろ。
「結構な量の鉱石を納めてるから、数日ぐらいなら借金返済は待ってくれるでしょうけど、なるべく延滞は避けたいですね」
「そりゃそうよ。たった一日延滞するだけで、目をつけられるもの」
わりとマジで詰みなんだが、どうすりゃいい? こうなったら……もう一度ドSパーティのおもちゃになって……。
「前に使っていた斧さえあれば、私一人で中級ダンジョンに潜れるんですけど……」
こういうことをサラッと言えるあたり、レベル差が大きいってのがわかる。俺は三年修行したって、中級ダンジョンにソロで潜るの無理だわ。
「じゃあ斧を買いましょうよ。中級ダンジョンに潜ってくれれば、元ぐらいすぐ取れるわよ」
「確かにソロで潜ってくれるなら、他のメンバーは初級者ダンジョンで狩れるわけですし……ノルマぐらいは稼げるかもしれませんね」
「あっ、じゃあ私とウィークはその間バイトでもすれば……」
ロトリーさん、ありがたい申し出だけどいいのか? 冒険者的にいいのか? 屈辱じゃないのか?
「私もバイトしますよ。どうせ杖がなきゃ回復魔法使えないですし」
「あっても使えないじゃない」
そういうこと言っちゃダメだよ、シュリムさん。っていうか貴女、ブーメラン発言ですよ、それ。
「あ、あの、お話し中ですけど……ご飯食べてきても……いいですか?」
「……どうぞ」
またか……。さっき食べたばっかりなんだけど、これ本当に大丈夫なのか? この頻度で食事が必要なら、バイトなんてできんだろ。
「とりあえず斧代を稼ぎに行きますか?」
「アンタら二人の籠手を売れば斧ぐらい買えるでしょ? ちょっと足りないかもしれないけど」
よくそんな殺生なことを真顔で言えるな。自分がまともな装備してないからって、俺らの装備を削りにいくか? 普通。
「今の話だと初心者ダンジョンに行くのって私とアンタとシャグランの三人でしょ? 籠手ないと全滅するわよ?」
「そうですよ! 自慢じゃないですけど、俺ら弱いんですよ!」
生命線ともいえる防具を守るために、フェーブルさんに便乗する。我ながら情けない弁論だ。泣きそうになってきた。
「もういっそのこと、フレネーゾさん以外バイトすればいいのでは?」
「いや、チェロットさん……さすがにバイト代だけじゃ、ノルマは稼げませんって」
「そうですか……いい案だと思ったんですけど……」
「えっと、別に責めてるわけじゃ……」
このパーティ、全体的にメンタル弱くない? 些細なことで落ち込む人ばっかりなんだけど。やはり金がないと精神が弱ってしまうのだろうか。
「じゃあ今月は限界まで初心者ダンジョンに潜りましょ。そうすればギリギリ斧代とノルマぐらい稼げるわ」
「で、来月からはさっきの話通り……というわけですね?」
「そういうことよ。じゃあ明日からまたキャンプするから、各自今のうちに休んどきなさい。はい、解散っ」
あれ? リーダーって俺だよな? 最終的な結論を出す役と解散の宣言をする役を完全に持っていかれたんだけど。
わりとマジでリーダー権譲ろうかな……。ほら、他のメンバーも俺に遠慮することなく方々に散っていったし。
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