第27話 自己主張
鉱石掘りは想像以上に困難というか、割に合わない作業だった。作業というより、もはや苦行だな。
まず地下に降りるルートを探すのが大変だった。いつもはただの狩りだから、迷わないように簡単なルートを通るだけでよかったのだが、今回はマッピングしながらくまなく探索した。
奥に進めば進むほど道が複雑になるし、敵の強さや湧いてくる頻度が上昇する。おまけにマッピング技術を持った者がいないので、相当苦労した。金さえあればマップぐらい簡単に手に入るんだけどなぁ。
荷物も多くて大変だったな。重いんだよな、採掘グッズ。そのくせ耐久性低いし。
地下に降りたら降りたで大変だったよ。暗いし、道が複雑だし、敵が強いわりにドロップアイテムしょぼいし、何重苦だよ。
鉱石を見つけるだけでも一苦労だし、見つけたら見つけたで今度は掘るのが大変なんだよ。当然だけど掘ってる間もモンスターが襲ってくるし、余分な岩を砕く作業が中々苦痛だった。慣れないうちは何度も傷つけちまったよ。どうせ溶かすんだから、傷ぐらいついてもいいだろ。なんで価値下がるんだよ。
言うまでもないが、鉱石は重い上にかさばる。地上まで持ち運ぶのは大変だったなあ。普通に歩くだけでも相当な距離だし。
「ねえ? また潜るの? もうやりたくないんだけど」
「じゃあ明日は休みで……」
「二日! 二日休ませて!」
三日の冒険で二日休みはさすがに痛いが、フェーブルさんに言われると強く言えないんだよな。武器持ってないのをいいことに、多めに鉱石運ばせちゃったし。
「シャグランさん。私は休みなく働く所存です」
「いや、貴女こそ休んでくださいよ。一番戦ってたんですから」
色々と後ろめたいものがあるってのはわかるんだけど、献身的すぎるんだよな。
狂暴化の恐れがあるから、人一倍休んでほしいんだけど。
「そういうわけには……」
「うるさいわね」
依然として食い下がろうとするフレネーゾさんの肩をシュリムさんが掴む。
「ほら、アタシが遊び方を教えてあげるわ」
「ちょっ、シュリムさん……引っ張らないでください」
頼りになるなぁ、この人。体力ないから、今すぐにでも休みたいだろうに。
さてと……少し早いけど、俺は眠りにつくか。頑張ったわりにあんまり金を稼げなくてショックだし、寝て全部忘れよう。明日は明日の……うぐっ!?
「う、ウィークさん?」
「……」
何この人? なんで背中に頭突きしてきたんだ? 携帯食がまずかったから不機嫌なのか? それとも鉱石掘りでストレスが?
「ずるいです」
何がだろうか。人一倍食料を消費していた人が、何を言っているのだろう。
「あ、あの、何があったか知りませんが、頭突きやめてください」
「頭突きじゃありません!」
いや、頭突きだろ? 頭突きじゃなかったら、その頭を押し付ける行為はなんなんだ? まさかフケを俺の衣服にすり込もうとしているのか? それとも、頭の油を塗りこもうと……。
「フレネーゾさんばっかり甘やかされて、ずるいです!」
え、えー? いきなり何言ってんの?
そりゃ他のメンバーに比べて扱いが丁寧かもしれんけど、事情知ってんだろ? 何文句言ってんだ、こいつ。
「何を言い出すかと思えば……。あの人はいつ狂暴化するかわからないわけですし、適度に……」
「私だって狂暴化しますよ! がおー!」
何この可愛いけど面倒くさい生き物。オフの日ならまだしも、冒険から帰ってきたばっかりだし、相手したくないんだけど。
「じゃあ外食でも行きますか?」
金欠だから正直連れて行きたくない。だが、この人の機嫌を取るにはこれが一番手っ取り早いはずだ。色気より食い気、何よりも三度の飯。
美味しいものを好きなだけ食べるために冒険者になったとか言ってた気がするし、外食で機嫌を取るのが正解のはず。いや、そんなこと一言も言ってなかった気もするけど、言いそうだろ? じゃあ実質、言ってたことになる。
「……私のこと、食べ物でなんとかできるチョロい女だと思ってません?」
多分だけど、皆思ってるよ。キミ一人いるだけで、食料の消費が著しく激しくなるんだよ。よくもまあ、あんな大して美味しくない携帯食料をバクバク食えるよな。
「嫌なら別に……」
「嫌とは言ってません!」
だからその頭グリグリやめてくれ。風呂入ってないんだからさ。別に汚いとは思わんけど、それでもなぁ。
「とりあえず今日は、さっさと風呂入って寝ましょうよ。もうヘトヘトでしょう?」
「お、お、お風呂!? ま、まだ早いですよ!」
なんか勘違いしてない? 別に一緒に入るなんて一言も言ってないんだけど。
「じゃあまた明日」
「でもシャグランさんがどうしてもって言うなら……」
なんかクネクネしながら呟いてるけど、疲労が限界だからほっとこう。さっさと風呂入らないと、他の冒険者とかち合いそうだし。
はぁ……。一級冒険者は、個室に風呂があるって噂なんだけどなぁ。俺は一生、大浴場で汚いオッサン達と……。
「でもあんまり見ないでくださいね? 自分の体に自信が……シャグランさん? どこに行くんですか? シャグランさーん! お風呂屋さんはあっちですよー!」
あまり街中で大声を出さないでほしい。内容も内容だし。
無視すると延々と叫ばれそうだし、返事するか。
「お風呂屋さんなんて行くわけないでしょう。ギルドの風呂でじゅうぶんです」
「だ、ダメですよ! ギルドのお風呂は男女で分かれてますよ!」
だからだよ。懐かれるのは嬉しいけど、ちょっと踏み込みすぎなんだよ。ただの仲間でいてくれよ。
今日からまた鉱石掘りかぁ。マッピング済みだから前よりは効率良くいけると思うけど、気乗りしないんだよな。もう少し高く買い取ってくれたらいいんだけど、とにかく安いんだよ。マージン取りすぎなんだよなぁ、ここのギルドは。他の街も同じようなもんかもしれんけどさ。
「シャグランさん? あまり疲れが取れていないようですが」
さすがに鋭いな。そうだよ、この二日間ウィークさんに街中連れまわされたから、ろくに休めなかったんだよ。
「ははっ、心配しないでください」
「は、はいっ!」
フレネーゾさんにだけは余計な負担をかけたくないので、適当に頭を撫でて誤魔化す。なぜかは知らないが、撫でるだけで機嫌が良くなるんだよな。普通、髪の毛触られるのって嫌なはずなんだが。
……なんだろう。なんか背中に視線が突き刺さってるような。
「さっさと行きますよ! ただでさえ儲からない仕事なんですから!」
なんかウィークさん性格変わったな。自己主張が激しくなったというか。えっと、良い傾向なのかな? とりあえず服伸びるから、ひっぱらないでほしい。ただでさえ金ないんだから。
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