第24話 万年金欠
同じ種族として情けない話だが、人間ってのは対岸の火事を一種の娯楽と捉える性質がある。お世辞にも趣味が良いとは言えないな。
読めば読むほど気分が悪くなるので、新聞を雑に畳んで投げ捨てた。
「新聞デビューしちゃいましたね」
あの日、唯一喧嘩に参加しなかったチェロットさんが、俺が捨てた新聞を広げながら苦笑いする。あっ、唯一ってのは、俺を除いての話ね。リーダーが参加するわけないっしょ?
「ウィークさん達の様子はどうですか?」
「傷は完治しましたけど、まだ寝てますね」
ポーションって傷は治せても、疲労までは取れないもんなぁ。もしかしたら、そういうのに効くポーションもあるのかもしれんけど。
「まったく、雑魚モンスターでさえ苦戦するのに、なんで他の冒険者に殴りかかるんですかね」
言うまでもないことだが、フレネーゾさん以外は返り討ちにあったよ。ちなみにだけど、ウィークさんが一番重傷を負った。あのクソ冒険者、低レベルの女性冒険者の顔面を思いっきり殴りやがったぞ。
頭を打たなくて本当によかったよ。即死したらポーション使えないもんな。
「それだけシャグランさんを慕ってるんですよ」
「それは嬉しいんですけど……」
一撃で倒されるのがわかってるなら、戦わないでほしい。いや、勝てるとしても戦わないでほしいんだけどさ。
フェーブルさんも結構酷い目に遭ってたな。急所蹴りにいったら、逆にスネをぶん殴られて悶絶してたよ。絶対骨にヒビ入ってたよ、アレ。
「しかしまあ、暴れに暴れましたね。フレネーゾさんが強いのは知ってましたけど、まさか素手で四人相手にできるとは思いませんでしたよ」
さすがに倒しきるのは無理だっただろうけど、俺らがもう少し強ければワンチャンあったかもしれない。まあ、倒せなくて正解だったと思うけど。
倒せなかったのになんで無事なのかって?
……助けてもらったんだよ。たまたま居合わせた、例のドSパーティにな。縁を切りたいと思ってたのに、まさか借りを作るハメになるとは……。
「あの人達、どうなったんでしょうね?」
一瞬でボコボコにしたかと思えば、そのままどこかに連れ去っていったんだよな。おそらく例の家に……。
「……男に生まれたことを後悔してんじゃないですかね」
俺と同じ目か、それ以上の目に遭ってるんじゃないかな。
さすがに治療せずに野晒しなんてことはないだろうけど。
「あー……。あはは、自業自得とはいえ、少し可哀想ですね」
本来なら衛兵の出番なんだけど、特に介入されなかったんだよな。おそらくだが、ドSパーティは実績があるから裁量権があるのだろう。冒険者って実績によって扱いが露骨に変わるし。
底辺冒険者の家と上級冒険者の家が同時に燃えた場合、上級冒険者の家を最優先で消火するらしいし。
「そういやリュゼさんってなんで倒れたんですか? 攻撃受けてましたっけ?」
皿とかジョッキ投げて攻撃してたけど、反撃は受けてないはずだ。いくら相手が格上とはいえ、見えない遠距離攻撃なんてできないだろ?
急にぶっ倒れたから、焦ったよ。ドSパーティの人らが一瞬で治してくれたけど、一体何が原因なんだ? 病気ってことはないと思うけど。
「デバフのかけすぎで魔力切れ起こしたらしいですよ。結局レベル差があって効かなかったみたいですけど」
本当に役に立たんな。あの人のデバフって対人でしか使えないのに、その対人で効力発揮しないでいつ発揮すんだよ。
しかしまあ、何も倒れるまでかけなくても……。
「魔法覚えたてならまだしも、これだけ冒険してりゃ感覚でわかるでしょう? これ以上は魔力切れでダウンするって」
「それだけ本気で怒っていたんですよ」
あのリュゼさんが? このパーティで最も、怒りって感情と無縁であろうリュゼさんが、アレぐらいの侮辱で?
半年以上一緒にいるのに、どうやらまだまだ仲間のことを理解しきれていなかったらしいな。喋る相手にも偏りが出てるし、もう少し均等に接しないと……。いや、この大所帯でそれは……。
「怒るのがダメとまでは言いませんけど、実力不足で付いた汚名は冒険で拭わないとダメですよ」
「シャグランさんは大人ですね。私はそんなふうに考えられませんよ」
真面目なチェロットさんにしては意外だが、長く派遣冒険者をやっていると腐っていくのかもしれないな。いや、別にチェロットさん達が腐ってるってわけじゃないんだが、人間ってそういうところあるじゃん?
俺だってこのまま底辺冒険者のままくすぶっていたら、いずれは子供に戻るかもしれないし。向上心って、成長の見込みがあってこそだし。
「それはそれとして、ちょっと暴れたぐらいで罰金三万クレは高くないですか? 皿洗いのバイトを一年続けたって、稼げるかどうかわからないですよ」
金欠パーティには重すぎる罰則に、さすがのチェロットさんも苦言を呈する。
バイト一年分か……。そう考えると冒険者って底辺でも儲かるんだな。
「冒険者はトラブルを起こした時の処罰が重いのよ」
「あっ、シュリムさん。おはようございます」
突然シュリムさんが会話に割り込んで、解説してくれた。
軽傷だったのもあって、いち早く目覚めたようだ。
「問題はフレネーゾに対する処罰よ。派遣だから国が補償するのがスジだけど、多分フレネーゾ一人に押し付けられるわね」
「……俺ら三万クレも払ったじゃないですか。二重取りでは?」
「それが国ってもんよ」
村の借金もまだまだ残ってるし、俺らどうなるんかね。借金ゼロのまま冒険できる日は来るのだろうか。俺は来ない気がする。
「無理してでも中級ダンジョンに行くべきよ」
簡単に言ってくれるぜ、この天才魔法使い殿は。
「フレネーゾさん以外まともに攻撃できないんですよ?」
「だとしてもよ」
本気で言ってんのか? いくらあの人でも、足手まといを七人も連れてちゃ体がもたんだろ。前回の冒険だってそうだよ。もしバーサーカーを回避できたとしても、いずれは限界が来てたはずさ。
「一ヶ月初心者ダンジョンにこもれば十五万ぐらいは貯まるわけですし……無理しなくても……」
「絶対に新たな出費がないって言い切れるの? アンタの故郷は、もう二度とお金を借りないの?」
……正直なところ、なんらかの出費が発生すると思ってる。
だって俺らって、金周りの運がとことん悪いもん。半分ぐらいは自業自得な気もするけど。
「……戦力になるのが一人じゃ、ダンジョンにこもるのは無理です」
だって休憩取れないもん。いくら強者でも睡眠は必要だし、排泄だってする。排泄ぐらいならモンスターを全滅させた後でササッと済ませればいいけど、睡眠の場合そういうわけにもいかない。いや、そもそもどうやって全滅させるのよ? 狩りの途中でもモンスターは湧くわけだし、倒せるのが一人じゃ話にならん。
「街とダンジョンの往復時間を考慮したら、初心者ダンジョンのほうがいいかと」
「中級ダンジョンの前でキャンプしたらいいじゃない」
「……他の冒険者も大勢いますよ?」
悪目立ちしてる俺が他の冒険者にまじってキャンプ? ないないない。
仮に悪評がなくとも、女性だらけのパーティだぞ?
「ポーションの消費量考えたら絶対に初心者ダンジョンです。そもそも中級ダンジョンじゃ俺達のレベル上がりませんよ?」
だってモンスターを一切倒せないもん。フレネーゾさんとのレベル差が広がるばかりだぞ? 戦闘経験とか魔法の威力は上がるかもしれんけど、肝心のレベルが上がらないと話にならんぜ?
「あのねぇ、金だけの話じゃないのよ。ギルドへの貢献度が低いと、宿代請求されるわよ?」
「それは……あくまでも噂レベルの……」
「事実よ。タダ飯とタダ宿目当てで冒険者登録する輩がいるから、登録日数に応じて一定の貢献が求められるのよ」
一定の貢献ねぇ……。コメルスさんと組んだおかげでそれなりに素材納めてるはずなんだけど、まだ足りないっての?
……派遣のフレネーゾさんは無料として、俺ら七人は宿代負担かぁ。絶対払いきれんって。とことん弱者に厳しいよなぁ、この国。
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